2005-09-12 12:38:50

第50話 日本

テーマ:孫正義

第50話


日 本







 9月9日(金)。日本プロ野球組織(NPB)は来年3月開催予定の国別対抗戦(ワールド・べースボール・クラシック=WBC)の日本代表監督に、王監督を最有力候補として調整を進めている。

 9月10日(土)。楽天戦。松中は4打点の活躍、杉内が粘りの投球を見せた。杉内はリーグトップタイの17勝目。ホークスは80勝、一番乗り。

 9月11日(日)。ホークスは楽天の新人一場から4点を先制したが、その裏、新垣は3点を奪われ、1点差に。6回には同点に追いつかれた。7回、城島の3ランで勝ち越しに成功。新垣から佐藤、三瀬と継投、最後は守護神、馬原が締めくくった。楽天に連勝。プレーオフ、日本一奪還への大きな弾みをつけた。



 

 この日、第44回衆議院議員選挙が行われた。

「私の一番好きな日本人は坂本龍馬です。官位もいらない、金もいらない。名誉もいらない。でも、自分の命を天下国家に捧げる――ほんとうに清い人生を送ったと思います」

 龍馬に限らず、当時の幕末の日本人、特に男は命を賭けて命を捧げて、天下国家のために動いた。何かと闘うとき、動かそうとするとき、相手は弱点をついてくると孫は言う。

「最後のぎりぎりのところで、金もいらない、地位もいらない、命もいらないという迫力でかかってくる男ほど敵からみて手こずるものはない。(政治家なら)有権者も、あるいは反対側にいる人もいつかは(心を)動かされる」

 私は孫が否定的な言葉を吐いたり、名指しで相手を批判するの聞いたことがない。孫は言う。

「日本が悪い、誰かが悪いと言い出したら、もうそれで終わってしまいます。俺が変えてみせる、ひとりでも変えてみせる――せめて自分の業界ではそういうつもりでやっている」

 孫は固い決意で言う。

「けっしてできないことはない。たったひとりでも革命はできる。いまの日本でもできる、いまの政治でもできると思っています」 




 私は孫のこの言葉が好きだ。

「世の中、困難だらけだ。困難なことはたくさんある。しかし、不可能なことはそうたくさんない」

 明日に繋がる、いま。

 孫の「世界一!」への戦いは続く。

(文中敬称略)


 

  

 

 

 

 

 

 

 

2005-09-09 14:02:42

第48話 簡単な問題

テーマ:孫正義

第49話

 

簡単な問題

 


 

 9月3日(土)。杉内は西武・西口と最多勝対決に挑んだが、手痛い2発を浴びた。打線の援護もなく17勝を逃した。「玉が高く浮いてしまった」(杉内)。

 9月4日(日)。サンデー新垣が好投。高速スライダーが復活した。4安打、新垣は自己最多タイの14K。「できれば寝ないでこのピッチングを覚えておいてほしい」(王監督)。「奪三振王」新垣が復活した。復調7勝目、今年いちばんの内容だった。

 9月5日(月)。ソフトバンクは総務省に携帯事業サービス新規参入を申請した。参入を計画する他の事業者に先駆けて第1号の申請。早ければ、2006年秋のサービス開始をめざす。

 28年前のこの日、読売巨人軍の王貞治が国民栄誉第1号を受賞している。

王選手は756本の本塁打世界最高記録を樹立したのだ。

 9月6日(火)。オリックス戦。和田が好投したが逆転負け。

 9月7日(水)。斉藤、16連勝のかかった試合だったが、オリックスに連敗。

「もうちょっと何試合かは我慢だな」(王監督)。

 ズレータが欠場、城島は肩の痛みが完治せず、苦しい戦いを強いられている。

 

 

 孫は言う。

「われわれは足りない人材、足りないお金、足りない経験、足りない知識という状況の中で、それでももがき苦しみながら這い上がってきた」

 孫は苦しみ、我慢のすえに這い上がってきた。

「夢を強烈にもって、それが志に昇華するところまで思い続けると、いつの間にか足りないものは勝手に揃ってくる」

 しかし、夢は現時点で実現されていない。どうするか。

 その夢に数値を与え、期限を与える。するとその問題点が明確になる。この具体的な問題点がわかれば、半分解決できたようなものだ。そのとき最初に自分に言う言葉がある。

「それは簡単だ。それは簡単な問題ですと、最初に自分に言うのです。そこから解決策を考えるのです。簡単だと思えば、頭の筋肉がリラックスして解決策がどんどん出始める」

 問題点が出て、これは難しい問題だと一言吐くと、筋肉が硬直していい案が浮かばないと孫は考える。

「知恵がぎこちないものになってしまう」

 最もオーソドックスに本質の解決策を、大枠を考えることが大切だ。孫は言う。

「シンプルに考える」

(文中敬称略)



