小若菜 隆の文章工房

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この工房ではエッセイ(日々の雑記)と創作物(小説他)を書き綴っております。

もし宜しければ、どうぞごゆるりと、お楽しみ下さいませ♪


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2017-05-04
Dead or Alive(3) ―新・ゾンビサバイバル 228~237日目―
http://ameblo.jp/h-m-taka5723/entry-12271649221.html


自衛隊の野営地から安城京跡・朱雀門まで。
距離、約300メートル。
私は真っ暗な二条大路を走って横断し始めた。
呼子の音から、4分5秒。
「他の連中はまだだな!」
サングラスを外せば。
私は夜目が効く。
「一番乗りニャ!」
肩の上の猫また。
夜でも視界良好。
「猫だからね!」
「『ねこねこ日本史』のナレーションニャ!」
舌の根も乾かぬうちに。
本分に対してボケた私に。
猫またが突っ込み。
同時に。
背後から足音。
複数。
「余裕だな、ご両人!」
私の右横に。
川嶋が追いつく。
「さすが元J○C! 足も速い!」
「古いことを!」
「今ハJap○n A○tion En○erpriseダゼ!」
私の左横に。
俊足のオーチュンが追いつく。
「なぜそんなこと知ってる!」
「私ダケガ知ッテイル!」
「『テレビ探偵団』か! 泉麻人か!」
「当時ハ本名ノ朝井泉ダ!」
「些末なことはどうでもいいニャ! それより樫本さんはどうしたニャすか!」
走りながらボケまくる私とオーチュンを見かねて、猫またが話題転換。
「確かに兄貴はどうした! さすがに五十路過ぎにこの作戦は厳しいか!」
「もういっぺん言ってみろボーズ! 後頭部撃ち抜くぞ!」
真後ろから声。
「いつの間に!」
私、素で驚く。
「『いつの間に』じゃねぇ! 走るのとボケるのに必死で俺の気配を感じなかったな!」
「些末なことは言いっこなし!」
私、猫またの言葉を引用。
実際、ボケていられるのはここまでだった。
「敵さんが来始めたぜ!」
地下坑道で岡本、河上、そして柳生半蔵が戦っていたためか。
相手も焦っているらしい。
気配を消す余裕はなく。
殺気がビシビシ伝わってくる。
「隆、右ニャ!」
「わかってる!」
私、立ち止まらず。
走りながら片手撃ちで4発、発砲。
銃声が鳴り響き。
次いで、何かが倒れる音。
4体分。
続いて、左に2発。
2体のゾンビが倒れる音。
「お見事ニャ!」
猫またが前脚で拍手。
肉球ゆえ、音はならない。
「特例側用人からお褒めに預かり、恐悦至極!」
私、返答。
「ニャはは。そんなこともしたニャすね」
猫またが照れくさそうに顔を洗う仕草。
「にしても、もう敵さんが来るとは!」
「さすがに監視くらいはしてるだろうよ!」
私の疑問形発言に。
樫本が返答。
「確かに!」
「シカシ気配ハスレドモ姿見エズダゼ!」
オーチュンの言う通り。
気配はする。
ただ、気配に見合っただけの敵兵がいない。
「どういうことだ!」
「隆! 下ニャ!」
地面から気配。
いや、正確には。
地面の下から気配。
「警備兵も地下配置か!」
地面が蠢く。
「来るぞ!!」
「ニャい!!」
猫またが爪と牙を出す。
ボコボコと道の土が盛り上がる。
1体や2体ではない。
まだ爆破前。
少なくない数の侍ゾンビが生き残っているらしい。
「来やがれ! 100体でも200体でも相手してやる!!」
私の叫びを合図にしたかの如く。
侍ゾンビが地上に飛び出してきた。
「本当に100体くらいいるニャ!!」
猫またが飛び上がっている侍ゾンビを見上げつつ叫ぶ。
「上等じゃねぇか!!」
私、叫びながら。
ガンスミス・ほほえみのアルルが手がけた銃を連射。5発。
5体のゾンビが上空で頭を吹き飛ばした。
「僕も行くニャ!!」
猫またが正面に飛翔。
「シャャァァァァァ!!」
飛びながら、正面に着地した侍ゾンビの首を刈り。
ゾンビの肩を蹴って右へ。
刀を抜きかけた侍ゾンビの喉もとへ。
牙で喉笛を噛み切る。
動きを止めた侍ゾンビ。
その顔を蹴って。
横から斬り込んできた侍ゾンビへ飛ぶ。
侍ゾンビが刀を振り降ろした。
「邪魔ニャ!!」
左前足の爪で刀を弾き飛ばし。
「シャアァァァ!!」
右前脚で侍ゾンビの顔を薙いだ。
顔を半分なくした侍ゾンビが、その場に崩れ落ちる。
猫またが着地し。
再び飛翔。
低空飛行。
「シャアァァァ!!!」
両前足を広げ、侍ゾンビ5体の足首を刈る。
よろける侍ゾンビ。
ただし、絶命はしていない。
猫また、着地し。
再び飛ぶ。
「とどめニャ!!」
今度は、ゾンビたちの腹部を刈りながら飛翔。
5体が動きを止めた。
猫またが着地し、すぐに飛ぶ。
同時に。
5体の侍ゾンビ、腹部から上が地面へ転がった。
呼子の音から、4分30秒。
第一段の爆破まで。
あと30秒に迫っていた。


「オイシイトコロハ、俺ガイタダクゼ!!」
オーチュン、走りながら。
ベレッタ92を左手に持ち。
ポイントショルダーで乱射。
両利きなのか。
右手で撃つ時とさほど変わらない腕前。
次々と迫ってくる侍ゾンビの頭を打ち抜いていた。
「オーチュン! 雑魚は後だ!」
こちらも特別拳銃で。
着地したばかりの侍ゾンビ3体を撃ち抜いた川嶋が叫ぶ。
「私たちの中でお前が一番足が速い! 先に行って朱雀門の予備門を開けてくれ!」
「30秒後には第一段爆破だ! こいつらが空けた穴から火が噴出する!」
後ろを振り向きもせずGlock20を背後に向かって撃ち。
3体の侍ゾンビを殲滅しながら。
樫本も叫んだ。
朱雀門までは、あと80メートルを切っているが。
ここで手間取っていては危険。
「Yes sir! 福男ハ俺ガイタダクゼ!」
冗談めかしているが。
表情はふざけていない。
ギアを一段、上げたように。
スピードが上がる。
そのオーチュンに。
侍ゾンビが斬りかかる。
「させるか!」
樫本、Glock20を放つ。
胸部に大きな穴を開け。
侍ゾンビが倒れる。
「Thanks!」
オーチュンが一瞬だけ樫本に顔を向け叫んだ。
「援護する! 急げ!」
樫本、続けざまにGlock20を撃ちつつ。
私の横に追いつく。
足の速さで言えば。
この中で私が一番遅い。
「隆! スピードアップニャ!!」
やや先行して侍ゾンビを倒していた猫またが。
私の肩へと着地。
「わーっとる!」
私、銃を撃ちつつ返答。
前から突っ込んできた2体の侍ゾンビの頭部に命中。
その脇を走り抜ける。
息が上がっている。
川嶋と樫本から遅れ始めた。
「猫またも先に行け!」
「了解ニャ! 福男は譲らないニャ!」
「ボケをかぶせて来なくていい! 早く行け!」
私、2メートル程度、川嶋と樫本に差をつけられる。
「わかったニャ! 隆も頑張るニャ!」
言うが早いか。
猫またが私の肩から再び飛び降り。
駆けだした。
目ざとい侍ゾンビ2体。
猫またに飛びかかる。
「邪魔するな!」
私、2発発砲。
同時に川嶋も2発。
それぞれ、侍ゾンビ2体の頭を打ち抜く。
木端微塵。
猫またが通過した後に。
侍ゾンビが倒れ。
その上を。
川嶋・樫本・私の順で飛び越す。
「ハードル走は苦手だ!」
言いながら。
私、樫本と川嶋を抜く。
もはや、30代の意地。
「四十五十には負けねぇぞ!」
叫びつつ。
両サイドから抜刀してきた侍ゾンビに向かって撃つ。
胸部に大きな穴を開け、抜刀したままの姿勢で侍ゾンビが崩れ去る。
その背後。
「なに!!??」
ゾンビが4体。
武士ではない。
軍服。
K国の星の紋章。
すでにハイニーリングでカラシニコフを構えている。
「飛べ!」
川嶋が叫ぶ。
3人同時に正面へ飛ぶ。
ゾンビ兵が引き金をひいた。
乾いた銃声の連続音。
私、飛びつつ。
左右に発砲。
川嶋も右へ。
樫本も左へ。
それぞれ発砲。
「く……」
私、思わず声が漏れた。
軍人ゾンビ4体の顔に。
私たちの弾丸は命中。
頭を吹き飛ばした。
だが、私の左肩。
熱い痛み。
前回り受け身の要領で着地。
回転してハイニーリング。
ウィーバースタイル。
正面で待っていた侍ゾンビが刀を振り降ろす。
私、2発発砲。
頭を吹き飛ばした侍ゾンビ、膝からゆっくり崩れ去った。
「大丈夫かボーズ!?」
樫本が叫びながら、私に駆け寄る。
「だらしねぇ……侍ゾンビだけじゃないことは考慮していたはずなんだが」
完全に待ち伏せされていた。
下らないミス。
左肩の服が破け。
肉がややえぐれている。
死ななかっただけ良しと思わざるを得ない。
「後には引けん。行くぞ!」
駆け寄ってきた川嶋が厳しい顔で、心配げな視線で。
私に怒鳴る。
「あぁ、主役が抜けるわけにいかんだろ!」
私、立ち上がりつつ駆け出した。
第一段の爆破まで、あと10秒。
オーチュンと猫または朱雀門目前。
私たち後続3人も朱雀門まで50メートルを切っている。
「急ぐぞ!」
川嶋が叫んだ。
だが。
川嶋・樫本と私に、またも差ができた。
約1メートル。
正面から侍ゾンビが4体。
私・川嶋・樫本、2発ずつ発砲。
顔面に大きな穴を空け。
侍ゾンビが崩れ落ちる。
その後ろから。
小柄な侍ゾンビ1体。
逆手持に短刀を持っている。
飛翔。
私へ目がけて飛んでくる。
「ふざけろ!」
私、上空へ向けて2発発砲。
だが、ほぼ同時に。
小柄な侍ゾンビが短刀を投げつけてきた。
私の左肩を掠める。
「ぃっ……」
私、走りながらも。
思わず左肩へ右手を添えた。
小柄な侍ゾンビが頭をなくした状態で地面へと落ちる。
「どうした!!」
樫本が振り向きかける。
「気にするな兄貴! 掠り傷だ!」
私、怒鳴りつつ。
左肩から右手を離して走る。
左肩がジンジンと痛む。
熱い。
しかし、かまっていられない。
2人との差が2メートルに広がる。
朱雀門へ向かって走る。
五間三戸の二重門。
立派な柱。
それら支える頑丈な基壇。
階段状。
1段、1メートル80センチ程度。
2段構造。
猫またが先に到着。
1段目の基壇に飛び乗った。
オーチュンが続き。
基壇に登る。
川嶋・樫本があと10メートル。
私、2人と3メートル差。
爆破まで、あと5秒。
「猫また! オーチュン! 予備門は二段目だ!」
川嶋が叫ぶ。
猫またとオーチュンが軽々と2段目に登る。
あと4秒。
川嶋と樫本、基壇の1段目の縁に手をかけて一瞬で飛び乗る。
私、あと5メートル。
爆破まで、あと3秒。
川嶋と樫本、基壇の2段目へ。
私、基壇1段目に手が届く位置。
あと2秒。
私の足元、道が盛り上がる。
「なんだと!!」
私、足をとられてよろけながらも基壇に左手をかける。
左肩に痛みが走る。
あと1秒。
地面に穴が開き、侍ゾンビが飛び出した。
私の足元の土も抉れ、陥没。
私、左手で基壇の縁を持ったまま宙に浮いた。
左肩に激痛。
「小若菜!!」
2段目に登り振り向いた川嶋が叫んだ。
刹那。
第一弾爆破。
私の足元から熱風。
私、思わず身体を曲げて。
くの字のような姿勢。
左肩に猛烈な激痛。
背中には劫火の熱さ。
いかに猫またの妖力で作り出している服とはいえ。
数秒で引火するだろう。
「私を焼いても美味くないぞ!」
私、ショルダーホルスターに銃をしまい。
右手も基壇の縁へ。
「隆!!上ニャ!危ないニャ!!」
猫またが叫ぶ。
私、見上げる。
「!!!」
今飛び出してきた侍ゾンビが。
私に刀の切っ先を向けて落下してきている。
「shit!!」
「ボーズ!!」
オーチュンと樫本が叫びながら。
それぞれベレッタ92とGlock20を侍ゾンビに乱射。
侍ゾンビから気配が消えた。
絶命。
だが、このままでは私に衝突。
ともに劫火に落下。
「冗談よせよ!!」
私、両腕に力を込める。
基壇に転がり込んだ。
ほぼ同時に。
私がぶら下がっていたあたりを。
侍ゾンビが落ちていった。
私、地下坑道を覗き込む。
燃え盛る坑道。
警備隊として待機していたのだろう。
複数の侍ゾンビが燃えている。
地上を見る。
自分たちが開けた穴から噴出した火に焼かれ。
熱さで悶絶しながら穴に落ちていく侍ゾンビたち。
二条大路が、完全に火の海。
予想外の地獄絵図。
「我ながら、ひどり作戦を立案しちまったな」
私は呟くと、立ち上がり。
2段目の基壇へと手をかけた。
「大丈夫カ、コワカナ!」
心底心配そうなオーチュンが手を差し伸べる。
「あぁ、ありがとう。助かった」
私、オーチュンの手を握る。
俊足とパワーを兼ね備えているオーチュンが。
私を一気に引っ張り上げた。
私も2段目の基壇に到着。
「イイッテコトヨ! ソレヨリ、怪我ガ……」
オーチュンが私の左肩を見る。
「これはひどいな」
オーチュンの横に立つ川嶋も眉根に皺を寄せた。
「ニャむ……」
川嶋の肩に乗る猫またも心配顔で頷く。
「あぁ……ボーズはここまでにしといた方がいい」
唯一、樫本が厳しい顔で言葉を続けた。
「ここなら第二段の爆破にも耐えられる。朱雀門側へ逃走を図ってきた敵方への攻撃もできる。内部錯乱は無理でも、それくらいならできるだろう」
「おいおい、待ってくれ兄貴」
私、胸ポケットからサングラスを取り出し、着用。
笑って見せる。
「これだけ明るけりゃサングラスかけて戦える。ようやく『小若菜隆』らしく戦えるんだ。ここからだろう」
「下らないことを言ってる場合じゃない。その怪我では……」
「本作戦の初期立案は私だ」
私、サングラス越しに樫本を睨んだ。
「立案者としての責任がある。最後まで戦わせてもらうぞ」
しばしの睨み合い。
先に、樫本が小さく吹き出した。
「わかったよ」
樫本が目を細め、笑う。
「そういう意地っぱりなところは、昔っから何も変わらないな、ボーズは」
「自分でも、そう思う」
私、ヘラッと笑って見せた。
「あと1年で不惑なんだがな。どうも、強情っぱりなところは治らないらしい」
「そうだな。だが、気をつけろ」
樫本が顔つきを戻す。
元上官の、厳しい顔。
「それが、命取りになることもある」
「わかってる……いや、了解致しました、肝に銘じます、樫本軍曹」
私、敬礼。
「わかればいい、小若菜伍長」
樫本がニヤッと笑いながら返礼し、敬礼を解いた。
私も笑い返し、敬礼を解く。
「で、予備門の鍵は?」
私、川嶋を見る。
「あぁ、もう突破できる」
川嶋が返答。
「随分早いな」
「hahaha!!」
私の言葉に。
オーチュンがアメリカンコミック様式の笑い。
「俺ヲ誰ダト思ッテルンダ?電子工学ノProfessorダゾ!」
オーチュン、斉藤さんの動作をパクり。
「あ、ごめん。それ、私が前回使ってる」
私、素で謝る。
「エーー! ソウナノ!? セッカク勇気ヲ持ッテ人ノギャグヲパクッタノニ……」
オーチュンが落ち込みの溜息。
「いや、お笑い芸人として勇気を持ってパクッちゃいけないと思うが……まぁいい。とにかく、予備門の扉は開くんだな」
「アタリキシャリキクルマヒキ! アンナ幼稚ナ電子錠、0.5 secondsアレバアケラレルゼ!」
オーチュンがドヤ顔しながら。
自分の鼻を親指で擦った。
「0.5秒!?」
私、驚きで声が裏返る。
「驚くのは無理もないが、我々が登ってきたときには、既に開け終わっていた」
「さすが、マサチューセッツの大学出だな。しかし、見たところ……」
朱雀門には、大きな三戸の扉だけではなく。
両サイドの間に小さな扉、予備門がある。
三戸の大きな扉は内側に閂が通され、外からは開けられないが。
予備門は電子錠だけだと、最後の科学者の助手から証言を得ていた。
「予備門は2つある。開けられたのはどっちの門だ?」
「どっちもニャ♪」
基壇2段目に一番乗りしていた猫またが。
川嶋の肩の上で、ドヤ顔しながら顔を洗う。
「どっちもって、お前、電子錠開けられたのか?」
「ニャむ? 当たり前ニャ♪ オーチュンが電子工学ニャら、僕は妖力のプロフェッショニャルニャ♪」
「妖力のプロフェッショナル?」
「そうニャ。あれを見るニャ」
猫またが左側の予備門を左前足で示す。
私、視線を向ける。
風の加減か。
扉が少し開いた。
「おぉ! もう開いてるじゃないか」
「さっきからそう言ってるニャ」
猫またが私の右肩に飛び乗った。
「どうやったんだ?」
「ニャんてことニャいニャ。僕、一足お先に内部に入ったニャ」
「内部に?」
「2段目の基壇に飛び乗ってすぐに塀の上に飛び乗って中に入ったニャ」
「塀の上って……」
私、朱雀門の左右に続いている塀を見る。
2段目の基壇よりも1メートルほど高い。
「その塀に飛び乗って中に入って、内側から鍵を開けたのか?」
「そうニャすよぉ♪」
猫また、ドヤ顔。
「塀に飛び乗って内部の基壇に飛び乗って内側から手動でロックを解除して塀に飛び乗ってここに戻ってきたニャ」
「もはやコンマ0.5秒とかの次元じゃない動きだな」
「だから、妖力ニャ。猫また系妖怪の真骨頂ニャ♪」
「なるほど、よくやったな」
私、右手で。
右肩に乗る猫またの頭を撫でる。
「ニャはは♪ これくらいは朝飯前ニャ」
「おしゃべりはここまでだ」
川嶋が陸上自衛隊専属モデルの腕時計・S690M-01を見る。
「第一段爆破が終了して2分。内部もかなり混乱しているだろうし、第二陣の爆破まで、あと3分だ。そろそろ中に入るぞ」
「了解。ここからは、別行動だな」
「そうだ」
私の言葉に川嶋が頷く。
「個別で進軍してもらう。インカムは装着しているか?」
川嶋、全員の顔を見る。
「Of course.But、コイツハ使イ物ニナラナイゼ」
「なに?」
オーチュンの言葉に川嶋が返答。
「基壇ノ1段目ニイルトキハ聞コエタガ、2段目ニキテカラハ走ッテクルオタクラノ声ハ全然聞コエナクナッタ」
「そんな……おい、乱堂、小林、聞こえるか!!……くそ、K国お得意の妨害電波か」
川嶋が苦々しげに吐き捨てる。
「予測はしていたが、まだそれだけの設備を残しているということ。ここまで以上に気を引き締めないと殺られるな」
樫本が私の顔を見る。
「そのようだ。ここからが、本当のDead or Aliveさ」
「Dead or Alive、か。小説でもあるまいし、カッコつけるな」
樫本、私を嗜める。
「カッコつけるのも、治りそうもないんでね」
私、ニヤリと笑い。
「では川嶋さん、突入と行きますか」
「あぁ。私と小若菜・猫または西側から、樫本とオーチュンは東側から、それぞれ北上してくれ」
「「「了解!」」ニャ!」
「Yes sir!」
川嶋の指示に、私たちは敬礼。
川嶋が返礼して、解き。
私たちも敬礼を解くと。
それぞれ、予備門へと走った。
第二段爆破まで、あと2分になっていた。


