2010年10月08日(金)

「黒い神様」 第二話

テーマ:短編 黒い神様
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すべてが青白い膜に覆われて、まるで遠近感が無く、
俺は今何処にいるのか、今生きているのかもわからなかった。
昨夜の出来事はいったいなんだったのか?
友人が異形のモノに変わり、
そいつはまるで悪魔のようで、
しかし、自分のことを神と言った。
とんでもない夢だった。
俺は狂ってしまったのか?
それとも?

俺たちの席の向かいには、家族連れが座り、朝食メニューらしきものを注文し、
楽しげに談笑しながら、食事を楽しんでいた。

子供が俺を見つめている。
俺は笑いかけたが、その子は驚きの表情を見せ、握っていたスプーンを落とした。
恐怖が顔に張り付いている。
いったい何故?

ファミリーレストラン。
友人には世話になりっぱなしだ。
昨晩酔って、そのまま眠ってしまった。
そして今もこうして、朝食までおごってもらっている。


「おい、どうしたんだ?食べないのか」

「ああ、なんだか飲み過ぎたみたいだ」

「ところで………」

友人が突然、言葉を切り、静止した。
直後、
友人の姿が、またしても昨夜観た悪魔、いや、神に変わった。

「あんたの考えてることは、全部わかるよ」

「………」

朝日が窓から入り込みテーブルや写真入りのメニューに反射しているが、目の前の黒い人影はいっさいの光を吸収し、輪郭はぼやけ煙のようで。
まさに影だった。
そして、

角。
黒い翼。

どこからどうみても、神には見えなかった。

「俺をどん底に落としいれたのは、あんただろう、今そう思ったね?」

「………」

目の前の黒い神は、まいったねと言った具合に両手を広げながら首を振った。

「あんたら人間は、悪いと思えることは、何でも他人のせいにしたがる。そのくせ、良いことは自分の実力で手に入れたと思っちゃうし」

よく見ると、目の前の黒い神は、革製の鞄を脇に置き、時計も巻いていた。

オメガスピードマスター。

ひょっとして、携帯なんかも持ってるのか。
俺は心の中で考えただけだが、やはり、黒い神は俺の心を聞いていた。

「もちろんもってるさ。本部から無理矢理持たされてるんだけれど。最悪だね携帯って。俺たちの世界も同じで、俺のような下っ端はいいようにこき使われるだけさ」

言いながら、黒い神は携帯をテーブルの上に置いた。

最新式のスマートフォンだった。

「俺、ゲームは興味ないけれども、これはヒマなときによくやっちゃうんだ」

慣れた手つきで画面をタッチし、アプリを起動させ、携帯をくるりと回転させ俺の方へ突き出した。
そのアプリは、タロット占いだった。
携帯の小さな画面の中で、カードは切られ、三枚が並んだ。

「ほれ、押してみて」

俺は言われるがままに、その三枚のカードを順番に押した。
カードがすべて並び、開かれる直前、黒い神はアプリをストップさせた。

「おっといけねえ。あんたの運命はもう決まってるんだっけ」

黒い神は微笑し、携帯を鞄に入れると、替わりに書類ケースを出し、その中からA4サイズの紙を二枚だし、一枚を俺に差し出した。

一番上には俺の名前が書いてあった。
そこに書かれていたのは、俺の人生だった。
しかも、厄災ばかりが並んでいる。
すべて、事実だった。
びっしり文字が並んでいたが、俺が癌に罹り会社を解雇されるところで文字が終わっていた。

「これから先のことは、こっちに書いてあるよ」

そう言いながら黒い神は、手元にあるもう一枚の紙を、指先でトントンと叩いた。
俺の人生は、後一枚分の災難が待ち受けているということなのか?
俺は間もなく、死ぬというのに。
俺の疑問にはおかまい無しに、すこし饒舌になった黒い神は語り続けた。

「俺たちの仕事は、君たちに幸せを与えることなんだ」

考える前に、俺の体は反応し、立ち上がり、そして、

「おい!ふざけるんじゃねぞ!」

俺は自分でも、驚くくらい大きな声を上げていた。
黒い神も、俺の声に気圧され、いくらかだが身を引いた。

「やっぱり勘違いしてるよ、あんた」

そう言いながら、黒い神はコーヒーを口に運んだ。
俺も、自分を落ち着かせるため、水を口に含んだ。

「お前達が、神と呼んでる存在も、お前達が悪魔と呼んでる俺たちも、まったく同じ仕事をしているんだよ」

「………」

「福音も厄災も、中身はいっしょさ」

「そう………」

「ようはその事象を、どう見るか、どう感じるかの違いによる」



「ただそれだけ」





第三話につづく
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2010年10月03日(日)

「黒い神様」 第一話

テーマ:短編 黒い神様
死ぬ意外に考えられなかった。

苦しみから逃れるため?
それとも、
本当の苦しみを得るため?