2005-08-26 10:21:49

第46話 単純明快

テーマ:孫正義

第46話


単純明快







 23日(火)。降雨で1日延びた首位決戦の初戦。ホークス斉藤、ロッテ渡辺俊の両チーム、エース同士の対決。1対1の同点で迎えた7回、ズレータのバックスクリーンに飛び込む本塁打で勝ち越した。斉藤は8回ノーアウト1、2塁のピンチをしのいだ。9回にも強気のピッチングを崩さず投げぬいた。無傷の14連勝。昨年、16連勝を記録した斉藤だが、同じ投手が14連勝以上を2度記録するのはプロ野球史上初の快挙だ。ロッテとの差は5・5に広がった。「(斉藤は)いい意味での緊張感を保っている」(王監督)。



 

 ポータルサイトの雄、1日のアクセス数が11億と圧倒的な強さを誇るヤフーの井上雅博社長。穏やかな語り口調の中にも、並々ならぬ自信をうかがわせる。広告・オークション事業などすべての部門で大幅黒字。なぜ、そんなにも強いのか。「ブロードバンド市場が、それだけ大きくなってきたということでしょうね」(井上社長)。
 米ヤフーとの合弁で1996年にヤフーは設立された。情報検索サービスの提供としてスタートしたが、日本のユーザーの使い勝手のいいように改良を重ねてきた。視聴率を高める(アクセス数を増やす)には、なるべく多くのメニューをそろえるのが効果的だ。「あったらよいと思うサービスを実現し、嫌だと思うトラブルは極力なくしていく」(井上社長)。次々とコンテンツを増やして、総合ポータルサイトに進化してきたのだ。

 いま、ヤフーは「ライフエンジン」をめざしている。その人、その人のライフサイクルにあったもの、それに応えるものを提供していく。「これからも1ケタ、2ケタと売上げを伸ばしていく」(井上社長)。

 インターネットでできることはすべてやる。「すべての分野で一番になる」というのが井上社長の考え方だ。「そのためにやるべきことをやる」。

 1996年の設立時、小さな環だったヤフーは、増大していき、いまや巨大な環になりつつある。

 ヤフーの井上の理念はシンプルでわかりやすい。



 

 王監督と孫正義も大きなひとつの目標に向かって進んでいる。シンプルである。<めざせ世界一、野球もビジネスも>。 

 雨天で試合が延び、斉藤はスライド登板になった。周囲の心配をはねのけるように斉藤の答えはシンプルだった。「投げろと言われたら、それに従うだけ」。試合後の斉藤は言った。「素直にうれしい。また応援してださい」。斉藤の座右の銘は<感謝>。

 球場に応援に駆けつけた孫は興奮ぎみに言った。「最高でした」。
                 (文中敬称略)


2005-08-20 12:47:19

第44話 勇士

テーマ:孫正義


第44話


勇 士






 8月16日(火)。斉藤は開幕から13連勝。松中が初回に先制の39号。

    松中は言った。「エースが投げて、負けるわけにはいきませんから」。城島に代わって必死に戦っている的場。松中・斉藤・的場、3人の勇士は優勝の決意を述べた。




 宮内謙(ヤフーBB副社長)は1984年にソフトバンク入社以来、20年以上、孫正義を支えてきた側近だ。事業家としての孫を熟知している。

「孫社長は、いつも事業を立ち上げた瞬間には次に移る。そこが普通の人と違うところ。常人は事業がうまくいきだすとスティック(固執)するんだよね。おれがやったんだ、おれがやったんだで、その事業に埋没する」。

