名もなき毒


宮部みゆき  幻冬舎 2006年8月


連続無差別毒殺事件の4人目の被害者が出る。

今多コンツェルンの私生児菜穂子の婿である杉田は、社内報の仕事をしていた。そこでアルバイトをしていた原田いずみが、満足な仕事ができない上におこりっぽいので、彼女をクビにするが、彼女から、社長宛に脅しの手紙が届く。杉田は、原田が勤めていた前の会社に行き、経歴を調べた私立探偵の北見を紹介してもらい会いに行くが、そこで、女子高生と会う・・・・・・・


読み始めて、「誰か」に登場したあの逆玉の杉田だと気づいた。文章は、ほんわかした感じだけど、内容はハードだ。

毒殺事件。ハウスダストや、土壌汚染の毒。そして、人間の持っている毒を描きたかったようだ。強い毒を持っている原田いずみ。原田は、突拍子もないような行動をとる。原田にとって、常識は通用しない。原田は、怒っている。いつも怒っている。


毒の種類がわかっていれば、対処もできる。でも名もない毒には、どうすればいいのかわからない。原田の持っている毒もこの名もなき毒なのだと思う。何に怒っているのかわからないから、対処のしようがない。


最近は、普通という考え方が違うと、北見は言っている。今私たちが普通と思っていることが、できたことであると。そんなにも、基準が下がっているのかな。それは悲しい気がする。でも、いろんな事件が起きる現代は、常識では考えられないような考えの人もいる。その人の気持ちも、わかろうとする努力は必要なのかもしれない。


外立君は、かわいそうな境遇。小さなズルをしないで、正しいことをしようとしたから、こんな結果になったのだと思うと、この世の中がいやになるなあ。


現代に起こりうるであろう事件を、毒という形でうまくまとめあげられていると思った。


杉田が、事件を調べていくわけだけれど、何か釈然としない。杉田は、食べるのに、困って働いているわけでもなく、義父から仕事を与えられてしている。なんでも話ができる妻とかわいい娘がいる。義父の世話にはならない様にしていても、厄介ごとは、最終的には、義父が片付けてくれる。そんな中で、私立探偵の真似事をしている。この恵まれた環境に私は嫉妬してしまった。杉田は、とてもいい人だということはわかるんだけどなあ。

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