もしも君が迷ったなら

思いついた言葉を詩に。思いついたストーリーを小説に。


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 例えば、もし今から一時間後にこの世界が終わってしまったなら、それまでのことはすべて永遠になる。有限のものが、無限になる。
 ほら、『永遠』なんて言葉はこんなにも曖昧で不確か。
 まるで私と彼のように……。


 鳴り響く目覚まし時計を止めて、二度寝したい衝動を抑えつつ体を起こす。
 いつもと同じ時間に起きて、朝食を食べ、着替え、準備して、家を出る。電車に揺られて会社に行き、仕事をこなして同じように帰ってくる。
 彼と選んだお気に入りの照明をこの手で消して、眠りに就く。

 毎日同じことの繰り返し。
 時々分からなくなる。何のために仕事をしているのか。何のために生きているのか。
 仕事は楽しいし、やりがいもある。だけど何か大切な物が欠落しているような気がしてならない。

 以前はそんな風に思ったことはなかった。それは本当に心から愛した人が傍にいたから。
 だけど今はもう居ない。


 彼とは職場恋愛だった。少し先輩の彼が新人で入った加奈の教育係だった。
 お互い、惹かれるのに時間はかからなかった。しかし社会人として、恋人であることは周囲に隠していた。仕事に支障をきたさないためだ。それが良かったのか、悪かったのか、未だに分からない。

 別れを切り出したのは、彼の方からだった。
「ごめん。俺……他に好きな人ができたんだ」
 その言葉に衝撃を隠せなかった。
「え? 何……言ってるの?」
 あまりに唐突すぎて聞き返した。
「加奈のことは好きだよ。だけど……それ以上に好きな人ができてしまったんだ」
 彼が何を言っているのか、理解できない。
「だから、ごめん。……別れよう」
「……分かったわ」
 自分でもなぜそう答えたのか分からない。ただ、もうお互い子供じゃないし、泣いてすがるようなそんなみっともない真似もしたくはなかった。
「だけど、仕事は辞めないわよ。だから、仕事ではいつもと同じ。ただの同僚に戻っただけ」
 加奈がそう言うと、彼は頷いた。
「もちろんだ。本当にすまない」
 彼はもう一度頭を下げた。その時の自分は、今思い出しても驚くほど冷静だったと思う。

 あの時どう言えば良かったんだろう? 泣いてすがれば、彼は考え直してくれただろうか?
「……馬鹿みたい」
 吐き捨てるように呟く。どうしたって彼との関係は戻らない。
 どんなに願っていたって、叶わないことだってある。子供じゃないんだから、それぐらい分かってる。
 だけどずっと『あの時、何であんなことを言ったんだろう』と、後悔して泣いてばかりの日だった。


 時折、仕事でふと見せられる優しさに気持ちが揺らぐ。
 だけど隣に居るのは、自分じゃない女で、確かにあったはずの居場所はもうない。
「中村さん? どうしたの? 気分でも悪い?」
 声をかけてきたのは、彼だった。
「いえ。何でもありません。すみません」
 他人行儀に返す。
「そう? 顔色悪いみたいだけど」
 気持ちなんてもうとっくにないくせに、どうして優しくなんてするの? そんなことをぶつけてやりたい。だけどグッと堪える。
「……ちょっと寝不足なだけです。すみません」
 そう言ってその場を立ち去る。

 一体何をしてるのだろう?
 息苦しくなる胸を押さえ、会社の外へ出る。深呼吸をすると、少しだけ落ち着いた。
 いつまでも引きずっててはダメだ。
 そんなこと頭では分かってる。だけど気持ちはついて行かない。
 どうして彼はあんなに普通にしていられるのだろう? まるで何もなかったかのように。
 確かに愛し合った日はあったはずなのに……。
 俯いた視界の中にオレンジが飛び込んでくる。ふと視線を上げると、そこに居たのはふわふわと飛ぶマダラ蝶だった。
「もう……そんな季節」
 別れを切り出されたのは、本格的に冬が始まろうとする時期だった。それからもう三ヶ月以上経ってるなんて……。
 昔、本で読んだことがある。マダラ蝶の種類の中には直線距離で千五百km以上もの距離を飛んで行ったりするらしい。
 例えばあの蝶のように、海を渡って遠くまで行けたなら、何か変われるのかな?
 あの青い空を高く飛んでいけば、違う自分になれるのかな?
『本当に加奈のこと、好きだったよ』
 ふと彼の言葉が蘇る。
 やめて。もうそんな言葉で心を占領するのはやめて。
 思わず耳を塞いで、ぎゅっと目を瞑る。
 騒がしいこの街も、明るい世界も、すべてなくなってしまえばいい。
 この世界が終わってしまえば……永遠になるのに……。
「……先輩? 大丈夫ですか?」
 ふと近くで声がして、加奈は顔を上げた。
「多田くん……」
 目の前にいたのは、加奈の後輩だった。今、加奈は彼の教育係をしている。
「何か具合悪そうだったんで……大丈夫ですか?」
 ふと彼の優しさにすがりたくなった。いや、誰でもいい。思い切り泣いて、甘えたかった。
 だけどそんなことできるはずもない。加奈はその衝動を胸の奥にぎゅっとしまって蓋をした。
「大丈夫。ごめんね。心配かけて」
「それならいいですけど。仕事しすぎじゃないですか? ちゃんと寝てます?」
 まるで彼氏のような口ぶりに加奈は思わず笑った。
「大丈夫よ。そんなお母さんみたいなこと言わないでよ」
「すみません」
 加奈が笑ったので、彼も苦笑する。
「戻りましょ。あんたには教えること、たくさんあるんだから」
「はい」
 二人はそう言って、再びオフィスへと戻った。


 時間はかかるかもしれない。
 だけどいつか、振ったことを後悔するようないい女になってやる。
 あいつよりも素敵な人を見つけて、幸せになってやる。

 きっと、いつか。


・*:..。o○☆*゚¨゚゚・*:..。o○☆*゚¨゚゚・*:..。o○☆*゚¨゚



久し振りにショートショートというかインスパイア書いてみました。

4月末ぐらいに書き始めたのに、途中で仕事で疲れて書けなくて1ヶ月も放置してました(;0_ゝ0)

今回は大好きなUVERworldの【マダラ蝶】を題材に。
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↑のシングルのカップリングになってる曲です。

