三島由紀夫『不道徳教育講座』(4) ~似非「弱者」をいじめよ~ | 池内昭夫の読書録

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どんな強者と見える人にも、人間である以上弱点があって、そこをつっつけば、もろくぶっ倒れるものですが、私がここで「弱い者」というのは、むしろよわさをすっかり表に出して、弱さを売り物にしている人間のことです。(三島由紀夫『不道徳教育講座』(角川書店)、p. 65)(同)

 

 三島はこれを<生物界の法則に反したデカダン>つまり「退廃」だと言う。

 

むやみと、「強気を挫(くじ)き、弱きを助く」という格言を信奉して、強い者にはバカに挑発的態度をして、吹っかける必要もない喧嘩を吹っかけ、弱者に対しては、やたらに兄貴ぶって、小遣をふんだんにやり、自己流に猫可愛がりして相手の迷惑もかまわず、ついにはみんなにきらわれる人がいる。これも生物界の法則に反した、デカダンな態度であって、わざとらしいやり方です。(同、p. 66)

 

 要は、行過ぎた「博愛」が退廃を生んでいるということである。

 

別に不具でも病人でもないのに、むやみと、「私は弱いのです。可哀相な人間です。私をいじめないで下さい」という顔をしたがる人…こういう弱者をこそ、皆さん、われわれは積極的にいじめるべきなのであります。さア、やつらを笑い、バカにし、徹底的にいじめましょう。弱者を笑うというのは、もっとも健康な精神です。(同、pp. 66-67)

 

 本来弱者でない人間が弱者の振りをし、博愛主義をバックに権力を手に入れて強者を叩くのは不健全だ。

 

 弱者を保護することは善き事である。が、この風潮が行過ぎると、保護してもらいたくてわざわざ弱者になろうとする退廃的人間が出てくる。

 

 保護してもらいたいというのは「甘え」である。この「甘え」が世の中に蔓延すれば、やがて本当の意味での弱者を保護できる人間がいなくなってしまうだろう。

 

 「甘え」を断て。強くなれ。