「…何、コレ?」
事の発端は玄関に貼られた一枚の紙から始まった。
〈愛のムチ…ってやっぱり厭がらせだろ!〉
「…あぁぁ、もう何回目だよ!」
銀時は机に紙を叩きつけた。
その紙には『ちゃんと働け万年金欠天パ!』と書かれている。
「…確か、6度目じゃないですか?」
新八は指を折り何回か数える。
「…勘弁してくれよ、オイ。誰だよこんなイタズラする奴は。銀さんだってこう何度も言われると傷つくんですけど?」
そうなのだ。
数日前に万事屋の玄関に貼られてから、今日まで毎日玄関を見ると紙が貼られていて、それは全て銀時に対してだ。
最初はイタズラと思ったのだがこうしつこく毎日やられては、たまったもんじゃない。
しかし、紙が貼られている以外は何の厭がらせはまだ受けていないので様子を見る事にしていたのだが…。
言葉は様々だが、どうやら送り主は銀時に対して働く事を要求している。
もしかして銀時が働くまで貼り紙は続くかもしれないと思い減なりする。
「…銀さん、この紙の主に心当たりはないんですか?」
「ある訳ねぇ~だろ。あったらとっくに問い詰めてるっての。」
「じゃあ銀ちゃん、誰かに恨まれるような事したアルか?」
「あぁ?俺が誰かに恨まれる訳…」
銀時が途中で言葉を区切る。
「…銀さん?」
「…ごめん、身に覚えあり過ぎてわかんねぇわ。」
アンタ一体何やったんだ
銀時の落ち込みように新八は心の中でツッコむ。
「…ぎ、銀さん。もしかしたらこの送り主、銀さんが働いたらなくなるかもしれませんよ?
一度働いてみたらどうですか?」
そんな新八の言葉から銀時は渋々ながら働く事を決め、いつか働いていた大工仕事をする事になった。
そして銀時が働き始めてからというもの貼り紙がなくなった事から、送り主も納得したのだと喜んだ3人だが…
5日目に玄関を見ると再び貼り紙がされてあり、そこには『もっと働け天パ』と書かれていた。
「もっと働けって何だよ!何様のつもりだテメェ!天パ天パってウルセェ!天パナメんなよ!」
貼り紙をビリビリに破きながら銀時は的の外れたツッコミをいれる。
「ちくしょう…働いても貼り紙されんなら働くんじゃなかったぜ。」
ああ、坂田銀時2●歳。
駄目な大人丸出しの言葉だ。
…そんなに働きたくないんか天パ!
「イライラする…そうだよ、俺働いていたから最近パフェ食べてねぇんだ。金も入ったことだし…行くか。」
銀時は財布を懐に入れると直ぐ様出掛けた。
…坂田銀時2●歳 天パ。
お金が入ったなら滞納している家賃返そうよ。
さて、銀時が街へ繰り出すと、見たくない顔が現れる。
真っ黒の服に包まれた黒髪の男土方だ。
「最悪…ただでさえイライラしてんのに、テメェに会うなんてな。」
「ああ?それはこっちのセリフだ。」
いつものように睨み合う二人。
ピリピリした空気に通り過ぎる人達は遠巻きに様子を伺っている。
「はいはい、こんな往来のとこで喧嘩しないでください~。」
そんな空気を諸ともせず、二人の間に入って行く者がいた。
土方と同じく黒い隊服に身を包んだ亜麻色の髪の女性、総(みち)である。
「総!」
「何やってんですか、お二人がピリピリしてるせいで皆さんが怖がっているじゃないですかぁ。」
全くと総はため息をつく。
「睨み合っている暇があるなら仕事しろよ土方。」
「いや、お前に言われたくないんだけどぉぉ!」
総の両手には団子がしっかりと握られている。
どこからどう見ても仕事中には見えない。
「お前また団子屋に…「旦那ぁ最近は仕事始めたんですよね?こんな所で油売ってていいんですか?」
土方の言葉を遮って総は銀時に詰め寄る。
「ああ?…辞めたよ、やっぱり俺には向かねぇわ。」
ボリボリと頭を掻く銀時に、総の眉が少しつり上がる。
「何やってんのよ、天パ。ちゃんと働けよ。」
その言葉にピタリと銀時の手が止まる。
総の言葉は貼り紙に書かれた言葉とそっくりで、何より銀時が仕事している事は万事屋メンバーとお妙しかしらないはず…。
お妙から聞いたか、仕事していた姿を見られたという事も考えられるが、銀時の感が訴える。
「…お前かぁぁぁ!!」
銀時は大声で叫び総に詰め寄り、総はニヤリと笑みを浮かべる。
「そうか、人が一番気にしている事をチクチクとつつくあのやり方、ドSのお前らしいわ。」
「そんな、旦那褒めないでくださいよ。」
照れて頬を染める総に銀時の怒りのボルテージは上昇する。
「褒めてねぇから!!オイお前一体何のつもりだよ。俺に恨みでもあんのか?」
「あります。」