↓音源です
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 この世界は闇だ。
 ただ不公平しかない。
 だってそうだろ? 生きたいとどれほど願っていても、病気だったり事故であっけなく命を失ってしまう。
 生きられる体を持っているのに、精神を病んで自ら命を絶ってしまう。
 この世界に優しい神様がいるなら、きっとそんなことさせない。
 この世界にはきっと悪魔しかいない。

 神様なんていない。

 そう思っていた。彼女に会うまでは。


 僕は生まれつき心臓が弱い。
 心臓を移植すれば何とか助かるらしいが、ドナーなんて奇跡でも起こらない限り無理なことはよく分かっていた。
 それでも両親は願っていた。奇跡が起こることを。
 優しい両親はいつだって僕のためにしてくれた。
 莫大な医療費は、一般庶民には厳しい。それでも父は必死で働き、母も必死で働いた。全ては治療費のために。
 でも僕は二人には無理して欲しくない。僕なんかのために、命を削るようなことをして欲しくない。
 半ば僕はこの命を諦めていた。
 こんな命が一つ消えたところで、世界は変わらずに廻っている。
 両親はきっと泣いてくれるだろう。だけどいつか僕を忘れてしまう。
 もしかしたら、本当はうとましく思っているのかもしれない。僕がいることで、今あるはずの幸せな生活が乱されている。
 病院という牢獄の中で、ただ生かされているだけの僕に一体どれほどの価値があるというのだろう?

 昼間は両親が働いているので、一人で過ごすことが常だった。
 幼い頃は両親の祖母たちが代わる代わる付き添ってくれたが、祖父母たちだって歳を取る。しかも遠方から来るのはやはり大変だということで、僕は毎日来なくても大丈夫だと伝えた。もう十分一人でいられる歳だし、祖父母にも負担をかけたくなかった。
 僕が気を遣っていると汲んでくれた祖父母は一週間に一度、僕の顔を見に来てくれた。僕にはそれで十分だった。

 今日はやけに空が青い。外は夏空が広がり、蝉が短い一生を悔いのないようにけたたましく鳴いている。
 今年は梅雨らしきものはなかった。時々雨は降ったが、それもすぐに終わり、季節はいよいよ夏へと向かい始めていた。

 相変わらず僕は病室に閉じ込められている。
 看護士が開けてくれた窓からは少しずつ変わり始めた風の匂いが吹き込んできた。
 ふと僕は外に出たくなった。こんなことは珍しい。
 僕は看護士を呼んで、車椅子に乗り、外に連れ出してもらった。

 庭の木陰に車椅子を止めてもらい、一時間後に迎えに来てもらうことにした。
 一人になった僕は目を閉じた。
 木の葉の囁き、木漏れ日、風の匂い、その全てを愛おしく感じ、嫌いになった。
 どうせいつか僕はこの世界から突き放される。真っ暗な地の底へと落ちていく。
 優しい腕も、甘い匂いも、暖かな感触も。
 いつかきっと何も感じなくなってしまう。
 それならばいっそ、僕から嫌いになってやる。

 ふと視線を感じ、僕はハッとした。視線の方に目をやると、そこには一人、色の白い女の子がこちらを不思議そうに見ていた。
 白いワンピースを着た彼女は、妖精と見紛うほど、美しかった。僕の拙い表現力では表現しにくいが、とても綺麗だった。
 僕と彼女はお互い見つめ合ったまま、固まってしまった。この無言の時間をどうにかしようと、僕から口を開いた。
「キミは……? ここで何をしてるの?」
「……私はマキ。散歩してたの。……キミは?」
「僕は……ヒロシ」
「ヒロシくんか。キミはどこか悪いの?」
「……心臓」
「そう。母と同じだわ。母もここで入院してたの」
 過去形が気になったが、聞く気にはなれなかった。良くなって退院したのか、もしくは……。その二択しかないのだから。
 彼女は僕を見て柔らかく笑った。その笑顔は今まで見た誰よりも綺麗だった。
「ねぇ、ヒロシくんは生きたいと思う?」
 初対面の人に聞く質問にしては直球過ぎるが、その目は真剣そのものだったので、僕は口を開いた。
「そ、そりゃあ、生きられるのなら……。でも……死ぬなら死ぬで……早く死にたい……」
 それは本音だ。初めて口にしたが、ずっとこう思っている。だって生きてる価値なんてないのだから。
「……そっか。この世界は不公平よね。生きたいと願う人ほど早くいなくなってしまう」
 彼女の言葉に驚いた。僕もずっとそう思っていた。
「上手くいかないものね」
 マキはそう言って笑った。その笑顔は悲しさで満ちていた。
 彼女は不思議な人だった。クルクルと変わる表情に僕は釘付けになっていた。
 歪んだ心を持った僕には、真っ直ぐで綺麗な彼女が眩しかった。
 彼女といろんな話をした。僕と彼女は百八十度違っていた。しかしその考え方の違いは僕にとって新鮮だった。新しい見方ができるのが楽しかった。
 同じ物事でも目線を変えれば、全く違う。
 どうしてこんな当たり前のことに気づかなかったのだろう?

「どうして地球は丸いと思う?」
「さぁ?」
 突然の彼女に質問に僕は驚いた。そんなこと考えたこともなかったのだ。
「誰も隅っこで泣かないように。みんなが手を繋げるようにだよ」
 目から鱗だった。そんな風に考えられる彼女を羨ましく思った。
「だけど今の世界はダメね……。みんな、自分のことしか考えてない」
 そう言った彼女の目線は下へ下がる。その言葉に僕は頷いた。
「だって……神様なんて……いないもん……」
 そう吐き捨てるように言うと、彼女はきょとんとした。
「どうしてそう思うの?」
「だってそうだろ? もし神様がいたなら、こんな世界許さないよ」
 僕の言葉に、彼女は頷く。
「確かにそうかもね。……でも神様だって、我慢してるのかもよ?」
「え?」
 彼女の言葉に僕は驚いた。そんな風に考えたことがなかった。
「だって、生まれつき悪い人間なんていないもの。生まれた場所、環境、時代。いろんな要素で人は善人にも悪人にもなる。始めから心根が悪い人なんていないわ」
「そう……だけど……」
 彼女の言葉は妙に説得力があった。
「いつかきっとこの世界を浄化してくれる。私はそう信じてる」
 そう言った彼女の目は凜としていて、意志の強さを感じた。
「ヒロシくん」
 呼ばれた方に顔を向けると、看護士が迎えに来ていた。
「そろそろ病室戻りましょうか」
「あ、はい」
 促され、僕はマキの方を振り返った。しかしそこには誰もおらず、さっきまで確かにそこにいたはずの彼女の姿はどこにもなかった。
「どうかしたの?」
 看護士が訝しげに聞いてくる。
「あ、いえ。何でも……」
 そう言うと、看護士は僕の車椅子を押し始めた。

