「は?」
淳が喜久子を見直す。
「だから、夜、二人が一緒に帰ってるのを、見たのよ」
「…どこで?」
「夢で」
「何言ってんの…?」
香子が口ごもる。こんなドリームなこと言う人ではないはずなのに。どうしよう、ぼけたか、ごまかされているのか。祖母は上品に口元を覆って笑みを含む。彼女がよく見せる少女のようなしぐさだが、独身生活が長い分生活感が薄い喜久子には十分似合うものだった。
「今までねえ、誰にも言ったことなかったんだけど、私、夢でいろいろなことが見えるの」
「…はい?」
「だから、最近は二人がいろいろ見えたことを話し合ってるのを見るのが楽しくって」
「ちょっとまって、ってことは、おばあちゃん私たちが付き合ってるのって」
「そうよう、誰かに聞いたわけじゃないの。だって見てればわかるわよ、今日だって神社の中、二人で手をつないで歩いてたじゃない」
香子が絶句した。かえって淳のほうが早く我に返った。そして、珍しく香子が自分たちのスポークスマンとして役に立たないことを察知し、自分で話し出した。
「あの、僕らのこと、そんなに頻繁に見えるものなんですか」
淳としてはジャブのつもりだった。紀久子はそれににこやかに答えた。
「絶対ではないんだけどね、見たいと思うとときどき見えるのよ」
二人は、体は動かしていないが心の中で頭を抱えるしかなかった。紀久子がいわゆる正夢を見る人であるという事実に驚くことも、どういう見え方をしているのかを追求することも全て目の前から飛んでしまって、二人が二人っきりでいるところを見られていたということに動揺して恥ずかしくてならなかったのだ。
「えっと、おばあちゃん、何を見たの?」
「歩いてるところ」
「何でそれだけで付き合ってると思っちゃうのよ、ただのクラスの人かもしれないじゃない」
「え、だって、友達に、彼女がいるやつはいいなって言われてたもの」
「は?」
「秋かしらね、水沢君の部活動の大会に香子行ったじゃない。そのときに水沢君、みんなに言われていたわ」
そんなことは香子だって知らなかった。淳も愕然と言う顔をしている。
「…えっと、それは、声も聞こえるということ?」
「そうよ。先々週?クリスマスイブに二人で花火見に港に行って、」
「おばあちゃん―――!!だめ!いっちゃだめ!!」
淳は、香子がこんなに大きな声で叫べるのかとピントのずれたことを考えていた。そして、少しだけ思考回路が復活した。