小川洋子  新潮社 2006年10月



  鳴麟琴という世界にひとつしかない楽器を演奏する小さな弟。幻想の世界に入って様な感覚だった。

風薫るウィーンの旅六日間 大切なのは昔こんなことがあったという思い出があることなんだと思う。今となっては、愛した人が老人で、誰かも区別つかなくても。

バタフライ和文タイプ事務所  活字にも、それぞれに意味を持っている。直接的に愛が描かれているわけではないけれど、エクスタシーを感じる作品。

銀色のかぎ針  編み物をする老婦人をみて、祖母を思い出していたんだろう。

缶入りドロップ   たった3ページのお話なのに、素敵な魔法にかかったような印象。運転手の子供を思う気持ちが暖かい。

ひよこトラック  静寂の中に、心を通わせる下宿人と子供。言葉は交わさなくても、通じ合うことができる。

ガイド  今日一日を記憶に刻み付けておくために題名をつける「題名屋」という仕事。作者の発想が素敵。

机の引き出しの中のサイダーの瓶。ウィーンの市電のある町並み。活字管理人のいる診療所の待合室のような小部屋。マリンライナーで編み物をする老婦人。幼稚園バスの中で泣いている子供。窓辺に並べられた抜け殻。バスツアーで旗を持つバスガイド・・・・・・・・

短編にもかかわらず、その印象がすっと入ってきて、目に浮かぶ。日常のようで現実離れしたような独特の世界に浸ることができた。

お気に入り度★★★