 今のは誰だったんだろう? どうして彼女はここにいたのだろう?
 不思議で仕方がなかった。たった一時間なのに、何時間も彼女といたような錯覚に陥る。
 本当は彼女は存在しなくて、僕が見た幻想だったのではないか?
 そう考えて、僕は首を振った。そんなはずはない。
 確かに彼女はここで僕と話をしていた。だって僕と百八十度違う考え方を持ってたじゃないか。
 きっとタイミングが良すぎたんだ。
 僕はそう思うことにした。

 翌日も空は晴れ渡っていて、心地よい風が吹いていた。
 看護士に頼み、昨日と同じ時間に同じ場所へ連れて行ってもらった。
 相変わらず優しい木の葉の囁きが僕の耳を占領する。
「あら」
 声がした方に顔を向けると、彼女が立っていた。
「今日も散歩?」
 彼女はやはり柔らかい笑顔を向け、そう聞いてきた。
「うん。キミも?」
 そう言うと、彼女は頷いた。
「今日も会えるとは思ってなかったわ」
 彼女は本当に綺麗に笑う人だった。
「本当はキミに会えるかなって思ってきたんだ」
 そう言うと、一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに優しい笑顔になった。
「そんなこと言われるとは思わなかったわ。ありがとう」
 素直な彼女に思わず照れる。
「キミは……神様がいるって信じてるの?」
 突然の質問に驚いたようだったが、彼女は頷いた。
「だって、そう考えた方が素敵じゃない?」
 彼女の目が輝く。
「素敵?」
「この世界は確かに歪んでる。でもそれは人間だけ。昔からある自然界は何も変わらず、ただ優しく存在してる。空は相変わらず青いし、木の葉の囁く音も風の匂いも太陽の光も、全部変わらない。それらは変わらずに存在していて、長い年月、人を見守り続けてる。身勝手な人間たちに存在は危険に晒されてるけど、それらは今までもこれからもきっと存在し続ける。それって永遠を生み出した神様がいるってことのような気がするわ」
 彼女の話は納得できる。だけどそれだと疑問が生まれる。
「じゃあ……どうして人は永遠じゃないの?」
「それは……命を無駄にしないようによ」
「え?」
 彼女の答えに正直驚いた。
「もし永遠に生きられるなら、きっと無駄に時間を過ごしてしまう。だから“終わり”を作ったのよ」
 彼女の話はもっともなことのように思えた。
 いや、それよりも彼女が本当は神様なんじゃないかと思う。だって彼女と話しているだけで、こんなに温かい気持ちになれるんだから。
「ヒロシくんは『死ぬなら早く死にたい』って言ってたけど、どうしてそう思うの?」
 直球な質問に驚いたが、彼女の真っ直ぐな目に口を開く。
「……僕なんかが生きてても意味がないからだよ」
「どうしてそう思うの?」
「だってそうだろ? ただ病院に閉じ込められて、ただ生かされてるだけ。家族は僕の治療費を稼ぐのに自分の命を削ってる。それなら……僕がいない方が幸せじゃないか!」
 思わず口調が荒くなる。初めて口にした自分の思いは、声に出すことで一層強い思いに変わった。
「優しいんだね」
 思ってもない反応に僕は眉をひそめた。
「優しい?」
「だって自分のことよりも、家族のことを思ってる」
 そう言われ、一瞬たじろぐ。
「違う……! 僕は……この辛い治療生活から一刻も早く解放されたいだけだ! ただ逃げたいだけの弱虫だよ!」
「ヒロシくんは弱虫なんかじゃない。強い人よ。だからそんな風に言わないで。……あなたはもっと生きなきゃダメ」
「何言って……」
 彼女があまりに真剣な目でそんなことを言うので、僕は口をつぐんだ。
「ヒロシくん」
 呼ばれ振り返ると、看護士が迎えに来ていた。急いでマキのいる方へ顔を向けたが、やはり彼女は忽然と姿を消していた。
「ヒロシくん?」
 看護士に呼ばれ、ハッとする。
「どうかしたの?」
「……いえ、何でも……」
 僕は車椅子を押され、病室に戻った。

 いくら何でもおかしい。あんな一瞬でいなくなるなんて。タイミングが良すぎるとかいう問題じゃない。
 彼女は一体何者なんだろう? どうしてあそこにいるのだろう?
 明日会ったら聞いてみよう。

 しかし思惑は外れた。翌日は忘れていた梅雨を思い出したかのような土砂降りだった。
 この雨じゃもちろん外にも行けないし、行ったとしても彼女は現れないだろう。

 それから雨は一週間降り続いた。

 ようやく晴れた日、僕は例のごとく外に連れ出してもらった。
 土はまだ乾き切っておらず、唯一通れるコンクリートの上を車椅子はゆっくりと進んでいた。
 久しぶりに晴れ渡る空は、何だか懐かしく、愛しく、嫌いだった。
『あなたはもっと生きなきゃダメ』
 彼女の言葉がこの一週間ずっと脳裏に焼き付いて離れなかった。どうして彼女はこんなことを言ったのだろう?
 僕が自殺志願者にでも見えたのか? あながち間違いじゃないけど。
 ふと空を見上げると、ちょうど目に太陽の光が入ってきた。眩しくて目を逸らす。
 こんな暖かく光ある眩しい世界に僕は必要ない。
 何の役にも立たず、ただ生かされているだけのこんな僕なんて……。
 光があるなら僕は闇だ。だから光の世界にはふさわしくない。闇の世界がお似合いだ。

