北海道で働く女社長の夫の蝦夷日記

国際政治から映画・音楽・地元の温泉やラーメン紹介まで。難しい話は分かりやすく、がモットーです。

山口敬之氏の前作「総理」が大変面白かったので、今年の1月に上梓された第二弾「暗闘」を読んでみました。山口氏がどういう人物かは、下の【関連記事】の「総理」の書評を参照して下さい。

 

前作は当時TBS記者だった筆者によって、第一次安倍政権の崩壊から再登板までの道のりや、消費税を巡る攻防などの内政及び政局が、安倍晋三個人にかなり肉薄したタッチで描かれていました。

今作は、昨年11月のトランプ候補(当時)当選直後の会談経緯やトランプ政権の分析、昨年末の日露首脳会談や真珠湾訪問などの舞台裏といった外交テーマが中心となっています。

そしてズバリ、題名の「暗闘」とは(本の題名は往々にして出版社が決める事が多い為、誰が決めたのかは不明)各国要人との駆け引きはもちろん、官邸と外務省の主導権争いをも意味しているようです。

 

 

全体的な感想としては、「読み物としては前作の方が正直、面白かったかな」です。

前作は著者と安倍晋三及び麻生太郎などとの生々しいやり取りなどがあって、大変臨場感あふれていたのですが、今作はさほどでもありません。本に描かれた期間の長さに大きな差がある事や、TBS政治記者からフリーになった著者の立場上の変化、そして何よりも機密を重要視する外交分野がテーマである、という事情が影響しているのかもしれません。

まあ、本書「暗闘」はトランプ政権発足を受けて緊急出版された、という意味合いが強いです。

 

トランプ政権の部分については、今読むとそんなに目新しい内容はありませんでした。何よりトランプ大統領誕生自体が近年まれにみる政治事件だったので、多くの識者が色々な角度でたくさん分析していましたから。

印象に残ったのは、トランプ大統領は本気で覇権国家・中国を封じ込めにかかっているので、

「米国+日本>中国」

という安全保障上の図式を維持する為に、日本にそれ相応の防衛力強化を求めて来る、という事。これは日本が好むと好まざるとに関わらず、真剣に向き合わなければならない宿命みたいなものです。何しろ、この不等式が逆転すると日本自身に大きな災厄が降りかかりかねないですからね。

 

日露首脳会談や真珠湾訪問の舞台裏は、面白いというよりも興味深いものでした。

梅之助も双方のテーマで記事を書いていましたが、「なるほど、そうだったのかぁ~」と思わされる事が多々ありましたね。

まず日露交渉において。

大したことは書いていませんが参照として、

日露首脳会談に失望したあなたへ①(2016/12/19)

日露首脳会談に失望したあなたへ②(2016/12/27)

を、よかったら。

昨年末の首脳会談では、一見、領土交渉で具体的な進展が見られず、経済協力ばかりで落胆した国民も多かったと思いますが、安倍総理にとっては想定内であり、日本側の思惑は達成されたのだそうです。

従来の交渉がいくら経済協力を持ち出しても「ロシア側の主権」の壁に最後は跳ね返されて、いたずらにロシア100%主権の実効支配年数だけが積み重ねられてしまった反省を踏まえ、あの会談での最大目標は、「特別な制度による経済協力」を通して一部とはいえ「ロシアの主権が及ばない領域」を誕生させ、これまでのロシアによる一方的な主権行使の現状に風穴を開ける、という事でした。

その日本側の成果はここでは書かないものの、会談後の共同プレス向け声明の文言にもしっかりと反映されています。興味のある人は是非、本書を読んで確認して頂ければ。

 

次に安倍総理の真珠湾訪問。

参照→「安倍総理、真珠湾訪問」に対する私見(2016/12/08)

梅之助も上の記事で、「広島」と「真珠湾」は規模も性質も異なるので「対」として捉えてもらっちゃぁ困る、というような内容を書いていますが、実はそれを一番感じていたのは安倍総理自身でした。

総理は第二次政権発足当初から真珠湾訪問を考えており、まず第一段階として2015年4月の米国議会演説を実現させたの後に、そのタイミングを計っていたそうです。ところがそこにオバマ大統領の広島訪問の可能性が見えてきた為、その実現に尽力。しかしこの2016年5月のオバマ広島訪問は、総理が長年考えて来た「真珠湾訪問」実現の上では、ある意味で誤算となってしまいました。オバマ広島訪問の直後に真珠湾に行けば、それこそ「対」として捉えられかねないからです。その為に大幅にスケジュールが見直された、という経緯も本書には詳しく書かれています。

