24日、後楽園ホールで開催された

『SMASH』の取材に行ってみた。


今回の目的は、ただ一つ。

あのデーブ・フィンレ―を生で観るため。


今年3月末に、約10年在籍したWWEを退団した

フィンレ―(リングネーム=フィット・フィンレ―)だが、

その後も米マット、欧州マットで試合を続けてきたという。


現在、53歳。

果たして、どこまで健在なのか?

昔と比べてどう変化しているのか?

そこに懐かしさとともに興味があった。


WWEの日本公演では来日しているものの、

純粋な日本マットへの来日は何年ぶりだろうか?


私の知る限りでは、1995年にWCW(崩壊)に定着する以前の新日本マット、

1994年5月~6月に開催された第1回『ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア』への来日が

最後だったのではないか?

そう記憶している。


新日本への初来日は、1983年7月で、あの初代タイガーマスクの引退直前のこと。

タイトルマッチなどには絡んでいないが、初代タイガーとも対戦している。

本格的に、実力を認められての再来日は、91年2月だが、それ以前に、

旧UWFのリングにも登場したという記録が残っている。


とにかく、フィンレ―は初期スーパージュニアの外国人選手の顔でもあった。

91年4月、『ベスト・オブ~』の前身である

第2回『トップ・オブ・ザ・スーパージュニア』に参戦。

それ以降、92年の第3回、93年の第4回、

そして、95年の『ベスト・オブ~』と4年連続ジュニアの祭典に出場。


日本人では、獣神サンダー・ライガー、エル・サムライ、保永昇男、

金本浩二、大谷晋二郎、石澤常光といったメンバーと闘っており、

同時期にシノギを削った外国人ライバルが、クリス・ベノワ(ペガサス・キッド→ワイルド・ペガサス)、

エディ・ゲレロ(二代目ブラック・タイガー)、ディーン・マレンコのトップどころ。


当時、ジュニアのガイジン4強といえば、

この3選手にフィンレ―を加えた4選手を指していた。

その当時を区分するなら、新日本ジュニアの第4期黄金時代と言える。

第1期=藤波辰巳時代、第2期=タイガ―マスク&ダイナマイト・キッド時代、

第3期=越中詩郎&高田延彦時代、それに続くライガー&ガイジン4強時代である。


ちなみに、第5期となると、

90年代後半のライガー、サムライ、カシンvs金本&大谷&高岩の

日本人抗争時代となる。


現在のプリンス・デヴィットを中心とした流れは、 

第6期黄金時代の予感を漂わせている。


新日本の常連だった頃のフィンレ―は、

黒髪のロン毛で髭を蓄えていた。


「とにかく上手くて、ズルイ」というイメージ。


クリスのパワー、エディの空中戦、マレンコのサブミッションが際立っていた分、

それほど派手なファイトには映らなかったが、上手さでは群を抜いていた。


そういえば昨年、自著の『元・新日本プロレス』を書き下ろすにあたって、

大谷晋二郎を5時間以上も取材したときに、

当時を振り返って、大谷もしみじみと言っていた。


「スーパージュニアに出始めの頃、ボクもまだ若手でキャリア不足でしたからね。

でも、あの当時、クリス、エディ、マレンコ、フィンレ―っていう

強い人たちと対戦できたことが強く印象に残っているし、いい経験になった。

ガイジンジュニアといえば、ボクの中ではその4人なんですよ!」


周知の通り、この4強は日本のサーキットで生まれた絆が強かったせいか、

新日本→WCW→WWEと同じ行程を歩んでいく。

そして今もなお、53歳にして現役バリバリなのはフィンレ―だけ。


欧州スタイル、新日本スタイル、アメリカンプロレスのすべてを兼ね備えた男は、

実際に期待以上に、予想以上に強く、上手く、私たちの目を釘付けにしてくれた。


まず、煽りⅤからして、期待感を高めるいい演出となった。

「恐怖の大王、降臨!」と題して、フィンレ―と対戦経験のある

選手たちの証言が次々と流れる。


「彼こそ真の実力者だろうな」(武藤敬司)


「目が怖い、あの選手は殺人者の目をしてますよ!」(船木誠勝)