 看護士と別れ、いつもの場所で彼女を待つ。
 しかし一向に現れない。この一週間、ずっと雨で彼女もそれを期に来なくなったんじゃないか? 彼女はもうここには来ないんじゃないか? そんな気がしてきた。
 それならそれで構わない。たった二度しか話したことがない。情が移る前で良かったとさえ思う。
 どうせ僕は嫌われる。だったら早いほうが……。
 諦めてる。この世界で“普通”に生きることさえできない僕は、何を望んだってダメなんだ。
 押し潰されそうな感覚。どうせならこのまま押し潰されて消えてしまえたらいいのに。
 そう願ったって僕はこうしてしぶとく生きている。
 自ら命を絶つことさえできない自分はただの弱虫だ。
 風が吹き、木の葉がざわめく。木漏れ日が揺れ、まだ残る雨の匂いが鼻をくすぐる。
 止めてくれ。もうこの世界の優しさを見せつけないでくれ。
 頭を抱え、目をぎゅっと瞑る。目の前にはただ真っ暗な空間。
 僕にふさわしいのはこういう世界だ。
 色とりどりの美しい世界なんて、僕には似合わない。
 消えてしまえばいい……! 僕なんか! 僕なんか消えてしまえばいいのに!

 木々のざわめく音。いつもより強い風が吹き抜ける。
 その瞬間、誰かの気配がして、顔を上げた。
「……マキ……!」
 驚いて思わず名前を呼んだ。相変わらず彼女は綺麗だった。
 白い肌は更に色白く、透き通るようだった。そして相変わらず彼女は柔らかく笑った。
「久しぶりね、ヒロシくん」
 彼女の透き通る声が耳をくすぐる。
 なぜだか分からないけど、涙がこみ上げてくる。泣きたくなる気持ちを抑え、心の奥に押し込む。
「どうかしたの?」
 マキは僕の様子がおかしいことに気づいたようだった。
「……何でもないよ」
 彼女の綺麗な瞳に吸い込まれそうな気がして、目を逸らす。
「本当に?」
 念を押されるように聞かれる。僕が何も答えないでいると、彼女はゆっくりと近づいてきて、僕の手を取った。
 彼女の手は優しくて温かくて、冷たかった。
「ねえ、ヒロシくん。忘れないで。あなたは生きるために生まれてきたの。だからいなくなればいいなんて考えないで」
「!?」
 どうして僕の考えが分かったんだろう?
「どうして……?」
 僕の疑問には答えず、彼女は優しく笑った。
「私はずっと、あなたの傍にいるから。だから……生きて」
「それってどういう……っ!」
 その瞬間、全身が沸き立つような音がした。胸が熱くなり、激しく鼓動を打つ。
 知っている。これは発作だ。
『次に発作が起これば、命の保証は……』
 以前こっそり聞いた医者の声を思い出す。
 そう、僕には“期限”がある。普通の人よりも遙かに短い期限が。
 こんな僕がどれだけ彼女に『生きて』と言われても生きられるはずがない。
 望んだって変えられないのに……。

「ヒロシくん!!」
 慌てて駆け寄ってくる看護士の声が遠くで聞こえた。
 視界がボヤけてる。全ての音が遠ざかる。
 相変わらず光は僕を突き刺して、木々の囁きは耳を劈く。

 ああ……もうこの世界とお別れなんだね……。

 闇に落ちていく僕に最後のお別れをしてくれてるんだ……。

 ありがとう。優しくて暖かい光の世界。愛おしくて嫌いだったよ。


 目を開けると、そこには見慣れた天井があった。
「ヒロシ!」
 聞き慣れた声が僕を呼ぶ。少し目線をずらすと心配そうに覗き込む父と涙ぐんでいる母が見えた。
 あれ?
「良かった! 目が覚めた! 先生呼んでくる!」
 父は慌てて病室から出て行った。母は祖母に肩を抱かれ、泣いている。
「あれ……僕……」
 事態が飲み込めない僕は、近くにいた祖父に視線を向けた。
「奇跡が起こったんだよ」
「え?」

 僕が倒れた後、手術室に運ばれた。ちょうどそのとき脳死判定された心臓があり、適合すると判断され、移植されたらしい。
 まるで絵に描いたような出来事だ。
 奇跡なんて起こらないと思っていたのに……。こんな僕に奇跡が起こるなんて。


 その後、退院の日も決まり、僕は晴れて自由の身になった。
 自分で歩く。普通の人にとってはごく当たり前のことも、今までできなかった。なるべく心臓に負担をかけないようにと、移動は全て車椅子だった。
 僕は自分の足で、彼女と出会った場所へと向かった。
 コンクリートで固められた地面は固くて、不思議な感触だった。
 相変わらず光は降り注ぎ、木々がざわめき、風が鼻をくすぐる。
 突き抜ける青い空も、青の海を漂う白い雲も、眩しすぎる太陽も変わらずここにある。
 だけどどれだけ待っても彼女は現れなかった。

 あの日、僕が倒れたあの日。もう彼女は現れないと分かっていた。
 彼女のあの真剣な眼差しと柔らかい微笑みだけは、今もこの目に焼き付いている。
 目を瞑ると、真っ暗な空間が広がる。だけど……それでも、光を感じる。木々の囁きは更に音を増して聞こえる。風の匂いを感じ、太陽の暖かさを感じる。
 胸に手を当てると、鼓動を打つ音が聞こえる。僕じゃない誰かのこの心臓は、確かに鼓動を打っている。
『私はずっと、あなたの傍にいるから』
 ふと彼女の声を思い出す。凜とした透き通る声。
 気づけば僕の目から涙が溢れていた。ただただ涙が零れた。

 あぁ……そういうことか。キミだったんだね。
 僕の胸で鼓動を打っているのはキミだったんだ。
 一つ一つの鼓動は僕に『生きて』と訴えてる。

 ありがとう。生きるよ。これからどんなに辛いことがあったとしても。
 例え死にたくなるような辛くて惨めな人生だったとしても。
 キミがくれたこの命を無駄にしないように。

 今日も相変わらず空は青くて、日差しは暖かくて、木々が囁いてて、風は優しい。
 嫌いだけど、愛おしい。

 ありがとう。僕の神様。


・*:..。o○☆*゚¨゚゚・*:..。o○☆*゚¨゚゚・*:..。o○☆*゚¨゚



久しぶりに書いたら書き方が変わってる気がします・・・。

しかもインスパイアなのに短編ぐらいのボリュームに(;0_ゝ0)