「なにごとだ!!」
安城京跡・大極殿。
玉座に座る黒幕の右に立つ元K国軍部統括大佐が叫んだ。
「爆破のような音でしたが……」
玉座の左に立つ元K国近衛隊中佐が心配顔で眼鏡を直しながら。
音がした方角を見る。
二条大路方面。
「……」
黒幕が小さく息を吐き。
眉間に皺を寄せる。
統括大佐の作戦により、小若菜と猫またを殲滅させる小部隊を送り込んでいた。
また、それが倒されても。
すぐに別の侍ゾンビが坑道の一部を封鎖し、敵に逆利用されない手筈になっていた。
逆を言えば。
たった3体の侍ゾンビで倒せるとは思っていなかった。
ただ、こうした細かな攻撃を昼夜問わず、数日間に渡り。
小若菜や猫また、あるいは敵方の上層部や腕利きたちに繰り返し行うことで。
肉体的以上に精神的に消耗させた上で。
残った侍ゾンビたちを使い一斉攻撃を開始し。
そちらへ敵の目を引きつけておきながら。
自分たちは北都に戻り。
手薄になっているだろう相手方の転送ボットを奪い。
自国へ退却する。
これが、統括大佐のシナリオだった。
態勢を立て直せれば、まだ戦える。
黒幕自身も、そう考え。
作戦を了承した。
しかし、目算は完全に崩れていた。
柳生半蔵の進言により、自衛隊がすぐさま反転攻勢に出ていると。
この時点で、黒幕たちは知る由もない。
「申し上げます!!」
大極殿前に広がり、松明がたかれ明るくなっている謁見用の広場に。
1人の近衛隊部隊兵が走り込んできた。
広場の中央にたどり着き、黒幕に向かって恭順のポーズ。
「何があった! 即答を許す!」
近衛隊中佐が声を張る。
「はっ! 二条大路地下に張り巡らせておりました地下坑道に火の手が!」
「なんだと!」
統括大佐が叫んだ。
「また、敵方の川嶋三等陸佐、小若菜三等陸曹、猫また陸士長、オーチュン米軍中尉、それに傭兵の樫本が二条大路を突破。その際、警備部隊の侍ゾンビが大路に穴を開け阻止せんと奮戦したため、火の手が大路にもまわり……」
「……なに?」
やや脚を開き、膝に肘をつき、手を顎に当てていた黒幕が立ちあがった。
「直答を許す。つまり、何が起こってるんだ」
「は、はっ!」
近衛隊部隊兵がますます頭を下げる。
「お、恐れながら、地下坑道だけではなく、二条大路も通過不能であります!」
「なん……だと……」
統括大佐が呟いた。
「閣下。この場は危険です」
まだ冷静さを保っている近衛隊中佐が黒幕を見る。
「まだ二条大路方面の地下坑道がやられたにすぎません。今は北部方面の地下坑道から脱出し北都に向けて……」
「申し上げます!!」
黒幕と近衛隊中佐が声の方へ顔を向けた。
広場に別の近衛隊部隊兵が駆け込む。
中央に走り、先に来ていた近衛隊部隊兵の横で恭順のポーズ。
「今度はなんだ! 即答を!」
近衛隊中佐が怒鳴った。
「はっ! 二条大路下に続いて一条北大路、西一坊大路、東一坊および東二坊大路の地下坑道からも爆破!」
「なにぃ!」
統括大佐が再び叫んだ。
「安城京跡周辺の地下坑道は、すべて使用できません!!」
近衛隊部隊兵が悲痛な声で報告。
「なんてことだ……」
統括大佐が視線を落とした。
「閣下……」
近衛隊中佐が黒幕を見る。
「……まさか、すぐさま反撃に打って出るとはな」
黒幕が、ドサリと玉座へ座った。
「閣下! お気を確かに」
「大丈夫。気は確かだ」
自衛隊のこと、反撃してくるにしても明日の夜だろうと想定していた。
準備を万端に整えたうえで、侵入してくるだろう。
また、侵入部隊の身の安全を確保するため。
無理な戦いはしてこないはず。
ましてや、坑道を爆破するような作戦など。
とるはずがないと思っていた。
「読み誤ったな……」
黒幕が自嘲気味な苦笑。
「現在、妨害電波を強め敵方の通信網は我々陣地内に届かなくしております!」
2人目の近衛隊部隊兵が報告を続けた。
「よくやった! 敵の部隊数は!」
近衛隊中佐が報告を促す。
「5人のみ! 現状、本体に動きはない模様!」
「わかった! 閣下、私が指揮をとり、地下坑道の消火にあたります。安全が確保され次第、脱出を」
近衛隊中佐が進言。
「……わかった。今ならば夜陰に乗じて逃れられる」
恐らく、5人は内部攪乱を目的としているか。
自軍の目を引きつける囮の部隊。
敵方の本隊は上空から攻め込む算段だろう。
ここまで思い切った行動をしておいて。
本隊を投入しないはずがない。
少なくとも自分が相手の立場なら、ここで一気に叩き潰す。
つまり、自分に残された時間は、少ない。
「急いで消火を。多少火が残っていてもかまわん。通行できるようになったら、すぐにここを脱出する。頼んだぞ」
黒幕が座ったまま、近衛隊中佐を見上げた。
「か、かしこまりました!」
近衛隊中佐が簡易的な恭順のポーズ。
すぐさま解き。
「統括大佐殿、閣下の守護を! お前たちは私に続け! 一条北大路の地下坑道の消火にあたるぞ!」
走り出した。
「「はっ!!」」
人員的に無理がある指示なのは。
近衛隊部隊兵もわかっている。
しかし、他にやれることはない。
しかも。
直属の上司で、部下思いな近衛隊中佐の指示。
軍人として、男として。
やらないわけにはいかない。
近衛隊部隊兵2人も立ち上がると。
広場を走って後にした。
「……なぜだ……なぜ、こんな……」
半ば放心状態に陥っている統括大佐が呟く。
「さぁてな、私にもわからんさ」
黒幕が玉座に背中を預けた。
「え……?」
普段からはありえない口調。
統括大佐が思わず黒幕を見る。
黒幕の口許が、やや微笑んでいる。
「……美しいな。火に照らされた夜空というのは」
二条大路の上空。
普段ならば満天の星空。
しかし、今は。
紅蓮の炎で色づいている。
「は……」
「私にも、わからん。なぜ、こんな事態になったのか」
生まれ故郷で跡目争いに敗れ。
再起を図るためパラレルワールドへ。
元K国軍部最上級司令官と袂を分かち。
こちらの世界に移動。
中世の日本に似た世界。
破竹の勢いで敵を破り。
ゾンビを増殖させ。
あとは北都と南都を制圧し、自分たちの世界へ帰る手段を得て。
自国に戻り。
ゾンビ兵を使い。
故郷はおろか、世界を手中に治める……はずだった。
「なぜ、こんな事態になったのか……」
フェアリーアイズに、火に焦がされる夜空が映る。
「……考えても、仕方あるまい」
黒幕が座り直した。
ここで死ぬわけにはいかない。
近衛隊中佐が消火した坑道を通り、北都に逃れる。
今はその手しかない。
「統括大佐、近衛隊中佐の声は聞こえていたか」
「は……閣下の、守護を、と」
「その通りだ。ここは近衛隊中佐の帰りを待つしかない。その間、例の5人がここに来たら、返り討ちにしろ。わかったな」
「は……はっ!」
統括大佐が慌てて恭順のポーズ。
「その必要はないぜ」
広場の出入り口から、聞き覚えある声。
「だ、誰だ!」
統括大佐が慌ててヒップホルスターからCz75を抜いた。
だが。
銃口を上げることはなかった。
眩いほどの光が広場から放たれ。
統括大佐を飲み込んだ。
断末魔をあげることすらできず。
光が消えたと同時に。
統括大佐は跡形もなく、消え去っていた。
「……お前か」
黒幕が、いつもの態勢に戻り。
光を放った主を見下ろした。
「へっへっ、久しぶりだな、閣下の旦那」
手の目がニヤリと笑う。
「我々の宝物を盗んだ挙句、ベアードに殺されたと聞いていたが?」
黒幕、冷たい視線。
「けっ! そこにいる統括大佐が俺をコケにしやがったから、んでやったまで。ベアードの件も、あいつが裏切りやがったから灰になっちまっただけだ」
手の目、広場にペッと唾を吐く。
黒幕、忌々しげに見下ろす。
「だが、俺はそう簡単に死にやしねぇ。小若菜の野郎、アマちゃん過ぎるぜ。ヒッヒッ」
肩を小さくゆすり、手の目が笑う。
「俺の命を助けたこと、あいつらに後悔させてやる。どうだい、閣下の旦那。ここは組まねぇか」
手の目が顔つきを変えた。
「俺はあんたの部下にひでぇめにあった。だが、それもこれも、統括大佐の野郎を殺せたから水に流してやる。そちらさんも、てめぇの部下を殺されたかわりに身を守ってもらう用心棒が必要だろう? どうなんだい?」
「……確かにな」
黒幕が小さく頷いた。
統括大佐については。
ここを引き払った後、死して敗戦の罪を償ってもらう予定だった。
今殺されるか、後で殺すかの差でしかない。
手の目を恨むことはない。
しかし、現状。
自分の身を守ってくれる者は必要。
手の目の実力ならば。
5人が束になっても敵わない。
「わかった貴様を雇ってやる」
「雇う?」
「そうだ。ここを抜け出し、北都へ行き、我々の世界に帰る。それまでのボディガードだ。不服か?」
「いや、構わねぇ。いくらで雇ってもらえるんでぇ」
「5万ドル」
「よし決まった」
手の目が手を打った。
「だが、今はここから出られねぇ。少し様子を見よう。そっちへ行くぜ」
手の目が大極殿へ向かって歩き始めた。
「致し方ないな」
黒幕が視線を逸らし。
苦々しげに奥歯を噛んだ。
刹那。
第二段爆破の爆音が轟いた。


「やはり、無線が通じません」
野営地、作戦本部テント内。
無線機前に座る乱堂が振り向き、田中に伝達。
「基壇の2段目に登ったあたりまでは、突入部隊の声が聞こえていたのですが……」
「……妨害電波だな」
今回は全体の指揮を任されている田中が、燃え盛る二条大路と安城京跡を見ながら振り返らず返答。
「全軍に伝えてくれ。敵陣内および周囲一部で妨害電波あり。突入本隊の各部隊は電波装置を見つけ次第、即破壊せよ」
「了解しました」
乱堂が、インカム装着者に同時受信可能な無線マイクで伝達。
「あと2分で爆発です」
乱堂の隣に座り、爆破までの伝達係を務める小林が口を開いた。
「わかった」
田中が返答。
「失礼します!」
テントの外から自衛官の声。
「入れ」
「失礼します! ただ今、寺田・満腹両三等陸曹が帰還致しました」
「失礼致します」
寺田、続いて満腹が。
テントに入る。
「何をしていた!」
田中が怒鳴った。
「無線連絡もなく、報告もなく、今までいったい……」
「お叱りは後ほど。それよりも、安城京跡内や周辺に手の目が潜んでいる可能性があります」
「なに?」
寺田の発言に、田中が眉間に皺を寄せた。
「どういうことだ?」
田中、話を促す。
「満腹三等陸曹と南都街道を南下中、手の目と遭遇。応戦しましたが及ばず、小トラ1台を強奪されました。また、応戦中に無線機が破壊。連絡がとれずにおりました」
「そうか。しかし手の目は……」
「ベアードが全妖力を北都監視に向けてたから灰の状態から復活して、片輪車を脅して南都街道で僕たちを襲ったんだよ」
満腹が緊張感のない口調。
しかし、顔つきは。
一切ふざけていない。
「なんてことだ……乱堂陸曹、すぐに全軍に無線で連絡を!」
田中が乱堂に指示。
「しかし、川嶋陸佐以下5名のインカムは通じません」
乱堂が振り返り、返答
「……そうだったな……」
乱堂の言葉に、田中が地面を睨みつける。
「……5名以外の全軍に伝達。内部もしくは周囲に手の目がいる。注意せよと」
「はっ!」
乱堂が姿勢を戻し。
無線機で伝達開始。
「……手の目とは……」
田中が呟き。
小さく首を振った。
「爆破まで、あと30秒です」
小林が伝達。
「わかった」
田中が顔を上げ。
寺田と満腹を見る。
「寺田・満腹の両陸曹も守備隊に合流を。案内しろ」
田中が、寺田と満腹をつれて来た自衛官に指示。
「はっ!」
自衛官が敬礼。
「では、参ります」
「ぶひ!」
寺田と満腹が敬礼。
「疲れているだろうが、しっかり頼みます」
田中が返礼し、解いた。
ふたりも敬礼を解き。
テントを出ていく。
第二段爆破まで、あと20秒。
「ここで退くわけにはいかない」
田中が呟く。
「どうか皆さん、ご武運を……」
田中が再び、安城京跡を見る。
基壇2段目に。
5人の姿は、既にない。
「第二段爆破まで、あと10秒」
小林が伝達。
「全員に伝達! 爆破の衝撃に備えよ!」
田中が怒鳴った。
「はっ!」
乱堂、全軍に伝達。
小林が秒読み。
「爆破5秒前、4、3、2、1、今!」
ほぼ同時に。
第二段爆破の爆音が響いた。

