HYODOとの些細な出来事も男にとっては深い思い出だった。
現実の世界に目をやると、地平線がほのかに朱く染まって来ていた。

男はHOJI茶を飲み干すと席を立った。
そのまま店を出ると、30階ほど下の階に向かった。
男は会計をする事もなかった。もちろんカードを示すこともない。
こういった店では体内チップ所有者はオーダー時の簡単なチェックで支払いが完了するためだ。
だから男はキャッシュを持ち歩く習慣がない。

男は目的の階につくとカウンターで簡単な操作をして個室に向かった。
リクライニングチェアーに座ると、パネルを操作する。
ヘッドレストから頭部を覆うようにスクリーンとスピーカーがせり出してくる。
目の前に映し出されたのは、随分昔の映画。
暴走したコンピューターと人類の戦いを描いた映画だ。
男は思いっきり暴れたい気分だった。だからこの映画を選んだ。

このシステムは、 【五感対応型AVシステム】を応用したもので、利用者の脳波を読みってストーリーを進める事が出来る装置。
男はこのストーリー内で暴れることが最もストレスを解消してくれるものだった。

男はこれから始まる気の重いミッションの前にリフレッシュしたかったのだった。