まぁ・・・たまにはいいかなーとか自己完結してみたり。

ずっと書きたかったもので、PC壊れてた間にほぼ一気に書きましたw
最後の方はあとから書いたけど。

イメージ壊れたらごめんなさいorz

有心論/RADWIMPS

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 ドアを開けると、少し冷たい風が頬を撫でた。九月に入ってから、急に肌寒くなったように思う。
 美依は鞄からストールを出すと、薄着の肩にかけた。
 深夜の街は未だ眠らない。表通りはまだ人がたくさんいて、車もたくさん走っている。
 握りしめた携帯電話が鳴る気配は全くない。
「……バカ」
 そう毒づくが、あいつに聞こえるわけない。
 その時、肩がぶつかり、携帯電話が手からするりと落ちた。
「おっとごめんよー」
 酔っぱらいのサラリーマンはそう言うと、危ない足取りでタクシーを停め、さっさと乗って行ってしまった。
 落ちた携帯電話を拾い上げる。落ちた衝撃で二つ折りの携帯が開いていた。
 待ち受け画面には笑顔の二人。今ではそれすらも悲しい。どうしようもない感情が、胸の奥で沸き上がる。
 それに蓋をするように携帯電話を閉じると、タクシーを停め、帰路に着いた。



 彼と出会ったのは、大学生の時だった。最初は『好き』なんて感情はなく、気兼ねに話せる友達だった。
 それがいつしか一緒にいることが当たり前になって、いつの間にか付き合うようになっていた。
 美依にとって彼の隣は居心地が良かった。それは彼も同じだったと思いたい。
 強気な美依はいつも意地を張って、自分でもかわいくない女だと分かっていた。
 だけど『それでもいい』と彼は言ってくれた。『それが美依のいいところだ』と。
 それなのに今は……。
「バカみたい……」
 美依はシャワーを止め、バスルームを出た。



 ワンルームの小さな部屋には、彼との写真が数え切れないほど飾ってある。
 小さなタンスの上には彼に取ってもらったUFOキャッチャーのぬいぐるみが山盛りに置かれている。人気のあるキャラクターから、何のキャラクターなのか全く分からないものまで、無秩序に置かれていてその部分だけ異様な雰囲気がある。
 壁一面には彼やサークルの仲間と行った旅行写真が貼られていて、一つ一つに思い出がある。
 それさえも今はもう色褪せているようだった。今、自分と彼を繋いでいるのは、お互いの名前が入ったメールアドレスだけ。それだけなのに、消すこともできない。
 ふと携帯を見ると、着信が残っていた。彼からだ。留守電にメッセージが残されているので早速再生してみる。
『美依? 俺だ。……またかける』
 たったそれだけのメッセージ。
「……嘘つき」
 美依は溜息と共に言葉を吐き出した。



 週末にはいつものように彼の部屋にいた。しかし二人とも同じ空間にいるのに、お互い別のことをしている。それさえももう今では当たり前になってきた。
 彼は仕事が立て込んでいるからと、書類を家にまで持ち帰って仕事をしている。放置された美依はテレビをつけた。
 最初はニュースだった。暗いニュースにうんざりし、チャンネルを変える。
 次に映し出されたのはバラエティ番組。テレビから嘘くさいスタッフの笑い声が流れる。その声に嫌気がさしてまたチャンネルを変える。
 今度はクイズ番組だった。クイズとは頭の良さを競うもののはずなのに、最近では頭の悪さを競っているようにしか思えない。作り上げたバカキャラをどう面白く見せるのかに凝っているだけに見える。もちろん、本当に頭が残念なのかもしれないが。
『でも、本当のバカは私だ』
 溜息が漏れ、美依はテレビの電源を切った。
 ソファから立ち上がると、美依は仕事をしている彼に呼びかける。
「ねぇ。私、帰るね」
「ん? ああ」
 こちらを見ようともせず、気のない返事をする。恐らくこれは聞いていない。
「ハァ……」
 溜息を漏らしても、気づきもしない。
 美依はソファに置いてある自分の荷物を取ると、玄関のドアを開けた。



 今日も少し肌寒い。薄着の肩が冷えるので、ストールを巻いた。
 最近はいつもこうだ。一人になるのが嫌になって、部屋を飛び出す。
 だけどそんな自分を彼は追いかけては来てくれない。
 本当は分かっている。もうこの関係はダメなんだと。
 本当は気づいてた。もう彼の心はここにはないと。
「……っ」
 冷たい一筋が頬を伝う。
 いつからすれ違うようになったんだろう? どうしてなんだろう?
 ぴったりとハマっていると思っていたパズルのピースは、全く形が違っていて、どうやってもハマらない。
 そう、ピースは始めからハマってなんていなかった。
 心地よい関係を壊したくなくて、ずるずるとここまで来た。でももうそろそろケリをつけなきゃいけない。
 美依は顔を上げると、頬に流れた涙を手のひらで乱暴に拭った。
 真夜中の空は、漆黒で冷たい。涙で濡れた頬を冷たい風が撫でる。
 このままじゃ、いつまで経っても前には進めない。そう、もう終わらせなきゃいけない。
 この心にぽっかりと空いた穴を埋めて欲しかっただけ。だけどそれを埋めるのは彼じゃない。
 嘘で塗り固めたこの関係。髪を触る指も、キスも、抱きしめる強さも、どれも嘘。
 いつしか彼の心はここにはなかった。ずっと前から気づいてた。けど気づかないフリをしてた。
 ただ信じていたかった。『ずっと傍にいる』と言った彼の言葉を。



 バッグに入れている携帯電話が震える。取り出して見ると、彼の名前が点滅している。
「……はい」
『今どこいるんだよ』
 やっぱりさっき言った言葉なんて聞いてはいなかった。絶望が襲う。
「……タワーの近く」
 短く答えると、意外な答えが返ってきた。
『じゃあそこで待ってろ。迎えに行くから』
「……分かった」
 そこで通話が途切れる。携帯電話を閉じると、美依は近くで光るタワーを見上げた。気を抜けば零れ落ちそうな涙をグッと飲み込む。
 いっそ消えてしまいたいくらいの黒い感情が沸き上がってくる。
 目をぎゅっと瞑り、深呼吸をする。
 このままの関係を続けるか、すっぱりと断つべきか。
 その答えはもう心の奥では出ている。だから今日、決着を付けるんだ。