「Dead or Alive(5) ―新・ゾンビサバイバル 228~237日目―」へ続く)

(プチあとがき)
いやぁ、終わらない終わらない(笑)。
まだまだ続きますので、どうぞ、ながーい目で、お楽しみくださいませ。
では、また!
↑これからお出かけなので、あとがきはここまでで失礼致しますm(●_●)m
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前回の内容はこちら↓を参照
2017-04-02
Dead or Alive(2) ―新・ゾンビサバイバル 228~237日目―
http://ameblo.jp/h-m-taka5723/entry-12262041363.html


亥の刻・五ツ(午後7時)。
奉行所を後にした私たちは。
野営地にあてがわれたテントに入った。
既に外は暗く。
テントには電気代わりの提灯が2つ。
「つまり、明日の夜に決行というわけですか」
私の後ろからテントに入った河上が口を開く。
「あぁ。既に音波探知機で坑道の場所はある程度把握できた。安城京跡の四方から南都の街や村に伸びているそうだが、そこへ爆薬を仕掛ける柳生の忍者たちが入り、セッティングが完了したら突入部隊が陸上から安城京跡へと向かう」
「その部隊には小若菜殿も?」
河上に続いてテントに入った岡本が、出入り口になっている布を閉めながら質問。
「もちろん。私と猫または突入部隊だ」
「では、今宵はゆるりと休まねばなりませんね」
私の返答に岡本が優しい笑みを浮かべる。
「申し訳ないが、そうさせてもらうよ」
「よろしくお願いしニャす」
猫またが『ごめん猫』のポーズ。
「おまかせ下さい。夜間の守り、務めさせて頂きます」
河上が笑顔で力強く頷き。
岡本が顔を引き締めた。
「それにしても、なかなかにハードな作戦ニャ」
明日の夜。
柳生の忍びが坑道につながる穴を空け。
ゾンビ兵に見つからぬよう坑道内にくまなく時限発火装置付き爆薬を仕掛ける。
5分後、第一段の爆薬が爆破。
坑道を火の海とし、守備隊である侍ゾンビを死滅させる。
また、坑道が燃えれば安城京跡内部も浮足立つ。
その隙をつき内部へ侵入するため。
第一段爆薬設置後4分後に。
私と猫また、川嶋と樫本、それにオーチュンの突入部隊が安城京跡の朱雀門へと走り。
第一段爆発から5分以内に内部へ侵入。
同じく、第一段爆発から5分後に。
第一段爆破に引火せぬよう細工された第二段爆薬が爆破。
坑道を破壊し、安城京跡を囲む一条北大路・西一坊大路・二条大路・東一坊大路・東二坊大路を崩壊させ。
安城京跡から南都の街や村に逃げる術を完全になくし。
黒幕や敵方を逃走できなくさせる。
その状況で、私たち突入部隊は内部を可能な限り殲滅しつつ混乱させる。
そして、私たちが突入してから5分後に。
上空から本隊である自衛隊の部隊を投入。
敵を一気に殲滅する。
「まぁ、かなり荒っぽいっちゃ荒っぽい作戦だが」
「他人事みたいに言わないでニャ。最初の立案は隆ニャ」
猫またが突っ込み。
「まぁまぁ」
岡本が宥める。
「とにかく、今はゆっくりなさって。今日は長池の宿まで歩かれてお疲れでしょう」
確かに、足がかなりだるい。
この状態で、地下から来るかもしれない敵を警戒し、夜通し起きていては。
明日の作戦に差し支える。
そこで私の護衛として。
岡本と河上が派遣されていた。
「あぁ、ありがとう」
私は簡易ベッドに座った。
「もっとも、かなり固いが……」
「文句言っちゃダメニャ。横になれるだけありがたいニャ」
私の言葉を猫またが窘める。
「そういうお前は私の身体の上で丸くなって寝るつもりだろ?」
「ニャ、ニャむ?」
猫また、たじろぐ。
「なんなら、お前もベッドの上で寝るか」
「ニャ、ニャむる?」
猫また、すっとぼけの表情。
「またそうやって誤魔化しやがる」
「ま、まぁまぁ(汗)。ところで食事は済ませられましたかな」
岡本が再度、宥めてから、質問。
「いや、まだだが……言われてみればお腹すいたな」
「ニャむ……」
私の言葉に返答しつつ。
猫またがお腹を鳴らした。
「なんてタイミングのいい……どれ、軽く食べとくか」
私は胸ポケットから、私たちの世界の固形食糧を出し、口にした。
「あ、いや、すぐに食糧部隊へ伝達すれば……」
岡本がテントを出ようと歩き出そうとした。
「いや、いいんだ」
私、手で制する。
「こんな状態で簡易食糧を食べるのも、これでラストかもしれない。それに明日、戦いのときに簡易食糧を持っていても邪魔になるだけ。ここで消化させてもらうよ」
「そ、そうですか」
立ち止まった岡本が返答。
「これで最後、ですね」
河上が言いながら、ベッドの横に置かれた迷彩色のXチェアに座る。
「ニャむ。ついに終わるニャ」
言いながら、猫またがベッドに降りた。
「だといいがな」
今までも、終わると思った戦いで。
最終戦にならなかったことが多々ある。
「しかし今回は敵方を完全に包囲しております。ネズミはおろか、蟻の子一匹逃がさないでしょう」
岡本が河上の対面にあったXチェアに座る。
「まぁ、そうだな」
岡本の言う通り。
いかな黒幕とはいえ。
この包囲網は突破できないだろう。
さすがに今回ばかりは、最後の戦いになる。
「これが終わったら、もう戦わなくていいニャ」
猫また、少しホッとした様子。
「ん? あぁ。そうだな」
戦闘力は低くないものの、根本は平和主義者な猫また。
戦いを好まない。
「低くないどころか、私以上に戦闘能力は高いと思うが……あ、そうだ。猫また、ひとつ質問していいか?」
「ニャむ? 懐かしの『質問コーナー』かニャ?」
「そんなぁ時代もぉあぁったねとぉ……って、そうでなくて」
私、思わず中島みゆきを口ずさみ。
言葉を続けた。
「お前、代官たちに会った時に妙な反応してたよな。あれ、なんだ?」
「ニャむ? あニャ、別に大したことじゃニャいニャ。皆さんが、ちょっと似てたから、少しびっくりしたニャ」
「ちょっと似てた? 誰に?」
「時代劇に出てくる人たちニャ」
「時代劇に出てくる人たち?」
「そうニャ。しかも悪役ニャ」
「悪役って……あー、確かに」
私、鳥居以下6人の顔を思い出す。
「いっつも時代劇で切られたり、刑事モノで犯人してる役者さんたちに似てたな」
「筆頭与力の神崎さんは怪人二十面相の人みたいだったニャ」
「その例え、岡本や河々さんだけじゃなく、30代以下の読者さんたちにもさっぱりわからんと思うぞ」
私、古い例えに思わず突っ込む。
「まぁ、それを理解できてしまう私も古い奴だが」
「鶴田浩二さんニャ」
「古い奴だとお思いでしょうが……って、代官は鶴田ではない浩二さんに似てたな」
「中田さんの方ニャ」
「釈は水戸黄門で最多ゲストだった方に似てたし……」
「寺本さんは元ウル○ラマンニャ」
「軍師官兵衛にもべっぴんさんにも出てたな」
「春日屋さんは東大卒の役者さんそっくりニャ」
「え? 田○計さんって東大卒なの?」
「そうニャすよ。知らなかったニャすか?」
「知らんかった。そうか、田口○さんは東大出なのか」
「庄屋の三輪さんは、小悪党の役から好々爺までこなされるニャ」
「映画の『座頭市』でボロボロに突き刺されるシーン、あれは恐かったなぁ……」
なお、これら役者さんのお名前を確認されたい方は、最終決戦後の『勝手にキャスティング・最終版』でご確認下さい。
「な、なんですか、今の会話は?」
ポカーンと聞いていた河上が質問。
「いや、まぁ、私たちの世界のことで……もう1つ、聞いていいか?」
私、強引に話題を変えるため、猫またへ質問。
「ニャに?」
猫また、平然と返答。
「お前、剣術の腕前は大したことないと言ってたよな」
「ニャい。大したことニャいニャ」
「そうは思えないがな」
「ニャむ?」
「さっきも言ったように、悔しいがお前は私より戦闘能力が高い」
「お褒め頂き、恐縮ニャ」
猫またが再度、ごめん猫の姿勢。
「恐縮せんでも事実は事実だ。それに、妖怪としてだけじゃなく、侍としても、かなりの手練れだと思うが」
「ニャんと!」
猫また、顔を上げる。
「確かに、猫また殿の剣術はなかなかのものかと」
河上が言い。
「左様です。腕利きの部類に入ります」
岡本も頷いた。
「そんニャことニャいニャヾノ=●д●=`;) 」
猫また、必死の否定。
「全然ニャ。武士として恥ずかしい程度ニャ」
「そうかな。隠密同心をやった時も、七歩蛇ほどではないが十二分にいい腕だった。もし武士を続けていれば仕官の道もあったろうに」
「ニャいニャいヾノ=●▽●=`)」
猫また、またも右前脚を振って否定。
「僕は武士に化けてたから確かな氏素性を名乗る術がなかったニャ。ニャから仕官の道は……」
「それ、前回のゾンビの世界で聞いた話だな。でもな猫また。江戸時代には宗門人別改帳ってのがあったんじゃないか?」
「ニャノ;=●▽●=`)……」
猫またが固まる。
「化けているとはいえ、お前のことだ。ちゃんと細工して宗門人別改帳に名前を載せてたんじゃないか? でなきゃ、捕縛の手伝いなんて頼まれない。岡本」
私、岡本を見て、言葉を続ける。
「同心や与力が氏素性のわからない浪人者に捕縛の助っ人を依頼するか?」
「いえ、少なくとも私の周りではありません」
岡本が軽く首を振る。
「だろう? 私たちの世界の江戸時代について、私は浅い知識しかないが、与力や同心が素性の不明な者に手助けを依頼するとは思えない。少なくとも、宗門人別改帳に名前のない者には頼まないだろう。どうだ、猫また」
私、視線を猫またへ。
「……まいったニャ(´●n●`)ゞ」
猫またが困り顔。
「だいたいに、ニャんで宗門人別改帳のこと知ってるニャ。○口計さんが東大卒ニャの知らニャいのに」
「比べどころが良くわからんが、お前の言葉で思い出したのさ」
「ニャむ? 僕の言葉?」
「あぁ。こちらの世界の戸籍台帳の話をしていた時、私たちの江戸時代にも戸籍台帳みたいのがあった、と言ってたろう。あれを聞いて、そういえばと思ったんだ」
「ニャんとまぁ……3か月も前のことニャ。なんでその時に聞かなかったニャ」
「聞きそびれて忘れてたんだ。なぁ猫また、それだけの腕があって、なんで武士を続けなかったんだ?」
「ニャむ……仕方ニャいニャ」
猫またが観念したように説明を始めた。
「ちょっと言いにくい理由ニャけど……簡単に言えば、侍にもいい人と悪い人がいるって、武士にニャってわかったからニャ」
「悪い人? 時代劇の悪役が演じるような?」
「悪代官とか悪い奉行とか町人に金品を要求する与力・同心とか悪徳商人とか小狡い庄屋さんを、僕は知らないニャ。でも、人として間違えたことをする武士はいたニャ」
「だろうな。どんな時代にも、どんな仕事に就いている人でも、悪い奴はいる」
「僕、武士にちょっと憧れをもってたニャ」
猫またが、悲しげな顔。
「でも、岡本さんや河々さんみたいな人たちばかりじゃなかったニャ」
猫またが岡本と河上の顔を見る。
「つまり、幻滅して武士を辞めた、ということか」
私、話の続きを促す。
「……前にもはニャした(話した)けど、仲良くしてくれてた与力さんがいたニャ」
「捕物でお前に声をかけてた」
「そうニャ。でも、辻斬りの下手人を捕縛しようとして、逆に斬られたニャ」
「なんと……」
「それは……」
河上と岡本が声を上げた。
私も眉間に皺が寄る。
それぞれ、仲間を殺される辛さは知っている。
「僕も捕縛に参加してたニャ。目の前でやられたニャ」
「目の前で! それはお辛い……」
岡本が顔を横に振った。
「与力さんを斬ったのは、顔見知りの浪人だったニャ」
「……え?」
河上が間を置いて聞き返した。
「僕とも、与力さんとも知り合いの浪人だったニャ。それが辻斬りしてただけでもショックニャのに、目の前で知り合い同士が命のやり取りをしたニャ。その事件以来、僕は刀を置いたニャ」
「そうだったのか……すまなかった」
私、猫またの頭を軽く撫でた。
「ニャむ?」
「嫌なことを思い出させた」
「ニャむ。いいってことニャ」
猫またが悲しげながらも顔を上げ、笑顔に戻る。
「オーチュンか」
私もあえて笑いながら。
普段通りの突っ込みを入れた。
猫またの心情を慮った言葉のひとつでもかけるべきなのだろうが。
悲しんでいる場合ではない。
周囲の気配が変わった。
何かが蠢く気配。
「どうやら、お出ましのようだな」
私、銃を抜いた。
「ニャい」
猫またが私の肩に飛び乗り。
顔を引き締めた。
その瞬間。
地面が盛り上がり。
物凄い勢いでゾンビが3体、飛び出してきた。
例えるなら。
『笑ってはいけない24時』の鬼が登場するかのように。
「下らねぇ表現してんじゃねぇ!」
私は本文を批難しつつ。
飛ぶゾンビにポイントショルダーで銃口を向けた。
同時に。
岡本と河上が立ち上がりつつ。
電光石火、居合抜き。
私も2発、発砲。
着地したばかりのゾンビ3体が動きを止めた。
そのまま、崩れ落ちる。
「侍ゾンビ、だな」
私は立ち上がると、倒れているゾンビを見下ろした。
抜いた刀を手にしている。
「そのようですね」
岡本も刀をしまいながら、切ったばかりのゾンビを見る。
河上も刀を収めた。
「何事か!」
テントの外から声。
こちらの世界では聞いたことがない。
しかし、どこかで聞いたことがある。
「誰だ」
河上も聞き覚えがない声だったのだろう。
収めたばかりの刀の鞘に手をかけた。
「安心いたせ。仲間ぞ」
呟くようで、それでいて迫力のある口調。
続いて、テントの出入り口になっている布が乱暴に放たれた。
(私)「……は?」
(猫また)「ニャんと!?」
漆黒の忍装束。
頭には三連星の鉢金付き頭巾。
鼻と口は六尺手拭で覆われている。
そして、右目は刀の鍔を眼帯にしている。
BGMとして『影の軍団Ⅳ(幕末編)』のテーマが流れる。
「なんで柳生じゃなくて服部要素が充実なんだ?」
私、思いっきり抱いた疑問を口にする。
「服部? 誰だそやつは」
やはり呟くようでありながら力強い物言いで返答。
その背後には川嶋も立っている。
「もしや……柳生半蔵?」
河上が驚いたような表情。
「柳生……半蔵?」
私、あまりのドッキングで眉間に皺が寄る。
「いかにも。我(われ)は、柳生半蔵」
「で、伝説の忍びが、なぜここに……」
岡本も驚きを隠せない様子。
「兄・広重からの命を受け、配下の者たちと爆薬を作り、お持ちした」
岡本をぎろりと見ながら、柳生半蔵が返答。
「しかし、どうやら敵方から先手を打ってきおったな」
柳生が躯になった3体のゾンビ兵を見下ろし。
ついで、大きく開いた穴を見る。
「……川嶋殿。これは好機かもしれませんぞ」
顔を左に向け、視線を川嶋へと向ける。
「好機? どういう意味です」
川嶋が柳生の横に立ち、聞き返した。
「先ほどお聴きした話では、既に戦える状態は整っておるとか」
「確かに、明日の2000(ふたまるまるまる)には開始できるよう準備を整えていますが」
「ならば、今すぐは戦えぬか」
「戦えないことはありませんが、作戦は明日の2000に決行……」
「しかしながら、川嶋殿」
柳生が川嶋の言葉を遮るように発言。
「敵方から攻めてきた。このまま放っておけば、またどこから攻められるか」
「危険なのは承知しております。しかし今から攻撃するのは……」
「攻撃は最大の防御と申す。敵方も、まさかすぐさま反転攻勢に出られるとは思っていないはず。また、腐肉人どもが開けた穴を活用し、相手を錯乱させることもできましょう」
「相手を錯乱。どういう意味だ?」
私、話に割って入る。
「左様。敵は自身の開けた穴しか把握しておらん。その穴から我が敵陣に突入し戦っている間に、我らの別働隊が穴を開けて忍び込めば……」
「相手の気をそらして、爆薬をしかける、か」
「いかにも」
私の答えに、柳生が力強く、大きく頷いた。
「我が中に入り、相手を引きつけ、その間に配下の者たちに爆薬をしかけさせましょう。その間に突入される方々は走って頂く」
「……なるほど。相手の虚を突く、か」
川嶋が納得した表情。
「わかりました。では、すぐに」
「お待ちください」
河上が手で制した。
「拙者も、柳生殿とともに坑道に入ります」
「私も、お供させて頂きます」
岡本も、普段は見せない鋭い眼光で柳生と川嶋を見る。
「ならん」
柳生が返答。
「危険な任務。そなたたちには家族もおると聞く。この任務は……」
「我らとて、この場を死に場所と思い来ております」
河上が穴を挟んで柳生に半歩、詰め寄った。
「いかにも。武士として、侍として、ここで命を賭して戦わねば末代までの恥じにございます」
岡本もズイと前へ。
「……そうか。わかった。では一緒に参れ」
柳生が大きく頷く。
「川嶋殿、全軍に指揮を。我が配下には『我行かん。爆薬設置。合図は笛』とだけ伝えて下さい」
「わかりました。小若菜と猫またはここに残り、穴からゾンビが出てきたら応戦を」
「私たちの安城京跡への突入合図は?」
私、質問。
「事前の作戦通り、笛の音が聞こえたら4分後に朱雀門へ向けて走ってくれ」
「了解」
「ニャい!」
猫またが敬礼。
「では、私は全部隊に伝達してくる」
川嶋が返礼し、テントを出て行きかけた。
「川嶋殿」
千葉○一……ではなく、柳生半蔵が川嶋に声をかけた。
川嶋が振り向く。
「川嶋殿とは初めてお会いした気が致さん」
「不思議ですね」
川嶋が返答。
「私も、長年会えなかった父に巡り合ったような気分です」
「そりゃそうだろうな」
私、小声で突っ込み。
聞こえなかったのか、柳生半蔵が言葉をつなげる。
「川嶋殿と……否、そなたと会えて、冥途にひとつ、土産ができた。死して悔いなし。爆薬は、是が非でも設置致す」
「……わかりました。お願いします」
川嶋が姿勢を正し、敬礼。
柳生半蔵が小さく頷く。
川嶋が敬礼を解き、テントを出ていった。
「では、我らは参るぞ」
柳生が振り向き直し、河上と岡本を見る。
「心得ました」
河上が返答し。
岡本が瞬時に、紐でたすき掛け。
そのふたりを見た柳生がまたも頷き。
ジャンプして穴の中へ。
「気をつけて」
私、河上と岡本の顔を見る。
ふたり、無言で頷くと。
河上が穴へと飛び込み。
岡本も続いた。
「武運をニャ」
猫またが両前足を合わせ、合掌した。