  常人の眼には孫は飽きっぽく、短期間で事業に興味をなくしてしまうように思えるときがある。しかし、孫の事業に対する考えは創業以来一貫している。宮内は言う。

「この人には負ける。やっぱり他にはいないと思う。つねに夢をもっていて、負けそうになってもヘコたれない。そういう人なの。ぼくにはとうてい真似ができない」

 絶対不利は絶対有利に通じる。

「孫社長はそれができる。ぎりぎりの瀬戸際のときに、力を発揮できる希有な人物なのです」。

 孫の交渉力、営業、セールス能力のすごさを宮内はつぶさに見てきたのである。20歳で自動翻訳機を売ったときと同じ。あの凄まじいエネルギーはどこから来るのか。宮内は言う。

「孫社長は相手の地位がどうだとか、そういう見方はしない。そこが凄い。企業は技術と営業とオペレーションで成り立っている。そこのところをよくわかっている」

 たとえヤフーBBの技術がすばらしいといっても、売れなければ話にならない。宮内は言う。

「ときには若い32、33歳の社長にも頭を下げることができる人なのです。そして、若い人とも意気投合できる、柔軟な心をもったエネルギーにあふれている。既成概念がまったくない人なんです」

 買収も意気投合しなければ成立しない。

 次々に新しいテクノロジーが生まれてくる。その技術を導入しようとすると既存の勢力から強烈な抵抗にあう。

「人間も企業もそう。血みどろの戦いをしている。ずっと死ぬまで戦うんです。そのプロセスがおもしろい」

 宮内は断言する。

「リーダー孫正義は、世界に冠たる勇士だ」

                 (文中敬称略)



 

2005-08-15 14:07:35

第43話 帝王学

テーマ:孫正義

第43話


帝王学






 8月12日(金)。ホークスは札幌ドームで日本ハムと対戦した。同点の3回にズレータが3ラン。5回には鳥越が巧打し、加点。小刻みな継投で日本ハムの反撃をかわし、4時間を越える長い試合を制した。3連勝。貯金は38に。

 8月13日(土)。杉内は8回2失点の好投をしたが、打線の援護がなかった。「(日ハム)入来が見たことない投球を見せたね」(王監督)

 8月14日(日)。新垣が好投。この日はコントロールがよかった。5月20日の阪神戦から3ヶ月ぶりの白星を上げた。「力まないで投げたのが良かった」(王監督)



 8月15日(月)。60回目の終戦記念日を迎えた。

 孫は言う。「もし、(私が)政治家であったなら、4つの数字を明確にいたします」

 1つ目は日本のGDP(国内総生産)。2つ目は日本の税収、3つ目は日本の国家予算。これらの数字を30年後、50年後にどうしたいか。

「政治家は30年後、50年後、さらには100年後の日本をどうしたいのかを語るべきです」

 いま500兆円のGDPが今後30年間成長し続けると、日本のGDPはどうなるか。成長率1%で約700兆円、2%で約900兆円、3%で約1200兆円。

「何%の成長率でどこまでいきたいかという大きな志を、まず天下国家の志を持つべきだと思う」

 ちなみに中国のGDPは約160兆円だが、このまま8・5%の成長率を続けると、14年で日本のGDPを抜くことになる。電話回線数でいえば、現在日本が約6000万回線、中国が約2億回線。携帯も日本が約8000万台、中国は約3億台。電話ではすでに日本は中国に抜かれている。

 4番目の重要な数字として孫は、人口を上げている。現在、出生率は約1・2で過去最低。「人口を保つには2・1必要です。大変な状況です。人口が半分になってしまうということですからね」。

 母親が子どもを産みたいような国家にするというのは大変に重要だ。そのためには何をどうすればいいか。

 中国には帝王学というのがあるが、その要訣を孫はこう説く。

「大風呂敷を広げよ。天下国家を語り、志を持ち、天下国家百年、2百年、3百年の大計を立て、その決起文を書け」

 いかに天下国家が乱れているか。革命を起こして、何百万もの国民に涙を流させる決起文を書けるか。

 孫は言う。「鳥肌が立つような感動を人々に提供しなければいけない。命も惜しくないという人を何人集められるかで、世の中が変わる。そういう帝王学を日本の政治家にこそ広めていかねばならないと思う」

 9月11日(日)には衆議院選挙が行われる。

                                 (文中敬称略)