 

また安倍総理と外務省主流派との暗闘も本書に描かれています。

常々、「相手国の作った土俵の上で、相手国に気に入られる相撲を取って見せる」という、かえって国益を損ないかねない外務省の外交方針に以前より総理は強い不満を持っていて、そこから官邸主導によるもう一つの外交ラインが構築されていきました。そしてその主導権争いは、事あるごとに現在も続いています。

 

本書を読み終えた直後の率直な想いは、

「少なくとも外交の上では、この総理以上に外交を出来る者は現在の政界には居そうにない」

というものでした。

はぁ~、これが、いい事なのか悪い事なのか・・・

安倍総理だっていつまでも総理を続けていられる訳ではありません。将来の後任の政治家が、それこそ外務省が主導する「相手国の作った土俵の上で、相手国に気に入られる相撲を取って見せる」方針に引きずられてしまわないか、とても心配です。

 

 

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本来ならこの記事は「アニメ・漫画 雑感」カテに入れるべきなのでしょうが、記述の視点からこちらのカテに入れておきます。

 

今年の日本映画は「シン・ゴジラ」「君の名は。」で決まり!と思っていたけれど、もう一つアニメで話題をさらっているのが出現しましたね。

こうの史代さんの漫画が原作の「この世界の片隅に」。

 

 

11月12日の公開で、一週間ほど前にこの作品のPVらしきものを夜中のTVで偶然見かけました。戦時中が舞台のようで、水彩画タッチの戦艦大和の姿もあったりしました。ただし、戦記物ではなく、戦時中の庶民の姿を描いた作品のようです。時代設定とは裏腹に、作風はなんだかほのぼのとした印象。

 

 

強烈に興味をそそられた梅之助、「これは劇場で観るしかない」。

ところがシネコンが3つもある旭川市だというのに、この映画、現在やっていない。ディノスシネマズ旭川で来年1月公開だそうで。

ふ~ん、待つかなぁ。。。

 

 

という事で、すぐに観られないのならば原作の方を買ってきて先に読んでみました。

2007~2009年にかけて連載された漫画で、文化庁の賞を取ったこともあり、当時からそれなりに評価は高かったみたいですね。2011年には日本テレビがドラマ化もしていました。

 

主人公・すずが昭和19年2月、広島県広島市から当時の海軍拠点・呉市に嫁ぎ、そこで繰り広げられる戦時下の日常生活が話の本筋となっています。すずの「ほんわか」とした性格と無口ながら誠実な海軍文官の夫及びその家族たちとの日常が、ほのぼのとした、時にはコミカルなタッチで描かれているのが印象的で、戦時下の物資不足による窮乏も様々な工夫で対応する姿に、現代の我々がイメージする「暗さ」はありません。時局の推移を淡々と受け入れ、その中をたくましく生き抜いていった当時の日本人の姿があります。

NHKの朝ドラのように「この戦争、おかしい」と戦後の後知恵のようなセリフを吐く主人公ではなく、「ああ、うるさいねぇ、そんとな暴力に屈するもんかね」とB29の襲来を見つめるすず。

きっと、すず及びその周囲の人々の姿が当時の平均的な庶民の感覚だったんだろうなぁ~。

もっとも、そんなすずも8月15日の玉音放送の後には遂に様々な想いが爆発してしまうのですが。。。

 

客観的にこの作品には「侵略」とか「軍国主義」などといった現在の価値観からの表現は一切なく、当時の庶民の生活と思想、つまり「歴史の事実」を淡々と描くことを通して、当時の「この国の失敗」が描かれています。

巷にはこの漫画(及び映画)が「反戦作品である」「反戦作品ではない」などという議論がありますが、梅之助に言わせれば不毛な議論です。

まともな神経の持ち主ならば、自分たちの平穏な日常生活が破壊され、生命・財産が脅かされる戦争など誰しも反対でしょう。その私たちの生活を守るためのアプローチが「右側」「左側」の思想では異なるだけなのだから、左翼的な作品にありがちの描写や言葉がないからと言って「反戦作品ではない」と言い切るのは少し変だし、別に反戦イデオロギーに満ちた表現などなくても、本作からはリアルに戦争の悲惨さ、無情さは伝わって来ます。言葉を弄すればするほど作品は作為的になる事を考えると、この作品が極めてレベルの高い優れた反戦的性質を持つものとなっているのに誰もが自然と気付くでしょう。

