メロメロパーク
2010年10月06日(水)

短編 第一話 「鏡」

テーマ:短編 鏡
私は鏡に向かって微笑む。
奇妙だった。
おかしなくらい生々しい自分の姿に、背筋が寒くなる。
腕を上げ、脇の下を検分する。何処をどう見てもつなぎ目など無かった。

鏡は真実を映す?
それとも、
虚像を?


私は二年前、飛行機事故に遭った。
二百四十三名の乗客の中で、生存者は私のみ。
言い方を変えれば、私が唯一、生を買い取ることが出来たとも言えた。
私の手足は四散し、内臓にも重篤な損傷があった。
しかし、二千五十六年の医療技術は体の大部分を代替え臓器で補うことが出来た。
私は人工臓器を移植された後、自らの遺伝子をもつ完璧なクローン臓器に順次交換されていった。
驚いたことに、事故後、煩っていた偏頭痛も何故か完治した。
私は核融合研究から身を起こし、今では雑誌の表紙を飾ったりもするただの成り上がりだった。
世界のトップ百の経営者という記事の中にも、私の名前が載ったこともある。

まったくもって、馬鹿げたことだ。

トーキョーの高層マンションの最上階が、私の自宅だった。
私は毎朝決まった時間に階下に控えている社用車に乗り、出社する。
車内で秘書が一日のスケジュールを告げる。私は車のモーター音に耳を傾け、3D映像のニュースに手をかざし、それを手早く検索する。

金融破綻。
食料危機。
地球温暖化。

どうしようもないニュースばかりだ。
私が子供の頃、映画で観た未来の世界では車が空を飛んでいたが、二千五十年を過ぎても、そんなことにはならず、車は道路から供給される電力でモーターを回し、蚊の鳴くような情けない音を上げているだけだった。
社用車は地下駐車上に滑り込むと、私はいつものようにエレベーターに乗る。

八十八階。

私はプレートに最高経営責任者とゴチック体で印刷された扉を開け、部屋の中に入る。
私は独りになり、こけおどしのデスクから鏡を取り出し、自分の顔を眺めた。
飛行機事故で、顔にはほとんど損傷はなく、欠損した頭皮の一部を移植したのみだった。
しかし、私は自分の顔に違和感を抱き続けていた。

睫毛。
鼻の頭に浮かぶ脂。
目尻の皺。
乾いて割れた唇。

それらどれもが、あまりにも生々しかった。
鏡を見つめながら、顔を左右にゆっくりと振る。

右。
左。
右。
私はいったい何をやっているのだろう。

そう思いながら、私は左に顔を向けながら鏡を斜に見た。

「………?」

そのとき、

鏡に映る自分の姿と自分の動きに微かなずれを感じた。

私は正面を向き、
ゆっくりと、
頬の筋肉を動かした。

微笑を浮かべようと。

しかし、
頬の筋肉は硬直し、
とても笑顔を浮かべられる状態ではなかった。

「どうしちまったんだ?」

私は驚愕のあまり眉は歪み、眼は大きく見開かれ、口を大きく開けたまま立ち尽くしていたが、

鏡の中の私は、

いつまでも、
いつまでも、

微苦笑を貼付けたまま、硬直していた。
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