『胡蝶の失くし物―僕僕先生』 仁木英之 新潮社
- 胡蝶の失くし物―僕僕先生/仁木 英之
- ¥1,575
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「職業兇徒」
「相思双流」
「主従顛倒」
「天蚕教主」
「回来走去」
「恩讐必報」
の六編が収められています。
正義と愛と友情の為ではなくて、
幸不幸の相克も超越し、
面白いトラブルを求めて僕僕一行ののんびりした旅は続く。
ノーテンキなハッピーエンドとは限らない旅なのが深い。
無敵の仙人僕僕が本気になれば、
トラブルなど一瞬で解決出来る筈だが、
雲に乗って飛ばずに、
地道にテクテク歩いて旅する理由や、
トラブルの解決策の必然性の理由付けが巧い。
というか解決せずに悲劇を見届けるだけのエピソードもあります。
万能に思われた僕僕仙人が唯一出来ないことも語られます。
人は誰でも何かを失くす。
だが、得るものもあるだろう。
全てを失くしたと思い込み自殺したくなっても、
探せば生きる理由はあるよ、
という作者の暖かいメッセージが伝わってきます。
トラブルで自殺するなんてアフォ。
トラブルを楽しむ心の余裕を持とうぜ!
何の役にも立たないニートでも、
兇悪無情の殺し屋でも、
弟子にしてしまう僕僕の肝っ玉の深さがいいよな。
ホモの青年が弟子に加われば、
きっと僕僕は美少年に変身してくれるでしょう、ハァハァハァ…。
老人萌えはいないせいか、
今巻も老人体には一度も変身しませんでした。
『薄妃の恋―僕僕先生』 ではツンデレライノベ寄りに軽くなりすぎた感があるが、
今巻は殺し屋視点から物語が始まるので、
のように格調高い重い文体で始まります。
これならおっさんも拒絶反応出ずにグッドだね。
まあ、ニート青年の王弁君が出てくると、
カタカナ語多用のライノベ風味になってしまうが、
小説は出だしのイメージが大切なので、
今回の試みは私はいいと思う。