「真夜中の電話」(中編)

前編はこちら。

その電話が鳴ったのも、やはり真夜中もかなり過ぎた時間のこと。
それは私がお店で働き始めて一年くらい過ぎた頃の、ある土曜日のことでした。
寮に置かれた公衆電話のベルはうるさくて、
そろそろ寝ようとしていた私を容赦なく呼び続けました。

受話器を取ってみると、それはその日お店に来ていたAさんと言う女性。
彼女は私より少し年下でしたが、すごく大人っぽく見えて、
私は以前からお友達になりたいな、なんてのんきに思っていました。

彼女は私がそのお店に入る前から、
時々つきあっていた男性と一緒に来ていたそうで、
お店のママもどう言う訳か、彼女のことを「親戚の娘」と言っていました。
しかし、そのわりには彼女が帰った後に、
お風呂の商売をしていて、アル中で自殺未遂を繰り返している」などと、
軽蔑するように話してもいました。

ちなみにそのつきあっていた男性の名前は、
私の以前の本名(つまり男性名)にとても似通っていたし、
何の偶然か、私がお店のとして住んでいた部屋の以前の住人だったので、
私宛の郵便が彼の引越し先に届いたりして、私はとても困りました。

やがて彼とAさんは別れたそうで、彼は別の女性と来るようになり、
Aさんは彼の来ていない時を見計らったように、
一人でお店に来るようになっていました。
そして、私と彼女は「お客」として知り合ったのです。

ママの言葉はともかく、私は何回かAさんと話してみて、
少なくとも悪い人には思えませんでした。
また、田舎から出て来て、まるでお友達と呼べる人もいない私には、
何だかどうしようもない寂しさを抱える彼女に、
親近感を感じないわけにはいかなかったのです。

ですからその日の営業中に、私は彼女に請われるまま、
寮の電話番号を教えたのでした。
もちろんその代わりに、彼女も自分の家の電話番号を教えてくれました。

とは言え、まさか今日かけてくるとは思いませんでしたし、
それも私はもう寝るくらいの時間だったので、一体何の用事なのだろうと思いました。

えんじぇるちゃん、明日ってお仕事お休みでしょ?
良かったら、うちに遊びに来ない?

彼女は明るく屈託の無い感じでした。

しかし、「明日」と言う日は正確には「今日」なわけで、私はとても戸惑いました。
特にその頃はろくに睡眠時間も取らせてもらえない頃だったので、
私にとっての日曜日はとても貴重な日だったのです。

来てくれたら、えんじぇるちゃんのお客さんになってあげるのになあ。

返答に困る私に彼女はいらついて来たのか、彼女はそう言いました。
しかし、私がいるお店はそういう「私のお客」がどうとかと言うシステムを止めていたし、
当然素人上がりの私にはまるっきりピンと来なかったのです。

更に返答に困る私に、彼女は決定的なことを言いました。

えんじぇるちゃんが来てくれなかったら、今から私、手首切るから。
それでも良い?


その時の私は、その言葉を文字通りの意味として素直に信じてしまったのです。
つまり、私の「負け」でした。


後編はこちら。

。。。。。

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