夜の街を彷徨いながら、俺は夜空を眺める。
完全な闇ではなく、町の灯りを薄汚れた大気が跳ね返し、微かな緑色に染まっている。
食欲は無かった。
しかし、まだ痛みに襲われる事もなかった。
黄疸が出始めている。
本当の苦しみはこれからだろう。
財布の中身は減る一方で、決して増える事は無かった。

俺は財布の中身をあらためた。
二千十五円。

半年前に肝臓癌に罹り長期病欠。
会社を解雇された。
おまけにそんな俺を置いて、妻子は家を出て行った。
一ヶ月後、離婚届が郵送されてきた。
金がなく、病院へ通院する事も出来ず、ひとまず食肉加工会社でアルバイトをしたが、そこも解雇された。


通り過ぎる人々。
親子連れ。
若者。
老人。


俺の目の前を、台車に荷物を山積みにした浮浪者が通り過ぎて行く。
ゴミ箱の前で停まり、中を漁り始めた。手にしているのは空き缶だった。
俺には浮浪者になる選択肢も無かった。
まもなく癌が進行し、どうにもならなくなって、あの世行きだからだ。
しかも、入院する金すら無く、頼る親類も無く、病院で静かに死を待つ事も出来ない。
街を彷徨いながら死に場所を探した。
繁華な街の中で、自殺を遂げる場所など何処にも無い。橋の上から川へ飛び込んだとしても、誰かに目撃され通報されたら?
もっとも、入水自殺はごめんだった。最も苦しい死に方だと、何かで読んだ事があったからだ。


飛び降り自殺。
首つり。
薬物。


考えるだけで、それらはあまりにもリアリティーを欠き、かけ離れた世界の寓話のように思えた。
それは、俺自身まだ生きたいと思っているからなのか?

気が付くと俺は、友人のアパートの前に立っていた。
友人は、俺を部屋に招き入れ、水割りを作り差し出してくれた。
ついこの間まで、病を克服してやろうとがんばってみたが、もうどうでもよく、今や酒を飲む事に抵抗も無く………。
最後の酒になるのか、と何となく思いながら、俺はちびちびと水割りを舐めた。

「袋小路。八方ふさがり。とにかく打つ手は無いな」
「俺に出来る事は?」
「こうして、話し相手になってくれているだけで十分だよ」
「………」

友人は一度天井を仰ぎ、ため息をつくと、ゆっくりと立ち上がり台所に消えた。
戻ってくると、新しいウイスキーのボトルにオイルサーディンの缶詰を抱えてた。

「なぜ………」

俺は黄色くなった手のひらを見つめながら呟いた。

「ん?」

「何故俺だけこんな目に遭うのか、といつも思ってた」

それから、ほとんど話す事もなく、俺たちは水割りを飲み続けた。
新しいウイスキーのボトルが半分ほどになった。

アルコールが体を駆け巡り、視界がまわった。
友人を見る。
そこにいたはずの友人は、黒い影のように見えた。

その直後、俺は絶句した。

一瞬にして友人の体がドロリと溶解し、飛沫を上げて床に落ちた。
友人の座っていた辺りに、赤黒い液体が広がり微かに脈打っている。
その液体がゆっくりと移動し一つに収束する。
大きな黒い固まりになり、脈打ちながら徐々に膨張していった。

人の形だった。

光を吸収して、何も跳ね返さない暗黒。

「なんてこった」

目の前の人の形をした黒い固まりは、頭に二本の角があり、背中には黒い翼が生えていた。
俺は頭の中で、悪魔だ、と呟いた。その言葉は目の前の異形のものに届いたようだ。
そいつは俺にこう言った。


「おまえ、俺の事ちゃんと見てるの?俺、神様なんだけど」
「神様?」
「あたりまえじゃん、なんか勘違いしてるんじゃねえの?」
「………」


俺は飲み過ぎたのだろうか?酔って幻覚を見ているのか。それとも、酔った挙げ句に眠ってしまい、今は夢の中にいるのだろうか?
目の前のそいつは、またもや俺の心の中のつぶやきを聴いたに違いない。
即座にこう返して来た。


「だからさあ、これは現実なんだよ。すべては俺の仕事なんでね」





~第二話に、続く。

第二話はこちら
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