坑道の中は、等間隔に松明がおかれ。
明るい状態だった。
「これなら、忍びやすい」
柳生半蔵がゆっくりと歩みを進める。
河上と岡本が腰を落とし気味な姿勢で、後に続く。
「しかし、敵に見つかりやすいのでは?」
岡本が背後をチラリと確認しながら反論。
「無論、それも良い」
振り向かず、柳生半蔵が返答。
「我らは囮。敵を引きつける。それが役目」
「心得ております」
河上が頷き。
「派手に暴れてやります」
言うが早いか。
刀を抜いた。
岡本も抜刀。
「よし、そなたらが腕前、見せてもらおう」
柳生半蔵がふたりの間から、スッと後ろへ下がった。
同時に。
坑道の先からゾンビ。
抜刀し、咆哮を上げながら走ってくる。
「来い! 北都奉行筆頭与力、岡本が相手してくれる!」
岡本、駆け寄ってきた侍ゾンビに対し刀を払い、切って捨てる。
「元愛知藩藩主、河上幸之助だ! 迷わず冥途へ送ってやる! かかってこい!」
叫んだ河上に。
侍ゾンビ2体、刀を上段へあげて駆け寄る。
川上、刀を左から右に払い。
次いで袈裟がけ切り。
2体の侍ゾンビが崩れ落ちる。
その背後から。
槍をもった侍ゾンビが突いてきた。
「こざかしい!」
河上が刀で槍を払う。
侍ゾンビがよろめく。
そこへ。
「たぁぁ!!」
岡本が刀を振り降ろした。
侍ゾンビが槍とともに。
真っ二つになり。
地面へ転がった。
「なかなかやるな」
柳生半蔵が頷く。
「進むぞ。可能な限り敵を引きつける」
「「はっ!!」」
柳生の言葉に。
岡本と河上が返答。
再び歩みを進め始めた。


「すごい声がしたな」
私、坑道から響いてきた声に、少し驚く。
「ニャむ。岡本さんの気合の声ニャ」
「あんな声が出せるんだな」
普段の温厚な岡本からは考えられない。
「武士って、そういうものニャ。いざとなったら、普段と違うニャ」
「確かにな。私たちの世界でも、自衛官や警察官はいざとなったら違うもんだ」
「隆も自衛官ニャ」
「特例だがな」
私、ニヤリと笑う。
「それも、この戦いまでさ」
特別三等陸曹。
しかも、特別予備自衛官補からの復官。
それから8か月。
「この戦いまで、だ」
私、同じ言葉を繰り返した。
「大事ニャことだから2回言ったニャすか?」
「何をのんきなことを言っている」
猫またのボケに、私、突っ込み。
「これから最後の決戦だぞ。心してかからないと……」
「わかってるニャ。でも……」
「でも?」
「爆薬の設置にはどのくらいかかるかニャ?」
猫また、至極当然な質問。
「そうだな、まだもう少し時間はかかるだろう」
「もう少しって、どのくらいニャ?」
「相手から気取られずに穴を開けるのに10分、設置に25分、撤退に3分。ざっと30分くらいはかかるんじゃ……」
私が言い切る前に。
呼子(笛)の音。
「早いな、おい!」
私、思わず突っ込み。
「さすが忍びニャ。仕事が早いニャ」
猫またが感心。
「まるで福屋だな」
「不動産屋さんのCMじゃニャいニャ」
今度は猫またが突っ込み。
「冗談はここまでだ」
「わかってるニャ。隆、足は大丈夫ニャすか?」
長距離、歩いた後。
足はだるい。
だが、そんなことを言ってる場合でもない。
「大丈夫だ。私を誰だと思ってるんだ小若菜さんだぞ」
私、斉藤さんのギャグをパクる。
「僕よりよっぽど緊迫感ゼロニャ」
猫また、呆れ気味。
「お前に言われたくはない」
私は小さく笑った。
呼子の音が鳴り、30秒が経過していた。


「ん!」
刀を左から右へ払い、目の前の侍ゾンビを斬って捨てた柳生半蔵が。
視線を横へ。
「呼子の音」
呟くように、言い切る。
「え? 何も聞こえませなんだが」
柳生半蔵の右斜め前で正眼の構えをしている河上が返答。
「拙者にも」
柳生半蔵に背を向けるように立ち。
正面の侍ゾンビと対峙している岡本も続く。
「そなたらには聞こえなんだかもしれんが、我には音が届いた。引くぞ」
「かしこまりました」
岡本、返答するが早いか。
正面の侍ゾンビに対し、刀を振り上げた。
侍ゾンビが刀を払う。
がら空きになった岡本の胴狙い。
「危ない!」
女性の声とともに。
侍ゾンビの背後から。
一筋の刃。
侍ゾンビ、腹部から真っ二つとなり。
地面に転がった。
その後ろから。
紺色の忍者姿。
首元にはスカーフのような蒼い布。
くノ一。
「か……忝(かたじけ)い」
岡本が刀を下ろす。
額に冷や汗が伝うのが自分でもわかった。
「礼は無用。焦りは禁物」
くノ一が岡本を一瞥し。
柳生半蔵の横へ。
「御頭、首尾整いました」
「心得ておる、お蓮」
お蓮の報告に柳生半蔵が返答。
「では、参るぞ」
「「「はっ!」」」
柳生半蔵の言葉に。
岡本、河上、お蓮が返答。
4人がその場から走り出した。
しかし、逃がすまじと。
4体の侍ゾンビが追いかける。
刹那。
お蓮が侍ゾンビの足元に丸薬を投げつけた。
侍ゾンビの動きが止まる。
同時に。
丸薬が炸裂。
咆哮を上げ、侍ゾンビたちがその場に倒れた。


「……今度は爆発音か?」
私、穴を覗き込む。
「でも、まだ爆破時間じゃニャいニャ」
呼子の音から、3分経過。
「しかも威力が小さい。恐らく、柳生半蔵たちが撤退するのに小型の爆薬を使ったんだろう」
「引火しニャいかニャ?」
「なーに、そのへんは問題ないだろう。『影の軍団』で行ったら大八のようなプロがいるさ」
「それ、元K国陸軍司令局次長と同じ人が演じた役ニャ」
「火○正平さんだな。好きだったなぁ、若い頃の○野さん。癖のある役とか遊び人とか、天下一品だった」
「今はどうニャすか?」
「今も好きだな。じゃなきゃ『勝手にキャスティング』にお名前を拝借しないさ。ただ、最近のイメージが『にっぽん縦○ こころ旅』だからな」
「『とうちゃこ♪』ニャすね。そういえば、第一シーズンの最後に僕たちの世界へ戻った時、隆も『とうちゃこ』って言ってたニャ」
「それくらい、好きな役者さんってことだ」
私と猫また、呼子の音から4分経過させるために。
かなりの内輪ネタ的会話を展開。
「……さて、内輪ネタ的会話はこれぐらいにして、そろそろ行くか」
私はホルスターにしまっていた銃を抜いた。
シリンダーを横にスライドさせ、回転させる。
テント内に吊るされたランプの灯りで、回転する弾丸が光った。
私、手首のスナップを効かせ。
勢いでシリンダーを戻し。
引き金に指をかけて銃を1回転させ。
顔の横へ。

小若菜隆、第2シーズン最後の写真

「隆、カッコつけニャ」
猫またが突っ込み。
「最後だからな、久々の写真さ」
「でも、銃をそんな風に扱っちゃダメだって、作者さんが参考にしている専門書には書いてあったニャ」
「良い子のみんなは、銃でこんなことしたらダメだからね。真似しないように」
「良い子のみんなは銃なんか持ってないニャ」
「ですよねぇ」
私、下らないことのたまいつつ。
一度、銃をホルスターにしまい。
サングラスを外して、こちらはジャケットの胸ポケットへ。
次いで、ジャケットの内ポケットから。
耳に装着するタイプの小型インカムを取り出した。
右耳に取り付ける。
小さく深呼吸。
「本当に、冗談はここまでだ」
顔つきを戻した。
シリアス顔。
「本気、ニャすね」
猫またの口調も。
真剣みを帯びる。
「当たり前だ。行くぞ」
「ニャい!」
私は再度、銃を抜き。
走り出した。
呼子の音が鳴ってから。
4分が経過していた。


(「Dead or Alive(4) ―新・ゾンビサバイバル 228~237日目―」へ続く)

(プチあとがき)
今夜中に。
最終話まで書き終える所存!!
たぶん(滝汗)
と、とにかく、この後。
続きを書きますので。
どうかひとつ。
最後の最後まで。
ながーい目で。
ひろーい心で。
お楽しみくださいませ!
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前回の内容はこちら↓を参照
2017-04-01
Dead or Alive(2) ―新・ゾンビサバイバル 228~237日目―
http://ameblo.jp/h-m-taka5723/entry-12261735278.html