これが、単なる煽りとは言えないほどに、フィンレ―は強かった。

何者も寄せ付けない冷酷なムードは、

本当にハリウッド映画に出てきそうなスナイパー(狙撃手)といった趣。


メインイベントのリング上に2人が揃った瞬間、

初代SMASH王者のスターバックが完全に位負けしているような空気に支配された。


ゴングと同時に、つかつかと真っ直ぐにスターバックに向かっていくフィンレ―。

まったく駆け引きもなく、無造作に歩を進め距離を縮めてしまった。

このアクションだけで、観客もドッと沸く。


マニアックな話になってしまうが、

実はこれをやる選手は、他にもいる。

皆さん、よくご存知の長州力。


無造作にリングの中央まで歩み出て、

自然とリングの真ん中を支配してしまうのだ。

これをやられると、人間の習性から一歩引いてしまうもの。


おもしろいのは、鈴木みのるが長州の戦法を研究していたこと。

一度だけ全日本マットにおいてタッグマッチで対戦しているが、

鈴木はこれを長州相手にやってのけた。

一瞬、長州が苦々しい表情を浮かべる。

一方の鈴木は「してやったり!」という顔。


無論、こんな話は両者とも試合後のコメントには出していない。

ファンが見ても、マスコミが見ても、分かるレベルの駆け引きではないからだ。

ただ、後日、長州は初めて肌を合わせた鈴木みのるの印象を聞かれ、こう答えている。


「鈴木か? イヤなやつだな」


この一言がすべてを表現していた。


本題に戻ろう。

とにかく、15分58秒という試合タイムの間、私の視線はフィンレ―だけに釘付け。

無論、そこには相手がいるし、スターバックが抜群に上手い選手だから試合が成立している。

だが、攻めているときも、受けに回っても、フィンレ―ばかりに目がいってしまう。


得意のショルダークロ―の威力は半端ではないし、

十八番の足攻めも理にかなっていて、インパクトもある。


変型のインディアン・デスロック(ケルティック・ノット)も出たし、

場外戦でイスを使いスターバックの膝を殴打したときなども、

完全にレフェリーの死角に入るポジションでの反則攻撃だった。


これがプロレス(ヒール)の基本でもある。

レフェリーの見ている前でのイス攻撃など本来は邪道となる。

観客には見えていてもレフェリーには見えない。

これがヒールの鉄則なのだ。


また、スターバックの足をロープに向かって投げつけるボディスラムも新鮮。

ありそうでない攻撃。

ただし、ロープは固いから有効。

相手も受身がとりずらい。


カバー(フォール)の仕方もヨーロッパ流で懐かしいこと、このうえない。

肘で相手の胸の上部をグイッと押さえつけるのだ。

これが喉元であれば、ちょうどギロチンチョークのような感じ。


まあ、何から何まで冷酷に理詰めに、スターバックを追い込んでおいて、

最後は、ケルティック・クロス(シュバイン)からのツ―ムストン・ドライバー。

まさに、フィンレ―の独壇場であり、圧勝だった。

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ベルトを強奪したフィンレ―は、自らスターバックに握手を求めながら、

トレードマークのシレイリ(アイルランドのこん棒)で痛打し、腕折り固めへ。

救出に入った大原はじめにもシレイリを振り上げ腕を痛打。


恐怖の大王の前では、TAJIRIもAKIRAもエプロンに立ったまま。

なにかフィンレ―による、目には見えない結界が張り巡らされているように感じた。


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いやあ、強かった、怖かった。

プロフェショナル・レスラーを見た。

SMASH勢にとっては脅威の存在であり、大ピンチともなるわけだが、

今回フィンレ―を呼んでくれたTAJIRIには感謝したい。

さすがTAJIRIの目の付けどころは一味違うと、改めて感心させられた。


私も含め(苦笑)、普段あまりSMASHに顔を見せないベテランのマスコミ勢も多数きた。

みんな、フィンレ―目当てであり、大満足である。

今後、スターバックとのリターンマッチはもちろんのこと、

TAJIRIとのプロフェショナル対決も実に楽しみになってきた。


それにしても、53歳でここまで試合ができて、強い男というのは、

私は過去に2人しか知らない。


1人は53歳でG1クライマックスに出場し、鈴木みのる、永田裕志らと

真っ向勝負を展開した天龍源一郎。

もう1人が、53歳にして現役バリバリのバンバン・ビガロと

抗争を繰り広げていたマサ斎藤である。


さあ、いったい誰が”恐怖の大王”デーブ・フィンレ―をストップさせるのか!?


最後に、おまけで面白い写真を紹介したい。

これは第3試合の6人タッグマッチ(木藤&紫雷&小仲vs松田&平野&市来)の

試合前のシーン。


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コーナーマットで三点頭立をして座禅を組んでいるのが、

小仲=ペールワンという男。

私もよく知らないインディー系団体の怪奇派レスラーだが、

なんとベースはヨガだという。


座禅や身体の柔らかさを利用したパキスタンデスロック(これは実際に出た!)、

ヨガ式STFなどが得意技。

どんな技なのかは説明が面倒なので(笑)、各自ネット等で調べてほしい。


とにかく、この体勢のまま、相手チームの3人が入場し、

試合が始まるまで5分以上もこのポーズを維持していた。


このパフォーマンスは、フィンレ―の次にインパクトがあったことを付記しておこう。

あくまで、このポーズだけだけどね!