これこそが最もリアリティのある歴史の学び方だと思います。

というか、そもそも論として、いつになったら日本人はあの時代の事を手垢のついた「反戦か否か」といった、単純な二者択一の思想で捉えるクセから卒業するんでしょうかね。それこそがイデオロギーによる作為的な分け方です。全く下らない。

例えば、戦国時代の合戦映画を観て「そんな時代に生まれなくてよかった」と、ごく自然に思う事はあっても、「野蛮な戦いだ」「人を殺して人権侵害だ」という視点では誰も捉えないですよね。

あの戦争の時代も、そろそろ冷静な歴史として見るべきです。

その意味でこの「この世界の片隅に」は、当時の価値観を踏まえた自然体の平衡感覚で歴史を見つめている秀逸な漫画だと思いますよ。

 

ただ、原作者に一つ言いたいことがあります。

終戦の日、「最後の一人まで戦うんじゃなかったんかね、まだ左手も(この時、すずは空襲で右手首から先を失っています)両足も残っとるのに!」と叫んだすずでしたが、街に太極旗が翻っているのを見て「ああ・・・暴力で従えとったいう事か、じゃけぇ暴力に屈するいう事かね、それがこの国の正体かね」と、慟哭するシーンがあります。

この光景は創作というよりも、原作者が当時の時代考証の過程で聞き及んだ史実として作品に取り入れたのでしょう。そしてその解釈をすずに先のセリフで語らせています。

確かに原作者が解釈した側面は存在します。

しかし、それだけで歴史の本質は語れません。

あの太極旗の意味は、戦勝国に対して蝙蝠のように強きになびく朝鮮民族の事大主義の表れでもあるのです。かつて満州で朝鮮人が「我々は日本人だ」と言って満州人や漢人を見下していた事実を、徴兵制が実施されなかった半島から戦時中とんでもない倍率で志願兵があった事実を彼らは意図的に隠蔽し、そして戦後の日本人は完全に忘れさせられているのですから。

画一的な歴史の見方は、事の本質を見誤ります。

 

さて、このコミック本は梅之助の場合、上中下の3冊セットのものを購入したのですが、後で調べてみると上下2冊にまとめたタイプもあるそうなので、値段的にはそちらの方がお得になるようです。

 

 

 

 

【関連記事】

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あ~参った、参った。

新しいプリンターを買って、そろそろドライバーインストールを、と思ったところ、メインで使用している購入後2年のPCの電源が入らなくなってしまいました。結局、修理に出して、マザーボード交換。ようやく、PCが戻って来ました。

 

さて、本題。

今年の6月、元TBS報道局政治記者・山口敬之氏が上梓した「総理」という本が話題になっていたので、最近購入して読んでみました。普段は政治家や政治記者の書いた本など読まないんだけれどね。

山口氏は1990年TBSに入社、以来報道局に所属し、2000年からは政治部にて「政治家・安倍晋三」を見つめ続けて来た人です。

 

 

今、巷には長期政権を維持している安倍政権に対する批判と称賛が交互している。特に護憲・反原発といったリベラル勢力からは「アベ政治を許さない」」などというキャッチフレーズを伴って辛辣な政権批判が繰り返されている。しかし、こうした反安倍勢力も、あるいは親安倍勢力も、安倍政権がどのように国家運営に向き合い、何を悩み何を目標としているのかをほとんど知らず、知ろうともしない人が大多数である。事実に基づかない論評は、批判も称賛も説得力を持たない。結果として、安倍政権に対して繰り返される論評の多くが、特定のイデオロギーを支持し特定の政治集団に属する勢力による、プロパガンダと断定されてもしょうがない中身となる。

 

上文は本書まえがきに書かれている著者の文章。

だからこそ山口氏は、間近で見つめてきた安倍晋三と周囲の政治家たちの言動を改めて提示する事で、「宰相・安倍晋三とは?」「安倍政権はどのように運営されているのか?」などを読者に知ってもらい、読者各々の判断材料にして欲しい、としています。

読んでみると正直、「敏腕のエースとはいえ、政治記者って時には政権内部のやり取りにここまで関われるものなのか!?」という驚き。

もちろん記者それぞれで取材対象者との距離感はまちまちでしょうが、この山口氏、安倍晋三や麻生太郎などから本当に信頼されていた事がよく分かります。両者を繋ぐメッセンジャー役を演じた事もしばしば。それでいて政治家の提灯持ちにはなっていない平衡感覚も持ち合わせているようです。

偏向・反日TBSにこういう政治記者がいたとはね!!

