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2007年03月14日 01時38分02秒

「Yシャツ」(後編)

テーマ:家族

前編はこちら。

 後で知ったことですが、私と別れた後で、父は同じ街にある姉夫婦の家に泊まり、
帰りに義理の弟夫婦の家を訪ねて帰ったそうです。
もちろん、それは私の就職についての相談のためでした。

 そして、何だか急いで帰ったのは、
あまりにあのYシャツが高かったので、ネクタイを買う余裕がなくなって、
父は動揺してしまったからでした。
思えば、父に悪いことをしたものです。

 しかし、母からの電話でそんなことを知らされた私は、
何だか更にひどく追い詰められていく気がしました。

 それから父の買ってくれたYシャツはもったいなくて着れないままで、
私は前から持っていた二枚のYシャツを、洗濯しては着ていました。
洗濯もアイロンも自分でしていたので、それらはすぐにくたびれて行きました。

 やがて少し暑くなり始めた頃、就職情報紙で見つけたある会社に、
私は面接を受けに行く事にしました。
それは出来たばかりの小さな広告代理店で、
全くの未経験者からでも構わないというコピーライターの募集でした。
もちろん、契約社員でもアルバイトでもなく、正社員です。

 ついでに服装も会社の中では私服で良いという条件が、私の心をときめかせました。
いつか、もしできれば女性として働けたら、なんて勝手な想像までしたものです。

 私は電話で面接の予約をし、ちょうど他のYシャツも洗濯が乾いてなかったこともあり、
初めて父の買ってくれたYシャツを着ていくことにしました。
それだけ私は今回の面接にかけていたのです。

 面接の当日は更に暑くなった日でしたが、私はずいぶんと早めに用意をして、
電車やバスだとかえって何かあるかもしれないと、私はスーツに自転車で出かけました。

 閑静な住宅街の中にあるその会社は、
小さいながらもきちんとしていて雰囲気も良い感じ。
控え室で順番を待っていた私は、やがて名前を呼ばれて面接が始まりました。

 面接の相手は二人の男性で、一人は社員さんでしたが、
もう一人は社長さんだと言うことで多少びっくりしましたが、面接は概ね和やかに進み、
社長さんは私を気に入ってくれたようでした。
もちろん、今考えればそれも社交辞令だったのかも知れませんが、
社長さんはその後の仕事や関連する分野の勉強のこと、
現在の会社の取引先とか、他の応募者のことまで私に話してくれたのです。

 私は期待で胸が一杯になりながら、晴れやかに帰途につきました。
暑さと緊張で汗びっしょりになったYシャツを脱いで、
夜には珍しく自分から実家に電話をかけ、母と話もしました。

 弾んだ声で話す私に、母は喜んでくれているようでした。
以前の一度目のカミングアウトのことなど、もう彼女は忘れていたのかも知れません。
私も話しているうちに、更に就職への期待は高まっていました。

 次の日、私は父の買ってくれたYシャツを近くのクリーニング店に出しました。
値段的に、さすがに自分で洗うことなど思いもしませんでした。

 それから二日か三日して、クリーニング店から電話がありました。
その内容は普通に、
「クリーニングが出来上がったので取りに来てください」程度だったと思います。

 クリーニング店に行ってみると、店員の女性はこう言いました、
「クリーニングの途中でタグが外れたらしいんです。
すいませんが、ご自分で探して下さい」と。
そして彼女は30枚くらいのYシャツがかけてあるハンガーを指差しました。

 そして彼女は平然と次のお客さんの対応を始めてしまい、
私はお店のカウンターを一歩入った所のハンガーの前で立ち尽くしてしまいました。

 果して私は、まだ一度しか着てない自分のYシャツを選べたのでしょうか?
もちろん、私より先に引き取りに来たお客も、
私のYシャツを間違って持って帰ってなかったのでしょうか?

 一週間後、面接の結果が電話で知らされて来ました。
もちろん(?)、残念ながら不合格でした。

 私はYシャツのことも、不合格のことも両親には話せませんでした。

(終わり)

。。。。。

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コメント

[コメントをする]

1 ■・・・ムムッツ

クリーニングのねぇさん・・ありえません


たった一度しか手を通せなかったとしてもえんじぇる。さんがそのシャツを大切に思う気持ちはその時も今も 変わらないと思います

きっと とっても似合っていたと思います('-^*)/

2 ■現実って

厳しいですよね。
ダメなら、もっと、冷たく対応してくれたらって...期待を、もたせるような、優しさは、見せないでって...

クリーニングも、人のことを見て、ものをいいますよね。あきらかに、お店の責任なのに。
あたしは、前に、お気に入りのコートのボタン(皮が巻いてあった)を、ダメにされて、クレームをいい、弁償させました。でも、お店は、誤りもせず、メーカーの表示が悪かったと、だから、メーカーに直させたとだけ、いわれました。
そのお店は、2度と、利用しませんでしたけど。

えんじぇる。さんのことを思う、お父様の気持ちでしたのにね。残念ですよね。

3 ■>りんさん

コメントありがとうです(^-^)。

なんせ本当に着たのはたった一回。
ものすごく値段が高かったのに、あえなく(^^;。

でも、、、やっぱり男物の服は似合わなかったかも(^^;。
きっと七五三みたいだったと思います(笑)

4 ■>Kumiさん

いつもコメントありがとう(^-^)。

ですよね~。
いっそ冷たくしてくれた方が良かったのに、って思いました。
「この業界誌を読んで勉強を始めとけ」まで言ってたのに、
件の会社からの合否の連絡も約束の日時になくて、
こちらから電話したら「ご縁がなかったということで」とお決まりの言葉でした(笑)。

クリーニングはたまにトラブルありますよね、やっぱり(>_<)。
うん、消費者としてはそんなお店は二度と使わないしかないですね(^^;。

そか、弁償させるって手もありましたね。
でも、あまりに店員さんが事も無さげに言ったので、
その時は思いつかなかったのです(^^;。

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