「美依」
 呼ばれた方へと振り返ると、そこに彼がいた。
 だけどやっぱり、形の違うパズルのピースはどうやってもハマらない。
 彼は不安そうな目でこちらを見ている。その目にいつも騙されてきた。
 そう、今こそ今の関係をぶっ壊す時。
 美依はグッと拳を握ると、彼を見つめ返した。
「話があるの」
 吹き抜けた風が、美依を強くする。



 さぁ、ぶっ壊せ。




・*:..。o○☆*゚¨゚゚・*:..。o○☆*゚¨゚゚・*:..。o○☆*゚¨゚



久しぶりにインスパイアです。



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去年の9月ぐらいから書いてたのに、こんなに時間がかかるとは・・・・^q^



最後がなかなか決まらなかった(´・ω・`)



かっこいい曲なので、もっとかっこいい感じに終わりたかった・・・orz



うん、まぁサイトにUPする時にまた考えます^q^

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 バタンッと勢いよく閉まったドア。その風圧で部屋中に散らばった枕の羽が舞い上がる。
 部屋の中に残されたのは、未だに状況が飲み込めない一人の男。
「……え? 何で?」
 目の前で舞う羽のように、真っ白になった頭を必死で回転させる。
 この部屋の住人である哲史は、今起こっている状況を一つずつ順を追って思い返してみた。
 さっきこの部屋を出て行ったのは、付き合って一年になる彼女の舞花で、今部屋が真っ白なのは彼女が怒って何度も枕で殴ってきたため、その羽が飛び散ったのだ。
 それでは彼女は何に対して怒ったのか。
「……やっべー」
 哲史は慌てて部屋を飛び出した。

 アパートの玄関を開け、彼女の行方を考える。もう遅い時間だから、終電は出てしまっている。それに荷物は部屋に置きっぱなしだ。
 となると……。
「空地かっ」
 思い立った哲史は急いで鉄製の階段を降り、道路に飛び出した。
 よく見ると、道に白い羽が落ちている。彼女の髪や服に付いていた羽が、まるで探してくれと言わんばかりに落ちていた。
 空地の方向へと伸びているその白い足跡を、哲史は急いで辿った。

 彼女が怒った理由は、実に単純明快。総て自分のせいだ。
 原因は、元カノにもらった目覚まし時計を何度言われても捨てなかったから。
『この時計、早く捨ててよ』
 最初は穏やかにそう言っていた。だけど自分は何かと理由を付けて捨てなかった。
 とうとう堪忍袋の緒が切れた彼女は枕で哲史を何度かぶん殴ると、目覚まし時計を持ったまま家を飛び出してしまった。

 どうして気付かなかったんだろう? きっと彼女はいつも嫌な思いをしていたに違いない。

 元々友人関係だった二人は、いつしか惹かれあうようになり、恋人になった。
 だけどいつの間にか一緒にいることが当たり前になっていて、彼女の気持ちを深く考えることもなくなってしまった。
 どんなにキスしても、どんなに抱き合っても、挨拶みたいに当たり前だと思ってた。
 それは、大きな間違いだ。

 五分もしないうちに空地に到着すると、見覚えのある後姿がそこにあった。
「舞花っ!」
 叫ぶが、彼女は振り返ってくれない。
「舞花、ごめん」
 そう言いながら近づこうとすると、彼女が口を開いた。
「……どうしてここに来たの?」
 何とか聞き取れたが、どう答えていいのか分からない。
「どうしてって……」
「そんなにこれが大事?」
 舞花は振り返り、目覚まし時計を掲げて見せた。チクタクとやけに針の音が響く。まるで時限爆弾だ。
「違う! 俺は舞花を追いかけて来たんだ」
「だったら、これはもういらない?」
 確かめるように訊かれ、哲史はすぐに頷いた。
「うん。いらない」
 すると彼女は、目覚まし時計を胸に抱き、お辞儀をして見せる。不思議に思っていた次の瞬間、両手を高く空へと向けた。その勢いで、目覚まし時計は宙に放たれる。
 哲史はただ、呆然とその様子を見ていた。ふと見えた彼女の目にはうっすらと涙が浮かんでいて、誰かを見送るかのようにそっと微笑んだ。
 なんて馬鹿だったんだろう。彼女は、こんなにも傷ついていたのに……。
 哲史の胸がチクチクと痛み始めた。
 重力に逆らえなかった目覚まし時計は、地面へと吸い込まれ、音を立てて壊れた。
 その壊れてしまった時計よりも、彼女は傷ついていたんだ。今更気づいた自分が情けない。
「ごめん。舞花」
 ゆっくりと近づき、舞花の髪に触れる。パーマがかった黒い髪に絡みついている白い羽をつまんでのけた。
 無数についた白い羽がやけに綺麗で、思わず見とれてしまう。
 俯いたままの舞花の頬に優しく触れると、舞花は顔を上げた。冷え切ってしまったその頬が、何だか愛しい。
「ごめん。俺、ずっと舞花を傷つけてたな」
 そう言うと、舞花はゆっくりと首を横に振った。
「……あたしもごめん。子供みたいなことしちゃって……」
「俺のこと、許してくれる?」
 そう尋ねると、彼女はこくんと頷いた。哲史はホッと胸を撫で下ろす。
「舞花、枕の羽、いっぱいついてるぞ」
 そう言って笑うと、彼女も笑った。
「哲史くんだって、たくさんついてるじゃない」
 そう言われ、自分の髪を触ると確かに羽がついていた。
「ホントだ」
 その様子を見て、舞花はまたクスクスと笑う。彼女の笑顔を見て、何だか妙に安心した。
「帰るか」
「うん。……あ。部屋、すごいことになってたよね?」
 枕の羽は哲史の部屋に見事に散らばっていることを思い出した舞花が尋ねる。
「……あー……それは……俺が掃除します」
 そう申し出ると、舞花はきょとんとした。
「珍しい……。どうしたの?」
「いや、俺が悪いんだし……。それに……」
 チラリと舞花を見ると、聞き返される。
「それに?」
「……いや、何でもない」
 言葉にするのが、何だか恥ずかしくなり、言葉を濁した。しかし彼女は聞きたがる。
「何? 気になるでしょ!」
 袖を引っ張られて催促されても、口にするのはやっぱり恥ずかしい。
「何でもねぇよ。帰るぞ」
 哲史は強引に舞花の肩を抱くと、歩き始めた。
「何? 恥ずかしいこと?」
 赤くなった哲史の顔を覗き込んで、舞花が問う。
「うるせーよ。俺が悪かったから掃除するだけだ」
「ふーん」
 舞花は哲史の反応を見て、ニヤニヤと笑った。そして壊れた時計を拾い上げ、胸に抱く。
「哲史くん」
「ん?」
「明日のデートは、あたしのワガママ聞いてね」
 そう言って無邪気に笑う彼女に、敵うわけがない。
「……仰せのままに」
 哲史はまるで執事のようにお辞儀をして見せると、舞花は嬉しそうに笑った。
 やっぱり彼女の笑顔は世界最強だ。

