ハラスメント体験記 被害者編 [22]
その日も機械の納入で忙しい日でした.
朝の掃除や鉢植えの水やり,窓拭きなど.
それらを終わらせる前に,機械納品に駆り出されます.
納入が終わっても,またすぐに次の納入に取りかかなければなりませんでした.
結果,私は自分が任された仕事が何も手付かずの状態が続きました.
そして機械納品から戻ってきた昼下がり.
社長が私を呼びつけます.
ついて行った先は商品の展示スペース.
心持ち葉が萎れた鉢植えを指差し,私を叱り付けます.
社長: 「これ見ろ!」
私: 「……あ」
社長: 「お前がサボってるせいでこんなんなってるやないか!」
私: 「…すいません」
社長: 「はよ(水を)やれ!」
私は慌ててジョウロを物置から引っ張り出し,水を入れ,鉢植えに水を与えます.
鉢に水を注ぐ私の傍ら,社長が私を見下ろしています.
まるで私を監視しているかのようなその構図に,息苦しさを感じていました.
と,そこへ.
社長: 「お前の部署はどこやねん」
突然の質問でしたが,私は記憶から部署名を引っ張り出して答えます.
私: 「○○の××です」
社長: 「お前の上司の名前は」
私: 「田中(仮名)といいます」
そこまではスラスラ答えられました.
…が,しかし.
社長: 「お前の上司は鈴木(仮名)君ちゃうんか」
私: (…え?)
憶えがない名前に,私は戸惑いました.
私: 「いえ…違うと思います.」
社長: 「確か鈴木君やったぞ」
社長のあまりの自信たっぷりの発言に,否定の言葉を口にすることはできませんでした.
そればかりか,
――もしかして私が間違っているのではないか?
――誰が上司なのか,私は勘違いしているのではないか?
――だとすると,私の上司は誰なんだ?
そんな想いが募り,自信がグラついていきました.
私: 「…すいません,わかりません」
社長: 「お前自分の上司もわからんのか!」
私: 「……すいません……」
私は謝罪しました.
絞り出すような声でした.
この時点で,私は声を出す気力すら失っていました.
ここで,少し補足しましょう.
当事,私の上司は,田中で間違いありません.
社長の言っていた鈴木という名前は,おそらくその部署のトップだったと思います.
(当事の会話の詳細はもう記憶にないので,定かではありませんが)
そしてココからが肝心な部分なのですが.
私は当時,配属先についてほとんど知りませんでした.
それはなぜか?
私は当時,会社を挙げての実習中で,まだ配属されていない立場でした.
配属予定の部署には二日ほどお邪魔しただけで,直属の上司と顔合わせした程度でした.
また,K社での実習が始まる2ヶ月前のことで,殆どのことを忘れていました.
つまり.
二日だけ…それも顔合わせ程度しかいなかった部署の詳細を,私は憶えておらず.
辛うじて憶えていたのは,配属される部署の名前と,直属の上司の名前のみ.
鈴木という名前を持ち出されても,「わからない」と答える他なかったのです.
どちらにせよ,職場の人間の名前など,当時の私は知りませんでした.
知るだけの環境も,資料もありませんでした.
しかし,その事を理由に言い訳することを良しとしない自分がいました.
社長は,わからないと答えた私を責めました.
知らない・答えられないという事実で責めました.
社長の叱責に,私は落ち込んでいました.
「知ってて当然」なのだと,常識がないのだと,自分を責めました.
…なぜ組織表をあらかじめ貰っておかなかったのか.
…なぜ配属先のメンバー全員の名前を頭に叩き込んでおかなかったのか.
…なぜ私は「当たり前」のことに気付かないのか.
私は,ひたすら自分を責めました.
しかし,「なぜできないのか」…それがわかりませんでした.
なぜ社長は,私の部署のことなど聞きだそうとしたのか.
私が感じたことを語るのは,また後日になります.
ともかく,社長は事あるごとに,私から情報を引き出そうとしました.
それが,結果的に私を追い詰めることとなったのです….
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