 

この本は決して「反安倍本」でも「親安倍本」でもありません。著者は安倍政権の施策については何の論評も加えておらず、ただ、第一次安倍政権の瓦解から復活、消費税を巡る攻防などでの「政局」部分のリアルな証人として、読者に安倍晋三の失意や迷い、そして決断を伝えているだけです(その代わり臨場感はたっぷりありますよ)。

それでも読み終えると、ほとんど「安倍ヨイショ本」のような印象が残るのは、旧民主党政権時の薄っぺらいダメ宰相らと比べて、安倍晋三なりに国家と向き合おうとする姿が読者によく伝わるからでしょう。

例に出しちゃ悪いけれど、単に総理になりたかっただけの菅直人のような人物と、一度どん底に落ちながらも、成し遂げたい事があるが為に再び総理にまでよじ登った男とでは、同じ政局を描いたとしても、まるっきり彫りの深みが違ってくるのは自明の理なのだ、という事です。

 

 

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とりあえずレンタル開始されたら、すぐに観てみようと思っていました。2015年12月公開の作品です。
丁度その頃、この作品ともう一つ気になる作品が公開されていました。それは「海難 1890」という作品。結局、「海難 1890」の方を劇場で観て、この「杉原千畝」はレンタルまで待つ事にしました。
この作品に対する危惧が梅之助なりにあったからです。

 

映画「杉原千畝」公式HPより


一般に、第二次大戦中のドイツが歴史に残るユダ人迫害を行った為、同盟国・日本もユダヤ民族にはかなり冷淡だったのではないかと連想されがちですが、実は戦前の日本はユダヤ難民をかなり公平に扱っていました。元々当時の日本の指導者たちはヒトラーのユダヤ人政策に批判的であったし、三国同盟締結以降もこの問題に対するドイツからの様々な要求を適当に受け流していました。ただしこの史実は現在の日本人は全くと言っていいほど知りません。
それ故、梅之助はこの映画が杉原千畝という個人を持ち上げるあまり、当時の日本を必要以上に悪く描くのではないか?
そういう危惧を持っていたのです。
詳しくは
かつて2年ほど前に書いた記事「「命のビザ」美談を巧妙に利用する左翼と、その関連記事を参照して頂ければ幸いです。

もやもやっとした不安の中、映画が始まりました。そして、冒頭の展開でいきなりその不安が的中するかのような描写がありました。
ソ連との北満州鉄道譲渡交渉で、唐沢寿明さん演じる杉原
千畝は国益に大きな貢献をします。しかし影で動いていた関東軍が、敵味方のロシア人スパイたちを最終処断するというシーン。満州における関東軍の横暴は事実でしたが、あのシーンはいくらなんでもフィンクションでしょ?
そういった訳で、何だかなぁ・・・と思いつつ映画を見続けるのですが、実はこれ以降は強く引っかかったシーンは無かったので、その点では良かったというか、ホッとしています。

北満州鉄道譲渡交渉の後、杉原は満州国外交部を自主退官し、リトアニアに日本領事館領事代理として赴任します。有名な「6000人の命のビザ」の舞台ですね。
しかしこの映画の特徴は「6000人のユダヤ難民を救った」という人道的観点よりも、杉原
千畝を優れたインテリジェンス・オフィサーとしてとらえた観点から描いているようです。日本政府の許可を待たずビザを発行し続けた美談の描写は、むしろ淡白でさえありました。杉原はリトアニアを発つ汽車の中でさえビザを書き続け、窓越しに渡し続けていたと伝え聞いていたのですが、そのシーンはなし。えっ!このシーンはないの!?とこちらが拍子抜けしたくらいでした。
その代りに、次の赴任先であるドイツ東プロイセン州ケーニヒスベルグにてドイツ軍の国境集結の情報を察知し、独ソ開戦の可能性をドイツ大使に報告するなど、「己の信念に基づいた真の国益」の為に動く杉原の姿が描かれています。
この映画でのヒール役は小日向文世さん演じるドイツ大使・大島浩。ヒトラーに心酔している彼は、杉原の動きを苦々しく思い対立します。結局、三国同盟推進派の思惑が独ソ開戦で崩壊し、日本は戦略が不明瞭なまま対米開戦へと突入する訳ですから、このヒール役の設定は尤もなものでしょう。