2005-08-08 10:44:00

第41話 発想力

テーマ:孫正義


第41話


発想力






 孫泰蔵(ガンホー・オンライン・エンターテイメント会長)の発想は兄正義譲り、ユニークで壮大である。

「アジアに、シリコンバレーとハリウッドを足したようなものを作りたい」。

 上海、東京あるいは特定の場所というのではないのかもしれない。泰蔵が描くイメージは、20世紀初頭のパリのサロン。画家、詩人など多くの文化人が集まった。時代を動かしていく人材が集まり、作品やテクノロジーが生み出され、大きなうねりとなって世界に発信される場所。「自分もその中のひとりとして動きたい」。新しい時代を切り開いていきたい。それが泰蔵の夢なのだ。

 シリコンバレーでは、ヤフーを始め多くのユニークな企業が生まれた。泰蔵は言う。「あの場所から新しいテクノロジーが生まれ、世の中の価値観が変わった」。エンターテイメントの世界でも同じようなことがハリウッドで起きた。「人々の熱い思いや価値観、情熱などが伝わっていく形で、第2、第3の孫正義が現れるかもしれない」

 同じ志をもった人々が集うことができる「磁場のようなものを作りたい」と泰蔵は考えているのだ。


 

 孫泰蔵のユニークな発想は野球にまで及んでいる。「ホークスのファンで、特に門田(博光)選手のホームランに憧れた」野球少年だった泰蔵は、むろんいまも熱心なホークス・ファンだ。ヤフーBBのライブ配信を楽しむだけでなく、「チャット」でもメッセージを送る。「ズレータ打てー!」「ようやった!」など。「熱くなっちゃいますね」という泰蔵。「野球をおもしろくするアイデアはいっぱいある」。たとえば、相撲の人気の取り組みには懸賞金が賭けられることがある。「それと同じことが、野球でもケータイを使ってできるのではないか」。ここぞという場面で、ファンがケータイで賞金を賭けられる仕組み。

<満塁。松中登場>

1人100円程度でも、多くの人が集まれば大きな賞金になる」。バックスクリーンに懸賞金の額が表示される。これにはギャンブル性がなく、法的にも問題はない。100円に対する待ち受け画面への対価と考えられる。ファンも選手も熱くなれる。野球がますますおもしろくなる。

「こういった発想ができるのも兄貴(正義)がブロードバンドのインフラを普及させてくれたおかげです。ぼくらはその恩恵を受けている。兄貴に感謝しなくちゃね」。

  孫泰蔵のユニークなアイデアが実現する日は、そう遠くないだろう。

(文中敬称略)


 


 

2005-08-01 12:09:41

第39話 悔しさ

テーマ:孫正義


第39話


悔しさ






 7月30日(土)。ロッテとの首位攻防戦。杉内がロッテを相手に本拠地のマウンドに登るのは、1年ぶりのことだ。「どうしても勝ちたかった」(杉内)。昨年の6月1日、ロッテを相手にKOされた悔しさにベンチを殴り、両手を骨折した。杉内は新しい自分に挑戦。自らの手で勝利を掴んだ。14勝、8回を零封で飾った。松中はプロ9年目で1000本安打を達成した。「(初安打のときと同じ)ドームで打てたのが嬉しい。日々、新たな気持ちで、やっていく」(松中)

 7月31日(日)。新垣が先発。初回、ベニーがボールの判定をめぐって退場。その直後に新垣はロッテの猛攻に逢い、6点を奪われ、その後も立ち直れず5点を献上した。王監督の我慢もこれまでだった。「コントロールも悪かった。自分で調整しながらやっていくしかない。野球の神様がガツンとやった。本人がどう思うかどうか」。自らの道を切り拓いてきた指揮官の言葉は重い。悔しさをバネに新しい自分になれるかどうか。改過自新。


 

 孫は小学生のときに、「大人になったら何になりたいか」と考えた。夢は4つあった。小学校の先生、画家、事業家、政治家。この4つの夢のどれかになりたいと思った。これらに共通している点はひとつだけある。「クリエイティビティ、創造力ということです」。

 これらはそれぞれには関連性がないように感じられるかもしれないが、孫の中ではひとつだ。同じ学校の先生でも、孫がなりたかったのは中学や高校、大学の先生ではない。「真っ白なキャンパスの小学生に、何か人生観というか、人生の入り口を教えてみたいと思った」。

