ストーリーで学ぶ本質を突く人生の教訓

人生や仕事で使える教訓をストーリーテリング(物語)を使ってお届け。成功や失敗のストーリーからあなたの人生にぴったりな教訓を手に入れよう。難解なビジネス書ではわかりにくいものもわかりやすく楽しめるストーリーで学ぼう。

NEW !
テーマ:
{E2C11981-C13B-4A22-9B54-060C6F494B5A}

充弘が次に気がついた時は病院だった。腕には点滴針らしきものが差し込まれている。意識ははっきりとして来たが、まだ頭が重い。身体中がすごくだるい感じもする。とにかくもう少し瞼を閉じてしまいたい気分だった。が、視界の遠くで充弘は何かを捉えた。心配そうに充弘を見ている大政の姿だ。そのことに気がつき、体を起こそうとする。しかし、体が思うように動かない。ほんの少し頭を浮かせただけで、激しい鈍痛を覚えて動かせないのだ。

その様子に気がついた大政が声をかける。

「気がついた。過労。もう倒れてから一日半経ってる」
「一日半?!…っぐ」
咄嗟に声をあげ、その反動を浴びる。

「…店は!?店は大丈夫?」

「平気。でも、資金面は正直しんどい」
大政は俯いてしまう。
そのまま目の当たりを覆うように手で隠してから
「…売りに出す」
とポツリと呟いた。

「資金繰りが厳しい」
大政がそういうと充弘は次にかける言葉が出てこなかった。

「兄さんにも迷惑かけた。今がやめる時。長岡さんは後でくるって。その時具体的に話す。もうほとんど話はまとまってる」

と、そこへ長岡がやって来た。

「お兄さん!意識が戻ったんですね!よかった!」
長岡は大喜びして、ベッドの脇まで駆け込んでくる。

「長岡さん、あの話進めます」
大政が低いトーンで伝えた。

「ああ、そうですか。それは…残念です。でも、仕方ありませんね。ここは最後までしっかりやりましょう!」
少し残念そうな表情を浮かべてから、改めてハキハキと話を進めた。

長岡の話によると、『くりっと』は相当いい金額で売りに出せるらしい。知り合いに不動産関係の者がいるから査定額アップは任せて欲しいとのことだ。なぜ突然売りに出すことになったのかというと、大政はかなり無茶をしていたようで、少しずつ貯めていた資産もすべて使い切り、借入まで行っていたのだという。

その返済が今週末に迫り、どう工面して行こうか悩んでいた時に、充弘が倒れた。差し押さえられ、安い金額で手放すよりは、売りに出して、その資金で借金を返済するべきだと長岡は言う。普段ならありえないが、今手続きを行うなら即金で支払うように申付けるという話らしい。

「…それでお願いします」
大政は声を絞り出すように言った。

「では、書類などを集めます。まだ朝早いですから、今日の夜。そうですね、二十時までにはお持ちします。こういうのは早い方がいいですから」
そういうと、早速準備に取り掛かりますと長岡は病室を後にした。

「よかったの?」
よくないということは重々承知していたし、このようなことを言えば、大政の逆鱗に触れるだけだということは充弘にもわかっていたが、言葉が何も浮かんでこない。何を話したらいいのかわからず、このような言葉でまとまってしまった。

「うん。悔いは……」
それ以上は大政の涙声で何も聞き取ることができなかった。

「とにかく休もう」
「兄さんもね」
大政は努めて明るく笑顔を作ろうとしていたが、引きつった表情からは無理していることが手に取るようにわかる。去っていく後ろ姿を見るのは、とても辛い。

三十分ほどが経過し、充弘はただ流れゆく時を呆然と見据えることしか出来なかった。


と、そこへまたも長岡が顔を出した。

「どうしたの?大政なら、さっき帰ったよ?」
「そうですか…。今回はその。非常に残念ですね?」
長岡は俯き、声を押し殺して話す。

「とっても。長岡さんも仕事を失うことになって、申し訳ないね」
「大政さんも特に熱を入れられていた。お兄さんもここまで酷使するほど、熱を入れられていた」
長岡はまだ俯むき、少し肩を震わせた。

「残念だよ」
「皮肉なものですねえ。くくっ、こんなに頑張っていらしていたのに。」
長岡の肩は先ほどより頻繁に揺れはじめた。

「人生ってうまくいかないものだ」
「ふふっ、はははっ!意識が戻ってくれて本当に私は嬉しいですよ。あのままぽっくり逝ってしまったんじゃ、誰も落ちてくれませんから!もうこれ以上笑いを堪えられませんよ。」
はははははっ!と大げさに笑う長岡を充弘はポツンと見ているしかなかった。

「なあ?大丈夫?」
「まだ気がつきませんか?!あなた方には呆れるにもほどがありますねえ。自分たちが嵌められているとも知らずに。ほんと呑気な奴らだ!いいか教えてやろう。破滅まで導いたのは私なんだよ!」
その顔は喜びを隠しきれない子供のようにはつらつと輝いている。

