悪人


吉田修一 朝日新聞社 2007年4月


悪人(下) (朝日文庫)/吉田 修一
¥567
Amazon.co.jp

悪人(上) (朝日文庫)/吉田 修一
¥567
Amazon.co.jp



長崎市郊外に住む若い土木作業員が、福岡市内に暮らす保険外交員の石橋佳乃を絞殺し、その死体を遺棄した容疑で、逮捕される。なぜ、事件は起こったのか・・・・・・


犯人はわかっているのに、先を読まずにはいられない。


事件に関係した人の友達や家族の描写が細かくなされ、家庭環境や事件に至る経緯がよくわかる。被害者であれ、加害者であれ、親の気持ちを思うと、たまらなくなった。


誰が悪人かと言えば、佳乃を殺した人であろう。しかし、それだけでは片付けられないことがある。


出会い系サイトで知り合うことは、いけないこと?でもそこから、純粋の愛が生まれる事だってある。人恋しくなった時、誰かと無性に話がしたくなった時、誰かとつながっていたいと思った時、どうすればいいのだろう。


別の形で出会っていれば、もう少し早い時期に出会っていれば・・・・・・・

何がどう、狂ってしまったのだろう。やるせない物語だった。


しかし、

犯人が見せたラストの行動は、相手を思ってのこと。また、親たちは、自分のためにスカーフを買う。店を開くとここに、少しの光を感じた。


お気に入り度★★★★★


以下気に入った箇所を抜粋


<一人の人間がこの世からおらんようになるってことは、ピラミッドの頂点の石がなくなるんじゃなくて、底辺の石が一個なくなることなんやなあって。>


<今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、何でもできると思い込む。自分には失うもんがなかっち、それで自分が強うなった気になっとる。失うものもなければ、欲しいものもない。だけんやろ、自分を余裕のある人間っち思い込んで、失ったり、欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした目で眺めとる。そうじゃなかとよ。本当はそれじゃ駄目とよ。>