酉の刻・六つ(午後5時)。
私と猫または川嶋に連れられ。
南都奉行所へ。
客間的な部屋の上座へ通され。
川嶋が中心、私は左が座り待つこと暫し。
「御免」
障子越しに声。
「どうぞ」
川嶋が返答。
「失礼仕る」
声とともに障子が開き、数人の男性たちが入ってきた。
武士4人、町人2人。
全員、60代から80代といったところ。
最後に入ってきた町人が障子を閉じた。
「ニャむ?」
定位置である私の左肩に乗っている猫またが小首を傾げる。
「ん? どした?」
私、小声で耳打ち。
「ニャむ……ニャんでもニャいニャ。後でニャ」
猫また、小さく顔を左右に振った。
そんなやりとりを気にする風もなく。
入ってきた6人が私たちの前に座る。
座り位置は2列。
前方中央には、よく時代劇で見かける代官風の着物を着た男。
その左隣には、即座に戦える武士らしい出で立ち。
簡素ながらも生地は良さげな着物を召している。
1列目右と2列目左には与力らしき男が座り、2列目中央と右側には町人風な男性が座した。
全員、座ると同時に深く頭を下げる。
「お待たせして失礼を致した、川嶋殿」
中央の男が詫びる。
「いえいえ、こちらこそ何度も申し訳ありません」
川嶋もお辞儀。
「遅れて到着しました主要戦闘員にも詳しいお話をして頂きたいと考えまして、ご無理を申しました」
「なんの、我らが言葉があやつらを倒すのに役立つのであれば、何度でもお話仕る」
代官風の男が顔を上げた。
それを合図に、他の男たちも面を上げる。
私は口を開いた。
「私は小若菜隆三等陸曹。川嶋の部下です。肩に乗っているコイツは猫また陸士長。猫みたいに見えるが、れっきとした妖怪・猫また。人語を介せる」
「宜しくお願いしますニャ」
「お話は聞いております」
前列左の武士が笑顔で返答。
「それに致しましても、我々が考えていた猫またとは随分と違いますなぁ」
後列左、町人風で好々爺な印象を受ける男性が身を乗り出しつつ猫またを見た。
「ニャむ?」
猫またが小首を傾げる。
「いえ、先ほど三輪さんと話していたんですよ」
後列中央の町人、こちらも80代らしき年配の男性が相好を崩した。
「猫またと言うからには、きっと虎のような牙で獅子のような爪を出しているに違いないと。それがまさか、このように長毛で愛らしい猫とは」
猫好きなのか、目を細める
「ニャははは♪ ありがとニャす♪」
猫またが嬉しそうに猫じゃ猫じゃのポーズ。
「もっとも、戦いとなれば虎のような牙と獅子のような爪で相手を斬り裂くが……そんなことより、皆さんのお名前をまだ聞いておりません」
「おぉ、そうであった。これは御無礼を」
私の言葉に前列中央の男が返答。
「拙者、南都代官の鳥居と申す。こちらは南都奉行の釈」
前列左の男が小さく頭を下げた。
「そしてこちらは南都奉行所筆頭与力の神崎」
前列左、ややハーフっぽい男が小さくお辞儀。
「後列左におりますのは、同じく南都奉行所の支配役を務めております寺本」
こちらもハーフっぽいが、神崎よりもガタイが良い。
「後列中央におりますのが南都町年寄の春日屋、右におりますのが南都近隣の農民たちを監督しております庄屋の三輪でございます」
町人風のふたりが同時に頭を下げた。
「わかりました。それで川嶋さん」
私は隣に座る川嶋へと顔を向けた。
「これほどのオールスターキャストを揃えて、何の説明を?」
「あぁ。黒幕たちが南都を急襲した時の話だ」
「南都を急襲した時の話?」
「川嶋殿、私(わたくし)からご説明を」
釈が口を開いた。
「小若菜殿も猫また殿もご存じとは思いまするが、南都は北都同様、腐肉人たちの攻撃を免れ、人が暮らしております生き残りの都。また、戦闘激しくなり、北都から逃げてきた者も住む町でございます」
「多くの者は既に皆様の世界へ逃げておりますが、それでも南都に残る者も少なからずおりました」
釈の言葉に、神崎が補足説明。
「あぁ、私が助けた者もいる。口中入れ歯師の権蔵とゆみもこっちに来ていたはずだ」
「その者たちであれば我らとともに戦い、生き残っております。また、小若菜殿に屋敷を譲られた細川介茂守近備様も年若いながら腐肉人相手に奮戦、ご無事でございます」
今度は寺本が返答。
「それはよかった。で、いつ頃から黒幕たちの攻撃は始まったんだ?」
私、寺本に答えつつ軽く頷き。
顔を釈へ向けて続きを促す。
「腐肉人どもが最初に攻撃をしかけてきたのは2週間ほど前。大した数ではなく、北都にいる敵方の隊からはぐれてきた者たちかと思ったのですが、その後、少数ではありますが連日のように腐肉人たちが襲ってくるようになりました」
「こちらも応戦致しましたが、何ぶんにも陣容手薄。安城京跡にまで気が回りませんでした」
今回も釈の説明に神崎が補足。
「それで、黒幕たちに安城京跡を乗っ取られた」
「面目次第もございません」
私の言葉に鳥居が頭を下げる。
「なに、過ぎたことをどうこう言うつもりはない。こちらの落ち度でもある」
人数は少ないが自衛官も派遣していた。
守り切れなかった責任は、私たちにもある。
「恐れ入ります。ただ、問題はここからでして……」
釈の眉間に皺が寄る。
「あ奴らが安城京跡を占拠した後、腐肉人の攻撃が地上からだけではなく、地下からも来るようになり申した」
「地下から?」
「左様。安城京跡から地下坑道を作り、南都の町や周辺の村々へと攻撃をしかけだしたのじゃ」
私の言葉を受け、鳥居が返答。
「地上だけであれば対応しきれまするが、地下からとなると、まさに神出鬼没。腐肉人と対峙している背後に穴が開き腐肉人が出現して挟み撃ちにされる、といったこともございました」
寺本がゆっくりと首を振りながら口を挟んだ。
次いで、奈良屋が発言。
「我ら庶民の家も、軒下から腐肉人が現れ、家人を殺されたり、さらわれたり致しました。食糧を奪われた者もおります」
「農民たちの家の下や田畑(でんぱた)からも腐肉人が現れ、同じように人や食糧が盗まれました」
庄屋の三輪も悲しげな顔つきで続いた。
「つまり、黒幕たちは地下作戦に打って出て、新たなゾンビを作り出すための人員や必要な食糧を奪って行った、というわけか」
「ニャんて卑劣ニャ。非戦闘員に手を出すニャんて」
猫また、怒気の籠った声。
「担当自衛官からも同じ報告を受けている。ちなみに、攻めてきたゾンビは侍ゾンビがほとんどで、軍人ゾンビは皆無に近かったそうだ」
川嶋が補足説明。
「なるほど。敵さんから見れば相手は武士か庶民。我々と戦う時に主戦戦闘員となる軍人ゾンビは使わず、侍ゾンビに戦わせたわけか」
「それもある」
私の言葉に川嶋が返答。
「それも?」
私、川嶋の言葉尻に引っかかる。
「あぁ。侍ゾンビでも、飛び道具を持たない武士や刀すら扱えない庶民相手であれば充分に戦える。もし万が一やられても、軍人ゾンビより痛手は少ない。K国からつれて来た軍人は激減している。ひとりでも多く手元に残しておきたかったんだそうだ」
「まるで誰かに聞いてきたみたいな説明っぷりだな。情報源でもあるのか?」
「我々がこちらに来てから、敵方の科学者の助手と名乗る者が投降してきた」
「裏切ってきたのか?」
「恩師だった科学者が統括大佐に殺されたそうだ」
「ニャんと!? ニャんでまた?」
「責任をなすりつけられたそうだ。自軍がここまで追い詰められたのは、出来のいい改造ゾンビを輩出できていないからだ、とな」
「確かに、長池宿で会った改造ゾンビはドクターXやドクターZが製造した改造ゾンビほどのクオリティーはなかったが……自分の落ち度を科学者に責任転嫁したわけか」
「その通り。しかし統括大佐は自分で自軍の首を絞めた」
「どういうことだ?」
「ゾンビ化薬を製造できる人間がいなくなった」
「なに?」
私、思わず眉間に皺。
「殺された科学者は黒幕配下最後の科学者だった」
「ニャんとまぁ。統括大佐もやきが回ったニャすね」
「そうだな。科学者は黒幕に忠誠を誓っていた。殺される前に黒幕への謁見を乞い、以前拠点にしていた洋館にゾンビ化薬の成分表があるから、自分の命を奪うにしても、その成分表を取り戻してゾンビ化が円滑に進むよう進言しようとした。しかしその途中、統括大佐に頭を打ち抜かれた」
「完全に冷静さを失ってるな、統括大佐は」
「切羽詰ってるんだろう。助手だった男によれば、科学者の発言に耳を傾ける様子は微塵もなかったらしい」
「だがそのお蔭で、ゾンビを増やすこともできなくなった。こちらとしてはありがたいな」
「あぁ。残っているゾンビ化薬を使い果たしたら終わり。そしてそのゾンビ化薬は、さほど残ってない。こちらに来て連れ去った者たちをゾンビ化したら、もはやゾンビ化薬は底を突く量しかない」
「勝機はこちらにあり、か。敵陣についての情報は得られたのか?」
「安城京跡内部について聞きだして図面にしてある。あとで見せるが、代官所と奉行所が保有していた地図と照らし合わせてほぼ合致した。文官・武官の執務用建物が碁盤の目状の配置されている」
「黒幕の居場所は?」
「北側にある宮殿だ」
「私たちの世界で言えば大極殿といったところか。坑道については?」
「安城京跡から町中に張り巡らされている。助手だった男も坑道を使って安城京跡から抜け出し、坑道の天井に穴を空けて我々の野営地前に現れた」
「そうか……と言う事は、我々の野営地前あたりから坑道を使って安城京跡へと攻め込める?」
「できなくはないが、相手も馬鹿じゃない。助手の話では、侍ゾンビたちが監視している」
「よくそんななかで助手は投降できたな」
「ゾンビたちの世話を行っていたのは科学者と助手だ。侍ゾンビたちも助手がゾンビの専門家であることを知っている。人目を忍んで坑道まで辿り着き、意識ある侍ゾンビたちに『自分が逃げればお前たちも普通の人間に戻せる』と伝えてて逃げ切った」
「考えたな。侍ゾンビたちも一度は黒幕に従ってゾンビ化したかもしれないが、今となっては人間に戻りたいはずだ。異国から来た敗戦の将に付き従う義理はない。もっとも、自分の手でゾンビにしといて随分卑劣な手段だとは思うが……」
私、腕組みして俯く。
「それもそうだが、自分の命がかかっていたら、致し方ないかもしれんぞ」
「そうだな……」
私、俯いたまま川嶋に返答。
「……どうした? 何か引っかかることでもあったか?」
川嶋が私の顔を覗き込む。
「……いや、ちょっと。代官、質問なんだが」
私は腕組みを解くと顔をあげ、鳥居へと視線を向けた。
「なんなりと」
鳥居が頷く。
「南都の人たちはそのまま町に残っているのか?」
「いえ、我々は皆様へのご説明などがありましたから残っておりますが、数人の武士を残し、あとの庶民などは避難させております」
「避難?」
「はい。皆様が参られてから戦闘激化が必至であると川嶋殿から伝えられ、急ぎ南都から4里ほど離れた柳生の地に退避させております」
「柳生の地? ハンターチャンス的な」
私、真顔のまま。
思いっきりシリアス場面ぶち壊し発言。
「小若菜……」
川嶋が苦笑を浮かべた。
「ボケたつもりだろうが、その通りだ」
「……は?」
私、一拍置いて返答。
「よくぞ柳生藩藩主の名前を御存知ですな」
鳥居が驚いたような声を出す。
続いて釈が口を開いた。
「柳生半田之助広重。齢(よわい)八十を数えまするが衰え知らずの行動派知将として有名でございます。ただ、なぜ異世界の小若菜殿がご存じなので?」
「いや、まぁ、その、なんとなくな……それにしても、柳生の地は無事なのか?」
私、自分で脱線させた会話を本題に戻す。
「はい。柳生までは坑道を作れなかったと思われます。それに、柳生は忍術の使い手がまだ生き残っております」
釈が続けて返答。
「忍術、ニャすか?」
猫またが目をパチクリさせながら聞き返した。
「左様。柳生と言えば忍術を使う忍びの者たち発祥の地。何か不可思議なことでも?」
釈が聞き返す。
「ニャって、僕たちの世界の柳生家は剣術指南役であって忍者じゃなかったニャ」
「えっ!? そうなの?」
川嶋が素で驚く。
「そうニャ。川嶋さんを演じてる真田広○さんも出演していた『柳生一族の陰謀』とかフィクション作品のおかげで『柳生=忍者』にニャってるニャすけど、実際は違ったニャ」
(注意・上記の説は猫またの個人的見解であり、学術的な裏付けはありません)
「本文が注意書きしてるが……ってか『勝手にキャスティング』をここで持ち出すな。話がこじれる」
「柳生って聞いてハンターチャンスって口走る隆に言われたくないニャ」
「そうか……柳生は忍者じゃなかったのか……」
私の突っ込みに猫またが反論し。
川嶋は川嶋で驚愕の真実に慄いている。
「あのぉ……」
鳥居が不思議そうに私たちの顔を見る。
「あぁ、すまんすまん。こっちの話だ」
私、手を顔の前にあげてすまんすまんの動作。
「皆様の世界ではどうか存じませんが、柳生の地は忍者の里でございます。ここにいるものの中にも、元来は柳生に仕えている者もおります」
釈が話を本題に戻した。
「柳生に仕えている者?」
「左様。南都の守りが手薄となりし折に、柳生藩が数人の武士を派遣してくれ申した」
今度は鳥居が補足説明。
「私たちの世界で言えば、人的支援といったところだ」
驚愕の真実から立ち直った川嶋が補足の補足説明。
「そうか……で、誰が元々、柳生藩の人間なんだ?」
「拙者でございます」
神崎が小さく頭を下げる。
「腐肉人たちが跋扈し始め、生き残りの都が北都と南都だけになったおり、御館様からの命を受け参りました。また、現在南都に残っている武士たちも、柳生の者でございます」
「なるほどな……ってことは、あなたも忍者で?」
「はい。以前は忍びもしておりましたが、四十手前で一線を退き武士として生き始めました」
「だったら、爆薬なんかも作れるか?」
「爆薬でございますか?」
神崎が驚いた声。
他の面々も不思議そうな顔になる。
「あぁ。周囲を焼き尽くす種類の爆薬と、大爆発を起こす爆薬だ。どうだ?」
「作れぬことはございませんが……」
神崎が困惑顔で返答。
「小若菜、爆薬を使ってどうするつもりだ?」
横から川嶋が口を挟んだ。
「いや、ちょっと……」
私は再び腕を組み、俯いた。
「相手の地下坑道を利用してやろうかと思って」
「坑道を利用?」
「真夜中に坑道へ火を放てば敵さんも浮足立つ。その隙をついて少数で地上から突っ込む」
「危険だ」
川嶋が即却下。
「夜陰に乗じて侵入する作戦は悪くないが、地下坑道は急ごしらえで強度が強いとは言えない。爆薬で吹き飛ばしたら天井もろとも崩れる。地上から突っ込む部隊が巻き込まれる恐れがある。それにそもそも、どうやって坑道に火を放つつもりだ」
「無人偵察機を使う」
「なに?」
「無人偵察機に爆薬を積む。我々が持ってきている爆弾だったら崩れるものでも、熟練の忍者が火薬量を加減して作ればなんとかなるんじゃないか。それに……」
「それに、なんだ」
「内部に突っ込む者が敵陣に侵入した段階で大爆発を起こしてもらえれば、坑道が崩れ黒幕が逃げ場を失う。以前のように取り逃がしたりはしない」
「それでナパーム弾的な爆薬と大爆発を起こす爆薬ってわけか? ダメだ。無人偵察機が熱に耐えられる保証がない。第2段階の爆発が第1段階の爆発で誤爆する危険もある。何より黒幕の逃げ場だけではなく侵入した部隊の逃げ場もなくなる。そんな危険な作戦は……」
「私が行く」
私は顔を上げ、川嶋へと顔を向けた。
「ニャんと!」
猫またが慄く。
「私と猫またが地上から内部に侵入する。攪乱するから、その上で本隊は八咫烏や姑獲鳥に乗って上空から降下し内部侵入を図る」
「バカな。あまりに無茶すぎる」
川嶋が首を振る。
「冷静になれ小若菜。焦りは禁物だ」
「焦ってもいないし、私は冷静だ」
私、川嶋の言葉に反論。
「敵は地下からやってくる。どこから出てくるかわからない『もぐら叩き』だ。野営地前から顔を出したのが助手だったからよかったものの、もし野営地のテント内にゾンビ兵や侍ゾンビが出てきたら、少なからず被害が出る」
「それはそうだが……」
「だったら、こっちから打って出るしかないだろう」
「言いたいことはわかる。だが、あまりにも作戦が危険すぎると言ってるんだ」
「他に手があるのか? 敵兵がいつ地上に躍り出てくるかわからない状況なんだぞ」
「確かにそうだが、小若菜の作戦にはひとつ大きな欠陥がある」
「欠陥?」
「無人偵察機が侍ゾンビに奪われたら、どうするつもりだ」
「……あ」
私、うっかりな盲点。
「無人偵察機を奪われて爆薬を取り外されれば、作戦失敗なだけではなく敵に新たな武器を渡すことになる」
「それもそうか……」
私、三度目の腕組み。
「いけると思ったんだがな……」
「落ち着け小若菜。焦ってもいい作戦は……」
「その作戦、我らも手伝わせてもらいたい」
廊下から声。
「誰だ」
鳥居が振り向く。
他の面々も声の方へと顔を向けた。
「儂じゃよ、鳥居殿」
言葉と同時に障子が開いた。
「柳生殿!」
「御館様!」
鳥居と神崎が同時に声をあげ、平伏。
他の武士や庶民も深く頭を下げ。
そのままの姿勢で移動。
部屋の中央に道を開けた。
柳生広重がゆっくり歩き。
我々の前に座る。
「『ハンターチャンス』ニャ……」
猫またが唖然。
「まさかホンマもんがご登場とは……」
私も茫然。
「拙者、柳生藩藩主、柳生半田之助広重と申す。南都の守護ならびに安城京跡の奪還を目指される方たちに一度ご挨拶をと思い陣へと赴いたところ、総大将はこちらにいるとお聞きし参上仕った次第」
「そ、それはそれは……私が今回の任務を指揮しております川嶋健三等陸佐です」
川嶋が恐縮気味に頭を下げた。
「私はその部下で小若菜隆三等陸曹。肩に乗るのは猫また陸士長。普通の猫ではなく妖怪・猫またです」
「ニャむ。以後、お見知りおきをニャ」
猫またが平伏。
「左様でございますか……と、堅苦しい挨拶はここまで。川嶋殿、小若菜殿が申された今の策略、なかなかに興味深い。我ら忍びが加われば、首尾よくいけるはず」
「いや、しかし……」
川嶋が反論しかかる。
「まぁ聞いて下され」
柳生が手で制する。
「異世界のからくり装置を使わずとも、我らが坑道に忍び込み爆薬を設置すれば、ことは簡単」
「ニャんとま!」
猫またが声を上げた。
「つ、つまり、事前に柳生の忍者たちが坑道に2種類の爆薬をしかけ、真夜中、時が来たら爆発するようにセットし、そのタイミングで少数の部隊を地上から突っ込ませる、と? 空中からの突入したほうがよいのでは?」
「空からでは逃げ場がありませぬ。我らも忍びの術として大凧を用いることがありまするが、あれは他に手がないときのみ。地上から矢を射ぬかれれば危険が増大致しまする。安城京跡であれば、地上から侵入できぬわけではありますまい」
「確かに、八咫烏や姑獲鳥からの降下中に敵兵から乱射されれば危険ですが……」
「ならば、まずは地上軍から敵陣に突入。敵方が地上軍との戦いに意識が向いたところで空中から主力部隊を投入する、というのはいかがかな?」
「それは……しかし小若菜だけ地上からというのは……」
「はっはっは! 無論、それは無理がござろう」
柳生が私の顔を見て快活に笑う。
「なれど、彼の心意気は買うべきではござらんか、総大将として」
「いや、まぁ、総大将ですが……」
川嶋が珍しくタジタジ。
「小若菜殿、それに猫また氏(うじ)とともに突っ込む腕利きを選定し、爆破と同時に敵陣へと走らせる。その後、頃合いを見計らい本隊を上空より突入させる。差し出がましいかもしれませぬが、敵は地下から神出鬼没に現れる。時間が経てばたつほど、こちらの被害も甚大になる恐れあり。ならば、小若菜殿が仰るように早めの攻撃が肝要かと」
深く皺が刻まれた目元。
細い瞳。
しかし、鋭い視線で。
柳生が川嶋を見た。
「我ら忍びも、この地を守るため、命を張りましょうぞ」
「……わかりました」
川嶋の顔つきが変わった。
「柳生一族には縁があります。その御館様からそこまで言われては、私も否とは申せません。ただし」
川嶋が言葉を区切った。
「我々は自軍で死者を出す気がございません。部下を死なせるわけにも、皆さま方を死なせるわけにも参りません。そのためにも、一度戻り、作戦を組み立てます。それまではどうか、お待ちください」
「左様か! いや、わかりもうした」
柳生が嬉しそうに頷く。
「しかし川嶋さん、いつ何時、敵兵が来るとも限らない。爆薬を作ってもらうのであれば早々にしてもらったほうがいいんじゃないか?」
「そうだな……確かに爆薬は必要になる。ただ、どの程度必要になるかが読めないうちは……」
私の提案に、川嶋が手を顎に当てながら返答。
「それならば、今から作れるだけ作り、保持している分も合わせて今宵お持ち致しましょう。川嶋殿が作戦を立てられ、不足あらば、また作り持参致します」
「そ、そこまでして頂けるとは……」
川嶋、恐縮。
「至極当然のこと。周囲を焼き尽くす火力は強く爆発力は弱いものと、爆発力の強いものでしたな。神崎、すぐに出立致せ」
柳生が神崎へと視線を移した。
「ははっ! では、城へ戻ります!」
言うが早いか寺本が立ち上がると。
部屋を飛び出していった。
「すぐに戻るって言っても、ここから4里。16kmはあるぞ」
「それくらいの距離、寺本でも小半刻あらばたどり着けまする」
柳生が事も無げに言う。
「え”? 16kmを30分?」
「四里を小半時とは……やはり、忍びは違いまするな」
私に続いて、鳥居も驚愕の声。
「はっはっ! 若い者はもっと速い。拙者はもう老い耄れにて馬で失礼仕るが、寺本くらいの歳であれば、それくらいは当然のこと」
「ニャんとまぁ……僕たちの世界の忍者より凄いニャ」
「それだけ素早く動けるんだったら、爆薬も順調にセッティングできるかもしれないな」
「そう願いたい。承諾したとはいえ、危険な作戦には変わりない」
「……てなことを言っといて、川嶋さん、どーせ自分も『腕利き』のひとりになるつもりでしょ?」
私、川嶋の顔を覗き込む。
「そ、そういうことは正解するんじゃない」
川嶋が顔を逸らした。
「ニャんとま。図星ニャ」
猫またが目を丸くする。
「ほほぅ、なかなかに気骨ある総大将殿ですな」
「まったく」
柳生と鳥居が笑いながら言葉を交わし。
他の面々にも、ようやく笑顔が浮かんだ。



