「不完全性定理―数学的体系のあゆみ」 野崎昭弘 ちくま学芸文庫
岩波文庫のゲーデルの本物を買いたかったのだが、
田舎の本屋には売ってなくて、
わざわざ市外に車走らせて、
手ぶらで帰るのも癪だから、
買ってしまったバチモンであるが、
数学解説者の日本一は野崎先生だと言う説もあるぐらいで、
読んで損は無かったです。
数学的体系のあゆみを全6章で解説し、
ゲーデルネタはラストの6章のみ、
たった30Pほどで、
不完全性定理の解説本としては、
タイトルの水増しが酷すぎるというか、
不完全性定理をタイトルにしたのは詐欺に近いが、
タレスの「二等辺三角形はニ角も等しい」
という小学生レベルの証明から始まるから、
中学や高校で数学に挫折した人でも、
本書は取っ付き易いだろう。
数学オタクには飽きた話題ばかりに思えるかもしれないが、
有名な話題が一般受けする過程で、
ねじ曲げられていく過程も分析しているのが、
数学オタクにも面白いだろう。
級数の発見で既にパラドックスでは無くなった
ゼノンのパラドックスに対しては、
運動を否定したきち○い哲学者ゼノンではなくて、
背理法の有効性を訴える数学者ゼノンという説も提示しているのが、
野崎先生の学者としての真摯な姿勢の表われでグッジョブであろう。
野崎先生は応用数学者で「不完全性定理」は実は専門外だが、
調子にのって「私は第四不完全性定理を発見した!」
と叫んでしまうのだが、
超数学者に間違いを指摘され、
自分の間違いを正す過程も正直に書いているのが、
信頼出来る一流の学者の証拠であろう。
そして、本としては、宗教を否定する素晴しいメッセージで、
エンディングを迎えるのも感動的である。
「無条件に信じるのではなく、根拠を疑う姿勢が一番大事である。」
数学オタクはゲーデルが世界一の天才だと思っていると思うが、
ゲーデルは哲学者扱いされることもあるので、
アンチもいるかもしれない。
ゲーデルに匹敵する天才として、
野崎先生は、
五次以上の方程式に解の公式が無いことを証明した
アーベルの名を上げているので、
ディープな数学オタクの琴線に触れるよなw
アーベルは一度の間違いで、
解の公式が無いことに気づいたが、
有るのが当然だと信じ続けて、
死ぬまで探し続けたラグランジュは哀れだよな。
だが、世の中の役に立ったのは、
ラグランジュポイントを発見したラグランジュの方で、
アーベルは知らなくても、ラグランジュは、
ガンオタにさえ知られています。
天才は希望を発見するとは限らない。
絶望的な真理を発見することもあるが、
それが見えてしまうので天才なのです。
自分の都合ではなくて、
見えなくていいものまで見えてしまうのが天才だよな。
この本読んで天才たちの一端に触れ、知的興奮して下さい。
知性で興奮出来るのが人間に生まれた快感である。
- 野崎 昭弘
- 不完全性定理―数学的体系のあゆみ