 どうして彼女はこんな自分の傍にいてくれるんだろう? 彼女を傷つけてばかりの、こんなどうしようもない自分の隣に。
 チラリと右隣にいる舞花に目を向ける。彼女はどこか嬉しそうに、目覚まし時計を胸に抱いていた。
 白い羽が絡まったその黒い髪も、少し潤んだ目も、自分より少し小さなその背も、全てが愛おしい。
 その瞬間、さっき考えいたことが頭をよぎり、再び一気に恥ずかしくなる。
 赤くなる顔を彼女に気づかれないように、左手で口元を押さえた。

 そう、口が裂けても言えるはずがない。
 彼女が天使に見えた、だなんて……。
 でもあながち間違っていないと思う。

 きっと彼女は、どうしようない僕に降りてきた天使だ。


 ……なんてな。


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久々インスパイア。
ちょっと古い曲だけど、何かずーっと頭の中でストーリーが映画のように流れてて、書いちゃいましたヽ(゚∀゚)ノ

最近少しスランプ気味で、例のごとくスランプ脱出大作戦!ってことで書いてみました。

一応参考にようつべ。

どうしようもない僕に天使が降りてきた/槇原敬之

歌詞はこちら

うまくまとまったかまとまってないのかよく分からない(マテ

「こうしたらいいんでは?」とか感想とかよろしければ、教えてください。
コメント、拍手等でいつでも受け付けてます(*´∀`*)
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 それは晴天の霹靂だった。
「聞いて聞いてっ! 俺、彼女できた!!」
 彼、佐藤豊彦は今まで見たことのないほどの満面の笑みを浮かべて、そう言った。
「へー・・・・・・。そう、なんだ」
 あたしはただ驚いてそう返すことしかできなかった。
「良かった、ね」
 そう言うと、本当に嬉しそうに彼は笑った。
「さんきゅっ」


 あたしの名前は佐藤亜莉。高校一年生。冬休みが終わって、始業式の日。彼はご丁寧にもあたしに報告してくれた。


 豊彦とは高校に入って初めて出会った。同じ名字で、席が隣同士になったのだ。
「君も佐藤って言うんだ?」
 話しかけてきたのは、豊彦の方だった。頷くと、彼は人懐っこい笑顔でまたあたしに話しかけてきた。
「下の名前は? 何て言うの?」
「・・・・・・亜莉」
 あたしは自分の名前が死ぬほど嫌いだった。この名前のせいで、中学時代どれほどいじめられたか・・・・・・。
「亜莉?」
 彼が聞き返したので、あたしは頷き、俯いた。
 もう嫌だ。絶対馬鹿にされるに決まってる。
「へぇ。かわいい名前じゃん」
 意外すぎる彼の反応に、あたしは思わず顔を上げて、彼の顔を見た。すると、豊彦はニコッと人懐っこい笑顔をあたしに向けた。
「なぁ、亜莉って呼んでもいい?」
 そんなことを言われたのは、初めてだった。あたしは驚きながらも頷いた。
「俺は佐藤豊彦。豊でいいよ」
 彼の笑顔は、とても暖かかった。


 彼に惹かれるのに、時間はかからなかった。
「亜莉。辞書貸してー」
「しょうがないなぁ」
 そう言いながらも、彼と話すことは嬉しかったし、人懐っこい笑顔を見るのが好きだった。
「さんきゅっ」
 彼が触れた部分が何だか熱い。名前を呼ばれる度、ドキドキした。


 彼を好きなんだと自覚したのは、ある日の放課後のことだった。
 あたしは教室に忘れ物をしたことに気づき、取りに戻ると、誰かの話声が聞こえた。
「豊ってさ、佐藤と仲良いよな」
 その声の主がクラスメイトの男子だとすぐに気づく。
「うん。それがどうかした?」
 豊彦はあっけらかんと返事した。
「佐藤って、何か暗いよなぁ」
「名前も変だしなー。お前何で仲良いの?」
 ドアの向こう側で男子の笑い声がこだまする。嫌な思い出を一気に思い出し、あたしはその場にうずくまった。
「何で? 亜莉ってかわいい名前じゃん」
 豊彦の言葉に、男子の笑いが止まる。
「何それ? 本気で思ってんの?」
 小馬鹿にしたような言い方に、あたしは聞いていて虫唾が走った。
「本気だよ。それに亜莉は暗い子なんかじゃない。亜莉がかわいいからってヤキモチ焼いてんなよ」
 豊彦の言葉に、一瞬男子たちが怯んだ。
「ち、違うっ! 誰があんなやつ・・・・・・」
 何だか男子が否定していたが、あたしの耳にはもう届いていなかった。


 気づいたら、校門の外まで走って逃げていた。
 初めてだった。あんな風にあたしを庇ってくれたのも、名前を可愛いと言ってくれたのも。
「・・・・・・優しすぎるよ」
 何だか分からない感情が、心の奥底から湧き上がってくる。心臓が早鐘のように鳴り響いている。
 恋に落ちた瞬間だった。


 彼とは席が離れても、変わらずに話ができた。こんなにも仲良くなれたことが本当に嬉しかった。

 夏休みが開けた二学期の初め、彼から嫌な話を聞いた。
「俺、好きな人がいるんだ」
 その瞬間、あたしは後ろから殴られたかのような感覚に陥った。頭が真っ白になる。
「へぇ、そうなんだ。誰?」
 冷静を装いつつ訊ねると、彼は顔を真っ赤にした。
「中学一緒だった子なんだけどさ。卒業して別の高校行ったから一回諦めたんだけど、夏休みに偶然再会して・・・・・・。やっぱり好きだって実感したんだ」
「そう、なんだ」
 豊彦は恥ずかしそうに俯き、また顔を上げた。
「だからさ、亜莉に相談乗ってもらおうと思って。女の子って何をされたら嬉しいのかな?」
「知らないよ」
 そんな相談なんてされたくない。冷たく言ったにもかかわらず、彼はめげない。
「そんなこと言わないでさ。お願いっ!」
 胸の奥がチクリと痛む。助けを求められて嬉しい反面、相談内容が内容だけに複雑だ。
「わ、分かった。相談、乗るから」
 そう言うと彼は一瞬にして嬉しそうに笑った。
「マジで! ありがとう!」
 彼の笑顔が、眩しかった。


