内田先生の本来の講演のお題であった「時間・記憶・他者」という
タイトルから
三題話のようにつらつらと考えた文章です。
ですが、このために、自分は仕事をしているのかな、
と思っています。
「家庭の中に、他者がいる。」ということについてのお話です。
日本の家が、すべてが血縁関係で結ばれた人間で構成されていない時代が、
ありました。
複合家族と呼ばれる、家族構成です。
そのなかには、お互いに血のつながりのない人間同士の
関係がありました。
生さぬ仲、というものです。
もちろん昔も今も生さぬ仲の生み出す、何かしらの緊張関係を
よしとするのではありません。
せっかく共同生活をするのだから、うまく人間関係を続けていきたい。
そこに、他者がいることを意識して生きることの要諦があります。
他者だからこそ、自分の考えをすべて押し付けることが間違っている、
と思える。
他者だからこそ、自分の考えを伝えるときには、
相手の言葉だけでなく態度や表情、
非言語の情報もフルに利用し、
相手の気持ちをおもんぱかった上で、
自分自身も態度や表情、非言語情報で不利になることのないように、
すべてを図った上で行動していく。
そのおもんぱかりが、家庭の中にいる他者同士の人間関係を支えています。
そのおもんぱかりの量と、家庭を作り上げていくにかけた時間の蓄積が、
その家庭の心地よさを作り出していくのだと思います。
そのおもんぱかりは、面倒くさいものです。
なければないに越したことはないのかもしれません。
でも、不自由さの中から作り出してきた心地よい関係というのは、
はじめから存在していると、錯覚している、
自由な人間関係の持つ心地よさよりも、長持ちするものです。
スタート地点が、快だとすると、
不快感はどんどん人を苦しめるものになっていきます。
スタート地点が、違和感や不快感をともに乗り越えていこうとする決意にあると、
快感が増すばかり、生さぬ仲とは思えないほどの仲良しになります。
それは、友人関係を考えてみれば、成立すると言えることだと思います。
「この人の第一印象、悪かったんだよー」という
ほほえましくなるような関係。
それが、家族という家の中だと、苦しく感じるのはなぜかというと、
違和感や不快感を乗り越えていこうとする決意を持たないまま、
共同生活をはじめてしまうことにあると思います。
「家族なのだから、自分の感情は全て共有されるはずだ」
それは、幻想です。幻想というか
もう、妄想の域に達しています。
そういう考え方は、つい数十年前まで、日本人の脳みその中にはなかったはず。
戦争というものの平成日本への影響力は、そこにあると思います。
一世代もしくは二世代の男性と女性から動物としての生殖を
社会的に去勢し、イデオロギーとしての出産を植え付け、
文化としての食を奪い去りました。
そしてそこから三世代目が今子育てをする親御さんになっています。
二世代目の揺り返しも知りません。
記憶の中に、他者との違和感や不快感を乗り越える修業をよしとする感覚は、
もうないのかもしれません。
それを呼び起こすのは、たとえば私のような家庭の中に入り込む他者の存在。
家庭教師でも、お手伝いさんでも、ヘルパーさんでも、かまわないと思います。
でも、私は家庭教師を仕事としているので
私の仕事を例にとっていきますと、
家庭教師という存在、それがプロで、親御さん自身の年齢に近しい人間であった場合、
そうした人間に抱く感情のスタート地点は違和感や不快感なのではないでしょうか。
自分の思い通りになりにくい年齢の、自分よりも自分の子供のことに詳しくなっていくことが
必至であろう存在。
でも、親御さん自身の気持ちを伝え、分かり合っていく中で、
他人の大人との絆の気持ちよさを感じていけて、
そのなかでお子さんは息を吹き返すとしたら。
そういう形で、家庭内他者がそれぞれのご家庭の中に存在するとしたら。
そういう形で存在する大人と、協力し合いながらお子さんを育てていくのは
親御さんにとって、それはお金を払うに足る仕事なのではないかと思うのです。
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