毎日連載小説「2月14日の嘘」 第177話 〜ダメ男、慣れない〜
「そのとおりだよ」
僕はぶっきら棒に答えた。
昨夜、杏に「タクシーで帰るけど万札しかない」と両替を頼んだのだ。彼女は特に不審がる様子もなく、千円札と替えてくれた。
「ふうん」
梶谷ひばりはまだニヤついているが、こっちを非難している表情ではない。
「一応、杏の財布に入っていた千円札は十枚あるんだが……」
「同じ札なら一枚でええよ。ヒデは一人しかおらんし」
「そのヒデってのは野口英世のことだよな?」
僕はカウンターに置いた千円札を指した。毎度ながらこのやり取りには慣れない。
「そうや。で、ヒデに何を訊きたいん?」
梶谷ひばりが欠伸まじりに答える。
「杏が喋らない理由だ」
「本人に直接訊けばいいやんか」
「それができないから頼んでるんだろうが」
「焼肉奢ってくれるんやったらええよ」
「は?」
面倒臭さうな態度に梶谷ひばりにキレそうになったが、ここは従うしかない。