第24章~意味


健三『先生のあのオリジナル曲をみんなでやらない?』

俺はそうおもむろに言った。

二人は首をかしげてこっちを見ていた。

健三『あぁ、そっかそっか。唯と雄太はあの曲聞いて無かったんだよな。先生、ちょっと弾いてもらえないっすか?』

美樹『ええ。良いわよ…。』

そういうと俺に貸していたアコースティックギターを取り出し椅子に腰をかける。

するとミッキーの目がさっきまでとは違う光を放っていた。まるで別人だと感じてしまうほどに。

しかし曲が始まるとそんな違和感はすぐに無くなっていた。無くなったというよりも気にしなくなったというほうが近い。だってあまりに美しい音だから。

ミッキーは数十分間弾き演奏を終えた。ミッキーはふう、と溜め息を漏らすと元の目の輝きに戻っていた。

健三『な!良い曲だろ?歌詞はこれからつけたらいけるだろうし』』

雄太『うんうん!やっぱミッキーすげぇよ!普通にプロじゃん♪』

雄太は軽く興奮気味にそういっていたが、唯だけ様子がおかしかった。目が潤んでいる。

唯『凄い巧くてかっこよかったです。けど、とても…せつない気持ちになりました。』

美樹『っ…!』

美樹は驚き、手に持っていたピックを落とした。

雄太&健三『?』

俺たちはまったくもってさっぱりだった。

美樹はそんな俺たちを置いてゆっくり喋り初める。

美樹『うん。これは唯さんの言う通り失恋した時に作った曲なの。凄い大好きな彼がいてね。ずっと前から片想いだった。けどその恋は実る事は無かったわ。漫画みたいに上手くはいかないものね。』

ミッキーは笑いながら話してくれたがそれとは裏腹にすごい悲しげに見えた。

健三(だから初めてこの曲を聞いてミッキーと話してる時、遠い目をしていたのか…)

そう思っていた矢先唯が思いがけない事をいいだした。

唯『私にこの曲の歌詞書かせて下さい!』



第25章~ひとつ


そういうと唯は頭を下げた。

唯『この曲が先生にとって大事な曲だってことは十分くらい伝わって来ました。歌詞が無いのに想いは沢山詰まってて凄い感動したんです。もしよかったらで構いません。書かせてもらえませんか。』

唯はそういうとじっとミッキーの目を見つめた。ミッキーは照れ笑いしながら、

美樹『もちろん良いわよ。それに今まで歌詞をつけなかった理由は昔の私を曲の中にしまいこみたく無かったの。いつまでも辛い過去にしがみついてても駄目だものね。それに今みたいに安達さんが書きたいって思ってくれなかっただろうし。私からのお願いは一つ。気持ち込めて歌ってね♪』

唯『ハイ!』

その声は野球部の練習の声より力強く、ブラスバンドの音色よりしなやかな返事だった。

その唯の姿にすこしドキってしたのはここだけの秘密だ。

本格的にこの曲を課題曲に決めそれぞれやるべき事をミッキーから言われる。

美樹『まず安達さん、あなたはこの曲に命を吹き込む作業をしてもらいます。』

唯『命を…吹き込む。』

美樹『そう。歌詞っていうのはそのぐらい重要な意味を宿るの。出きるわね?』

唯は力強く頷いた。

美樹『次に五十嵐君、貴方は音に深みを持たせてもらいます。ベースはあまり前には出ないけど曲に深みがある演奏になるかはベースにかかっています。期待してるよ♪』

雄太『うっしゃ!しっかり深みのある演奏をしてみせますぜ!』

雄太もガッツポーズをして気合い満々である。

美樹『そして前田君、貴方がこの曲を動かしてもらいます。前田君次第で勇敢に力強く突き進む事も出来ます。けど逆に曲が止まってしまう事も。けど失敗を恐れず突き進んでね♪』

健三『わかりました。』

美樹『あと前田君にはバックコーラスも担当してもらいます。』

健三『わかり…え?バックコーラス?』

美樹『五十嵐君から聞いたよ?歌上手いんだってね♪歌の方でも安達さんを支えてあげてね。』

あの野郎いらねぇ事いいやがって…練習量半端ねぇなこりゃ。

美樹『あとみんなにこれだけは言っておきます。どんな上手い演奏でも心が無いとただの音の振動に過ぎません。まず自分達から楽しみましょう!辛いこともあると思うけど、これから一緒に頑張って行こうね!』

健三&雄太&唯『ハイッ!』

改めてこの音楽室内が今この瞬間一つとなった。