 画家はクリエイティビティそのもの。孫は商売人になりたいと思ったことは一度もなく、天下国家を変えるような事業家になることを夢見た。「男が命をかけてやるのは事業家で、天下国家を変えてみたいと思った」。政治家はどうか? これも創造力の世界だと孫は考える。

「政治家も自らが志を立て、天下国家を変える、改革をするということができるならば、これは創造力を発揮できる世界だと思います」

 孫は4つの夢の中のひとつを実現させ、革新的な事業家になった。

「いまでも志高く、天下国家のお役に立てればという気持ちは常に持ち続けています」

 孫は同じ場所にとどまることを好まない。大きな夢に向かって突き進んでいく。どんどん進化する自分でありたいと強く願っている。

 (文中敬称略)


2005-07-28 10:47:38

第38話 師弟

テーマ:孫正義


第38話


師弟






 孫泰蔵は、兄・正義を尊敬している。「父親のような存在でもあり、師でもある」。正義はアメリカ留学から一時帰国したときには、幼い弟にいつもお土産をどっさり買ってきた。太陽電池の電卓や英語の本、ミニチュアのロケットなど。泰蔵は大喜びでそれらの玩具で遊んだ。

「おもしろくて仕方がないから、キャーキャー言いながら遊んでいたんでしょうね。英語の本も意味がわからなくても、発音を兄に聞いたりして、知らないうちに覚えた」

 すると兄は「おまえは天才だ!」と褒める。幼い子はさらに上達する。

 兄の正義は言う。「電卓などで、弟には指先の感覚を覚えさえたかった」。

 父母や兄たちから愛情いっぱいに育てられたが、自我に目覚めた泰蔵は思った。「兄は特別な才能をもった宇宙人だ。兄のようにはなれないから、ぼくなりの道を見つけなければいけない」

 東京大学に進学後、ヤフーのジェリー・ヤンと意気投合した泰蔵は、独自の道を切り拓いていくことになった。



 7月23日(土)。オールスター第2戦、6回。ジョー(城島)が球場をわかせた。巨人・工藤が投げた0-1からのカーブに城島は笑みを浮かべて「そりゃないよ」と言わんばかりに手招きをした。工藤はニヤツと笑って3球目、ストレートを投げこんだ。その一球を城島がフルスイングするとボールは左翼席に吸い込まれた。城島はガッツポーズをしながらグラウンドを一周、ヘルメットをとって工藤に最敬礼をした。「工藤さん、ごめんなさい。ありがとうございます」。

 打撃は天性のものをもっていたが、捕手としては未熟だった城島を育てたのがダイエー時代の工藤だといっていい。城島のサインには一切首をヨコに振らず、打たれ続けた時期もある。なぜ、打たれたのか、工藤は理詰めで説明した。配球の奥深さを体得した城島は、いまや球界を代表するナンバーワン捕手に成長した。

 ホームランを打った城島の笑顔、現役最年長で、直球140キロで真っ向勝負をした工藤。この師弟対決はすがすがしく、胸が熱くなった。歴史に残る名勝負となった。



 7月26日(火)。対オリックス戦。先発は斉藤。

先制点を許したが、6回にバティスタのソロホームラン。7回、松中の34号、3ラン。5-3。斉藤は10勝。後半戦を勝利で飾った。

 この日、宇宙飛行士・野口聡一らを乗せたスペースシャトルが打ち上げに成功した。新たな歴史の始まりである。

(文中敬称略) 

 

2005-06-20 13:11:10

第29話 エネルギーの爆発

テーマ:孫正義

第29話

 

エネルギーの爆発

 

 

 

 

 

 学生時代、孫は試験が待ちどおしくて仕方がなかった。

「嬉しいな。嬉しいな!」

 東京農業大学の応援団員が大根を両手にもって踊る“大根踊り”を真似て、“試験踊り“をやった。

「自分がやった勉強の成果を試したくて、うずうずしていた」

 高熱にうなされながら勉強したこともある。勉強そのものが楽しかった。

「最初は霧の中、手探り状態だったが、自分なりの勉強をして感覚を掴めてきた。おれはできるという感覚を掴めた。それを試したい」

 もう、だめだと孫は思ったことはなかったのか。「いっぱいある。あるけれども、その中からチャレンジして、昨日よりはよくなったぞと思う。一昨日のおれと比べるな。今日のおれは別人だぞ。おれは進化しているんだ」。新しい自分に生まれ変わりたい、進化したいと孫は考えてきた。「ただ何も考えないで、同じことを繰り返すのはぼくにはとてもつまらないことなのです」

