フリンジ・ミュージック14 アナクルーサ(Anacrusa)
テーマ:音楽今回紹介するアナクルーサは、70年代から活動を続けている、アルゼンチンのグループです。リーダーのホセ・ルイス・カスティネイラ・デ・ディオスと、女性ヴォーカルのスザーナ・ラーゴを中心として編み出される彼らの音楽は、ジャズ、タンゴ、フォルクローレをベースに、叙情性あふれるメロディと、哀愁を帯びた女性ヴォーカル、クラシカルで壮麗なオーケストレーションといったように、既存の音楽のカテゴリーにあてはまることなく、まさに彼ら独特の印象的な音楽を70年代から作り出していました。レコードは本国のアルゼンチン以外にも日本やフランスで発売され、70年代末期の一時期から、一部の間では話題のグループでした。残念ながら、日本では彼らの音楽を変わったフォーク・ロックであるとか、叙情派プログレであるととらえる人が多かったようです。それは、彼らがすでに70年代中期に日本盤のアルバムを発売していたにもかかわらず、聞く側の音楽ファンが狭いカテゴリーにとらわれて相互の情報の交流がないために、タンゴ・フォルクローレ畑のファンからは黙殺され、その後の大傑作アルバムEl Sacrificioが一部の輸入レコード店(新宿御苑の近くにあったころの新宿Ciscoです)に並んでプログレ・ファンに衝撃を与えたものの、詳しい情報が店にも客にも伝わらなかったため、結局同じグループとして認識されないまま年月が過ぎ去り、その間グループ自体も活動を休止したいたために「幻のグループ」として扱われたという、当時の事情がありました。今では考えられないことですが、インターネット以前の時代にはこれが当たり前だったようです。
さて、アナクルーサですが、1973年に、ブエノス・アイレスで、前述の二人を中心に、5人(時には6人)編成でスタートします。リーダーのホセは、アストル・ピアソラの影響のもと、タンゴとジャズとフォルクローレをブレンドした独自の音楽を作ろうとしていました。そこにヴォーカリストとして出会ったのが、南米各地の伝統的な音楽を研究・演奏していたスザーナ・ラーゴでした。彼らは南米のクレオールの音楽を演奏するグループをつくることで意気投合し、アナクルーサを結成します。73年からアルゼンチンで4枚のアルバムをリリースします。この当時は、かって国民に人気のあったペロン元大統領が帰国し、二度目の大統領をつとめたが、まもなく死亡し、彼の妻(前の妻は故エヴァ・ペロン=エビータですが、彼女ではありません、後妻のイザベル夫人です。)が大統領になるが、軍部に改革を阻まれ、やがてアルゼンチンに軍事政権が誕生するという、嵐の前におとずれたつかの間の静けさのような時期でした。アルゼンチンの音楽シーンが大いに盛り上がったものの、やがて大きな制約を受ける寸前の時代と言えます。この時期の名盤は入手困難でしたが、現在ではいろいろな形で復刻・CD化されてきています。この時期に発表されたサードアルバムAnacrusaが日本でも発売されました。この時期の音楽は、曲も短めのものが多く、どちらかといえばソフトなフォーク・ロックと分類されそうな作風なのですが、後年の彼らに見られるような壮麗なオーケストレーションや、意表もつかない曲の展開といった特徴が見え隠れする部分もあります。さて、1977年になると彼らは嵐を避けるようにフランスに渡ります。この時期、サイケの世界で有名なMiguel Abuero Y Nadaミゲロ・アブエロ・イ・ナーダもフランスでアルバムを発売しています。フランス時代の傑作がFuerzaと El Sacrificioです。この二つのアルバムは現在CDで再発されています。曲の長さも長くなり、全編を流れるタンゴのリズムがさまざまにテンポを変えていきます。それにともなってつむぎだされるメロディーの美しさと、スザーナの哀愁を帯びて、幾分けだるさすら感じさせるヴォーカルが浮遊する様は、何とも形容しがたいものがあります。現在では、初期のアルバムも1枚目と2枚目がAnacrusa、3枚目と4枚目がDocumentosというタイトルでそれぞれ再発されています。そして90年代に入って再結成したグループは、Reencuentro、Encordadoというアルバムを近年になって発表しています。これで今のところ彼らの音源はLPに関しては再発されていますので、手軽に聞くことができます。政治的事情で活動中断のやむなきにいたったものの、再開後の彼らの音楽は年齢を感じさせないものですし、いわゆるラウンジ・ミュージックとしても聞くに堪えるのではないでしょうか。機会があればぜひ彼らの音楽に耳を傾けてください。
さて、読者の皆さん、このところ多忙でブログの更新を休んでしまいました。楽しみにしてくださった方、ごめんなさい。今後はなるべく毎日更新できるようにさまざまなネタを仕込んでおきますので、これからもどうぞよろしくお願いします。