即答する総に銀時は心当たりを探るが、全く思い当たるものはない。
「…沖田ちゃん、銀さん何したの?」
「おい、さっきから何の話を「お妙から聞きましたよ、旦那。」」
黙って二人の話を聞いていた土方だが痺れをきらして口を挟むが、再び彼の言葉を遮る総。
土方の内心にしてみれば『ええ?さっきから何コレ?苛めですか』という気分である。
そんな土方を放置し、二人の会話は続く。
「お妙から?何を?」
「旦那がちゃんと働かないから家賃は滞納気味で、新八君の給料、もう2ヶ月も払ってないそうじゃないですか?」
「…っ」
「せっかくお金が入っても、甘いものやら甘いものやら甘いものやらに消えて、お妙にはバーゲンダッツ一つ買ってあげるとこなんて私見たことありませんけど?」
「…うっ」
「それなのに、お妙の家に上がり込んではお世話になっているそうじゃないですか。」
「…ううっ」
総からの指摘に先程までの銀時の怒りと勢いのよさは失せ、逆に痛いところを突かれ後ずさる。
「お妙が優しいからって、つけあがってるんじゃないの旦那?」
「…ううぅっ」
「自分の妻に甘えきって、男として情けなくありません?」
「妻!?お妙はまだそんなんじゃ…!?」
銀時は言ってから、しまったと顔をしかめる。
何故なら、総がニヤッと笑ったからだ。
「まだってことは、いずれそうなるつもりだと、とってもいいですよね?」
「…」
嫌なとこにツッコんで来やがると銀時は苦虫を噛み潰した様な苦渋の表情を浮かべる。
さすがに俺が認めるドSなだけあると…。
…己は一体どこに感心してんだ!
「黙りですか…まぁ今回はこれだけで勘弁してあげるけど。でも旦那、これだけは覚えていてください。」
総は人差し指を銀時の顔に向けて指差す。
刀は握られていないのに何故か気迫が感じられ、自然と唾を飲み込む銀時。
「たとえお妙が望んでも今の様な万事屋としてもちゃんと働かない旦那にはお妙はやれません。」
でも…
「でも、旦那が…万事屋としての仕事をちゃんとこなす、いつものだらしがなくて、ろくでなしの旦那なら考えてみてもいいわよ…。」
「…沖田」
「…だって、それなら反対する理由ないもの。駄目な人でも、一本の折れない芯が通った旦那が…お妙は…私も好きなんですから。だから怠けてその芯を傾けないで。」
強い総の瞳を真っ直ぐ受け取ったに銀時はボリボリと再び頭を掻く。
表情は相変わらず面倒臭そうで目は死んでいるが、口元が僅かに口角を上げている。
「…そうだなぁ~銀さん最近少し休み過ぎたな。そろそろ万事屋営業開始するかぁ。」
「そうそう旦那。お妙も喜ぶわ。」
鋭い瞳から元に戻った総は嬉しそうに笑った。
「…まぁ嬉しそうにしちゃって、大串くんどうする?テメェの彼女俺が好きだってよ。」
「…馬鹿かテメェ、総はそんな意味で言ったんじゃねぇよ。」
「ふ~ん、あっそう?内心は沖田ちゃんが俺に好きだって言ったの気にしているじゃないの?」
「…んな訳ねぇだろ。」
土方は煙草をくわえ、ライターで火を付ける。
だが、その手が僅かに震えているのは気のせいだろうか?
「オイ、総。いつまでサボってだ、さっさと見廻りの続きに行くぞ。」
「あっ、待ってよ。まだ団子が…。」
総はモグモグと食べている。
「まだ食べてなかったのか…」
というより一体先程までどこに持っていたのだろうか?
「それは4次元ポケット…」
「んな訳あるか!」
二人はそんな言い合いをしながら銀時から去って行った。
一人残された銀時は暫く二人の背中を見送っていたが、フッと笑みを浮かべると何処かへと足を向け動き出す。
「とりあえず…行くか。」
心配をかけたであろう人の為に バーゲンダッツを買いに…
(おまけ)
「柳生の娘があの女が好きなのは知っていたが、まさかお前までとはな…」
意外そうに呟く土方に総は力強く頷く。
「当たり前じゃない、土方さんの倍好きだわ。」
「…えっ」
実は土方はまだ一回も総から好きだとは言われた事がなく、銀時に言ったのを聞いて『何故俺にじゃなくて奴なんだ!』と内心怒りたいやら、虚しいやら。
しかし、初めて総から好きだと言われた。
お妙の方が倍好きだという言葉と共に…。
あれ?
目の前が少し霞んで見える
おかしいな、雨でも降っているのだろうか
土方は頭を垂れて目頭を押さえ、総はそんな土方を盗み見しながらペロリと舌を出した。
fin…
別名『銀時いじめ(土方も?)スペシャル-作者の歪んだ愛故編-』
愛のムチが誰のだって?
総と…私です。