「……もう、行ったかな」
焼けたように切られた大木の切株から。
満腹が立ち上がった。
着地した場所からは数メートル離れている。
「ふん。手の目こそ、自衛官の匍匐前進を甘く見過ぎてるよ」
満腹、ひとりごちつつ。
迷彩服についた土を手で払った。
「着地後すぐに第五匍匐で移動するなんて、僕たちには朝飯前だよね、寺田陸曹」
満腹の言葉に。
寺田がヨロヨロと立ち上がる。
こちらも着地点よりも数メートル離れた場所。
切株の後ろ。
「え、えぇ……」
汚れもひどいが、木の枝に引っかかったのか、所々、迷彩服が破けている。
「あ、ありがとう満腹陸曹。あなたのおかげで助かりました」
「なぁに、これでも部隊の連中は俺のことをこう呼ぶんだ。なんだかんだ無敵、ってな」
「満腹さん、キャラ変わってます……って、そんなことより!」
寺田が迷彩服の汚れも気にせず。
足をもつれさせながら、残骸になった片輪車へと駆け寄った。
その傍らには。
ひとりの女性。
「ん……」
着物が破れ、肩や腹部、足から血を流し、倒れている。
「片輪車さん!!」
寺田が傍らに膝をつき、抱き上げた。
「な、なんてひどい……」
「ん……寺田……さん……」
片輪車が目を覚ました。
「ごめん……なさい……私……」
「大丈夫。しゃべらないで。すぐに手当てを……」
「人間の……手当は……無意味…です……それより……手の目が……」
「それこそ大丈夫。僕が無線で基地に伝達を……」
満腹が寺田の横に立ち。
迷彩服のポケットから小型無線機を取り出した。
「……あれぇ?」
満腹がまじまじと無線機を見る。
「……壊れてる」
寺田が呟いた。
満腹が回転しながら目光線を避けていた際。
その重みに耐えられなかったのか。
無線機が潰れてしまっている。
「そ、そんな……あ、でも、片輪車さんが手の目を乗せてここまで来てる段階でバックベアードが気づいて……」
「無理……よ……」
寺田の言葉に、片輪車が力なく首を横に振った。
「手の目の奴……西方面から……移動しろって……言ってきて……」
「西方面?」
「西方面は……倩兮女がいたけど……彼女じゃ……ケラちゃんじゃ……全域……守れてなくて……ベアードにも……限界があって……手の目の奴……妖力を使って……カバーが手薄なところ……姿消して……通過して……」
「それで、遠回りして南都街道に入り、私たちを見つけたから先回りして、ここで待ち伏せさせた。その時に、あなたまでも手にかけた」
寺田の言葉に。
片輪車が首を縦に振った。
「なんてひどい奴だ。プンプン!」
さすがの満腹も胸の前で腕を組み、憤りの表情。
「殺さない…程度に……攻撃…してきて……最期は…あなた…たちと……一緒に……私も消そうとした……だけど……私…人に…化けて……車から…降りて……伏せてた、から……目光線……避けられた……」
「ん、賢明な判断だったね」
満腹が、やや上から目線で片輪車に声をかける。
片車輪が言葉を続けた。
「車輪は……壊されたけど……時間が経てば……妖力で…直せる……私も……治る……私なんかに……かまわないで……」
「で、でも……」
「いいから……基地へ……速く……」
「その必要はないよ」
満腹が首を振った。
「片輪車がいなくなり、しかも手の目もいなくなったと知れれば、きっと北都でも大騒ぎになっているはず。ベアードが基地まで来るだろうから……」
「不確定…すぎるわ……」
片輪車が首を振った。
「私と……輪入道は……昼夜を……問わず……北都を…巡回する役目……南都での…作戦終了までは……奉行所にも戻らない……」
「それじゃあ、片車輪さんがいなくなったって、気がついてもらえない」
寺田の発言に、片車輪が小さく頷く。
「それに……手の目のこと…だから……自分の身代わり……灰にしてきて……ベアードに……気がつかれないように……してる……」
「わかった。わかったわ。満腹陸曹、基地に戻りましょう。片車輪さん、こちらには救援隊を寄こします。それまで、どうか……」
「大丈夫……手の目の奴……私の…ことも……甘く……見てたわ……」
「え?」
寺田が小首を傾げた。
「私…だって……弱くないわ……あいつが…止めを刺さなかった……それが……あいつの…失敗……お願い……あいつを……倒して……ちゃんと…待ってるから……」
「わかりました。必ず、迎えに来ます。身体を休めていてください」
寺田が大きく頷き、片車輪を地面に寝かせると、立ち上がった。
「行きましょう、満腹陸曹」
踵を返し、南都街道へと歩き出す。
「うん」
満腹が頷き、後に続いた。
片車輪が安堵の微笑みを浮かべながら、ふたりの背中を見つつ。
「ぜったい……倒してね……」
小さく呟くと。
ゆっくり、目を閉じた。


(「Dead or Alive(2) ―新・ゾンビサバイバル 228~237日目―」へ続く)


(あとがき)
うん、かなり無茶な作戦ですよね(苦笑)
書いてる本人も思いますが。
最後の最後もド派手な危ない戦いを想定してみました。
そういえば、無茶な作戦以外で戦ったことなんてなかったですもん(笑)
最後までやり散らかします。
ってか。
この時の作戦通りに行くはずもないんですけどね(爆笑)
てなわけで、最後にどんな戦いが待っているのか。
それはまた次回のお楽しみ。
痛快成り行きゾンビサバイバル小説。
ここからも、ながーい目で。
ひろーい心で。
どうぞ、お付き合いくださいませ!

さ、今日はもう寝よう。
小若菜隆でした。

追記
それにしても。
まさか本当の柳生一族を登場させるかね、私(笑)
ハンターチャンス!!
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前回の内容はこちら↓を参照
2016-11-03
道中(2・トラブルソルジャー) ―新・ゾンビサバイバル 225~227日目―
http://ameblo.jp/h-m-taka5723/entry-12216086391.html


長池の宿を出た私と猫または、73式小型トラック、通称・小トラに乗り、南都街道を南下していた。
「車だと速いニャ」
猫またがダッシュボードに乗り、前を見据えて呟く。
「あぁ」
私も短く返答。
「……仇をとるニャ」
猫またにしては珍しく、血生臭い言葉を、小さく、しかし力強く口にした。
「あぁ」
私は再度、短く返答し、続けた。
「『Dead or Alive』さ」
普段の猫またなら嫌うような言葉。
だが。
「ニャむ」
猫またが、小さく頷いた。
当然だろう。
仲間が、目の前で殺された。
長い時間一緒にいたわけでもない。
お調子者ではなかったが、厄介なタイプで。
ずっと一緒にいれば、どっと疲れる男。
だが、仲間は仲間。
目の前で殺されて、許せるわけもない。
「南都まではもう少しかかる」
私たちの世界とは、道路事情が違う。
いかに陸上自衛隊仕様のジープとはいえ。
恐らく、到着するのは夕刻。
「現着したら、川嶋陸佐と田中陸曹に満腹の最期についての伝達。それから、今後の作戦について詳しいところを確認する」
「了解ニャ」
猫またが振り向き、頷く。
既に涙は乾いている。
戦いに向け、心の準備はできている。
「少し飛ばすぞ」
私は表情を変えず、猫またに伝え。
小トラのアクセルを踏み込んだ。
時刻、未の刻・八つ半(午後2時)。
猫またが無言で頷き、再び前を向いた。
車内に言葉がなくなり。
周囲の風景とは似つかわしくないエンジン音だけが響き始めた。


申の刻・七つ半(午後4時)。
二条城、天守閣。
その最上階。
将軍・豊徳家悦が部屋の奥に設えられている壇の最上段に座っている。
普段通りの座り位置。
しかし、その出で立ちは普段通りではない。
兜こそ背後の小姓が持ち、控えているものの。
鎧姿で床几に腰を下ろしている。
家悦の正面、左右に座す幕閣たちも、1人を除いて鎧を身に着けていた。
ピンと張りつめた空気。
そこへ、廊下を走る音。
「申し上げます!」
走り込みんできた2人の武士――見島と斉藤が部屋の前で膝をついた。
「許す! いかがいたした!」
見島の言葉に、幕閣の上座に座る老中・岩橋堅吾が返答。
斉藤、腹からの声。
「はっ! 北都内の守護、すべて配置が整いました!」
「あいわかった」
岩橋ではなく家悦自らが、大仰に頷きながら答える。
「大義であった。そなたらも城内守護の配置につけ」
「「ははっ!!」」
見島と斉藤が頭を垂れ、スッと立ち上がると、今来た廊下を走り去っていった。
「これで万万が一、敵方の陽動作戦で北都が攻められたとしても万全でございます」
岩橋が座ったまま、家悦へと身体を向けて進言した。
「万全、か」
家悦が呟く。
やや含みのある言い方。
「何か、気にかかることでも?」
察した岩橋、眉間に浅い皺を寄せた。
「いや、なに。手勢が少なすぎる気がしたのだ」
「恐れながら」
家悦の言葉に、幕閣末席に座る老人が口を開いた。
唯一、鎧を身に着けず、着物姿。
しかも町人風。
ただ、その風格は。
岩橋と同格程度。
その場に居合わせる生き残りの幕閣とは比較にならないほどの存在感。
「構わぬ、ぬらりひょん。申してみよ」
家悦が発言を許可。
「は。武士の方々を束ねるは大下殿。奉行直々の配下、それに伊北殿などの腕利きも数人は南都に向かわず、北都に残っております。相手は拳銃……飛び道具を使用するとはいえ、そう易々と打ちのめされるとは思いませんし、負傷した者あらば、滝野原、浅井、ひさえ、佃車、島といった名医も奉行所に詰めております」
「それはわかっておる」
「加えて」
家悦の言葉をやんわりと遮るように頷きながら、ぬらりひょんが続ける。
「我ら妖怪も加勢しております。東には祇園の七歩蛇、南には伏見・深草の毛羽毛現、西には嵐山の倩兮女、そして北には宝ヶ池の青亀と配下の河童たち。それぞれが担当地域を守護しております」
「それは心強いが……」
「また、小若菜の屋敷に鉄鼠、城内には私がおり、それらの伝達係件広域守備隊として輪入道と片輪車が北都を巡回。上空からも北都全体をバックベアードが見守っております」
「ほぅ、あの目玉の妖怪か」
「はい。あのものの妖力は並大抵ではございません。その全妖力を使い、北都の街を監視、急変有れば自ら攻撃を加えながら、こちらまで伝達してくる手筈になっております」
「……なるほど。ならば、少しは安心できようもの」
「少しは?」
家悦の言葉に、ぬらりひょんがやや不服げ。
「悪く思うな、ぬらりひょん。そなたらの力、存分に理解しておる。心強い限りじゃ。だがの」
家悦が少し微笑む。
「戦は、慢心した方が負けじゃ」
「……は」
何かに気がついたように、ぬらりひょんが小さく声を出した。
家悦が続ける。
「これで大丈夫。これで万全。そう思った方が負けるのじゃ。用心に用心を重ね、万全に万全を期し、それでも尚且つ、相手が撃ち破ってきた時にはどうするか、常に考えておく。それが、将の長たる儂の役目。気に障ったかもしれぬが、そなたたちを軽んじてのことではない。許せ」
「勿体なきお言葉」
ぬらりひょんが平伏。
「将軍様より何倍も長く生きておりながら、浅はかな態度。御無礼をお許し下され」
「なに、構わぬ。誰とて身内を軽く見られたと思えば不服なものよ。頭をあげよ、ぬらりひょん」
「ははぁ!」
家悦の言葉に、ぬらりひょんは頭をさらに低く下げた。
「しかし、ぬらりひょんの言いたいこともわかります」
岩橋が口を開いた。
「洛内の守護は無論のこと、伏見や藤森は庶民ながら腕の立つ者がおりまする」
「んん。伏見の相撲部屋の面々に、藤森の旅館の親子だな」
「加えて、御所の守りも手抜かりございません。芦出が守護の者たちを束ね、内部には登之坂中納言もおられます。天功帝の伝達官も腕が立つと聞いておりますし、万万が一の事態にも対応できるかと」
「そうか……そうじゃな」
家悦が、ひとり納得したかのように2回、頷いた。
「慢心もいかんが、あまり臆病風に吹かれても指揮に関わる。あいわかった。そなたらをますます信頼致そう」
家悦が快活に笑った。
もちろん、内心では完全に安心などしていない。
だが、こうでも言わなければ、家悦本人が言う通り、指揮が下がる。
そこを危惧した岩橋が水を向けたことを、家悦も感づいた。
自分以上に心配性の岩橋が、ここまで万全と言ってきている。
感づかないわけがない。
「ありがたきお言葉!」
岩橋も心得ている。
中腰気味に腰を浮かせ、幕閣の面々を見た。
「良いか皆の者、殿の言葉を胸に、今まで以上に心して警護に当たられよ!」
「「「「「「おぅ!」」」」」」
岩橋の鼓舞に、幕閣が答えた。
武士たちの声が、天守閣から北都の街に響き渡った。


