もしも君が迷ったなら

思いついた言葉を詩に。思いついたストーリーを小説に。


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~ Road to Dream ~

 

 

- 絶対、音楽で有名になってやる。

 
- 親の七光なんて受けない。

 
- 俺は絶対やってやるんだ!
 

 
目を開けると、数ヶ月前越して来たばかりの部屋の天井が見えた。
「夢か・・。」
懐かしいあの頃の夢に、まだ少し酔っているようだ。起き上がって時計を見る。午前六時。少し早く目が覚めた。かと言って二度寝する気にもなれず、遼平は体を起こした。とりあえず顔を洗い、パンを焼きながらテレビを付け、コーヒーを入れる。一人暮らしにもようやく慣れた。実家と言っても両親は仕事でほとんど家にいない。実質妹と二人暮らしだった。実家にいるときは妹がほとんどやってくれていたが、家事を分担していたので、一人暮らしになっても別段困らない程度には家事ができる。
焼けたパンにバターを塗りながら、遼平はボーっとテレビを見ていた。
今朝見た夢をふと思い出した。心配する親に啖呵切って、家を飛び出した時に言い放った台詞。
遼平は高校時代の友人たちとバンドを組んでいた。遼平の担当はドラム。他に四人の仲間がいる。
遼平の父親は有名なメイクアップアーティストで、主に海外で仕事をしている。日本に帰ってくるのはごく稀で、帰国しても忙しさは変わりなかった。一方母親は有名な洋服のブランドを立ち上げているデザイナーである。母親も仕事が忙しく、ほとんど家に帰らない。こんな両親なので、遼平はまだ幼かった妹を一生懸命育てた。寂しくないようにいつも一緒にいた。今は妹も高校を卒業し、勉強のために海外へ行っている。兄としては寂しいような嬉しいような複雑な心境だ。
そして遼平も実家を出、上京していた。高校時代からずっとやっているバンドが認められ、デビューを果たしたからだった。
だが、遼平は悩んでいた。多少夢には近づけたような気はするが、本当にこのままでいいんだろうか?不安は募る一方だった。
 
仕事場に着いた遼平の様子がいつもと違うことに、メンバーはすぐに気づいた。
ヴォーカルの鷹矢が、早速遼平に近づいた。
「リョウ?大丈夫?」
「え?」
「顔色悪いよ?」
「あぁ・・大丈夫。新曲、覚えたか?」
話を逸らそうとしていることは、鷹矢にも分かった。
「覚えた。リョウこそちゃんとリズム叩けるん?」
「俺が作った曲やで?」
苦笑しながら遼平が返してくる。
「リョウ、悩み事あるんやったら、遠慮せんと言うて?」
「悩み事って言うか・・不安・・かな?」
「不安?」
「今朝懐かしい夢見てさ。バンド組んだ頃の・・夢ばかり見てた時の・・。」
「夢?」
鷹矢の言葉に頷いた。
「そっ。『絶対音楽で有名になってやるんだ!』って意気込んでた時の夢。」
遼平は曖昧に笑った。
「あの頃よりは確実に近づけてるとは思う。だけど・・同時に少し不安なんや。このままでホンマにええんかな?って・・。」
「リョウ・・俺も不安な時あるよ。」
鷹矢の言葉に遼平は驚いた。
「ホンマに俺が歌ってええんかなって・・。俺の歌い方で伝わるんかなって。不安で寝れない時もあった。けど・・みんながおってくれたから、今までやってこれたんやと思う。」
いつも明るい鷹矢から、こんな言葉を聞くとは思っていなかった。少しだけ勇気付けられる。
「リョウも一人で悩んでないで、もっと俺ら頼ってや。頼りないかもしれんけどさ。」
「あぁ・・そうやな。」
「うんうん。きっと大丈夫だよ!」
突然現れた譲に二人は驚いた。譲はキーボード担当で、かなりの神出鬼没である。ちなみに彼が時々する妙なお告げはめちゃくちゃよく当たる。
「うわっ。びっくりさせんな。」
「ユズル、シンシツキバツやからなぁ。」
「それを言うなら神出鬼没・・。」
アメリカで育った鷹矢は難しい日本語を無理やり使おうとしてちゃんと使えていないのがほとんどだ。鷹矢にツッコミを入れながらも、この二人に癒されている自分がいた。
「最終確認するで。」
リーダーでベーシストの哲哉が召集を掛ける。今日は今度のライブの曲順の相談だった。まだ小さい所でしかやったことのないライブだが、いつもとても白熱した。
「今度のライブはアルバム中心にやろうと思ってるんやけど、何かやりたい曲とかある?」
「アルバム曲でほとんど埋まるんちゃう?」
「何曲かアレンジしてみるとか?」
意見は飛び交うが、一向にまとまらない。数時間話し合って決まったのは、数曲だけだった。
「明日にはまとめなあかんから、明日までに一人一曲決めてこいよ。」
哲哉のその言葉で解散になる。
「遼平~。たまには二人で飲みに行かん?」
のんきに話しかけてきたのは、遼平の幼馴染でもあるギタリストの響介だった。
「ええよ。」
いつもはここに哲哉や譲が混じるのだが、今日は珍しく二人で行くことにした。
 
