マリアナ沖海戦に勝利し、太平洋の制海・制空権を完全に握った米軍が次に狙ったのがフィリピンでした。日本にとってフィリピンは南方資源地帯と日本本土を結ぶ中間地点。ここを米軍に奪われれば日本は根本的に戦争継続能力を失ってしまいます。それゆえ日米双方の陸・海軍は激しくこの地域で激突しました。特に日本海軍は1944年10月、持てる主力の全てをこの海域での作戦に投入しており、初めて「神風特別攻撃隊」を送りだしたのもこの時でした。
このフィリピン周辺海域での戦いの総称をレイテ沖海戦と呼んでいます。この海戦は両陣営の参加艦艇数や広範囲にわたった戦域などから、「史上最大の海戦」と言われています。
そして、真珠湾攻撃に参加した主力空母のうち、唯一沈んでいなかった空母「瑞鶴」がこの海戦で遂に沈没する事となります。
マリアナ沖海戦で惨敗した日本の連合艦隊機動部隊には組織的な空母決戦を行なう力はもはやありませんでした。しかし戦艦による艦隊決戦がこれまでなかった為、主力戦艦の「大和」「武蔵」「長門」らは温存されており、これらの戦艦群で米国に大きな一撃を加えようとしたのがレイテ沖海戦でした。
この海戦で空母部隊に与えられた使命はズバリ「囮」。そして参加した主力空母「瑞鶴」と軽空母「瑞鳳（ずいほう）」「千歳」「千代田」はその身を沈めながらも役割を果たします。
（上）1942年秋、南太平洋を航行中の瑞鶴艦影。翔鶴甲板から撮影 （出展：「写真 日本の軍艦 第３巻」光人社より） （中）レイテ沖海戦におけるエンガノ岬沖で被弾した瑞鳳。大戦末期にカラーリングされた迷彩甲板がよく確認できる（Wikipediaより）（下左）公試中の千歳 （下右）公試中の千代田（いずれもWikipediaより）
瑞鶴は「翔鶴型」空母２番艦として1941年９月就役。ミッドウェーを除く主要海戦すべてに参加し、主力正規空母として活躍してきました。姉妹艦・翔鶴とは対照的に、マリアナ沖海戦まで一発も被弾しなかった幸運艦でした。
瑞鳳は「祥鳳型」空母（「瑞鳳型」と呼ぶ事も）として、珊瑚海海戦で沈んだ祥鳳同様に高速給油艦→潜水母艦→航空母艦へと計画変更され、最終的に1940年12月に空母として竣工しています。
千歳と千代田は当初「千歳型」水上機母艦の1、2番艦として、それぞれ1938年7月、1938年12月に竣工。しかし日本海軍はミッドウェー海戦で正規空母を４つも失った事から、1943年に共に空母へと改造されています。
この５つの写真は、レイテ沖海戦・エンガノ岬沖での瑞鶴ら空母部隊最後の奮戦の様子です。
一番上の写真、中央が瑞鶴、手前が秋月型駆逐艦、奥に瑞鳳。
その下の写真が、回避行動中の右に瑞鳳、左に瑞鶴。
次の写真が上空から見た被弾した瑞鶴で、迷彩甲板が確認できます。ここまでがWikipediaからの引用。
最後の２枚が沈没直前、軍旗に敬礼し万歳三唱する瑞鶴乗務員。この16分後に歴戦の武勲艦・瑞鶴は海中に没します。「写真 日本の軍艦 第３巻」光人社より引用。
囮空母群の身を挺した作戦は成功し、米機動部隊はまんまと囮部隊につり上げられて日本戦艦主力部隊から引き離されたのですが、肝心の戦艦部隊が突入地点であるレイテ湾目前で「謎の反転」をしてしまい、結果的にこの作戦は日本にとって空振りに終わってしまいます。
囮となった空母では、瑞鶴が800人以上、瑞鳳200人以上、千歳数百人、千代田に至っては乗務定員約800人のほとんどが戦死しています。
この海戦で日本の連合艦隊は作戦能力を完全に失い、沈没を免れた艦艇も動かす油が枯渇してしまい、多くは物資輸送作戦か本土の軍港にて対空砲台として使用するしかなくなってしまいました。
そしてまともな作戦を立てる物理的・精神的余裕を失った日本は、「統率の外道」とも言うべき特攻作戦オンリーに傾いていくのです。
以下、沈没地点データは「Googleマップで見る軍事的スポット」参照。
瑞鶴 沈没地点
瑞鳳 沈没地点
千歳 沈没地点
千代田 沈没地点
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