「何か聞こえませんでした?」
まといが外へと顔を向けた。
障子越しに、やや橙になりつつある日の光。
「んん、城の方角からじゃのぅ」
部屋の上座に座る芦出鼓玩が脇息に身体を預けながら、こちらも視線を外へ。
「何かあったのでしょうか?」
部屋の下座、まといと蒋宇稔から少し離れた場所に座る小間物屋八兵衛が不安げに芦出へと質問。
「いや、あれは猛者たちの声」
今は料理人だが、元は明国の参謀だった蒋宇稔が冷静に答える。
「戦い前、気持ち、高めているのでは?」
「そうじゃな」
鼓玩が頷く。
「北都の守りを固める幕閣が声を揃え鬨の声をあげたのじゃろう。儂もこの地にいるからには、いざと言う時に戦わねばならん」
「はい。覚悟はできております」
八兵衛が懐に目を落とす。
38口径エンフィールド・リボルバーが入っている。
「いやいや、庶民には戦わせん」
鼓玩が首を振る。
「年老いていても、儂は武士じゃ。庶民に戦わせるわけには……」
「でもお父様、前に八兵衛さんに助けられたのと違いますか?」
まといが口を挟む。
「ん、まぁ、そうじゃが……」
鼓玩が一本取られたように、頭をかく。
「今は武家だ庶民だと言うてる場合ではありません。私たちも戦います」
まといの出で立ちは、いつもの着物をたすき掛けにしており。
蒋は蒋で、参謀時代に使っていたのであろう苗刀を傍らに置いている。
「いざという時、私も戦う。お義父さん、守ります」
「左様か」
鼓玩が苦笑を浮かべた。
ありがたくもあるが、年寄り扱いされたくはない。
身体が思ったように動かずとも、そこは武士。
意地がある。
「まぁ、儂を守らずとも、御所で異変があれば昌太郎に加勢してやってくれ。儂もともに参る」
「わかりました」
気持ちを察してか、蒋が頷いた。
「昌太郎様も、今頃は御所の守護で合議でもされているのでしょうか?」
八兵衛が御所のある方向へと顔を向けた。
「かもしれん。暗くなる前に、手薄になっている北都における陣営の最終確認でもしておろう」
鼓玩が返答した。
「昌太郎……」
まといが不安げな表情。
姉の顔。
「大丈夫。昌太郎様、何があっても守り抜く」
蒋がうっすらと笑顔を浮かべた。
まといの心を少しでも軽くしたい。
夫としての顔。
その様子を見ていた鼓玩が笑って口を開いた。
「そうじゃ。ましてや、敵の本体は南都。陽動作戦でもない限り、こちらには来ない。心配し過ぎは禁物じゃ」
「た、確かに」
笑顔の鼓玩に対し、八兵衛が小さく頷いた。
「もっとも……」
鼓玩が何かを言いかける。
「もっとも、なんですか?」
蒋が聞き返した。
「……いや、そういった思いから、隙ができるものじゃがな」
鼓玩が顔を引き締め、御所の方角へと顔を向けた。


「だからこそ、隙ができるでおじゃる」
御所の一室。
上座に立つ登之坂中納言が芦出昌太郎と天功帝の伝達官を交互に見た。
「心得ております。慢心や安心は危険でございます。なにしろ、敵方は地下を使うことに長けております」
元はK国特殊諜報部隊の少佐だった伝達官が平伏したまま返答。
同じく平伏している昌太郎が後を受ける。
「火盗改めの大下様も北都をくまなく探り出し、1か所、大規模な地下建造物を見つけ出したとのこと。我らも既に御所内を探索し、域内には異常がないと確認致しております」
「それは重畳。なれど、夜陰に乗じて敵方が奇襲をしかけてこないとも限らないでおじゃる」
「ごもっともでございます。普段にも増して灯りを灯し、警戒を強めます」
「そうしてたもれ。我も警戒を怠らぬ」
「はは」
「かしこまりましてございます」
昌太郎、そして伝達官が更に深く頭を下げた。


「ただ今戻りました」
竜野と伊北が北都奉行所へと戻り。
いつも大下が控えいてる部屋の前にある庭へ入ってきた。
後ろからひさえとおゆうが続く。
「おぉ、待っておったぞ。伊北、足は大事ないか?」
既に情報が入っていたのだろう。
庭で床几に座り待っていた大下が立ち上がった。
火事装束に陣笠。
手には十手。
「はい、面目次第もございません」
伊北が頭を下げた。
「こちらへ来る前に手当てを終えております。もう大丈夫でございましょう」
ひさえが伊北の言葉に続き。
おゆうも口を開く。
「滝野原先生と浅井先生にも検査頂いていますが、恐らく問題ないと」
「左様か。それはよかった。して、もう動けるのか?」
「はい。何事かありましたか?」
大下の問いに、伊北の顔つきが変わった。
「んん、西の抑えが若干手薄なのだ」
「西? 嵐山に倩兮女もいるはず。何か不備でも?」
竜野が疑問を口にする。
「その倩兮女だ。彼女は実力者ではあるが、他の妖怪に比べると、やや劣る」
大下が返答。
「なるほど。七歩蛇、毛羽毛現、青亀と河童……確かに力不足」
竜野が納得し、視線を落としつつ頷いた。
「バックベアードからの伝達では、彼女の力では嵐山近辺を守るのが精いっぱい。山沿いから回り込まれれば抑えきれるかどうか不安が残る。ベアードの妖力とて無限ではない。現状でもかなりの無理をしている。そこで、伊北を西へ配置しようかと思ったのだが、行けるか?」
大下がいたわりの眼差し。
「はい。もう問題ございません。参ります」
伊北が力強く頷いた。
「よし、ならば奉行所の馬を使え。まだ日が暮れるには時間がある。夜陰に乗じて手薄なところに奇襲を仕掛けてくるとも限らん。すぐに出立してくれ」
「心得ました。死に場所と思い、何が起こりましても死守致します! では!」
伊北が小走りに庭から厩に向かって行った。
一同、伊北の背中を見送る。
一拍の間。
伊北が庭から姿を消した。
「もしあやつが無理であれば、ここを竜野殿に任せて儂がいくところであったが」
大下が、伊北が出ていった咆哮を見ながら呟く。
「それはなりません。ここで指揮をとってもらわねば。して、私は如何致しましょう」
竜野が聞く。
「竜野殿は残って頂きたい。どの地域も手薄だが、一番の手薄はこの奉行所。研究者や医師もおる。滝野原は武道の心得があると聞いておるし、須藤もそれなりに戦えるとは聞いておるが、万一の時にどこまで応戦できるかわからん。我々で守らねばなるまい」
「承知した。お任せを」
竜野が笑みを浮かべながら頷いた。
それとほぼ同時に。
六つ(午後5時)の鐘。
「……小僧たち、そろそろ着く頃か」
顔を引き締め、竜野が呟いた。
「えぇ。無事に帰ってこられれば宜しいのですが……」
ひさえが、やや不安げに返答。
「なぁーに、小僧は悪運だけは強い。大丈夫」
竜野が笑って答えた。
「猫またもついておる。心配ない……と、思いたいな」
大下が、自分に言い聞かせるように言うと、竜野とひさえ、それにおゆうを見た。
「さて、さすがに疲れた。中に入るぞ。今宵は滝野原先生の夕餉じゃ。うまいものが食えるであろう」
「おぉ、これはありがたい! 彼女の薬膳鍋は絶品だ」
竜野が心底嬉しそうな笑顔を見せた。
「そうですね。まだ夜は冷えますし、今宵は身体をしっかり温めて、ゆっくり休めて下さいませ」
ひさえも笑顔で頷く。
「そうじゃな。老体に戦場(いくさば)の最前線は応える」
竜野が腰を曲げ、拳骨を作って叩いた。
「ぷっ……竜野様、わざとらしい」
おゆうが思わず突っ込む。
「ははははは! おゆうには敵わんな。さぁさぁ、早く入るぞ」
大下が快活に笑い、部屋へと歩き出した。


「もう六つか」
縁台に座る鉄鼠が、中庭を見ながら呟いた。
「そうですね」
横に座るラウラが頷く。
「隆さんと猫またさん、南都に着いてるでしょうか?」
ラウラの横に座るななみが、ふたりの顔を見た。
「だろうのぅ。隆殿の足ならば、そろそろ到着している頃合いだ」
私と猫またが小トラに乗っているとは知らされていない。
仲間が殺された、と思い込んでいることも。
「無事に帰ってこれると良いのですが……」
ななみが俯く。
「そうじゃのぅ……猫またもついておるから、大丈夫だとは思うが……」
「そうですよ。きっと大丈夫」
ラウラが真っ直ぐな視線で庭木の一点を見つめながら断言した。
「きっと、大丈夫」
今までも、切り抜けてきた。
敵の大将格を倒してきた。
今回も、きっと大丈夫。
そう信じていた。
そう信じたかった。
「ラウラさんは心配じゃないんですか?」
ななみが顔をあげ、再びラウラを見る。
「心配だけど……」
今度はラウラが一瞬、視線を落とした。
だが、すぐに視線を上げた。
「仲間だから。信じないと」
笑みを浮かべ、力強い口調で返した。
「そ、そうですよね」
やや気押されたななみが返答。
「そうじゃ。信じて待とうぞ」
鉄鼠も続く。
「それにしても、今宵はそなたたち、手持無沙汰じゃな」
鉄鼠が話題を変えた。
「はい。修さんとおまささんが作って下さるって」
「嬉しいですよねぇ♪ おふたりの料理、本当に美味しいから♪」
ななみ、ラウラが返答。
「きっと隆殿も猫またも帰ってきたら悔しがるぞ。居酒屋真修を自宅で楽しむなんて、ずるいとな」
「ずるいって、仕方ないですよねぇ」
ラウラが笑って答える。
「そ、そうですよ。帰ってきたら、ちゃーんとご馳走を用意します」
ななみにも笑顔が戻った。
「そうじゃな。その言葉、ふたりに聞かせてやりたいものじゃな」
鉄鼠も笑って返した。
「きっと、ご馳走を食べに帰って来るであろう。それまで、我らはここで待つのみ」
「何かあったら、ななみちゃんを守る」
鉄鼠の言葉に、ラウラが続けた。
「左様。それぞれ自分の持ち場で、自分の為すべきことをするだけじゃ。そのためには、まずは腹ごしらえと」
鉄鼠が立ち上がった。
「どれ、客人に作らせてばかりも忍びない。手伝いに行こうか……」
「その必要はありませんぜ」
言いかけた鉄鼠の背後から、声。
3人が振り向く。
修が前掛けで手を拭きながら笑顔で近づいてきた。
後ろからおまさも続く。
「お待たせしました。夕餉の支度が整いましたよ」
「おぉ、待っておりましたぞ」
おまさの言葉に、鉄鼠が相好を崩した。
「今夜はなんですか?」
ラウラも立ち上がり、修へと歩み寄る。
「春になったとはいえ、まだ冷えますから。春の山菜を使った鍋にしやした」
「いいですねぇ♪ お鍋、大好きです♪」
ななみも嬉しそうに立ち上がった。
「それはよかった。じゃ、早速お部屋へ」
おまさが半身の姿勢になり、皆を促す。
「「はーい♪」」
ラウラとななみが嬉しそうに声を揃えて。
食事の間へと小走りに向かった。
「ははは、ご両人が来ているからか、今日はいつもより浮かれとるわい」
鉄鼠が目を細めて、ラウラとななみを見た。
カラ元気なのは、わかっている。
だが、それでも。
ふたりの健気な姿に。
鉄鼠は安堵していた。
「きっと、隆さんと猫またのことが心配なんでしょうが、立派なもんですねぇ、あのふたりは」
修が腕を組み、ラウラとななみの背中を見る。
「んん。とくにななみは、成長著しい。あとはこれで、能力を完全に覚醒してくれれば……」
「そうですね。すべてが終わるんですね」
おまさが鉄鼠の言葉を受ける。
「そうじゃ。万事、終いだ」
鉄鼠の表情が変わった。
真剣な眼差し。
「それまでは、ななみを守らねばなるまい。おふたり、何卒宜しゅうお頼み申します」
「えぇ、任せておくんなせぇ」
小さく頭を下げた鉄鼠に対し。
修が大きく頷いた。
おまさも続く。
「これが最後のお役目。終わったら、こっちの世界も少しは良くなる。そう信じて、頑張りますよ……と、そろそろ私たちも行かないと。お鍋が冷めちまいます」
「おぉ、そうだ。行きましょう、鉄鼠僧正」
「おぅ! 今もっとも大事なのは鍋じゃな」
鉄鼠がまたも相好を崩し。
足早に食事の間へと向かい始めた。