居酒屋に入った二人はとりあえずビールで乾杯する。
「かぁー!うめぇ!!」
ビールのCMにでも出られそうな飲み方をする響介に、遼平は思わず笑った。
「お前いっつもうまそうに飲むな。」
「だって仕事の後ってビールうまいやん。」
あっけらかんと言う響介に返す言葉もない。
「なぁ、遼。何か悩んでるん?」
急に真顔で聞いてくる響介に驚く。いつもおちゃらけているのに、こういう時だけ妙に敏感だ。
「別に・・って言っても、しつこく聞いてくるんやろ?」
「当たり前やん。」
自信たっぷりな台詞に笑いながら遼平は夢の話をした。高校時代、初めてバンドを組んだときのあの頃の夢。初めて組んだときは、響介と哲哉と遼平の三人しか居なかった。
「懐かしいな。」
響介も思い出したらしい。
「あの頃はホンマにここまでやれるって思ってなかった。いつか・・どこで終わっちゃうかもって思ってた。」
遼平の言葉に響介は頷いた。
「せやな。俺・・ずっと小さいときから遼の後ろついて歩いててさ。バンド組むときも、実は遼平に置いてきぼりにされたくなくて『やる』って言うてしもたんよな。」
「そうなん?」
遼平は苦笑した。響介が恥ずかしそうに頷く。
「俺・・アホやから、ギターしかできんかったけど、それでも遼平たちはのけ者にせんかった。俺、めっちゃ嬉しかった。遼や哲哉が曲作ってても、俺・・何もできんくて。お荷物なんちゃうかなって・・俺おらん方がえんちゃうかなって何度も思った。」
「響・・。」
響介がそんな風に思っていたなんて知らなかった。ずっと一緒に居たのに・・・。
「いつも恥ずかしくて言えんかったけど・・遼平には感謝しとる。」
「え?」
突然の言葉に驚き入る。
「ここまでやって来れたんは、このメンバーやったからやと思う。俺、気づいとったよ。お前が一番バンドの事、考えてくれとるって。いつも意地悪なコトばっか言うてるけど、全部俺らのこと思って言うてくれてるんやなぁって。」
「響介・・。」
少しの沈黙が支配する。少し考えながら、響介が口を開いた。
「遼平が今日見た夢ってさ・・。」
「ん?」
「初心に帰れってことちゃうんかな・・?」
「初心?」
思わず聞き返した遼平に、響介は頷いた。
「あの頃はただ純粋に音楽がやりたかった。一つの音を作るんに何時間もかけて、一つの曲完成させるのにアホみたいに時間かかっとった。今も確かに時間かかるときもあるし、別になぁなぁでやってる訳ちゃうけど。何かあの頃みたいな気持ちを忘れとる気ぃする。」
響介の言葉は的を射ている気がした。
「もっと・・音を楽しむべき・・なんちゃうかな?」
「そうかもしれんな。」
遼平は呟くように相槌を打った。グラスを見つめて、口を開く。
「確かに忘れてたかもしれん。あの頃見てた夢は確かに『有名になりたい』っていうんもあったけど、それより自分たちが納得の行く曲を作って、それをたくさんの人に聞いてもらいたいってそう思ってた。今もその気持ちはあるけど、少し・・忘れてたかも。」
遼平は俯いていた顔を響介に向けた。
「まだ・・戻れるよな?あの頃の夢に。」
「もちろん。」
響介は笑顔で頷いた。
 
遼平は家に戻ると、ふと思い立った。夜中なのでアコースティックギターより音が小さいエレキギターを選んだ。アンプにさえ繋がなければ、大丈夫だろう。
遼平は響介の言葉を考えていた。
『もっと・・音を楽しむべき・・なんちゃうかな?』
音を楽しむ。あの頃、バンドを始めた頃はもっと音を楽しんでいた。今より技術はまったくなくて、イメージ通りになかなか作れなくて。だけど、悪戦苦闘をしながらでも、思ったとおりの音になったときは、本当に嬉しかった。今だって音を楽しんでいる。けどあの頃みたいな楽しみ方をしてるだろうか?
『やっぱり、原点に戻った方がええんかもな・・。』
遼平は生まれて初めて作った曲のコードを鳴らしてみた。呆れるくらい単純なコード進行。だけどその時は生まれて初めて作れた曲に感動してた。俺もやればできるんやん、と調子に乗っていた。懐かしく思い、思わず笑みが零れる。
ふと壁にかけてある写真に目が止まる。高校の時、初めてのバンドコンテストで特別賞をもらったときの写真だった。あの頃はまだ哲哉、響介、遼平の三人で組んで間もなく、手探り状態だった。音はまだまだ拙く、今の自分からしたらよくあんなので人前で演奏できたなと思うが、あの時はあれが精一杯だった。
『もっとたくさんの人に俺たちの音楽聞いてもらえたらええな。』
あの時哲哉が言った言葉が蘇る。今はあの頃よりもたくさんの人に聞いてもらえる立場に居る。だけどまだたくさん自分たちを知らない人たちだって居る。
遼平はギターを抱え直した。
 
翌日。昨日話がまとまらなかったライブの曲について再び話し合う。
「なぁ。俺、やりたい曲あるんやけど。」
遼平がそう言うと、メンバー全員がこっちを向いた。
「何?」
「『SPARK』やらへん?」
その言葉に全員が硬直した。それは初のバンドコンテストで特別賞をもらった曲だったが、それ以後あまり演奏しなかった曲だ。もちろんこの世には出ていない。
「お前・・本気で言ってんの?」
哲哉が呆れたように言う。
「当たり前やん。」
「何で『SPARK』なん?」
興味を持った譲が問う。あの頃まだ譲はメンバーじゃなかったが、曲は知っている。
「初心に・・戻ろうと思って。」
遼平の言葉に返す言葉が見つからなくなる。
「戻りすぎちゃうか?」
「でもな、言うたらあの曲で特別賞もらって、バンド続けようって決意できたやん?やっぱりあの曲は俺にとってもバンドにとっても大事な一曲やと思うねん。」
遼平の言葉に頷きながら哲哉が口を開く。
「そうやな。久しぶりにやってみてもええかも。」
「でも俺・・歌ったことないよ・・?」
最後に加入した鷹矢が不安そうに言う。
「大丈夫。ライブまで日はあるし、確か音源録っとったよな?」
遼平が哲哉を見ると、哲哉は頷いた。
「最初デモテープ、あれで作ったからな。」
まだ三人でやってた時代に。
「オリジナルそのままじゃなくて、アレンジとかするんやろ?」
「多少はな。でもなるべく世界観を変えないアレンジにしたいって思ってる。」
「じゃあアレンジは譲と遼平でやって。鷹矢にはデモ渡すから。アレンジ変わるかもしれんけど。」
哲哉が話をまとめる。メンバーが乗り気になってくれたことに遼平は内心嬉しかった。
 
