紺紙金泥、といえば真っ先に浮かぶのが金で書かかれたお経、
いわゆる紺紙金泥経を思い浮かべるのではないでしょうか。
今回、ひょんなことから依頼を受けて紺紙金泥作品を制作しましたので、
後日談を交えて紺紙金泥書法について書き残しておこうと思います。
●経緯
事の発端は、普段懇意にしている美術商の人からの紹介でした。
「字を書ける人を探している」
日夜茶人を相手にし、古筆を扱うような人からそのような言葉が出たので、
虚を突かれた感が隠せませんでした。
詳しく話を聞くと、紺の紙に金で漢詩を書いて欲しいとのこと。
とある富豪が自宅の床の間にお気に入りの漢詩を掛けたいので書いてほしいとのことでした。
大体の寸法と見積もりを立て、依頼元の美術商へ。
●詳細の打合せ
場所は六本木ヒルズのすぐそば。セレブな雰囲気漂う高級住宅地です。
今回の依頼の内容を改めて確認し、だいたいの見積もりを述べると、
「10万や20万で出来ると思っていない」
と思いもよらぬ言葉を頂戴します。
これまでの商社勤務や学校教育で身に着けてきた、「可能な限り良いものを安く」という
最小公倍数的な考え方は、ここでは全くお呼びではありませんでした。
「どこにもないような最高のクオリティのものが欲しい」
それがクライアントの要望でした。
紙は、京都の某老舗表装店(修復業界では国内3本の指に入る業者)を介して高知の職人に漉かせ、京都の藍染職人に染めてもらう。軸先は、古い軸に使われている象牙のものを使用。きれは、古軸に使われているものを使用して。。。
と、少しずつディティールが決まっていきました。
●金のこと
純金の金泥は、色々と手間がかかります。
粉状のものは、金粉を粉々にしただけの状態ですので、粒子を細かくするために改めて磨り潰し、皿の上に伸ばした後に膠で溶いて使うことができます。
金粉は0.4g単位で販売されており、通常は主にお経などの細字に使われるので然程量を必要としませんが、今回は肉厚の隷書を中筆で書くというボリューム。
とりあえず業舎に4gぶんを皿に伸ばしたものを用意してもらうことになりました。
●金泥を扱う上で重要な要素
金泥は、金粉を膠で溶かしてできます。膠を使う上で重要となってくるのが、
温度 と 湿度
です。
膠は、温度が低いと固まってしまいます。
また、湿度が低いと乾燥して濃度がすぐ変化してしまいます。
温度が下がってジェル状になったり、乾燥して濃くなったりすると、
書き味も乾いた後の光沢も異なってしまうのです。
ですから、冬の乾燥した時期というのは、
紺紙金泥には最も向いていないコンディションということになります。
ベストコンディションは、梅雨のころ。湿度も温度も高い時が一番いいのです。
●揮毫
東京は長く乾燥が続いておったので困っていたのですが、運よく雨が降り続いたので部屋をガンガンに暖めて揮毫しました。
実際に揮毫した映像をyoutubeにアップしましたので、ご覧ください。
ちょっと所々二度書きしたりしてますが、金をしっかり乗せるためにやってますのでご容赦ください。
●完成
そんなこんなでやっとこ仕上がった作品を掛けてみると。。。
デモの試作とは全然違いました。。。
こちらは上杉謙信の漢詩「九月十三夜」を書いています。
廉価な紙にエセ金泥で書いたものと、
職人が丹誠込めて作った紙と純金の間には天と地ほどの差がありました。
質の違いによってここまで差が出るものかと本当に驚きましたね。
そして、同時に思ったこと。
本当にいいものは、本当に一部の人しか触れることができないということ。
紺紙金泥も、普通はお経などの細字ですが、これは半折1/2・半切2/3サイズ
字の大きさも使う金の量も全然違うんです。
そんな金のかかった(まさしく)作品、普通の展覧会や趣味のレベルでやれる代物ではないですからね。。。
今回は、色々といい経験になりました。
●余談
今回の制作、実は書き手の候補者は一人ではありませんでした。
候補者には、某現代書道二十人展のメンバーや某紺紙金泥の名家の二世など、
蒼々たるメンツの名が並んでいました。
まぁその人達、篆書や隷書が専門の人達ではなかったので、
そういう意味では有利だったかも分かりませんが、
やはり選ばれた最大の理由は「フットワークの軽さ」だったと思います。
サンプルをすぐ用意して持参したり、電話で直接やりとりしたり、、、
そうすることで相手を安心させることができたのではないかと思います。
この点は、サラリーマン生活で身に付けた感覚が功を奏したのだろうと思いました。




































