ハラスメント体験記 被害者編 [8]
納品に連れて行ってもらえなくなって約一週間.
私は延々と駐車場の掃除や,社内の掃除を続けていました.
K社の皆様が口を開けば怒鳴り声が飛んでくるのではないか.
そんな想いが,皆様との距離を取らせます.
(掃除の行き届いていない部分があるのではないか)
(自分の掃除では不十分ではないのか)
そんな想いが募り,同じところを執拗に掃除します.
昨日掃除したところでも,毎日掃除する必要のないところでも,繰り返し掃除します.
駐車場のすぐ横に廃材置き場があるため,そこからこぼれ出た廃材の欠片を集めて捨てます.
あとは,少々目立つ砂利を取り除き,砂埃を簡単に掃き捨てれば終わりでしょう.
しかし私は,掃いても掃いても出てくる砂埃を,延々と掃除し続けていました.
全ての砂埃を取り除けば,常務たちも認めてくれるだろう…そこまで考えていたと思います.
そんなことは不可能にもかかわらず,です.
世間では,夏休みに入った頃でしょうか.
炎天下の中,汗で湿った…というよりも塗れたタオルで額の汗を拭いつつ,黙々と作業を続けます.
(社に忠誠を誓わなければ)
(社の為にできることを考えなければ)
そんな想いが,社内でジッとしていることを良しとしなかったのです.
また,K社の皆様と顔をあわせなくて済む分,いくらか気が紛れると思っていたのも事実です.
窓磨き.
駐車場の掃除.
展示フロアの掃除.
展示品の拭き掃除.
廃材の片付けと収納.
K社の皆さんがいる仕事場を避けるように,延々と掃除を続ける私.
K社の役に立っているという実感を持てない私.
いつ終わるとも知れない作業.
いつまでも進展がない作業.
私にとって,それらの雑務はただ苦痛でした.
(早く終わって欲しい)
(時間になれば帰れるのだから,それまで我慢しよう)
苦痛から逃げたいあまり,このような馬鹿な考えすら抱くようになりました.
そして,業務終了時間.
「後片付けをしろ」との言葉に,私はやっと終わったと安堵します.
展示品を店にしまい,道具を片付け,シャッターを閉め,電気を消す.
一通り終えたところで更衣室へ.
与えられたロッカーで着替えを済ませ,部屋に戻ると.
主任が険しい顔で待っていました.
主任: 「お前何勝手に着替えてんねん」
私: 「はい?」
主任: 「誰が帰る準備していいって言った?」
私: 「…いえ,誰も」
時間がきたから後片付けをした.
それが終わったから帰宅の仕度をした.
それがいけなかったのだろうか?
…そう混乱していると.
主任: 「ここよく見てみろ!」
私: 「…あっ!」
うっかりしていました.
展示フロアに設置された灰皿の一つに,タバコの灰が残っていたのです.
灰皿を綺麗にすることも,後片付けの一つとして指示されていた内容でした.
これは明らかに私のミスでした.
私: 「す,すいません!」
主任: 「もういい,お前帰れ!やる気ないんやったら構へんわ!」
私はその言葉を聞いた時は,「帰れ=帰宅しろ」だと思いました.
しかし,ジワジワと主任の言うことが理解できるにつれ,私の顔は青ざめました.
「帰れ」とは「J社の元に戻れ」ということ.
つまり,K社を追い出されるということ.
実習途中で追い出される…事実上のクビを宣告されたのです.
それから後はよく憶えていません.
必死に謝罪し,食い下がり,何とかその場は収まったのだと思います.
ふらつく足取りで帰路に着く私.
(とんでもないことをしてしまった…)
(なぜ灰皿をチェックしていなかったのだろう…)
(帰る準備をする前に,一言許可を求めればよかった…)
そんな想いで頭の中が一杯でした.
そして考えます…どうすれば同じ失敗を繰り返さなくても済むかを.
(これからは,帰宅準備をする前に許可を求めよう)
(帰宅準備だけじゃ足りない…一つ一つ許可を求めよう)
(そうすれば,少なくともミスは減る…迷惑をかけることもなくなる)
(そうか…これが「言われたことだけをする」って事なのか)
(これが忠誠を誓うということなのか)
厳密には,その一日だけで,これだけのことを考えたわけではありません.
それ以前から,漠然と考えていたことでした.
しかし,私の考えの方向性を確固たるものとして決定付けたのは,間違いなく主任の一言でした.
翌日から私は,ミスを恐れるあまり,短絡的で愚かな判断をすることになります.
「言われたことだけをする」という言葉を「言われていないことは何もしない」と曲解したのです.
以降,私の判断は全て,K社の皆様に委ねられる事となりました.
私は自分で考えることを放棄してしまったのです.
それが結果として,自らのダメージを深刻化させることに気付きもしないで….
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