 

 

 

 交流戦、ホークスは存在感を見せつけた。エースの好投。強力打線の爆発。ベンチで指揮をとる王監督は全身で感情を表現した。大きく拳を突き上げる。鬼の形相に変わる。選手に満面の笑顔と拍手で喝采を送る。百面相といわれる王監督は言う。「ぼくは感情が出てしまうんですね。それがなくなったらお仕舞いだと思っています。命を賭けて戦っていますからね」

 世界の王はつねに「さらに」上を目指して進化してきた。瞬間瞬間に命を賭けてきた。一球入魂。言うは易し、行うは難し。

「ほんとうに、もがいて上を目指して実行したものだけが残る」王監督の言葉は迫力がある。

 

 

 

 6月18日(土)。私は東京・青山スパイラルホールで行われた「岡本敏子と語る広場」に参列した。岡本太郎のパートナーだった敏子女史の生き様は強烈で自由だった。「自分自身にうち勝ち、生き甲斐をつらぬくこと、それが美しいのだ」(『岡本太郎の眼』)。芸術家の枠をとびこえて、太郎は瞬間瞬間を「爆発」させてきた。

孫もまた、「つねにぶち壊してみる。全力でぶつかってまったく新しいものを作る。自分自身も生まれ変わる」と言う。

 明確な目標がエネルギーを爆発させる。ホークスには明確な目標がある。「日本一奪還」その先には「世界一」がある。その目標に向って、選手一人ひとりが進化し続けている。

(文中敬称略)

2005-06-13 11:19:04

第27話 熱情

テーマ:孫正義

第27話



熱 情






 6月12日(日)。スワローズを3タテ、5連勝。ロッテとの差をいっきに詰めたいところ。だが、ホークスは5-1で敗れた。一方、ロッテの勢いは止まらない。梅雨の晴れ間。空は曇っていて、気分は落ち込んだ。



 

 試合後、私は音楽を聴いた。天野紀子のバイオリンである。「炎のジプシーバイオリニスト」といわれる天野の演奏を聴くのは初めてだった。最初の曲『ジェラシー』(ガーデ)を聴いて、体の芯が熱くなった。震えた。衝撃を受けたのだ。『黒い瞳』(ロシア民謡)、『コロマイキ』(トラッド)、そして『二つのギター』、『赤いサラファン』、『百万本のバラ』、『スパニッシュダンス』(ファリャ)。これまで何度も聴いた『チゴイネルワイゼン』(サラサーテ)も天野の演奏は別物だ。魂の叫び。『愛は限りなく』(モドーニョ)『チャールダーシュ』(モンティー)など。小柄な天野が発するバイオリンの音が弾けていた。




 感動は感動を呼ぶ。企業家大賞受賞講演の孫の言葉が蘇ってきた。

「もうダメかダメかといわれてきて、しぶとく生きてきた」。孫は自分に挑戦してきた。これまで900社以上に投資をして100社が淘汰され、800社になった。「これらの会社はソフトバンクがミルク補給をしなくていい会社。800社が勝手に生き残っていける」。羊の集団ではなくて狼の集団。意志決定能力が強い集団だ。
 デジタル情報社会、ネットカンパニーを作るには大きな資本はいらないし、10坪あれば立派な会社ができる。しかし、つねにスピードと熾烈な戦いに晒される。「退却戦をしないリーダーは国を滅ぼすんです。退却することは(攻撃の)10倍以上の勇気がいる。ほんとうに自信がないとできない。心に自信があるからできる。次のチャンスがあることを知っているからできるんです」

 しかし、つねにどこまで失敗しても生き延びられるかを考える。「自分の体のどこまでとられても生きられるか。トカゲの尻尾切りではないが、3割。3割なら充分に失敗を取り戻せる。5000社を作るには4200回は攻め、800回ぐらいは退却」

 孫は本音で結んだ。「(もし、評価していただけるなら)一番嬉しい評価は、おびただしい戦いをして生き延びてきた事業家だということです。これからも私はチャレンジし続けます。退却をおそれず、攻める」




 炎のような「熱情」が人の感動を呼ぶ。

 (文中敬称略)



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