1983年/日本/ヴィスタサイズ/カラー/111分
製作:角川春樹事務所
【スタッフ】
監督:根岸吉太郎
原作:赤川次郎
脚本:鎌田敏夫
撮影:仙元誠三
照明:渡辺三雄
編集:鈴木晄
音楽:加藤和彦
【キャスト】
薬師丸ひろ子
松田優作
秋川リサ 北詰友樹
坂上味和 中村晃子
藤田進 鹿内孝
荒井注 財津一郎
岸田今日子 1週間後にアメリカに旅立つ女子大生・新井直美は
夜遊びに余念がない毎日。そんな時、彼女のボディー
ガードを依頼された探偵・辻山との出会いから、ある
殺人事件に巻き込まれることに。 まず作品全体の構成、探偵・辻山が女子大生・直美の素行調査をす
る前半から、殺人事件をきっかけに直美が事件の真相を追っていく後
半部へと流れていく「逆転する作劇」の面白さに注目したいと思う。
直美の不安定な状況に揺れる心情描写が、その前・後半をスムーズ
に繋げ、その一方で辻山の側から観た場合には、徹頭徹尾キッチリと
ハードボイルド・ドラマとなっているという重層的な構成。所謂アイ
ドル映画という形をとりつつも、一切の手抜きや迎合をせず、描くべ
きものをきっちりと描き出す姿勢は、極めて映画的で素晴らしい。
映像的な部分としては、画面内をちょこちょこと動き回る小柄でキ
ュートな薬師丸ひろ子の魅力と、長身を持て余すようにゆったりと動
く松田優作の存在感、この対照的な二人のコントラストの面白さが際
立っていて、二人が同じ画面で寄りつ離れつする度に生み出されるユ
ーモラスなアクション、例えば、屋根伝い・窓越しに部屋に出入りし
鉄門をよじ登り、尾行し、肩に張り付いては盗聴し、走っては逃げ、
チークダンスを踊り、布団や換気扇に潜り込む。けっしてスマートと
はいえないジタバタとしたアクションを繰り広げる様が、そのまま映
画それ自体の躍動的な面白さに繋がっていく。
そんな二人を、ロングショット効果的に織り込みながらワンシーン
ごとじっくりと構えたフレーミングのカメラが丁寧に撮っていく中で
そこから強く感じられるのは「息づかい」に似た、あるニュアンスで
ある。「息を凝らす」「息を飲む」「一息に」「息をつく」「息を抜
く」「息も止まるほど」…といった主人公たちの心情的=身体的リズ
ムと、それを描き出す各ショット自体の持つリズムがしっくりと同期
し、観ている側の呼吸のリズムにも心地よくマッチする。映画自体が
息づいているという印象。(もちろん編集のタイミングの良さがあれ
ばこそ、なのは言うまでもない)そのリズムの中から、活劇性やサス
ペンス性が立ち上がり、随所に散りばめられたユーモア(状況を超越
したような存在感の岸田今日子や、実に言いにくそうに「愛」を口に
する財津一郎のチャーミングさ)などが引き立ち、この作品ならでは
の「味わい」や「薫り」が生まれているのではないだろうか。
ラスト、渡米するために1人空港に来た直美。いろいろな想いが胸
に去来する彼女の目に辻山の姿が映る。ただただ気持ちを確かめ合い
慈しみあう抱擁シーン。台詞の一切ない長いショットから溢れ出る濃
密な情感。離れ難くも意を決して歩き出す直美と、彼女を送り出しな
がらも、取り残されたような辻本。カメラはズームアウト→ロングシ
ョットとなり(この仕掛けにも驚かされる)、エンドロールが終わる
まで、去り行く直美と立ち尽くす辻本を捉え続ける。二人の表情は安
堵感に満ちた笑顔なのか、未練を残した寂しい顔なのかは定かではな
い。しかしこのシーンが物語の帰結であるなら、この物語を観た人そ
れぞれの中に生まれたシンパシー、それがその答えなのではないだろ
うか。「目には見えない」ものをも表現することができる「映画」の
素晴らしさがここにある。 (2009.11.22)