仕事が一段落して、帰り際、哲哉に飲みに誘われる。
「まさかあの曲やろうって言うとは思わんかった。」
哲哉は来たばかりのビールを飲みながら呟いた。
「俺もやろうって思うとは思わんかった。」
哲哉はフッと笑って、話題を変えた。
「昨日は響介と飲んでたみたいやな。」
「珍しくマジメに話したよ。」
昨日の話題になっていた夢の話を哲哉にもした。
「響介が『その夢は初心に帰れってことちゃうか?』って言うてて、そうかもしれんなぁって思った。あの頃見てた夢を今どれくらい叶えられてるんやろうって。まだまだ有名ちゃうし、まだ俺らの曲を聴いたことない人がたくさんおる。けど忘れちゃいけないのは、俺らがどれだけ人の心に訴える曲を届けられるかやと思う。そのためには俺ら自身も音を楽しまなきゃって思ったんや。」
遼平の言葉を哲哉は黙って聞いていた。
「でもやっぱり心配やった。そんな甘い考えで大丈夫かって思ったりして、不安は募るばっかりやった。でも皆何だかんだ言って励ましてくれて、嬉しかった。」
「俺も。遼平と組めてよかったって思っとる。ずっと親の敷いたレールの上走らされてて、それが嫌で日本に戻ってきたけど、やっぱり親が言うとおりの学校に行ってて。俺何やってんやろってずっと思ってた。でもその高校で遼平たちと出会ったからこそ、今の俺があるんやと思う。」
「芹華にも会えたしな。」
意地悪く彼女の名前を出してみる。哲哉は少し睨んだが、苦笑した。
「そうやな。あの頃、誰も信用できんかった。だけど遼たちだけは何故か信用できた。そんな仲間とバンド組めて俺は幸せもんやと思う。」
「哲・・。」
「俺も不安になったことはあるよ。一人やったら乗り越えられそうにない山みたいな障害でも、お前らがおったから、乗り越えられたんやと思う。一人やないって思うだけでこんなにも強くなれるんかって改めて思った。それが今までやってこれた一番の理由や。」
哲哉の言葉に遼平はいつになく勇気付けられていた。
「そうやな。」
大切な仲間、守るべきもの、それがあるだけで人はとても強くなれる。遼平にもよく分かっていることだった。
「哲・・。」
「ん?」
「これからもよろしくな。」
差し出された右手に戸惑いながらも、哲哉はその手をつかんだ。しっかりと握手をする。
「こちらこそ。」
「俺らの夢が叶うまで、絶対諦めんよ。」
遼平の言葉に哲哉は力強く頷いた。

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~Daydream~



また憂鬱な朝がやってくる。亜由美は窓越しに太陽を睨み付けた。
生きている価値なんてあるんだろうか?
夢さえも見つからない。平凡な自分。

 

亜由美は服を着替え、洗面所に行き、顔を洗う。クシで荒く髪をとき、ポニーテールを作る。普通大学生にもなれば、化粧の一つくらいはするだろうが、亜由美は今まで化粧なんてしたことがなかった。興味がない訳じゃない。ただどうしたらいいのかよく分からない。
支度を整えると亜由美は荷物をつかんで家を出た。

 

大学までは電車で1時間弱。亜由美は電車に乗り込むと、ウォークマンのイヤホンを耳に押し込んだ。再生ボタンを押す。流れてくる音楽はハードロック。むしゃくしゃする想いを自分の代わりに叫んでくれている気がして、最近はこればかりを聴いている。だけど心が満たされない。空しい。何をやっていても楽しくない。流れる景色を見ながら溜息を吐く。

 

駅から大学までは徒歩十分。同じ場所へと流れる人の群れが現れる。この波に飲まれながら、流れに乗って大学へ向かう。
大学に入ってもうすぐ1ヶ月が経とうとしていた。だけど何をしたいのか、未だに自分でもよく分からない。したいことなんて見つからない。

 

その日も溜息を吐きながら、電車を降りた。駅を出ると、不意に音楽が聞こえた。顔を上げ、音がした方へ顔を向ける。そこにはストリートミュージシャンがいた。
最近増えてきたなぁと辺りを見回すと、他にも数組が演奏していた。ふとある一組のストリートミュージシャンに目が止まった。仲間とワイワイ言いながらギターをかき鳴らしていた。どうやら今日初めて路上で演奏するようだ。妙に緊張している一人が、ギターを抱え直して歌い始めた。歌は・・正直下手くそだった。だけど妙に応援したくなった。誰も止まって聞こうとしないその音楽に亜由美は足を止めた。少し距離を置いて彼を見守った。羨ましかったからかもしれない。彼らは本当に楽しそうに演奏していた。どうやったら、彼らみたいに夢を追いかけられるのだろう。

 

夕食の時間が終わり、入浴を済ますと、亜由美はさっさと自分の部屋に戻った。家族が嫌いな訳じゃない。一人になりたかった。亜由美は窓際にあるベッドに座り、窓の外を眺めていた。漆黒の闇が夜空を覆い、明かりを灯すように星が瞬いていた。亜由美はこの時間が好きだった。誰にも干渉されずに過ごせる。
ずっと考えている問題の答えは、全く出てこない。何がしたいのか分からない。どうすればいいのかすら、全く分からない。孤独になるほど不安は大きくなった。
亜由美は必ず訪れる明日に恐怖を覚えながら、布団に潜り込んだ。

 
あれからいつの間にか一週間が経っていた。週一であのストリートミュージシャンは路上に出てくるようだ。亜由美は彼らに興味を持っていた。なぜあんなに楽しそうに笑えるのだろう?

