確かに解釈改憲という手法はスマートではありません。筋論から言うと、憲法改正が先でしょう。
しかし憲法改正には膨大な時間とエネルギーが必要です。日本国内も確実に今回の安保法案以上に混乱するでしょう。ただ、その間隙を突かれて日本の主権が取り返しのつかない侵害を受けてしまう訳にはいきません。安全保障に関しては、何かあってからでは遅いのです。
推察するに、安倍総理は彼自身の政治目標であった憲法改正を、自身の内閣で成し遂げるのは不可能と判断したのだと思われます。そう判断したのは国のトップしか知り得ない国際情勢及び他国の軍事的情報、そして米国からの要求等からではないかと。
梅之助は個人的に、この安保法案は「日米安保の尖閣適用」の見返りの一つだと思っています。米国からの要求か、総理自身が持ちかけたのかは何とも言えませんが。
もっとも、そのどちらであっても、この集団的自衛権は安倍内閣以前から長い間時間をかけて議論と検討が積み重ねられてきたもので、流動的な国際情勢を鑑みて、安倍総理がこの時決断したというだけのものです。

こうして日本が安保法案に揺れる中、ツイッター上で芸能人のつるの剛士さんのつぶやきが一部の注目を集めました。左から時系列に幾つか並べてみます。

 


「反対反対」ばかりで「賛成」の意見も聞いてみて判断したい、というのが彼のツイートの趣旨でしたが、数多くの賛否両論がリプされ一種の炎上状態になったようです。
梅之助は彼の一連のツイートを極めて常識的な意見と見ていますが、反対派からは感情論としか言えないような批判の数々が書き込まれています。

 

 

(左)反対派デモ(朝日新聞デジタルより) (右)賛成派デモ(産経ニュースより)


確かにつるのさんの言うように、特にTVメディアでは左側の映像しか流れて来ませんよねぇ。安倍総理も国会で「国民の間に理解が広まっていない」と認めていますが、その最大原因の一つに著しく公平性を欠いた報道メディアにある事は言うまでもありません。
そしてもう一つ挙げると、公党も一枚噛んだ、根拠のないデマ拡散イメージ戦略でしょう。
つるのさんのツイート画像の右端に、「つるのさんの子供が戦場に行く事になる」とリプをした人が確認出来ます。いわゆる徴兵制ですが、率直に考えて何でこの法案と関係があるのでしょうか?論理破綻も甚だしく、???としか梅之助には思えません。つるのさんも同様のようです(それにしてもつるのさんはいい人だなぁ~。こんなリプに丁寧に返事しているのだから)。
しかしこの徴兵制という言葉、この安保法案と絡めてやたらと最近耳にします。

 



これは民主党が製作したパンフレットです。
「自衛隊員が日本と関係のない戦争に行かされる」くらいならばまだ許せても、これはちょっと酷くないですか?これがOKならば、自民党が「民主党は沖縄を独立させて中国に割譲しようとしている」と言いふらされても文句は言えないレベルです。
さすがに民主党内の長島昭久議員(いつまで民主党にいるの?せめて維新の党くらいに行ったら?)らの批判を受け、50万部印刷したものの破棄処分になったそうですが、こういう現実とかけ離れたイメージ戦略を用いる事に民主党はためらいがないようで、岡田代表も枝野幹事長も国会や街頭演説でパンフレットと同様の事を発言しています。
この党がつい数年前まで日本の政権を担っていたのかと思えば、本当に情けないし恐ろしくもあります。

まあ折角なので、あえて徴兵制という要素を(安倍総理は徴兵制を憲法18条違反であり、ありえないと明確に否定していますが、そういう法学上の論点はこの際、無視します)リアルな国防に絡めてその可能性を考えてみましょう。
すると梅之助には、むしろ集団的自衛権を認めない方が徴兵制が必要になって来る可能性がある、という結論にどうしても至ってしまいます。
今の日本は、世界最高の軍事技術と威力を持つ米国との強力な同盟関係から生じる抑止力で守られています。その結果、現在の自衛隊人員、5兆円ほどの防衛費で抑えられている訳で、そこに徴兵制導入の現実的必要性は生じません。
しかし米国の軍事プレゼンスが低下する中、日本が最低限の集団的自衛権も認める事が出来ず、個別的自衛権のみに拘るとしたら、次第に日米同盟は形骸化し、将来米国は間接的支援しかしなくなる恐れがあります。その場合は事実上、日本は自国を自国のみで守る事を余儀なくされる事になり、根本的な防衛力の見直しに迫られます。米軍の協力なしに今のレベルの安全保障を維持しようとすれば3年ほど前に防衛大学教授らによって試算された国防費は現在のおよそ4倍。当然大幅な兵員補充も必要条件となって来るでしょう。
日本国民はその現実に果たして耐えられるでしょうか?
米国の軍事力を確実に利用できる前者の方が、徴兵制を遠ざける事が出来るのです。

徴兵制は、「安倍は戦争がしたいから、いずれ解釈改憲で徴兵制を可能にするだろう」という陰謀論よりも、リアルな物理的必要性に迫られた時に輪郭を現して来ます。

そもそも論として、安全保障の根幹を日米同盟に頼っているならば、集団的自衛権行使は当たり前の話であり、それが嫌なら自前で戦力を整えるかわりに自国しか防衛しない立場を取ればいいいのです。後者の方がどう考えても徴兵制の必要性が高いと言わざるを得ませんけどね。
そう、2択なのです(もっとも、ここまで必要性からの徴兵制の可能性を書いてきましたが、現実問題としては状況がどうであれ徴兵制を実現する法案は国会でまず通らないと思われます)。


にもかかわらず、メディアによく取り上げられる声は、そのどちらも選ぶようには薦めて来ません。
彼らは訳の分からないレッテルやイメージで一般国民を惑わし、ありもしない魔法(憲法9条)で平和が保たれると説く現代の錬金術師です。
私たちはしっかりとその正体(異国の代弁者)を見極めなければなりません。


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