僕が長年かかわってきたプロジェクトに「LUNAR-A」計画というのがありました。1990年ごろ計画がスタートして、1990年代半ばに月に「ペネトレータ」という内部に地震計と熱流量計を搭載したプローブを複数打ち込み、月で起こる地震=月震を1年間観測し、月の内部構造を明らかにする予定でした。しかし、ペネトレータ自身の開発が遅れに遅れました。結局、2007年の宇宙開発委員会で宇宙研から「LUNAR-A」計画の中止を申し入れ了承されました。すでに1998年に製造が終了していた母船の賞味期限が切れてしまうと判断したためです。

ペネトレータは月にハード・ランディングするため10000Gの衝撃に耐えなければいけません。この耐衝撃性がなかなか確保できなかったのです;いつも100点満点にあと一歩届きませんでした。計画を中止するに当たり、これまで開発してきたペネトレータの耐衝撃技術を完成させるべく、あと3年、開発を続けることが許されました。そして一昨年:2010年に10000Gの衝撃に耐えるペネトレータは完成に至りました。ペネトレータは米・ロも開発を行っていますが、米はディープ・スペース2で火星に投入するも通信途絶、ロシアもマーズ96に載せて打ち上げるも打ち上げ失敗。そもそもそれらのペネトレータは我々の開発したペネトレータより貫入する速度が小さく、耐衝撃性は低いものです。間違いなく我々の開発したペネトレータは世界最高水準のものです。これは世界初の狙える技術なのです。

さて、月探査は仕切り直しになりました。「かぐや」後継機であるSELENE-2のシステムデザインには間に合いませんでした。前々から話のあったロシアとの共同探査LUNA-GLOBにも間に合わず、ロシアの相乗り相手はインドのチャンドラヤーン2号が決まりました。ロシアは基本的に我々のペネトレータ技術を「買って」いるので、次の月探査機LUNA-GLOB2への相乗りを打診してきています。

ペネトレータは軌道離脱モータと姿勢制御部と合わせて1セット(これをペネトレータモジュールと呼びます)です。姿勢制御するのに太陽センサーを使うため母船から切り離されたときにペネトレータモジュールは軸周りに約2Hzでスピンをしていなければいけません。LUNAR-Aの母船はペネトレータに特化した探査機のためスピン衛星でした。しかし、時代の流れで今の探査機のほとんどが3軸姿勢制御衛星です。これに対応するにはペネトレータモジュールをスピンさせて分離する仕組みが必要になります。

(ああ、やっとたどり着いた1!)

タイトルの準備した実験というのがこの「ペネトレータ分離機構」の基礎実験なのです。これには現在、2つの方式が提案されており、よりうまく分離できる方を今後採用していくことになります。今日、セットアップを確認したのはDHS+スプライン方式というやつで某メーカー担当です。もう一方の方式はISASのI教授担当で実験治具を現在製作中。この実験治具を作ってくれているのが一昨日観た映画「はやぶさ 遥かなる帰還」に出てくる町工場「東出機械」のモデルになった清水機械さんなのです。相変わらずお世話になっています。I教授も言っていました「いやー、こんなポンチ絵を描いて、こうしたいんだけどー、って持ってくといろいろ考えてくれるんだよね。」

映画のまんまですね。