第32話 赤トンボ
テーマ:ホークス第32話
赤トンボ
6月28日(火)。都心では正午前に6月としては観測史上最高の36・2度を記録した。熱帯夜。ロッテとの首位攻防の2連戦。試合はズレータの豪快な本塁打で先制したが、すぐに同点に追いつかれた。城島の本塁打で再びリード。だがまた同点に。6回表、バティスタのタイムリーで逆転に成功。途中、雨で中断。9回、絶好調のバティスタがとどめの一発。最後は守護神馬原が締めて6-2。ホークス9連勝。4月23日以来、約2か月ぶりに首位を奪回した。「首位? まだ1ゲーム差だ」指揮官は冷静である。
6月29日(水)。マリーンスタジアム。ホークスのバッティング練習を見ていた指揮官の帽子にトンボが止まった。それに気づいたナインが声をかけた。微笑を浮かべながら歩いてきた監督に私は声をかけた。「いいことがありそうですね」珍しい光景である。監督は黙って頷いた。
試合は首位攻防戦にふさわしいエキサイティングな場面の連続だった。
「暑さに強い中南米出身」の外国人選手が大活躍した。バティスタの一発で先制。同点にされると今度はパナマの大砲ズレータの特大アーチ。バックスクリーン左の壁を直撃した。3試合連続の25号。熱烈なロッテファンも一瞬、静寂した衝撃的な一打だ。3-3の5回、本間が今季1号のソロ。「まさか打つとは思わなかった」と指揮官がいう伏兵の価値ある一発。トンボが幸運を運んでくれたのだろうか。試合後、私は監督に「トンボが運んでくれましたね」と言った。「うん」監督は短く答えた。10連勝。6月を18勝3敗という驚異的な勝率で乗り切った王監督は、「やっとこれでロッテと負け数で並んだ。これからが後半戦のスタートだ」試合数が少ないロッテに負け数で上回る。勝負への執念である。
孫も、勝負に対する執念は人一倍強い。
「おそらくこれは我が家の血筋でしょうね」というのは、孫家の末弟・孫泰蔵。「父も負けず嫌い。普段はおとなしくて温厚な長男も負けず嫌い。次男の正義は言うまでもありません。この3人でゴルフをやったことがあるんです。たいへんでした」
蚊帳の外の泰蔵は、半ば呆れ顔で激闘を見守っていたのだった。その泰蔵と正義がビリヤードで対戦したことがある。最初は泰蔵がリード。「うまいじゃあないか」と余裕を見せていた正義の顔色が変わり、一気に形勢が逆転。「勝負の流れを掴むのがとてもうまいんです」泰蔵は兄の勝負強さを認める。
(文中敬称略)