亜由美はいつしか彼らの音楽を聴くことが習慣になっていた。もっと聞いていたい。いつも聞いているハードロックはもう聞かなくなっていた。下手だけど、彼らの曲の方が自分の心を少しずつ満たしてくれている気がした。

 

彼らは日を増すごとに明るくなっていた。曲数も増えて、いろんな曲をセッションするのが本当に楽しそうだった。そんな彼らを見ているだけで、亜由美の心もほんの少しだけど落ち着いた。彼らの歌声に引き寄せられて少しずつ足を止める人も増えていた。亜由美は何だか自分の方が嬉しくなっていた。

 

そろそろ夏になろうとしていたある時期。課題を与えられた。課題だけならいいのだが、グループを教授が勝手に組み、そのグループで課題をこなさなければいけなかった。男女混合四人のグループ。亜由美は正直乗り気ではなかった。大体、課題ぐらい一人でやった方が早いじゃないか。グループ分けされた亜由美は不本意に思いながらもグループの仲間たちに短く挨拶をした。他のメンバーも短く挨拶を済ませた。どうやら亜由美以外はすっかり仲良しのようだ。別にそれでもよかった。関わって欲しくもなかったし、関わりたくもなかった。彼らと関わるのは、課題を終わらせなければいけないからだ。そんなことを考えていると、メンバーの一人が勝手に話を進めていた。
「携帯番号交換しようぜ。」
その一言で全員が携帯を取り出した。亜由美もとりあえず携帯を取り出した。あまり使わないが、親に持たされている。携帯番号を交換し合ったメンバーは、計画を立てることにした。この課題は夏休み中を利用して行うものだった。だが亜由美にとって“仲間”と共に課題を進めなければいけないことがとても憂鬱だった。人付き合いはあまり得意ではない。そんな亜由美にとって、このメンバーと上手くやれるのかとても不安だった。亜由美の居場所はないように感じた。

 

いつもより重い足取りで電車を降りる。本当にやって行けるんだろうか?不安が渦巻く。たった一つの救いは、今日は彼らの演奏が聴けることだけだった。彼らの歌は何だか一週間の疲れをリセットしてくれるようで、心地がよかった。
ふと亜由美は気づいた。いつも率先して歌っている一人が今日は歌っていない。ギターを弾いているだけだった。何かあったのだろうか。落ち込んでいるような、辛いような顔をしている。その日のライブで、彼が歌うことはなかった。

 

「大森さん?」
声をかけられ顔を上げると、背の高い男性が立っていた。確かメンバーの・・・。
「やっぱり。ここで何してるの?」
名前が思い出せないが、話しかけられたのでとりあえず答える。
「あ・・そこのストリートミュージシャンの歌を聞いてたの・・。」
目を合わせられないまま俯きながら言うと、彼は「そうなんだ。」と人懐こく笑った。
「大森さんも地元ここだったんだね?」
名前を必死に思い出しながら頷く。名前を覚えるのが苦手な亜由美は必死に記憶を探った。
「俺もここなんだ。偶然だね。」
「そうね・・。」
短く答える。気づくと顔を覗き込まれていた。驚きのあまり一歩後ずさる。
「な、何?」
「いやぁ、何で目見て話さないのかなって・・。」
少し悲しそうな声だったのが、何となく分かった。
「慣れて・・ないから。人と上手く・・話せないから。」
「何だ、そうなんだ。」
亜由美の答えにホッとした様子で笑った。
「俺、嫌われてるのかと思った。」
「そんなこと・・・。」
その答えに彼は無邪気に微笑みかけてくれた。
「大森さん帰る方向どっち?」
亜由美は指で方向を示した。
「俺もなんだ。一緒に帰ろう?」
彼はゆっくりと亜由美が指差した方向に歩き出した。亜由美も少し遅れて歩き出す。
「大森さんって、下の名前何だっけ?」
「亜由美・・。」
「亜由美ちゃんかぁ。かわいいじゃん。」
生まれて初めてそんな事を言われたので、亜由美はボンッと赤くなった。
「あはは。余計かわいい。」
悪びれもなくそう言う。からかわれているんだろうか?
「俺は町田智之って平凡な名前だしなぁ。」
聞くか聞かないでおくか悩んでいたのに、あっさりと名前を言ってくれたので、亜由美はホッとした。町田智之。町田智之。町田智之。連呼して覚える。せめてメンバーの名前ぐらい覚えておかなきゃ流石にまずいだろうな。
「あ、俺のことはトモでいいからね。他のやつらもそう呼んでるし。」
智之の言葉に亜由美は頷いた。かと言って、名前でなんて呼べるだろうか。
「亜由美ちゃんさ、グループでは他の三人仲いいなぁとか思ってるっしょ?」
思わぬ言葉に驚く。何で分かったんだろう。顔にでも書いてあったんだろうか?亜由美は頷いた。
「やっぱりね。でも当たり前なんだよね。あいつらとは、中学の同級生だから。」
「そうなんだ?」
「うんうん。高校のときはバラバラになっちゃったんだけどね。親の転勤で隣の町に移ったりしてさ。」
「へぇ。」
「だから大学で一緒になったときはびっくり。グループ分けで更に一緒になってびっくり。」
オーバーリアクションで話す智之に亜由美は思わずくすっと笑った。
「お?亜由美ちゃん。笑った方がかわいいよ。」
照れもせずにそんな台詞を言う智之にこっちが恥ずかしくなる。
「あ・・あたし、こっちだから。」
「そっか。送るよ?」
「いいよ。近いから。」
「そお?じゃあ、また明日ね?亜由美ちゃん。」
「うん。」
バイバイと手を振る智之につられ、少しだけ手を上げてバイバイをする。

 

