北方領土問題解決を妨げるもの | 『月刊日本』編集部ブログ

『月刊日本』編集部ブログ

日本の自立と再生をめざす言論誌

 本日4月28日、政府主催による「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」が開催されました。ここには  天皇、皇后両陛下も出席されましたが、お言葉はなかったようです(『毎日新聞』4月28)。

 

 この式典に対して、沖縄では批判の声が強くなっています。弊誌5月号では、沖縄出身の自民党議員・國場幸之助氏にお話をうかがいました。國場氏は沖縄の気持ちについて、以下のように述べています。


『蛍の光』、第四番の歌詞は御存知ですか?「千島の奥も、沖繩も、八洲の内の、護りなり……」ここで歌われている通り、沖縄は日本です。ところがサンフランシスコ平和条約では沖縄、小笠原、奄美だけが本土から切り離され、アメリカの施政権下に置かれた。「主権の完全回復」とはとても言えません。まして、4・28は沖縄県民にとっては日本から沖縄が切り離された、あるいは見捨てられた屈辱の記念日でもあるのです。とても祝う気持ちにはなれません。本当に「主権の完全回復」の記念日として祝典を行うのならば、沖縄が本土に復帰した日、すなわち5月15日こそがその記念日であるべきです。(5・15こそ真の主権回復記念日だ!」より

 

 本土のメディアでは、沖縄の基地反対運動は一部の左翼がやっているだけだ、などといった議論も散見されますが、そのような発想自体が、その意図がどうであれ、沖縄を本土から遠ざけてしまっているのだと思います。

 

 さて、安倍総理は本日からロシアを訪問し、明日29日にはプーチン大統領との日ロ首脳会談が行われることになっています。そこでは、領土問題や中国問題、エネルギー問題などについて話し合いがなされると予想されています。

 

 全て重要な案件ではありますが、日本国内では特に北方領土問題に注目が集まっているように思います。果たして今回の首脳会談で領土問題について進展はあるでしょうか。残念ながら、その可能性は低いと思います。それにはいくつかの原因を挙げることができます。


 第一に、米ロ関係が悪化しているという点です。弊誌4月号で元外務省欧亜局長の東郷和彦氏が指摘しているように、米ロの相互不信感はかなり強くなっています。人権問題やシェールガス問題、MD問題など、米ロ間には様々な懸案事項があります。


 北方領土問題の解決は、日ロ関係の強化に繋がります。しかし、それは必ずしもアメリカの国益には繋がりません。それゆえ、場合によっては、北方領土交渉にアメリカが介入してくる可能性もあります。もちろん、アメリカが必ず介入してくるとは言いません。何でもかんでもアメリカのせいにするのは陰謀論に過ぎません。しかし、そこに一抹の不安があることもまた事実です。再び「ダレスの恫喝」が起こらないとは言い切れないほど、現在の米ロ関係は悪化しているのです。


 第二に、日本の外務省が領土問題について仕事をしていないという点です。森元総理とプーチン大統領との会談には大きな意義がありましたが、それでは具体的にどのように領土問題を解決するのか、外務省はこの点についてしっかりとした検討を行っていないようです。


 領土問題の解決には時間が残されていません。参院選が終わってから動き出しているようでは遅いのです。ここでは弊誌4月号に掲載された、東郷和彦氏のインタビュー記事を紹介したいと思います。(YN)


 

『月刊日本』4月号

「米国で高まる日本不信」より

 

外務省は官邸の顔色をうかがうな

―― 日米首脳会談の前日の2月21日には、森元総理がプーチン大統領と会談を行った。安倍総理も4月末にはロシアを訪問する予定である。

東郷 森・プーチン会談は、プーチン大統領の領土問題に対するやる気を確認したという点で大きな意義があった。4月末の安倍・プーチン会談もこれを引き継ぎ、首脳同士で国益に関する大局的な議論を行い、信頼関係を深め、波長を合わせていくべきだ。

 また、日ロの経済協力についての具体的な話や、中国問題について率直に意見交換することも重要である。もっとも、中国問題に関する議論については、余計な混乱を招かないように対外発表は控えた方がいいだろう。

 日本は世界情勢を視野に入れてロシアとの連携を深めたい、そして、戦略的パートナーとしてエネルギー問題や技術協力を強め、相互提携の枠組みの下で領土問題解決のために共に知恵を絞っていきましょうと提案すれば、プーチンは必ず興味を示すはずだ。

―― 外務省は領土交渉を進めているのか。

東郷 大変残念な話であるが、安倍政権の誕生から現在に至るまで、領土交渉が実質的に動き始めたというシグナルはない。

 外務省はどうやら日ロ首脳会談のコミュニケを作ることに力を注いでいるようだ。確かに交渉のある時点でコミュニケを作ることは重要である。しかし、いま事務方が一番やらなくてはいけないことは、国際情勢と相手国の置かれている状況を勘案し、日本としてギリギリ受け入れることのできる「引き分け」案を考えることだ。

 これは相手国との摺り合わせなしにできることではない。自国だけで案を考えれば、交渉は必ず失敗する。今の外交チームはロシア内に信頼に足るチャネルを持っているだろうか。もしないのであれば、一刻も早くチャネルを構築する必要がある。

―― プーチン大統領は安倍総理が衆院選直後に発したメッセージを高く評価していた。なぜ外務省はその時点から動き始めなかったのか。

東郷 杞憂であって欲しいが、外務省は官邸の意向や政局の様子をうかがっているのかもしれない。現在の安倍政権の関心は経済問題と参院選に向いており、領土問題について具体的にどのような決断をしようとしているのかが見えない。それゆえ、外務省としても参院選が終わるまでは動かないつもりなのかもしれない。

 しかし、外務省が考えなくてはならないのは、政局ではなく国益だ。誰が総理大臣になろうとも国益は不変なのだから、外務省は国益に適う政策を考えることだけに集中し、それを提示していくべきなのだ。

 北方領土問題解決のための時間はほとんど残されていない。外交上のタイムテーブルから言うと、参院選後に行われるであろう日ロ首脳会談が正念場となる。しかし、そこで領土問題に完全に決着をつけるためには、今から両国の事務レベルで対話を開始していなければ間に合わない。参院選が終わってから交渉を始めていたのでは遅過ぎるのだ。(以下略)




にほんブログ村 政治ブログへ