森瑶子。
今から20年くらい昔。
そう、バブル期に咲いた大輪の婀娜花のようなひとだった。

まだ若かったあたくしは、そのひとの煌びやかな文才と、華やかな私生活に憧れていた。
大人の女性。それも複雑な。
何だかよく理解できないけど、いっぱい恋をして、人を愛することに苦しんでいる女性。
そして、流れ星のように脳裏に輝きを残したまま、ふっと消えてしまった。
享年52歳。

そんなひとが書いたものだもの。
それも、「ダイヤモンドストーリー」だなんて。。。

<女心を惑わすダイヤモンドなんて程度がしれている。
せいぜい一カラット二カラット、四カラットのハートシェイプどまり。
けれども男心を乱し、征服欲を駆り立てるダイヤモンドには、用心しなければならない。
必ずや、血腥い事件が起きるから。>

ところが、内容はダイヤモンドに纏わる血腥い事件でもなく、洒落た男と女のラブストーリーもなく、
ノンフィクション、というか、紀行文になっている。
まず、ロンドンのデ・ビアス社への訪問。そして、ダイヤモンドの原産地アフリカと、ダイヤモンドのメッカ、イスラエルへの旅。
ルポルタージュというほどでもなく、紀行文ともいいがたいし、ハイテンションでムラがある。
売れっ子作家の、かなりのおっつけ仕事という感が否めない。


年をとるということは哀しいことなのかな。
それは、森瑶子に対してではなく、自分に対しての言葉。
この作品に限っては、文章の粗や森瑶子の書き手の心理や思惑までもが、手に取るように見えてしまう。

ある一定の年齢を越えると、いままで見えなかったものが見えてきてしまう。
人はそれを成長ともいうのだけれども、
昔、森瑶子に無条件に憧れていたような情熱や純真さはもうない。
何かを得ると何かを失う。。。
そんな大人の女の真実も、いつの間にか理解できる年頃になっている。

それって悪いことじゃないよね。
と思いつつも、何かの残骸を見てしまったかのような、この作品は、あたくしを悲しませた。

色褪せるのは時代のせい?
それとも見る側の気持ち?
時の流れは残酷。
永遠に変わらないのは、ダイヤモンドの輝きだけ。
永遠の輝きを残したいから、女にはダイヤモンドが必要なのかもしれない。

時の流れを拒絶したかのように、さっさと流れ星になってしまった森瑶子。
やっぱり、彼女は彼女だ。永遠に。





森 瑶子, 稲越 功一
ダイヤモンド・ストーリー