智之と離れた亜由美は一目散に家に向かって走った。家に駆け込むと、二階の自室まで駆け上がり、部屋に入って、背中でドアを閉めた。その途端、全身の力が抜け、床にペタンと座り込んだ。
「何・・あれ・・・。」
今までこんなこと、なかった。どう対処したらいいか、分からない。
「亜由美?帰ってるの?ご飯は?」
ドアの向こうで母の声が聞こえた。
「いらない・・。」
それだけ言って、亜由美はようやく立ち上がり、ベッドに力なく倒れた。

 

翌日。学校に行くと、智之が話し掛けてきた。他のメンバーも一緒にいる。
「亜由美ちゃん、一回きりじゃ名前覚えてないだろ?」
智之は二人を改めて紹介した。
「このいっつもキャップかぶってるのが、川田昭弘。アッキーって呼んでやって。」
「おい!お前そんな呼び方したことなかっただろ!」
何だか恥ずかしいあだ名に昭弘が怒鳴る。
「いいじゃん。かわいくて。」
「そういう問題じゃねぇ。」
「アッキー♪」
女の子がププッと笑いながら、楽しそうに呼ぶ。
「てめぇ・・。」
そのやり取りに亜由美は思わず笑みが漏れる。
「んで、こっちが蓮井典子。ノリノリ典ちゃんって呼んでやってね。」
「長いな、おい。」
典子が思わず突っ込んだ。
「典子でいいよ。亜由美ちゃん。」
楽しい3人に亜由美は頷いた。

 

それからしばらくストリートミュージシャンのあの彼は全く歌わなくなっていた。歌うことをやめてしまったんだろうか?何だか信じられない。あんなに楽しく歌っていた彼でも、何か悩みを抱えているんだろうか。
最近初めて友達と呼べる人たちが周りに居るからか、亜由美は彼とは逆に毎日が楽しくなっていた。
しかし歌わないのに必ず参加している彼を、亜由美は不思議に思っていた。楽しくなさそうなのに、どうしてギターを弾いているんだろう?嫌ならやめればいいのに・・・。そうはいかないのだろうか?

 

だが、いつからか彼は再び少しずつ歌うようになっていた。何がどう変わったんだろう?だけど亜由美はホッとした。また彼の歌を聞けることが嬉しかった。少しずつ彼が歌う曲が増えていった。新しい曲も確実に増えている。少し前の彼が嘘のように、楽しそうに音楽を奏でている。
しかもある時から週一から毎日一人で路上に出てくるようになった。一人でも他のストリートミュージシャンに負けないほどの声量で歌を歌っていた。それが、亜由美にとって今までにない勇気をくれていた。

 

その日も課題をこなすために亜由美は学校に来た。今日は午後から課題を一緒にすることになっている。しかし教室から漏れる声に一瞬立ち止まる。
「大森ってさぁ、笑うとかわいいよな?」
誰が言っているのか分からないが、亜由美と話したことのない男子生徒だと気づく。
「暗い感じしてたけど、そうでもないみたいだし。」
段々教室に入りづらくなる。
「でも大森はトモが狙ってるからダメだってぇ。」
この声は昭弘だ。何を言っているのだろう。
「なっ!ちっ、違うよ。」
慌てて否定する智之に、何故かチクッと胸が痛んだ。
「俺、別に亜由美のことなんて・・好きじゃねぇよ。」
その言葉に亜由美は呆然とした。何がそんなにショックなのか自分でもよく分からないが、亜由美は来た道を戻ろうとした。その時、誰かにぶつかりそうになる。
「うわっ。びっくりした。どしたの?亜由美。」
「典ちゃ・・。」
声にならない。今にも泣き出しそうな亜由美に、典子が気づく。亜由美は典子の隣をすり抜けて、走っていってしまった。
怪訝に思った典子は、教室のドアを思い切り開けた。智之や昭弘たちが談笑していたのがその音に驚いて止まっている。
「典子?何怖い顔してんだよ。」
「あんたたち、さっき何の話してたの?」
昭弘の言葉を無視するように質問する。
「へ?」
「今何の話してたのかって聞いてんのよ!」
「何怒ってんだよ。」
「亜由美が泣きそうな顔でどっか行っちゃったのよ!」
「え?」

 

亜由美はいつの間にか地元の駅を降りていた。行くあてもなくフラフラしていると、ギターを抱えてあの彼がやってきた。時計を見ると、いつものライブの時間だった。亜由美はいつもの定位置で彼の歌を聴いた。
彼の歌は何故か恋愛の歌が多かった。恋なんてまともにした事はないが、暖かく優しい曲が亜由美の心を少しずつ癒していた。
知らぬ間に涙が落ちる。どうして泣いてるんだろう?どうして智之の言葉に傷ついたんだろう?何か勘違いをしていたのかもしれない。暖かいあのメンバーの一員になれた気がしていた。でもそれは単なる勘違いで、居場所なんてなかったんだ。
彼の歌を聴きながら、亜由美は初めて泣いた。今まで冷え切ってたから、涙の一滴すら出なかった。でも暖かい彼らに触れていたから、凍った心が溶け出したんだ。だから涙が出るんだ。暖かい彼の歌に余計涙を流してしまった。

 

家に帰った亜由美は何もする気が起こらず、ベッドに寝転がっていた。
「亜由美、お客さんよ。」
母の言葉に玄関に行くと、智之と典子と昭弘がいた。
「な・・んで・・。」
「先生に住所教えてもらったの。携帯、電源切ってたから。」
典子が説明する。そういえば電車に乗る時に携帯の電源を切ったままだった。
「亜由美、こいつらに聞いたよ。何話してたか。最低よね。」
典子は亜由美の手を握った。暖かいその手に亜由美は泣き出しそうになる。
「・・初めて・・出来た友達だったから・・仲良くしてくれて、すごく嬉かったの。だけど・・勘違いだったみたいだね。」
典子は泣き出した亜由美を抱き寄せた。
「男って馬鹿よね。思ってることと逆のこと言っちゃうんだもん。」
「え?」
「白状しちゃいなよ。トモ。」
「あ・・えっと・・。」
「はっきりしなさい!」
典子に一喝され、昭弘に背中を押される。
「俺、ホントは亜由美のことが好きなんだっ!」
「え?」
突然のことに驚いて言葉が出ない。
「あの時、何か恥ずかしくて・・つい・・。亜由美を傷つけるつもりはなかったんだ。ごめん。」
素直に謝られ、亜由美の涙は止まった。ただ驚きの余り、どう返していいのか分からない。
「亜由美、ちゃんと返事したげて?」
「あ・・えっと・・。あたしも好き・・なのかな?」
「聞かれても。」
亜由美の返事に智之がずっこける。
「あはは。どっちにしてもいいコンビだわ。」
典子は屈託なく笑った。

