ハラスメント体験記 被害者編 [5]
私は,物覚えがいい方ではありません.
また,要領もよくありません.
従いまして,言われたことを実践しようとしても,どうしてもモタモタしてしまいます.
その日もお客様の所に機械を納品し,戻ってきました.
主任: 「おい,車に積んでる部材,社内に戻しておけ」
私: 「はい」
まずは台車を車から引っ張り出し,工具と余った材料を積んで――
主任: 「違うやろうが!」
私: 「は,はい?」
突然の大声に驚く私.
主任は台車に詰まれた荷物を降ろすと,積み直していきます.
下段には,部材が詰まった一番大きな箱.
中段には,工具が納められた箱.
上段には,小さな部品が納められた,小さめの軽い箱.
その上から,機械を保護する為に用意したシートをかぶせます.
主任: 「こうすればたくさん積めるやろ!少ない回数で運び込めるやろ!」
私: 「はい」
主任: 「まったく…もっと要領よくやれよ」
私: 「…すいませんでした」
車への積み込みの時…
社内への部材回収の時…
納品時の工具受け渡しの時…
私がやる度に違うと言われ,その都度手本を見せてくれます.
しかし,どれだけやっても主任が見せてくれた手本のようにはいきません.
私が最善と思っていた積み込みが,主任達の手にかかると見違えるのです.
私には手品を見ているかのようでした.
次第に主任たちもイライラが募ってきたのでしょう.
私への指導に怒りが込められるようになってきました.
「何してんねん!」
「言ったやろ!要領よくやれ!」
「忘れたんか!言われたことだけしろ!余計なことをするな!」
「同じことを何回言わせれば気が済むねん!」
そのような怒声が常に浴びせられます.
(どうして上手くいかないんだろう?)
(どうして要領よくできないんだろう?)
(どうして毎回主任達を怒らせるようなことをしてしまうんだろう?)
(どうして)
(…どうして)
いくら考えても,答えは一つしか思い付きませんでした.
自分が至らないせいだと…自分が悪いのだ,と.
私の頭には,いつしかそのような前提が成立しつつありました.
(叱られれば私のせい)
(怒鳴られるのは私が至らないから)
(手本を見せてもらっているのは,私の要領が悪いから)
そう考えるようになっていきました.
それから,次第に自分のすることに自信がなくなっていきました.
(これでいいのか?)
(もっと他にいい方法は無いのか?)
(もっと要領よく,上手くならなければ…!)
そんな想いが焦りを生み,思考が空回りしていきます.
そしてまた怒声.
自分が至らないという想いが前提にある私.
いつしか,まるで条件反射のように,怒声が飛べば謝罪するようになっていました.
(私のミスがK社の損失に繋がるのだから,叱られるのは当然)
(何度も手本を示してもらって,ありがたい)
(わざわざ手間をかけさせて,申し訳ない)
(主任達を怒らせて申し訳ない)
(自分のすることは,全て間違いではないだろうか?)
(何かするたびに,怒らせてしまうんじゃないだろうか?)
…という考えに,次第に変わっていったように思います.
つまり,私は自分の行動に対して自信がなくなり….
そればかりか,自身に不信感さえ抱くようになっていったのです….
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