映画「杉原千畝」より


全体的にこの映画は過剰な演出を避け(冒頭の関東軍の描写を除く)、当時の欧州の複雑怪奇な様相に翻弄されていく日本の様子が、一人の優秀な外交官の目を通して時系列的に描かれているともいえます。その分、ちょっと歴史に詳しくなければ一回観ただけではよく理解出来ない点があるでしょうね。

これは良かったな、という点を挙げておきます。
まず、杉原に接触してきて運転手として雇われる亡命ポーランド政府のスパイ・ペシェが語った「ポーランドは日本からの恩を忘れてはいない」という言葉。
映画ではその背景に触れてはいませんが、かつて日本政府はロシア革命後の混乱の中、シベリアの地で苦境に陥っていたポーランド人の孤児たち765人を、1920(大正9)年と、1922(大正11)年の2回に渡り救出した事があるのです。この出来事を通してポーランドは親日国となりました。
次に、杉原の「命のリレー」を受け継いだ
ウラジオストックの根井三郎総領事代理の事がしっかり描かれていた事。杉原だけの行動でユダヤ難民が救えたわけではないのです。
そして、ソリー・ガノール氏(左上の画像の子供)のエピソードまで挿入されていた事。彼は子供の頃、家族で杉原に会っているものの、脱出が遅れてダッハウ収容所に送られてしまいます。終戦時、その収容所を解放し彼を救ったのは、杉原とよく似た面立ちの米国・日系人部隊でした(参照記事→「日本に助けられたユダヤ人~その後」)。
実際の出来事として相当怪しい冒頭のシーンを除くと、概ね良く出来た映画だと思います。

この映画監督はチェリン・グラックという日本で生まれ育った米国人だそうで、母親が日系米国人。関わった作品には「太平洋の奇跡~フォックスと呼ばれた男」(米国側監督・脚本)もあるそうです。
どうりで変なイデオロギー色が薄いと思ったよ。

最後にこれは映画とは直接関係がありませんが、史実として記しておきます。
それは
1940年12月、外相を務めていた松岡洋右が在日ユダヤ人実業家に語った言葉。
「三国同盟は私が結んだ。しかしだからと言ってヒトラーごときの口車に乗ってユダヤ人を排斥する事はない。これは私だけの信念ではない。帝国の方針であるから安心しなさい」

 

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【関連記事】
日本に助けられたユダヤ人~その後(2014/03/03)
「命のビザ」美談を巧妙に利用する左翼
(2014/03/02)
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映画の記事が続きます。
今回は1968年公開の「連合艦隊司令長官 山本五十六」と、2011年公開の「聯合艦体司令長官 山本五十六 - 太平洋戦争70年目の真実 - 」です。
双方とも、日独伊三国同盟に反対した山本五十六の海軍次官時代から始まり、1943(昭和18)年ブーゲンビル島にて戦死するまで、「日米開戦に誰よりも反対しながら、自ら真珠湾攻撃の火ぶたを切らざるを得なかった悲劇の軍人」という観点で描かれています。

まずは1968年版。

 



山本五十六役は三船敏郎。大変威厳があります。この人以上に軍人を演じる事の出来る日本人俳優は、恐らく今後とも現れる事はないでしょう。下の海軍第二種軍装(白)で敬礼する姿は本当にハマっています。
海戦シーンなどはCGなどを駆使した最近の製作映画に比べてさすがにチャチに感じますが、そこは評価対象外とするべきでしょうね。
ミッドウェー海戦後のガダルカナル島争奪戦や南太平洋海戦なども時系列に描かれており、日本海軍がどのような戦いを経ていったのかが、よく分かるようになっています。知識的な意味で、大東亜戦争入門編ともいえますね。
その分、登場人物を取り巻く人間模様等の描写が少し淡白なのは否めません。


1968年版 映画「連合艦隊司令長官 山本五十六」より


次は2011年版の方。山本役は役所広司さん。



他に軍人役では米内光政に柄本明さん、井上成美に柳葉敏郎さん、山口多聞に阿部寛さんなど。役所・山本はともかく、他の人たちはイメージが違いすぎる。。。
阿部さんは演技そのものは良かったものの、山口とビジュアルが間逆過ぎて違和感が後々まで残ったし、柳葉さんは演技が田舎臭過ぎます。