 

 

将来の夢はまだ決まっていない。だけど何となく見つけられそうな気がする。

一人でうずくまっていたあの頃の自分はもう居ない。傍には初めてできた友達がいて、隣には初めてできた彼氏がいる。

 

 
とりあえず当面の夢は【彼氏と手を繋いで花火大会に行く】ことにしておこう。

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~ Nightmare ~

 

 

夢を見る。もう見ることはないと思っていた悪夢。

目の前で何度も惨殺される姉の姿。

止めようとしても間に合わない。すべてがスローモーションのようで、どんなに手を伸ばしても届かない。

 

やめろ!お願いだから!瑠璃を撃たないで!悪いのは僕なんだから!!

 

息苦しさに目を開ける。目に飛び込んできたのは、いつもの見慣れた天井だった。
「夢・・・。」
ここ数年見ていなかったのに・・どうして見るんだろう。鷹矢は布団から這い出て、冷たい水で顔を洗った。シンクを見つめ、しばらく呆然としていると、玄関でノック音が聞こえた。鷹矢は無造作に置いてあったタオルで荒く顔を拭き、玄関に向かった。扉を開けると、栗色の髪が見えた。
「おはよーって言っても、もうお昼過ぎてるけどねっ。」
明るく言いながら、バンドメンバーの譲が入ってくる。鷹矢はドアを広く開けた。
「どしたの?鷹矢、顔色悪いけど・・・大丈夫?」
「大丈夫・・。変な夢・・見ちゃって・・・。」
「変な夢?どんなの?」
「・・・覚えてない。」
鷹矢はまだ頭に残る残像を無理やり忘れようとした。狭い部屋の中に入る。
「ユズル、今日は早くない?迎えに来るん。」
譲はきょとんとした顔をした。
「何言ってんの?今日は響介のバースデーパーティーするから、早く集合するんでしょ?」
あぁ、そうか。そうだった。鷹矢はインディーズバンドのヴォーカリストだった。鷹矢を迎えに来た譲はキーボード。話題に出た響介はギタリストだった。他にリーダーでベーシストの哲哉、ドラムの遼平がいる。
「すぐジュンビする。」
鷹矢は服を着替え始めた。そんな鷹矢を譲はじっと見つめた。鷹矢は忘れていない。あの事件のこと。そう直感した。だけど鷹矢に何を言っていいかも、どうしたらいいのかも分からず、譲は黙っていた。

 

