Banbi通信 VOL.335 | 初鹿明博オフィシャルブログ Powered by Ameba

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不適切データ発覚で裁量労働制を法案から削除

「残業代ゼロ」になる高度プロフェショナル制度も撤回すべきだ!

 

 2月28日に衆議院本会議で平成30年度予算案の採決が行われ、自民、公明の与党などの賛成多数で可決したことにより、年度内成立が確実となりました。

 予算案の衆院通過後、安倍総理は、予算委員会後半に最大の争点となった裁量労働制のデータ問題を受けて、裁量労働制について今国会で提出予定の働き方改革関連法案から削除することを表明しました。

 3週間に渡って立憲民主党をはじめとする野党が連携して追及してきた成果だと思います。長時間労働の温床になり、過労死を増加させる制度の導入を止めることが出来、野党の存在価値を示すことが出来ました。

 しかし、これはあくまでも第一歩であって、この法案に含まれている裁量労働制よりも問題の多い「高度プロフェッショナル」制度については撤回しないで今国会で成立を目指すといっているので、こちらについても撤回させるよう厳しく求めていかなければならないと感じています。

 今回の法案に盛り込まれている「高度プロフェッショナル制度」とは、年収1075万円以上のアナリストなどの専門職を対象として、労働時間の長短と関係なく成果だけによって給与額が決まり、普通の労働者が支払われている時間外・深夜・休日労働の割増賃金は一切支給されない、分かりやすく言うと「残業代ゼロ」となる制度。

 労働時間と賃金を関連付けることなく、成果により報酬を出すことで、柔軟な働き方を進め、労働生産性を向上させることにつながると政府は説明しています。安倍総理は「脱時間給」と言い、あたかも好きな時間に来て、好きな時間に帰ることが出来、労働時間も減り、成果を出せば報酬も上がるかのような印象を与えていますが、果たして本当にそうなるのでしょうか。私は大きな疑問を持っています。

 また、対象者も今回は年収を1千万以上の専門職に限っていますが、制度の導入を望んでいる経団連の榊原会長(当時)が労働者の10%程度が対象となるのが望ましいと発言したり、当時の大臣、塩崎氏も「小さく産んで大きく育てる」と発言したりしている通り、導入をしたい者達は、まずは制度化して徐々に拡大していけば良いと考えているのです。

 派遣法や今回対象業務の拡大が撤回となった裁量労働制のように一旦認めてしまえば、なし崩し的に対象が拡げられて行ってしまうので、現時点で対象者が限定されているからと油断してはいけないと考えています。

 この「高度プロフェッショナル」制度は、第一次安倍政権の時にも当時は「ホワイトカラーエグゼンプション」という名称で導入が検討されていました。

 当時の議論では年収要件が900万円以上で、経済界からは400万円以上を対象とすべきだという発言があったりして、連合はじめとして反対の声が大きくなり、国民の合意が得られていないということで断念した経緯があります。

 それを再び総理の座に就いた安倍総理が経団連の意向を受けて、再び導入に動いているというのが現状です。

 つまりは経団連悲願の制度なのです。経営側にとってみれば、労働時間の管理をしないで良くなり、残業代、休日出勤の割り増し賃金も一切支払う必要が無くなるのですから、これ程、都合の良い制度はありません。しかし、働く側は与えられる仕事量や求められる成果の大きさによっては長時間働くことになり、いくら働いても残業代は全く出ないという恐ろしい制度なのです。

 政府は労働者の選択権があると言いますが、使用者からの求めを拒み切れるか、また、職場の雰囲気で断り切れなくなるということは容易に想像が出来、本人の意思通りになるとは思えません。

 制度の導入に対して、過労死遺族の皆さんは長時間労働が増え、過労死が増加すると反対を続けています。我々野党もこれまで再三再四、過労死防止や長時間労働の是正に反すると批判を続けてきました。

 これに対して政府は、働き過ぎによる過労死防止するための健康確保措置を設けているから安心して欲しいと言っています。しかし、その内容は、年間104日の休日確保措置を義務化して、①退社から出社までの一定時間を空けるインターバル措置、②1月又は3月の在社時間等の上限規制、③2週間連続の休日確保、④臨時の健康診断のいずれか一つを実施することに過ぎません。

 安倍総理は裁量労働制拡大を撤回した後の参院予算委員会で、高度プロフェッショナル制度も撤回すべきではないかと野党議員から問われた際に、「連合からの要望を受け入れて」年間104日の休日確保措置などを取り入れたから大丈夫だと答えています。

 しかし、私はこのような甘い基準では全く意味をなさないと思っています。まず、義務化される年間休日104日というのは、週休2日は最低限しましょうというものであり、当たり前のことだと思います。しかも、休みをまとめて取れれば、1か月間休むことなく働かせることも可能なのです。そして、いずれか一つと言われているものを見ると①~④の中で経営者がひとつ選ぶとしたら当然④になるでしょう。なぜなら、労働時間には全く反映しないから。しかし、具合が悪くなったら健康診断させますよというのは、健康を害したり、不調になったら健康診断しますがそれまではしっかり働いてもらいますねとしか聞こえません。

 つまり、健康を害してからでは遅いのではないですかと思うのです。③の2週間連続の休日確保も長期休暇を取る権利が認められることは良いと思いますが、それ以外の日はどう働かせても良いというのでは健康確保措置には全くなりません。せめて、勤務時間のインターバルと月の上限時間は設ける必要があると思います。

 そもそも、この制度を導入するか否かに関わらず、長時間労働を無くすためにはインターバル規制を導入することが必要なのです。EUでは加盟国にインターバル11時間を義務付けています。退社してから次の出社までの間を11時間取らなければならないというのがEUでは最低基準になっているのです。我が国は通勤時間が長い労働者が多いこともあり、11時間を義務付けるのは難しいとしても、最低8時間はインターバルを設ける必要があると思います。

 労働政策審議会で法案全体に対して「おおむね妥当」という答申が出ていますが、議事録にも明記されている通り、労働者側の委員は明確に「高度プロフェッショナル制度の創設も企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大も、実施すべきではないという労働側委員の考え方が変わるものではありません」「高度プロフェッショナル制度の創設と企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大の2点が法案要綱から落ちていないことについては、労働側としては非常に残念であり、遺憾である」と述べている通り、全会一致で決まったのではなく、反対を押し切って決めたことを考えると、裁量労働制のみならず高度プロフェッショナル制度も労働力について再調査をして、その結果に基づいて労政審で審議し直すべきです。

 その前提として、高度プロフェッショナル制度も働き方改革関連法案から削除して、導入を断念すべきです。

 いずれにしても、政治が行うべきは経済界の意向のみを聞いて「残業代ゼロ」にすることではなく、長時間労働を是正して「過労死ゼロ」にすることです。