「なに?!なんだって!!」
体を動かそうにも力が入らない。

「あんな一等地、あんな低価格で手に入れられやしませんよ。あなたの弟さんも馬鹿ですね。よかった。揃いも揃って馬鹿で」
肩をすくめて人を小馬鹿にするような言い方で見下した。

なんでそんなことできるんだ!大政はお前のことを可愛がっていただろう!」

「関係ないですね。私は自分が儲かればいい。人がどうなろうと知ったこっちゃないんですよ。むしろ、平和そうなあなたたちが、どん底に落ちる絶望を見ている方がとても楽しい。
だから、今こうやってどうしようもない現実をあなたに伝えるのです。あなたはこの事実を知りながら、何も出来やしない。ああ、なんという快感。

どうです?熱心に教えていた私から裏切られる気分は!
さいっこうですね!!ふははは、笑いが止まりませんよ。
そして、私は念願の買収を成功させる。うちの会社は買収させないと出世出来ませんからねえ。ようやく手に入れられるんだ、長かった。あんなゴミの中に埋もれてたんじゃ、やってられませんから」
長岡は何かを見つめ、大きな宝でも抱えているような仕草を見せる。長岡は続けた。

「今ナースステーションにいる看護師にあなたの状況を聞きましたよ。肉親だから教えてくれってね。そしたら、あなたは不整脈を起こして、今は安静にしていなくてはならないほど、重篤なんだそうですよ。つまり、あなたは『くりっと』が私に買収される時には立ち会えない。このまま、ただここで呆然と休んでるしか出来ないんですよ!全てが終わった時に、あなたは店を失った家族とともにこの事実でも話し合って、涙を流してください。そして、枯れ草のようにボロボロになって朽ち果てていけばいい。そうだ!どうせならあの店でケリをつけて差し上げましょう!!」
またしても長岡は、ははははは!と大笑いをする。
気が狂ったかのような形相である。

「それに」と長岡は付け加えた。

「あのめぐるとかいう女もホイホイ付いてくるし。
あんなやつは少し甘やかしてやれば、すぐに付いてくるんですよ。

渾身のラテアートをぐちゃぐちゃにしたのが、私とも知らずにね。ははは!!バカが多くて、おかしくて絶頂を迎えてしまいそうだっ!素晴らしいっ!最高ですよっ!その顔っ!!もっと恨んでください。そして、変えられない現実を嘆けばいいっ!」
では、私は書類作成の準備に取り掛かりますよ。と、顔を充弘の目の前まで近づけ、それだけ言い残して帰っていった。

充弘は悔しさでいっぱいだった。
騙されたという思い、自分の不甲斐なさ、大政が借金を抱え込んでいたということ、長岡のことを見抜けなかったこと。充弘は永遠とこれらの後悔の念に苛まれた。何度も何度もぐるぐるとその場に停滞して離れようとしない。もう一体何度再現されたことだろうか。

途方の涙にくれていると、慌ただしい音が廊下から響いてくる。

「充くん、大丈夫!?遅くなっちゃってごめんね!気がついたみたいでよかったわ!そうとなったら、今すぐ言わなきゃいけないわよね。あのね、聞いてちょうだいな。あたしゃねえ、どうもおかしいと思ってあのオフィスビルを調査していたのよ。ほら、服屋さんっていう割には女の子がいないじゃない。そしたらね、あそこに出入りしている人はほとんどの人が男の人でそれもアイテー系って言うの?そういう人ばっかりだって言うのね。服屋さんなんて何一つも入っていないのよ。おかしな話よねえ。長岡くんは自分で調べて服屋だってあんなに張り切って言っていたのにねえ。あとそうそう、これは前から言おう思っていたやつ。あそこのオフィスビルの中に悪名高い会社が入っているそうなのよ。なんでも、あることないこと言いふらして、その会社の評判を下げてから買収するんですって。そんなのに目をつけられたら、たまったもんじゃないわ」

「たえさん。ありがとう。でも、間に合わなかった…。やつはその会社の社員なんだ」
それから充弘はここでの経緯を話した。

「そんなひどいことを!!信じられないわ!私、大ちゃんにそのことを伝えてきてあげるわよ!」
「いや、だめだ。きっと長岡が邪魔をして、たえさんが狂言を話していると言いくるめられる。それにやめろと言ったところで解決するわけではないんだ」

「そんな…。そんなのあんまりじゃないの。あのお店はあなたたちと家族の絆なのに…」
たえさんは激しい喪失感にその場にへたり込んだ。


いつもそこに【8】へ続く

・筆者作田勇次アカウント 

・Twitterアカウント

(フォローしていただければ、最新記事をタイムラインにお届けいたします。)

AD
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)

AD

ブログをはじめる

たくさんの芸能人・有名人が
書いているAmebaブログを
無料で簡単にはじめることができます。

公式トップブロガーへ応募

多くの方にご紹介したいブログを
執筆する方を「公式トップブロガー」
として認定しております。

芸能人・有名人ブログを開設

Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
ご希望される著名人の方/事務所様を
随時募集しております。