竹内が私の反応を見て言った。

「ユウコは夕方の夕に子供の子ですから、お間違いのないように…」


「あっ、ああ…」

僕は名刺を見直した。


「ビジネスプランは理事長さんからお聞きしました。」

と、今まで硬かった表情が少し柔らかくなったかと思うと話を続けた。


「とても困難な事業に挑まれるのだと正直驚きましたが、私の周りにもうつ病などで働けないでいる友達がおります。彼女たちのためにもなるのであれば、私で宜しければお力になりたいと思います。」


彼女とは初対面だったし、実力のほどもまったく分からなかったが、僕の事業に対して真っ直ぐに向き合っていくれているようで、その真摯な応対に胸が熱くなった。


「いや、私の方こそ。実際のITの受け入れ態勢となるとまったくもって未知数でして、ご協力頂けたらこんなありがたいことはありません。どうかお力をお貸し下さい!!」


竹内は僕のその言葉を聞くと、すっと息を吐いてこう言った。


「では、早速ですが…。この就業事業のプランでの、企業側のメリットは何ですか?」


「企業側の…メリット…ですか…」


「はい。申し訳ありませんが、商品のクオリティに心配のある障害者に企業は仕事を流しません。」


竹内はキッパリと言った。


「企業側のメリット…」


「桜井さん。私たちはいい事をしてるのだからでは、当然世間では通用しないのはお分かりですよね。」


僕は竹内のその真剣な眼差しに息を呑んだ…。

指定の日、ビジネススクールの事務所を訪れると事務の女性が会議室へと案内してくれた。


そこには見るからにデキると思われる女性が、本を読みながら座っていた。

入ってきた僕を見ると軽く会釈をしたので、「どうも。」と頭を下げて端の席に腰掛けた。


程なくしてスクールの理事長が入ってきた。


面長な顔立ちに、鋭い眼差し。
だが、笑顔が似合う表情がそれを隠して、人に安心感を与えていた。


関西の大学を主席で卒業。
政治家を目指して大前研一の政策集団で勉強したが、政治の世界の裏と言うものをいやと言
うほど見せられ、自分の思いとの違いからその道を断念。


新しい人材を育てるのが自身の天命と、ビジネススクールを経営することとなった。

その傍ら、多くの経営者との対談集を刊行している著述家でもある。


的確なアドバイスで修学時代もお世話になったが、今再びアドバイスを受けることになってしまった。


いったいいつになったら成長するのかと、きっと気が気でないに違いない。


「こちらは、今まさにビジネスを立ち上げようとしている桜井さん。こちらは、PC業界で十数年の実績のある竹内さん。やり手だよ。」


その竹内という女性は、「個人事業主として『ポイント』という会社をやっております、竹内ユウコと申します。」と名刺を差し出した。


名刺を眺める前に、思わず聞き返してしまった。

「竹内…結子、さん…?」

Webデザイナーの家から帰宅した僕は、ようやく缶ビール片手にテレビの前に座った。


いじめや自殺のニュースが飛び交う画面を、何も考えずに疲れきって見つめていた。


いつものようにメールチェックのためにパソコンを開いた。


そして、ため息。


今朝見たはずのメール以外に新着が20件になっていた。


明日にしようかとも思ったが、気になる件名がいくつかあり、結局それを1つずつ確認する。


社会起業大学で共に学んだ同級生からのメールが目にとまった。


>そろそろ、HPの件をつめたいと思います。打ち合わせの日程を調整しましょう。


なんてこった!!

まさか、パソコンが壊れてしまってそれどころではない、などとは口が裂けても言えない…(>_<)


いや~困った。

しかも今実行中の案件でさえ、いつ納品できるのかって時に。


でもこの仕事もこれからの実績として、なんとしても良い形で仕上げたい!!


よし☆

こういう時にこそ、卒業生としてスクールに力を貸してもらおう(^o^)丿


直ぐにスクールの理事長に相談のメールを打つことにした。


打って間もなく、返事が来た。


>日程調整してすぐに会いましょう。


すかさずの嬉しい返信だった。


でも、この時間…。

まだ会社にいるのかなぁ~


時刻は23時を越えていた――。