漢字検定1級合格して更に中国語を理解し,東洋史を大学時代専攻していたとなると周囲から漢字に詳しい人と捉えていただきさまざまな質問を頂きますが,その中でも最も回答に困るのが漢字はいくつあるの?という質問です。これはかなり難しい質問です。
古代より現代に至るまでの代表的な字典(辞典)における収録文字数を挙げれば下記のようになります。上の質問に解答するなら85,568字程度ということになります。
『説文字解』 9,353字 後漢 許慎
『字林』 12,824字 晉 呂忱
『玉篇』 16,917字 梁 顧野王
『龍龕手鏡』 26,430字 遼 釈行均
『字彙』 33,079字 明 梅膺祚
『康煕字典』 48,651字 清 張玉書等
『大漢和辞典』 49,964字 日本 諸橋轍次(1960年)
『中華字海』 85,568字 中国 冷玉龍(1994年)
とまぁ時代が下るにつれ収録文字数が増えていきます。古代に関しては収録文字数が増加する原因は,それぞれの時代に新しい漢字が発見された,または造られたという理由で説明ができますが,『中華字海』に至っては『大漢和辞典』の2倍に迫ろうという文字数,わずか34年の間に何故このような事態になってしまったのでしょう。
1994年に『中華字海』が世界最大の漢字字典と銘打って世に出回ってすぐに北京でこの本を購入しましたが,『大漢和辞典』を見慣れていたおいらにとっても難字奇字のオンパレードでした。巻頭の凡例では文字採録の基準として下記のものを挙げていました。
1 『説文字解』,『玉篇』,『康煕字典』などの歴代の字書に収録されている漢字
2 歴代の字書に収録されていないが文献で使用が確認できる漢字
3 國家語言文字工作委員會が公布した『簡體字總表』に収録されている漢字
4 甲骨文,金文や竹簡,帛書に見られる古文字で公認されていない楷書体
5 歴代の石碑に確認できる漢字
6 地方文献や方言辞書に収録された方言字
7 近現代に造字された科学技術面での新字
8 現代においても使用されている人名,地名の用字
9 『簡體字總表』に未収録ながらも現代の出版物で使用されている簡體字
10 1977年に中國文字改革委員會は発表した「第二次漢字簡化方案」に収録された文字
11 香港、澳門,台湾,日本,韓国,シンガポールでしようされる漢字
たしかにこれだけ集めれば85,568字にはなりますな。しかしこれでも全ての漢字を収録しているかというとそうでもなさそうです。収録した漢字の内日本や韓国の国字に関しては可能な限りの収録に留まっていまいして,探せば未収録も漢字はありそうですし,ベトナムを表記するために造られた字喃(チュノム)は収録されていません。字喃とて漢字でベトナム語を表記する際の文字なれば漢字の一種と言ってもよいと考えています。
漢字というものは「会意」の方法を使えば無限に造字できるのがその特徴です。しかも字形が複雑になればそれを簡略化する方法は時代によって,また個人によってことなる可能性を考えると渡井たちは文字通り無限の漢字の海を泳いでいるようなものです。
このようなことを書くと漢字を理解することは困難であるという結論になってしまいがちですが,85,568字の漢字の中で日常使用するのはほんの僅かです。ほとんどは同じ意味ながら字形が異なる別字や異体字と呼ばれるものでして,日常生活には無関係なものばかりです。『中華字海』の場合は「こんな漢字もあるの知っていた?」という考えの延長線で編集した「雑学字典」のようなものです。
日本人が一般に使用している漢字は3千~5千程度といわれています。中国人の場合は約8千,おいらのような漢字マニアでも1万程度が使用する漢字の限度です。漢字の特徴は存在はするが使用しない死字がやたら多いというのも特徴かもしれません。