 相談を受ける度、あたしは胸の奥が苦しかった。だけど、彼には気づかれないように平静を装った。


 そして冬休みが訪れ、三学期の始業式の日、彼女ができたと報告を受けた。まさか告白して両想いになるなんて思ってもみなかったあたしにとって、それは残酷な宣告だった。
「亜莉のおかげだよ」
 そう言われると、後悔しか残らない。どうして自分の気持ちを素直に伝えなかったんだろう? もし伝えていれば、何か変わっていたのだろうか?


 ある日曜日。あたしは母に買い物を頼まれ、嫌々ながら街へ出かけた。
 買い物を無事に済ませ、帰路に着いていた時、彼を見かけた。
「と・・・・・・」
 彼に声をかけようとして、あたしは固まった。彼の隣にいる人物が目に入る。
 隣にいたのは、豊彦の彼女だった。長い黒い髪に、かわいらしい顔立ち。あたしなんかとは正反対だった。お似合い、という言葉がすぐに浮かんだ。
 でもそれよりもあたしは、今まで一度も見たことのない彼の笑顔が何だか悔しかった。
 あたしはグッと拳を握ると、家に向かって走り出した。もうこれ以上彼のあんな顔を見たくなかった。


 どうしてあたしじゃ駄目なんだろう? どうして彼じゃなきゃ駄目なんだろう?


 どんなにもがいたって、この事実は変わらない。
 苦しくて息ができない。


 あたしは家に飛び込むと、荷物を玄関先に置いたまま、二階の自室へと駆け上がった。
「亜莉ー? 帰ったの?」
 下で母の声がしたが、そんなのに答える余裕なんてなかった。ベッドに飛び込み、枕に顔を押し付ける。
 苦しい。胸が痛い。
「っ・・・・・・」
 涙が頬を伝う。何でこんなに好きになってしまったんだろう?
 彼に好きな人がいると打ち明けられてから、あたしは何度も諦めようとした。何度も嫌いになろうとした。だけど、嫌いになんてなれなかった。
 嫌いになれるわけなんてない。
『亜莉』
 名前を呼ばれる度、胸が高鳴った。声を聞く度、笑顔を見る度、好きになった。
 分かってた。どんなに想っても、彼があたしを見てくれないことくらい。
 止めようとした涙が、今までにないくらいまでに溢れ出た。


 何時間経っただろう? 時計を見ると既に夜中になっていた。夕飯も食べずにいたので、母が心配して様子を見に来たが、あたしは『風邪引いた』と嘘をついた。
 そっとベッドから起き、リビングへと降りる。両親はもう寝室で寝ているだろう。
 ダイニングのテーブルの上には、今日の夕飯がラップにかけられて置いてあった。それを見た瞬間、お腹が鳴る。何でこんな時まで食欲はなくならないんだろう。
 少しだけつまんで、あたしはインスタントコーヒーを作った。いつもなら、砂糖もミルクも入れるのだが、今日はブラックを飲んでみることにした。
「・・・・・・苦っ」
 甘党のあたしには、結構辛かった。けど、砂糖やミルクを入れる気にはならなかった。だってブラックコーヒーは豊彦の好みだから。
 もし豊彦と同じ顔をして、同じ顔をした人がいたとしたら、その人はあたしを見てくれるだろうか?
「・・・・・・バカみたい」
 くだらないことを考えたってしょうがない。だって、あたしは豊彦だから好きになったんだから。
 そう思うと、枯れたはずの涙が溢れてくる。
 どうしてこんなに好きなんだろう? どうしてこんなに寂しい気持ちになるんだろう?
 声を聞きたくて、会いたくて、どうしようもなくなる。
 あたしはダイニングテーブルに突っ伏した。ひんやりとしたテーブルが、火照った頬冷やしてくれて気持ちがいい。
 明日になれば、学校で彼に会える。だけど何だか辛い。
 彼女に見せていたような笑顔は、きっとあたしには見せてくれない。


 どうしてあたしじゃ駄目なんだろう? どうして彼じゃなきゃ駄目なんだろう?


 そればかり考える。今更彼に気持ちなんて伝えられない。今の関係を壊したくない。
 苦しくて、息ができない。
 こんなにも好きなのに、想いが届くことなんてない。


 どうして好きになってくれる人だけを好きになれないんだろう?
 どうして振り向いてくれない人を想い続けてしまうんだろう?


 考えたって、答えが出るはずもない。あたしはグッと苦いコーヒーを飲み干した。


 せめて彼の前では笑っていよう。この想いを胸の奥に隠して。



 好きになってくれる人だけを、好きになれたらいいのにね。




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・*:..。o○☆*゚¨゚゚・*:..。o○☆*゚¨゚゚・*:..。o○☆*゚¨゚

久しぶりのインスパイアです。つーか話を膨らませ過ぎて2000字超えるって言うね!


何か久しぶりに書いたので、やけに時間かかったorz

いつもならこれくらいなら1日で書いちゃうんですが、1週間くらいかかった(かかりすぎ


スランプなのかただ久し振り過ぎて書けなかったのか謎です('A`)


まぁともかく。今回は切ないお話なわけですが。

元の楽曲は奥華子さんの【恋】という曲です。歌詞はこちら


TIME NOTE/奥華子
¥2,700
Amazon.co.jp
このアルバムの5曲目です。初めて聞いたとき、思わず泣いてしまいました。
きっと楽曲をご存じない方も多いと思いますので、一応動画貼っときます。


曲を聞いたり、歌詞を見ていただければ分かりますが、歌詞の内容が反映されてるのって小説の後半ですww
前半は妄想たっぷりに書かせていただきました(・∀・)

良かったら拍手お願いします(`・ω・´)

感想もよろしかったらお願いしますです<(_ _)>

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