ラブレス

桜木 紫乃 新潮社 2011年8月

ラブレス/桜木 紫乃
¥1,680
Amazon.co.jp

馬鹿にしたければ笑えばいい。あたしは、とっても「しあわせ」だった。風呂は週に一度だけ。電気も、ない。酒に溺れる父の暴力による支配。北海道、極貧の、愛のない家。昭和26年。百合江は、奉公先から逃げ出して旅の一座に飛び込む。「歌」が自分の人生を変えてくれると信じて。それが儚い夢であることを知りながら―。他人の価値観では決して計れない、ひとりの女の「幸福な生」。「愛」に裏切られ続けた百合江を支えたものは、何だったのか?今年の小説界、最高の収穫。書き下ろし長編。





<親だの子だのとは言ってみても、人はみんな手前勝手なもんだから、自分の幸せのためなら手前勝手に生きていいって。>

百合江の人生は、お金に不自由し、貧乏な暮らし。借金のために働く。男運も悪く、ひとりで子どもを育てた。傍目から見たら、不幸にしか思えない。しかし、本人は幸せだったという。百合江は、苦境にも文句を言うことなく、与えられた運命の中で、自分で行く道を決めた。生きたいように生きた。だからこそ、そういえるのだろう。強い女性だ。まねできない。

百合絵の世話を焼く里実は、堅実で、時としてその行動が冷たく感じるところはある。しかし、こういう世話を焼いてくれる妹がいたからこそ、百合絵は、助けられたことも多かったのだと思う。

ここでは、百合江の人生が強烈だが、母親ハギの人生も苦労の連続だったのだろうと想像がつく。酒びたりや暴力振るう男は最低。それでも、誰に訴えるわけでもなく、それが当たり前のように耐えていたんだと思うと女性の立場ってつらい時代だったのだと感じた。

装丁を見て、軽い恋愛小説だと思って読み始めたのだが、3世代の人生が詰まった濃厚な物語だった。

百合江が、位牌を離さなかったわけ・・・・・せつないなあ。


お気に入り度★★★★★