13年ぶりに怒涛の生涯が完結!
- 青池 保子
- アルカサル-王城- (12)
カスティーリャはスペイン中央部にあり、ポルトガル語でカステーラ、お菓子カステラの語源になった地方です。- かつてスペインはいくつかの王国に別れておりまして、 それらが戦いや婚姻を繰り返した後、1479年にカスティーリャ女王イサベルとアラゴン王フェルナンドの結婚によりスペイン王国(エスパーニャ王国)が成立したのです。
- スペインの話がなぜシェイクスピアにからんでくるか、と申しますと、以前にドン・ペドロとブラック・プリンス にて申しましたように、イングランド王家(プランタジネット朝)と因縁浅からぬ間柄にあるからなのです。
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系図を見てみますと、カスティーリャ王ペドロ1世の二人の王女がそれぞれランカスター公ジョン、ヨーク公エドマンドに嫁いでいます。 そして彼の血をうけた3代目ヨーク公リチャード、その子エドワード4世、リチャード3世といった面々がそれぞれ『ヘンリー6世』第一部~三部、『リチャード3世』で活躍します。
このペドロ1世を主人公に青池保子さんが描く中世歴史ロマン大作、『アルカサル-王城-』がいよいよ完結します。- 。。。青池さんのファンならとっくに承知の情報でしょうが、うかつにも私は先日まで知りませんでした。
- 掲載誌の廃刊という憂き目に会い、長らく連載が休止されていましたが、ついに「完結編前・後編」としてプリンセス・ゴールド 3+4月号から2回にわたって掲載されるとのこと。
- 私が中世ヨーロッパ及びイスラムに興味を持ったきっかけがシェイクスピアと青池さんの作品だけに、再開が今から楽しみです。
とはいえ、「完結編」に描かれるのはペドロ1世(劇中ではドン・ペドロ)の滅びにいたる過程。異母兄エンリケとの激しい王位争いです。そしてこの兄弟ゲンカに当時百年戦争で争っていたフランスとイングランドが介入します。
- 1367年のナヘラの戦い。左側がイングランド及びペドロ
- ペドロの正妻ブランシュはフランスのブルボン公の娘ですが、当時の習いとしてこの結婚も完全な政略結婚。漫画でも描かれているように、彼はこの正妻を幽閉し、死に至らしめています。このために不仲になったのか、フランスはアラゴン王国(現スペイン東部でカスティーリャの隣国)とともにエンリケを支援。一方のペドロはイングランドのエドワード黒太子(ブラック・プリンス)を頼ります。
- 以降の推移は先の記事(ドン・ペドロとブラック・プリンス )にも書いたので、そちらをお読みください。
- 簡単に言えばペドロは滅び、エンリケが即位。トラスタマラ王朝が始まります。
- 処刑されるペドロ1世とそれを見守るエンリケ2世
勝てば官軍。歴史書はおおむねエンリケびいきです。ペドロは「残虐王」というありがたくないあだ名をいただいております。- 漫画でも描かれているように彼は貴族たちと争い、母を追放し、正妻を幽閉するなどたしかに情け容赦のない人でした。しかし、これまた漫画に描かれていますようにユダヤ人をはじめとする商人を保護。その治世中は裁判も公正で治安もよく、「正義王」「公正王」とも呼ばれています。
- その激しさゆえに多くの女性とも関係を持ちましたが、生涯愛し続けたのはマリア・デ・パルマただ一人でした。
- 彼の生涯を見るとわが国の織田信長を連想しますね。その激しさとその先見ゆえに。ペドロが保護したユダヤ人をはじめとする商人たちはトラスタマラ朝では疎んじられてゆきます。
対するエンリケは外国勢力と貴族に推戴されて王位に就きました。そのため貴族・聖職者たちにたくさんの領土を与え、「恩寵王」と呼ばれました。- この時代に記録を残したのは主に聖職者であり、上級の聖職者たちは貴族階級の出身でしたから、ペドロには辛く、エンリケには甘かったのでしょう。
- ペドロがアラゴン、フランスと不仲だったのに対し、エンリケは逆に親睦を深め、アラゴンとカスティーリャは後に婚姻により合体いたします。
ペドロとエンリケの争い-王位をとったりとられたり-はイングランドのばら戦争によく似ております。ただ、ばら戦争によって貴族が力を失い、王権が強化されたのに対し、カスティーリャでは逆に貴族が力を伸ばしてゆきました。先述したようにエンリケが貴族を無視できなかったからです。そういった意味ではわが国の南北朝の争いに似ているかもしれません。足利尊氏も守護大名たちにたくさんの領地を与え、彼らの強大化を招きました。 - 貴族と王家の争いは続き、イザベルの孫、ハプスブルク家のカルロス1世(神聖ローマ皇帝としてカール5世)になってようやく落ち着きます。16世紀初頭のことです。
- ペドロは早すぎた英雄と言えるかもしれません。
最後に。ペドロの血統はイングランドだけでなく、カスティーリャ王国にも残ります。すなわち孫娘カタリナがエンリケの孫、エンリケ3世と結婚し、ファナ2世をもうけたからです。ペドロの血統は、再び彼が愛したカスティーリャに戻ったのです。