バンドの練習場になっている哲哉の家に着くと、既に遼平の車が来ているのが見えた。
この家に住んでいる哲哉は大企業の御曹司で、両親は今アメリカにいる。つまり日本のこの家には、哲哉しか住んでいない。それをいいことに広いこの家でいつもバンド練習をしているのだった。二人は車を降り、いつも通り家の中に入った。先に来ていた遼平たちはリビングで既に寛いでいた。
「いらっしゃい。」
家の主である哲哉が迎える。寛いでいたのは、哲哉、遼平、それに遼平の妹の遙、遙の幼馴染の篤季だ。篤季は鷹矢と親友でもある。
「鷹矢、顔色悪いけど大丈夫?」
いち早く遙が気づく。
「大丈夫。」
笑顔を無理やり作って答える。皆に心配かけたくない。
「そろそろ買出し行くかー。」
遼平が時計を見ながら立ち上がる。いつもパーティみたいなものだが、今日は特別なので主役である響介の好物を大量に作るらしい。彼は胃が宇宙じゃないかと思うほどたくさん食べるので、大量の料理を用意しなければならない。料理長の遼平が立ち上がると、哲哉と篤季に声をかける。
「二人、荷物持ちな。」
しょうがないなぁと言いながら、篤季と哲哉が立ち上がる。三人はぞろぞろと買出しに出かけた。それを見送った後、譲が立ち上がる。
「曲のアレンジしてくるから、地下室にいるね。」
地下室は練習場として使っている部屋だった。馬鹿みたいな広さの地下室は防音がしっかりなされているので、どんなに音を鳴らしても上にまで響いて来ないのだ。譲の次に立ち上がったのは遙だった。
「さて・・・下ごしらえでもしときますか。」
料理長遼平の妹である遙も料理の腕は確かだった。遼平がパーティの主食の材料を買いに行ったので、遙が作るのは恐らくデザートだろう。
「手伝うよ。」
「ありがとう。」
他愛のない話をしながら、デザートを作る。まずはメインのケーキ作りからだ。英語の方が話しやすい鷹矢は、英語が話せる遙とは英語で会話をしていた。もちろん日本語は目下勉強中である。
「・・ねぇ・・ハルカ。」
「ん?」
「死にたいって思ったことある?」
そう聞いて、鷹矢はハッとした。何を聞いてるんだろう。こんなこと聞いたりしたら、遙を困らせるだけだ。
「ごめん。今の・・忘れて。」
「あるよ。」
鷹矢の言葉にかぶるように遙が呟いた。
「え?」
「実際死のうとしたもの。」
まさかの返答に鷹矢は言葉を失った。鷹矢の様子を見ながらも、遙は続けた。
「あたし、中学の時に酷いイジメに遭ってたの。気づいた篤季や泉水が助けてくれたけど、三年の時、あたしだけクラスが違って、イジメはエスカレートした。でも・・それでもあたしは、何とか頑張ってた。どうしてあたしだけって言う思いは何処かであったけど・・。でもある時、あたしを庇って篤季が怪我をしたの。許せなかった。あたしを守ろうとして、篤季は怪我をした。これ以上あたしがこの世にいたら、きっと皆が傷つくって、そう思ったの。」
遙はそこまで一気に喋った。鷹矢を見て、曖昧に微笑んだ。
「じゃあ、あたしがいなくなればいいんだ。そうすれば、もう誰も傷つかない。そう考えると、妙に楽になったの。そしてあたしはその日手首を切った。」
遙はいつも左手首に巻いていたリストバンドを外し、傷を鷹矢に見せた。
「目を開けると、病院のベッドの上だった。意識が遠のいてる時、誰かに呼ばれた気がしたの。それは篤季の声だった。目を覚ました時、傍に居てくれたのも篤季だった。結局あたしはずっと篤季に助けられてたの。その時初めて自分は何て馬鹿なことしたんだろうって思った。」
遙はリストバンドを付け直した。
「あたしはもう一度生きようって思ったの。今度は逃げないで、守ってくれる人に頼りながらでも、生きていこうって。辛い事はたくさんあるけど、あたしの周りにはたくさんの人がいてくれるから、頑張ろうって思えるの。」
遙は優しく微笑んだ。知らなかった。遙と出会ったのは、その後だから、そんな過去があったなんて驚きだ。
「鷹矢は死にたいって思ったことあるの?」
今度は遙に質問される。鷹矢はしばらくの沈黙の後、口を開いた。
「あるよ。いつも思ってる。」
鷹矢の呟きに遙は驚いていた。鷹矢は少しずつ悪夢を口にした。
「俺がまだアメリカでルリ・・姉さんと住んでた14の時、ドラッグを売るって言うバイトをしたんだ。」
何となくだがその話は聞いたことがあった。
「金が欲しくて・・。両親は事故で亡くなってて、歳の離れたルリが俺を育ててくれてた。そんなルリにちょっとでも楽させてやりたくて・・。俺は1回きりっていう約束でドラッグを売ったんだ。もちろん、その時はドラッグなんて知らなかった。リストを渡されて、これを売れって。その仕事が終わって、報酬をもらった帰り道、ルリに会って、一緒に帰ってた。そしたらイキナリ目の前に銃を持った男が現れたんだ。俺の口を封じるために、俺を殺そうとした。その男は怖くなって動けないでいる俺を狙って撃った。もうだめだって思ったとき、目の前にルリが飛び込んできた。」
そこまで話して、鷹矢は深呼吸した。呼吸を整えながら、続きを口にする。
「俺の代わりにルリが撃たれたんだ。俺を殺そうとしていた奴らはもう一度俺に狙いを定めた。だけど銃声を聞いた通行人たちが騒ぎ始めて・・。結局奴らは俺を殺さずに逃げた。ルリは誰かが呼んだ救急車で運ばれて、病院で治療を受けた。けど・・その甲斐もなくそこで亡くなったんだ。」
鷹矢は涙が溢れていた。遙は鷹矢の頬に触れた。
「自分を責めてるの?」
遙の問いに、ゆっくりと頷く。
「夢を・・見るんだ。何度も俺の目の前で、ルリが殺される夢。・・もう見ないって思ってたのに・・。」
遙は鷹矢を落ち着けようと、リビングの方のソファに座らせた。
「ユズルのお父さんに引き取られて、日本に来てからも何度も見た。けど・・セリカに会って、安心したんだ。ルリが生きていた頃のようで・・。」
芹華とは篤季の姉で、哲哉の恋人でもある女性だ。不安がっていた鷹矢に姉代わりになってあげると言って、実の弟のように可愛がった。その芹華は今は上京し、モデルとして活躍している。
「芹華姉が、鷹矢の精神安定剤だったんだね。」
遙は呟き、ソファに座っている鷹矢の頬を両手でそっと包んだ。
「ねぇ、鷹矢。一人じゃ・・ないからね?あたしや篤季、お兄ちゃん達だって、鷹矢のこと大切に想ってる。芹華姉だって、そうだよ?あたし・・たまにモデルの仕事で芹華姉に会うけど、第一声はいつも『鷹矢元気?』なんだよ?」
それを聞いて、鷹矢は胸が熱くなった。
「皆、皆鷹矢のこと想ってる。だから辛い時は皆に頼ればいい。それに・・鷹矢にも居るよ。あたしに篤季が居てくれたように、鷹矢にもそんな存在がきっと・・・。」
「ありがと。」
鷹矢は遙をぎゅっと抱きしめた。遙の言葉にほんの少し勇気をもらった気がした。

 

その日のパーティは何事もなく無事に終わった。

 