その一方、南雲忠一を演じた中原丈雄さん(梅之助、この俳優さんは存じませんでした)は大変良い演技だと思いました。真珠湾を攻撃する実行司令官ですが、山本とは考え方に一線を画する思惑がよく表れていました。
そして主役の山本五十六に関してですが。
想いと行動が矛盾せざるを得なかった「人間・山本五十六」の苦悩と葛藤が、1968年版に比べてより深く掘り下げて描かれていましたね。山本の妻子や姉を登場させているあたりも、いっそうその印象を強く植え付けようとしているようです。
ただ、山本の理性と度量の広さ、そして悲劇性を表そうとしての事でしょうが、役所さんの演技は少し柔らかすぎる傾向がありました。

2011年版 映画「聯合艦体司令長官 山本五十六 - 太平洋戦争70年目の真実 - 」より


さて、2011年版の方には副題として「太平洋戦争70年目の真実」という文言が添えられています。
ん?真実?
今更そんな言葉に見合うほどのものがあったか?

むしろこの映画は史実をかなり脚色していると言えるのですが。
まず、冒頭で陸軍兵の部隊が海軍省に銃を向ける示威行為のシーン。これ戦前なら(まあ、現在でも)大問題となる出来事で、最低でも軍法会議ものです。いくら陸・海軍が仲が悪いからといって、平時にこの映画のシーンのような事など実際にはあり得ません。
また、ガダルカナル戦での海軍司令官に門倉総司という架空人物を登場させている件も意味不明です。末端の兵や下級将校に架空人物を登場させるのは戦争映画を構成するうえで必要でしょうが、史実の戦争映画ならば司令官レベルに全くの架空人物(あえてモデルを探すのならば角田覚治が考えられるが、彼は1944年8月のテニアンの戦いで戦死している。映画の門倉は1943年2月のガダルカナル島撤退作戦で戦死しているものの、同作戦で戦死した海軍司令官は実際には存在しない)を登場させるのは「無し」でしょうに。

あと、山本が奥さんに恩賜の銀時計を渡すひとコマが映画にはありましたが、あれを実際に渡したのは愛人さんにですよ。

なんだか「太平洋戦争70年目の真実」という言葉が浮いてきそうです。このフレーズが無ければ、多少の脚色は気にならないんですけれどね。
恐らくこの副題は、対米戦争を侵略戦争の一環としての観点からしか教育を受けておらず、そしてそれを信じきっている素直で純粋な人達や、もう米国と日本がかつて戦争をした事さえよく知らない人たち向けのものなんでしょう。好意的に解釈して。
少なくともあの戦争について、そこそこ知識のある者にとっては「肩すかし」の副題でしかありませんでした。

決して嫌いな映画ではないのですが、どうしても最近の作品には少々辛口の批評になってしまいます。その為、少しフォローも入れておきましょう。
2011年版には玉木宏さんや香川照之さん、益岡徹さんらが演じるメディア関係者が出てきます。彼らこそが国民を煽り、軍部にはっぱをかけて、戦争への道を推進してきた一大勢力であった、という視点が入っているのは大変良かったと思います。
またラストに流れた小椋佳さんの「眦(まなじり)」という曲も、特にメロディがいい雰囲気でした(歌詞は今一つ凡庸だなぁ)。

そして最後に明記しておきたい事が。
これは新旧の両作品に言えるのですが、この二つの映画は戦後多くの日本人の間で共通認識とされてきた「海軍善玉・陸軍悪玉論」を、そのまま引き受けて製作されている印象があります。
特に2011年版は上記の傾向が顕著で、先ほども指摘したフィクションでしかない陸兵の海軍省への示威行為や、米内、井上、堀悌吉あたりの描写などが、如実にそれを物語っています。
しかし、梅之助にしてみれば、陸も海もどっちもどっち。
特に山本、井上の親分格の米内光政などは、海軍良識派の代表格と目されているものの、支那事変(1937年)当時海相を務めていた彼の言動は「良識派」という言葉からは程遠いものでした。
彼こそが陸軍中央の事変不拡大方針に反対して戦線を拡大させ、閣僚として日本を中国大陸での泥沼戦争へと追い込んだ最も責任ある立場の一人なのです。まあ、ここではその具体的指摘は控えますが、調べればすぐにわかる事です。
因みに2011年版の原作・監修は、映画「日本のいちばん長い日」と同じ半藤一利氏(「聯合艦隊司令長官 山本五十六」)。この人、調べてみると典型的な
「海軍善玉・陸軍悪玉」論の系譜上にある人なんですよね。
やっぱりな。
ご本人は歴史家を自任されているようですが、それなりにバイアスもかかっているみたいです。

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