「ピンクのカーディガン」(前編)

テーマ:

 それは私が小学校3年生か、4年生くらいのことだったと思います。

 ある夏の日のこと、仕事から帰ってきた母親が私に包みを渡しました。
私はその包みを触った途端、中身は洋服だとすぐに気がついたので、
まあ時々買ってくる普段着なのかなと思いました。

 この頃の私はまだ一人で洋服を買いに行くような年齢でもないし、
まして母親が買ってくるそれは、当然いつも男の子用の洋服だったので、
私にとって正直あまりうれしくもなく、興味を持てる物ではありませんでした。

 私はただひたすら、母親に渡される物を機械的に着ていました。

 ですからこの時も、私は何の感慨もなく包みを開けてみたのですが、
それはいつもとは少し違ったものでした。

 それはとてもかわいらしい、淡いピンクのカーディガンだったのです。

 私は思わず動揺しました。
それはどう見ても男の子用の洋服には見えなかったので、
まさか私の気持ちに母親が気付いてるのかな?と思ってしまいました。

 しかし、母親にそんなそぶりはなく、
でも私に「かわいいでしょ?着てごらん」と言って、いそいそと私にそれを着せました。

 私はそんな初めての展開についていけず、母親に連れられて鏡の前に立ってみても、
何だか気恥ずかしさに鏡を見ることができませんでした。

 そもそも、母親からの「かわいいでしょ?」って言葉も、
私には聞き慣れたものではなかったのです。
「かわいい洋服は女の子の物。つまり姉の物で、私は決して着れない物」
私はそう思い込んでいました。
もし私が着ても似合わないんだろうなと。

「何それ」
私と母親の様子を見て、姉が少しとげとげしく声をかけました。
「良いでしょ?かわいいじゃない」
母親はそう言い返したのですが、さらに姉は「変っ」と言いました。

 もちろん姉には、今回、
母親が私にだけ洋服を買って来たことが気に入らないこともあったのでしょうが、
やはり私にそのピンクのカーディガンが似合うとも思えなかったようでした。

 私はそんなやりとりを聞きながら、
やはりこれは私が着てはいけないものなんだと思いました。

 私は急いでそのカーディガンを脱ぎました。
そして絞り出すように「着ない」とだけつぶやきました。

後編はこちら。

。。。。。

人気ブログランキングの順位は?  / にほんブログ村の順位は?  / くつろぐの順位は?

AD

コメント(2)