安城京跡前。
南都を東西に走る二条大路。
約300メートルの道幅がある。
その二条大路を挟み、安城京跡の対面にある野営地に到着した私たちは。
自衛官の指示に従い小トラを所定の位置に駐車し。
作戦指示を行なうテントへ入った。
「遅くなった」
中には、川嶋・乱堂・小林・田中・樫本・オーチュン。
周辺地図を広げた机を囲うように立っている。
「おぉ、待ってたぞ」
私と猫またを見て、川嶋が顔を上げる。
「申し訳ない……」
私、川嶋へと近づく。
「思ったより遅かったな。何かあったのか?」
普段と違う私と猫またの態度に違和感を感じたんだろう。
樫本が聞いてきた。
「……満腹三等陸曹がやられた」
「なに!」
川嶋が驚く。
「長池の宿で敵が潜ましていたゾンビにやられたニャ」
猫またが怒りを押し殺し、悔しげで悲しげな表情を浮かべる。
「そうか……大きなナイフにでも一突きされたか」
猫またの報告に、川嶋が返答。
「あぁ。申し訳ない、私の不覚だ。相手の気配をもっと早く感じていたら……」
「そうだな。常に冷静さを持て。メンテム時代に叩き込んだはずだぞ」
樫本が険しい顔。
「面目ない。満腹が相手を倒した時点で安心してしま……ちょっと待て」
私、会話の違和感に気付く。
「なんだ」
川嶋が表情を崩さず答える。
ただし。
オーチュンが若干、ニヤついている。
「なんで満腹を殺った相手を知ってる?」
「お、よく気がついたな、ボーズ」
樫本も、ニヤリと笑う。
「モット早ク気ガツクカトオモッタゼ。ヤッパリ動揺シテルナ、コワカナ」
オーチュンも笑い出した。
「どういうことだ?」
「満腹は死んでない、ということです」
満腹の直属の上司である田中が口を開いた。
「満腹から無線連絡がありました。自分が死んだと勘違いして小若菜陸曹と猫また陸士長が小トラでそちらに向かったと」
「ニャんと! 生きてたニャすか!?」
猫また、驚きを隠せない。
「ちゃんと生死の確認くらいしろ、ボーズ。常に冷静さを持て。メンテム時代に叩き込んだはずだ」
樫本が笑いながら、同じ言葉を繰り返した。
「ニャんとまぁ……でも、ニャんで死んだふりニャんて……」
「満腹曰く、ちょっとボケてみたんだそうだ」
猫またの疑問に川嶋が返答。
「ボケてみたぁ!?」
私、声が裏返る。
「大変申し訳ない。あの男はそういったところがありまして……」
田中が申し訳なさそうに頭を下げる。
「実力的には三等陸尉クラスなんだがな、下らない冗談をかますから、いまだに三等陸曹なんだ」
川嶋も諦めのため息をつく。
「じゃあ、満腹さんは無傷ニャのかニャ?」
「ピンピンシテルサ! キット今ゴロ、hamburgerデモ食ベテルゼ!」
オーチュンが爆笑している。
「ったく、お騒がせな野郎だな。やっぱり、精神的に疲れる奴だ」
私、わざとらしくため息をついた。
「もっとも、兄貴の言う通り、味方の生死をしっかり確認しなかった私たちの落ち度でもあるが」
「でも、人騒がせにもほどがあるニャ!o (#=●ㇸ●=)o!」
猫また、若干のプンスカモード。
からの。
「……でもでも、生きててよかったニャ……」
ホッとした様子。
「忙しい奴だな。怒ったり安心したり」
「だって、まさか生きてるニャんて思わないニャ」
「確かに……ってか、無線機あったんだな。しかも長池宿からここまで電波の届く」
設備面の関係上、ここまで携帯電話やトランシーバーと言った無線機能をまったく使ってこなかった。
「今回の戦いにあたり、インカムレベルの無線機を複数用意しました。また、高性能無線機を1台、準備致しました」
私の疑問に田中返答。
「なるほど、貴重な1台ってわけか。それを満腹に持たせた」
「はい。小若菜陸曹を迎えに行かせる人員が彼しかいませんでしたのでひとりで行かせましたが、単独行動は危険ですので、有事の際にすぐ連絡できるように持たせました」
「そうか。だったら今からでも満腹を北都に向かわせて連絡を取り合えるように……」
「それは不可能です」
今度は乱堂が返答。
「高性能ではありますが北都からでは電波が届きません。また、簡易基地などを設置することも検討しましたが、どこに敵が潜んでいるか不明な状態で我々の機材を放置するわけにもいきません」
「監視の部隊をつけても、それを凌駕する人員で攻撃されたら人命にかかわる危険性もある、か」
私、乱堂の返答に納得。
「おっしゃる通りです」
乱堂が頷いた。
「で、満腹の迎えには誰か行かせたのか?」
私、別の疑問を口にした。
「寺田陸曹に行かせている。さすがの拝金主義も彼女だけには弱いらしい」
今度は川嶋が返答。
「ん? どういう意味です?」
「彼女に対しては金を振りかざして言う事を聞かせようとはしないんだ」
「その点は他の男子自衛官と同じだな」
私、思わずニヤリと笑い。
すぐにシリアス顔へ。
「で、どうやら作戦会議の途中らしいが、私たちにも詳しく教えてほしい」
「そうだな……」
川嶋が思案顔。
「ん? なにか問題でも?」
「いや、問題と言うわけではないんだが……まだ攻撃する段取りはできていない。ただ、今の状況を知ってもらうために会わせたい人たちがいる」
「会わせたい人たち?」
「南都を守ってきた面々だ」
「守ってきた面々?」
「そうだ。小林、説明を」
「南都代官と南都奉行、南都奉行所筆頭与力、与力支配役、それに庶民を束ねてきた町年寄と庄屋です。その者たちの話を聞いたうえで今後の対応や作戦内容をお伝えした方がわかりやすいかと思われます」
川嶋の指示で小林が説明。
「そういうことだ。ここにいる面々は全員、説明を受けている。小若菜と猫またも代官たちのところへ行くぞ」
「それはかまわないが……ここで川嶋さんから聞いても一緒じゃないか?」
「なに、本人たちの口から聞いた方が齟齬なく敵さんの行動がわかるからな」
「敵の行動?」
「まぁ、ついてくればわかる」
「そうか。わかった」
私、ようやく頷く。
「それでは、総員自身の野営地に。いつ、敵が攻撃をしかけてくるかわからない。いつでも連絡をとれるようにインカムを所持しておくように」
「「「「はっ!」」」」「Yes, sir!」
川嶋の言葉に。
乱堂・小林・田中・樫本・オーチュンが返礼(オーチュンのみ英語対応)。
テントを出て行った。
「じゃ、小若菜、猫また、行くぞ」
やや表情を崩した川嶋がテントの出口へと歩き始める。
「了解」
「ニャい∠(=`●ω●´=)←敬礼」
私たちも後に続いた。


「まったく、おっちょこちょいも甚だしいよね、あのふたり」
満腹が小トラの助手席に乗り、呆れ顔でハンバーガーを食べている。
「何言ってるんですか。きっと小若菜陸曹と猫また陸士長、今頃カンカンですよ」
小トラを運転する寺田が満腹を窘めた。
土の道。
両サイドには鬱蒼とした雑木林。
暮れ六つ(午後5時)という時間帯のせいもあってか、周囲は薄暗い。
ライトをつけての走行。
「えぇ~、僕が悪いって言うんですかぁ?」
やや間延びしたような独特な口調で、満腹が反論。
「そうです。だいたい、なんで死んだ真似なんかしたんです?」
「ちょっとボケてみただけですよぉ。それより、僕が死んでいるかどうか、ちゃんと確認しないほうが悪いんじゃないですか?」
「死んだふりして笑いを取りに行く方が悪いです」
寺田、満腹の反論をピシャリと否定。
「ぶ……ブヒ……ブヒ……」
他の男子自衛官同様、寺田に恋心を抱いている満腹。
二の句が継げず。
「いいですか、基地に戻ったら小若菜陸曹と猫また陸士長に謝ってください」
「ブヒ……いくら愛しの寺田さんとはいえ、僕と同じ階級なのに命令って……」
「上官からの命令です」
「田中さん?」
「川嶋三等陸佐です」
「ひーーーー! さ、三等陸佐から!!」
いくらふざけていても。
そこは、自衛官。
陸佐から謝罪するよう命令されたとあれば。
あとでどれだけ咎められるか。
「ぶ……ブヒ、ブヒ……」
満腹、顔を青ざめさせ、鳴き声的口癖を呟く。
「ブヒブヒ言うくらいなら、もうそんなふざけた真似は……危ない!!」
寺田が慌ててハンドルを切る。
「ブヒィィ!」
満腹も声を上げた。
小トラが進行方向に向かって斜めに停車。
「ど、どうしたの!」
満腹が叫ぶ。
口調は変わらないが、緊迫した表情。
「木陰から急に老人が出てきて!」
寺田が小トラから降りる。
満腹も続く。
小トラの前に老人が倒れている。
ボロボロの着物。
頭髪はない。
うつ伏せになっており顔は見えないが。
皮膚の感じから年配者だとわかる。
「夕方の運転は気をつけないとダメだよ。僕もこっちの世界のお金は持ってないから、寺田さんを庇いきれるかどうかわからないし」
「何を訳の分からないことを! 私の立場なんてどうでもいいですから、まずは手当てを!」
寺田が満腹に言いつつ、老人へと駆け寄った。
「満腹陸曹は本部へ連絡。私たちは老人を奉行所へ運び手当させると伝達を」
「はいはい、わかりましたよ」
満腹が小トラへ戻りかけた。
刹那。
「その必要はないぜ」
くぐもった声。
「え?」
「ブヒ?」
寺田と満腹が周囲へと視線を走らせた。
人影はない。
「俺だよ」
寺田と満腹、声のする方向を見た。
その瞬間。
老人が伏せたまま、手を挙げた。
「寺田陸曹!」
満腹が叫び。
寺田へと走った。
体型や普段の言動からは考えられないほど速い。
「えっ!?」
寺田が満腹へと振り向く。
老人の手のひらが開いた。
大きな目玉。
「喰らえ!」
目光線。
その先には寺田。
「させないぞ!」
満腹が寺田へ飛ぶ。
抱きかかえ、地面へ。
寺田がいた場所を目光線が通過。
「ちっ。意外といい動きをしやがるじゃねぇか」
老人が立ちあがった。
手のひらを寺田と満腹へと向ける。
「貴様は手の目! どうしてここに! どうやって生き返った!」
寺田を庇うように倒れ込んだ満腹が叫びながら9mm拳銃を抜き、銃口を手の目へ向けた。
「けっ。うるせぇなぁ」
手の目が苦々しそうに呟き。
再び目光線を放つ。
満腹、寺田を抱きかかえつつ地面を転がる。
今いた地面が目光線でえぐられた。
「冥途の土産に教えてやるよ。ベアードの奴が俺を甘く見たのさ」
猫がネズミをいたぶるように。
手の目が満腹と寺田がいるギリギリの場所に目光線を放つ。
満腹、転がり。
なんとか避ける。
寺田が悲鳴を上げた。
手の目が言葉を続ける。
「あいつ、全妖力を使って北都の監視を始めやがった。当然、俺を灰にしていられる程度の力は残したつもりだろうが、俺を見くびりやがった」
言っている間も、目光線を放つ。
満腹、地面を転がり続けるも。
道の脇へ。
背後には雑木林。
その奥から、呻き声。
「俺は復活して、北都に出た。お誂え向きに片輪車が巡回してやがったから、ここまで連れて来させたわけさ」
「な、なんてことを……」
満腹に抱きかかえられたままの寺田が呟く。
「さぁて、御遊びはここまでだ。ふたりとも立ちな」
手の目が手のひらの大きな目で、満腹と寺他を促した。
寺田が満腹から離れ。
ふたりがゆっくりと立ち上がる。
満腹が一歩前へ。
寺田を庇うように立つ。
「寺田陸曹。背後へ、左右に飛ぶよ。後、第五」
いつもと違う、落ち着いた口調。
「……はい」
寺田、気にせず返答。
気にしている場合でもない。
「けっ、好きにしな。どっちみち、あの世で再会するんだからな!」
手の目、目光線を放つ。
寺田と満腹が同時に背後へ飛んだ。
可能な限り、左右へとわかれて着地。
その上を目光線が通過。
「こざかしぃ!!」
手の目、ふたりが着地したあたりに目光線を放つ。
木々や葉が吹き飛ぶ。
昼間のような眩しさが雑木林を覆った。
「よーし、こんなもんだろぅ」
手の目が手のひらを閉じる。
目光線によって無理矢理ちぎられたようにボロボロになった大木の切り株と。
大破した片輪車の車輪。
主である、美しい女性の姿はない。
寺田と満腹が着地したあたりは、土がえぐれている。
「これで雑魚は片付いた。コイツは拝借してくぜ」
手の目がニヤリと笑い、小トラに乗り込んだ。
右手でハンドルを握り。
左手で前方を見る。
「待ってろ、小若菜に猫また。お前らを血祭りにあげてやる」
手の目がアクセルを踏み込む。
小トラが急発進で南都街道を南下していった。

(「Dead or Alive(2) ―新・ゾンビサバイバル 228~237日目―」へ続く)

(あとがき)
[壁]●)ソー……
[壁]_●)チラッ
[壁]_●)あ……
[壁]_●;)あけましておめでとうございます(爆)
[壁]_●;;)mものすごーく遅くなりましたが、今年も宜しくお願い申し上げます(滝汗)

そんなわけでして(爆笑)
小若菜隆でございますよ。
どうにかこうにか生きておりますよ(笑)
いや、まぁ、その、フェイスブックとかツイッターとかでは、そこそこ頻繁に近況とか書いてたりするんですけども。
小説がなかなか書ききれなくて。
ブログは放置状態になってしまいました申し訳ございません。

さて、ゾンビサバイバル小説(第1シーズン)が始まってから、本日で3年が経ち。
第2シーズンである今作も、昨年の今頃には選択肢的には終了しているわけですが(滝汗)
今年に入り、時間的&気持ち的な余裕が少しなくなっておりまして(←ありがたいことに仕事が順調で忙しくなっております)。
なかなか書けずにおりました。
ただ、どうにかこうにかちょこっとずつ書き溜めた内容がまとまってきまして。
今日・明日くらいには最終話まで書ききれるかな、というところまで参りました。
うん、エイプリルフールに目処が立つあたり、私らしいですけども(笑)
とにかく、あと数話で今シリーズも終了しそうですので。
最後まで、どうかお付き合いくださいませ。


あ、そうそう。
実は今回のお話について、蛇足的な説明がございましてね。
ただ、この説明。
ちょいとしたネタバレになりますので。
「いやいや、そーゆー説明はいらない。楽しみは最後までとっておきたい」
と仰る方は。
このあと、下↓へとスクロールせず。
別ページに飛んで頂ければと思うのですけども。
もしご興味のある方は。
このまま下↓へとスクロールして下さいませ。




























そろそろ宜しいですかね?
えぇっとですね、大したことじゃないんですけども。
今回の前半部分で。
北都に残った面々が登場しましたよね。
あの面々なんですが。

今回、戦闘シーンは一切ございません!


「えっ!? あんだけ危機感煽っといて!!??」
「じゃあ、なしてあんなに登場させたのさ!」
といった声が聞こえてきそうではございますが。
実を申しますと。

最後に今まで登場したレギュラー・セミレギュラー・特徴あるゲストキャラを再度出したかっただけです。


いやぁ、こんなこと、商業ベースじゃ絶対できないですからね。
好き勝手やらせて頂きました(笑)
なにせ、痛快成り行きゾンビサバイバル小説ですからね(←理由になっていない・笑)
そんなわけでして。
今シリーズも、あと少し。
最後の最後まで、やり散らかせて頂く所存でございますm(●_●)m
どうぞ、お付き合い下さいませ♪
小若菜隆でした!
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てなわけでして(←冒頭からつなぎの定型文)
昨日、大掃除を終えまして。
本日は関東某県(有り体に申せば埼玉県)某市(有り体に申せば所沢市)にあります実家に参りました。
所謂、帰省ってやつですね。
と、その前に。
池袋でお嫁ちゃんと、ちょいとデート♪
岩合光昭さんの写真展へ。
心癒されましたO(≧∇≦)O
で、所沢に参りまして。
近所にあります温泉へ。
一年の疲れを流して参りました♪
あー、さっぱりしましたO(≧∇≦)O

それに致しましても。
今年も色々とございました。
なかでも。
一番の出来事は。

育毛剤を使ったら髪が増えたですo(*≧∇≦)ノ♪
↑記者復帰じゃないのか、自分

あとは。
ゾンビサバイバル小説を書き切れなかったことですかね(白目)

と、とりあえず_(●●;)ゞ
3日から、早速の合宿予定でございますので。
新年早々、書き終わろうかと。
斯様に考えている次第でございますm(●_●)m

てなわけでして(←2度目)
本年も一年、お世話になりました。
来年も、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

よいお年をお迎え下さいませ!o(*≧∇≦)ノ♪m(=●▽●=)mニャ♪←最後の最後に猫また登場
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