何気なく過ごしている生活の中でも、やはり悪夢を見続けていた。息苦しさで目覚める毎日は、鷹矢を精神的に追い詰めて居た。いつしか一番大好きな歌うことでさえ、疲れを感じるようになっていた。溜息ばかりの毎日。遙はああ言ってくれたけど、本当は世界にたった一人なんじゃないかと思う。夜の闇が全てを覆って、何もかも終わってしまえばいいのに。いつしかそんな事を考えていた。
『自分を責めてるの?』
いつか問われた遙の質問がふと頭に浮かんだ。責めるしかないじゃないか。俺のせいで瑠璃は死んだんだ。俺があんな馬鹿なことをしなければ、命を狙われることなんてなかった。瑠璃だって死ぬことなかった。いっそこの夜の闇に吸い込まれて、消え去ってしまいたい。瑠璃の代わりに俺が死ねばよかった。鷹矢は何度も自分を責めた。
「何や、ここにおったんか。」
ふと声がして、鷹矢は現実世界に引き戻された。顔を上げると、哲哉が立っていた。
「急に姿が見えんくなったから、どこ行ったんかと思った。」
哲哉は鷹矢の隣に座った。いつもなら深夜はコンビニでバイトをしているのだが、今日はバイトが入ってなかったので、そのまま哲哉の家に居座っていた。楽しくお酒を飲んでいる皆の邪魔をしないように、鷹矢はそっと抜け出して外に出てきたのだった。
「皆は?」
「響介は酔いつぶれたけど、遼平と譲はまだ酒飲みながらゲームやってる。」
「そう。」
目に浮かぶ光景にほんの少し笑みが漏れる。
「鷹矢、大丈夫か?」
ふと声をかけられ、鷹矢はきょとんとした。
「え?」
「最近、全然元気ないやろ?」
やっぱりバレてたか。鷹矢は観念したように溜息を吐いた。
「俺・・またあの夢を見るようになったんだ・・。」
零れた言葉は英語だった。日本語より英語の方が伝えやすい。哲哉もまた英語ができる人の一人なので、気兼ねなく英語で話せる。
「あの・・・悪夢を?」
事情を知っている哲哉がそう問うと、鷹矢はコクンと頷いた。
「もう見ることないって思ってたのに・・。最近毎晩のように見るんだ。」
「・・・芹華が居なくなってから?」
的を射た質問に鷹矢は驚きながらも、曖昧に頷いた。哲哉は自分の恋人である芹華が自分以上に鷹矢の精神安定剤であることを知っていた。鷹矢は彼女を姉と慕い、いつも傍に居た。芹華の傍に居る時は、鷹矢も哲哉も不思議なくらい安心できた。でもいつまでも芹華に甘えてばかりじゃダメだって、鷹矢自身気づいていた。
「セリカが上京して・・しばらくは何とかがんばろうって思ってた。早く認めてもらえるようになりたいって・・。だけど・・それもいつの間にか崩れてきた。どうすればいいか・・全然分からない・・。」
鷹矢は頭を抱えてうずくまった。哲哉は鷹矢の頭を優しく撫でた。
「俺もあるよ。そういう時。」
哲哉の思わぬ言葉に、鷹矢は顔を上げた。
「芹華は俺にとっても精神安定剤みたいな存在なんだ。上京する時、正直引き止めたかった。でもそれは俺の我侭で、芹華には芹華の夢があるんだって、そう思った。それでも芹華が居なくなった後の数ヶ月間は、抜け殻みたいに過ごしてた。この世にたった一人取り残されたみたいな気持ちになった。」
哲哉の言葉は今の鷹矢の現状にシンクロしていた。
「俺は・・小さい時から孤独だった。周りに人がたくさん居ても、自分の味方は誰もいないような気がして・・。でも芹華に出会って、一人じゃないって思えた。芹華だけじゃなく、俺の周りには遼平や響介や譲や鷹矢がいてくれた。芹華がいなくなって確かにまた孤独を感じたけど、皆が居てくれたから俺は頑張ろうって思えた。早く認めてもらってまた芹華の傍にいたいって。」
哲哉は鷹矢に優しく微笑みかけた。
「誰も一人じゃ生きていけない。そこまで皆強くない。けど・・一人じゃないんだよ。自分が気づいてないだけで、周りには常に自分を支えてくれる誰かって言う存在がいるんだ。毎日食べるお米や野菜を作ってる農家の人、鷹矢が今着ているような服を作ってる人・・。見ず知らずの誰かが、今の鷹矢を支えてる。世界には星の数ほど人がたくさんいて、それでも俺らはこうして出会った。それって、物凄い確率の奇跡だと思わん?」
哲哉の問いに、コクンと頷く。
「瑠璃だってそうだよ。瑠璃はあの時身を挺して鷹矢を助けたこと、誇りに思ってるんじゃないかな?」
「そ・・かな・・。」
半信半疑で答える。
「鷹矢にとって瑠璃がたった一人の大切な家族だったように、瑠璃だって鷹矢のことをたった一人の大切な弟だって思ってたに違いないよ。鷹矢が瑠璃の立場なら、きっと同じことしたろ?」
そう聞かれ、鷹矢は頷いた。確かに自分が瑠璃の立場なら、身を挺して守ったかもしれない。例え命を落とすと分かっていても。
「瑠璃のおかげで、今鷹矢はこうして生きてる。確かに・・瑠璃が亡くなったことは本当に悔やむべきことだし、自分を責める気持ちも分かるよ。でも・・過去は変えられない。」
哲哉の言葉が胸に沁みた。分かってたよ。過去は戻せないって。取り返しのつかないことを、俺はしたんだ。
「もし瑠璃が生きてたとしたなら、鷹矢はどんな自分を瑠璃に見てもらいたい?」
鷹矢はしばし考えた。どんな自分になりたい?どんな自分で瑠璃に会いたい?
「瑠璃は・・・俺が歌ってる時の顔が一番好きだって言ってくれた。俺の歌を・・嬉しそうに聞いてくれた。」
鷹矢は思い出し、思わず涙が溢れた。堪えながら続ける。
「俺は・・ヴォーカリストとして認められたい。ルリが望んだように・・。」
鷹矢は夜空を見上げた。満天の星空だった。ヴォーカリストとして生きることを決めた、瑠璃がまだ生きていたあの日も、満天の星空だった。哲哉は鷹矢の頭をガシガシと撫でた。
「頑張ろうな。」
哲哉の言葉に、鷹矢は笑顔で頷いた。

 

あれから毎日見ていた悪夢は見なくなった。精神不安定になると見てしまう時もある。だけど以前よりも少しだけ強くなった気がする。
瑠璃と見たヴォーカリストとしての夢を絶対に叶えてみせる。
鷹矢はそう誓ったあの日の星空を思い出しながら、夢への新たな第一歩を踏み出した。

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