ブンレツさんの誕生日が先日だったのでソウウツシニアも含めて3人で食事。待ち合わせ場所へ行く前に買い物をした。長袖のシャツをプレゼントする。皮膚を患ったブンレツさんは半袖を好まない。胸に変なエンブレムがついていたが気に入ってくれた。

それを着て友人と会った時、有名なブランドかと問われて、しれっとそうだと答えたというのは後日談。

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ブンレツさんが自分の若かりし頃の写真をみつけた。高校の修学旅行と、20代前半の友人との旅行の時のもの。今の僕より若いブンレツさんは美人とまではいかないまでも、なかなか魅力的だった。それは本人も言っていた。15で田舎から上京した彼女はコンプレックスを抱いて、自分への評価が低かったらしく、それを後悔していた。確かに、もっと遊べばよかったのに。

きつく、とっつきにくい雰囲気がにじみ出ている。還暦を過ぎてブンレツさんは性格的に随分と丸くなった。思い返してみれば、僕が小さかった頃は尖っていた。見た目や趣向ではなく、精神が不良で札つきだった。客観的に見て、決して幸せな人生だったとは思えない。折り返し地点を当に過ぎている彼女ではあるが、幸せに生きて苦しまずに死んでほしい。できれば永く。写真は僕を少し悲しくさせた。
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レナードの朝

ブンレツグランマのいる老人ホームでジャンベのライブをやることが決まってからグランマに覇気が出た。十八番の佐渡おけさもそこで披露するという。

虚無的になって起きていても閉じていた目を開けるようになり、硬直した体も少しほぐれた。食欲もある。衰える一方だと思っていたのに気力が湧いて回復していることと、自分自身が人の生きる糧になっていることが、僕は嬉しくて嬉しくて。ライブを成功させるため2009年の運を願わくば、ここで使い果たしたい。

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昨日は暑かった。明後日も暑いらしい。天気予報を見ながらブンレツさんが怒っている。自分が外出する時に限って気温が30度を超えているということで。火曜に用事があり、金曜にも約束がある彼女は、水曜をねたみ、木曜をそねむ。天候が絡むと途端に利己主義者になる。
ブンレツグランマのいるホームが夏祭りを催しているというので、それを楽しんだ。ホームのある地区の住民が神輿を担いで来る。太鼓もあった。常に肘を曲げた状態で固まっている両腕でグランマが拍手をしている。いつかはここで僕もジャンベを叩くからというとグランマは何度もうなづいた。良いところを見せたい。

治は口から

ブンレツグランマが数日後に退院の見込み。熱は下がらないが肺炎の気もなく、重病患者の多いこの病院には置いておけないとのことだった。結局、原因が分からない不安はあるものの、ひとまずは安心である。グランマも医師や看護婦に対して減らず口を叩くようになって、それは精神的に充実してきた証として生暖かい目で見る。

市井

肺炎の恐れがあったが、ブンレツグランマの体調は良いほうに向かってひとまずは安心する。病棟は「コ」の字になっていて、窓から各階の向かいの病室が見えた。寝たきりの患者、医者と談笑している患者、症状が軽いと思われる女性患者は見舞いの人が来るのか、化粧に余念がなかった。立派なのぞきだ。

ブンレツさんはといえば、看護師がグランマのベッドに置き忘れた、指で血液中の酸素を測る装置をみつけて即座にはめていた。以前からそれに強い興味を持っていたらしい。僕はといえばグランマが寝ているそのベッドに興味がある。空気圧でふかふかの状態の、さらにシーツの上にジェル状のシートが敷かれたそれに。
先日からブンレツグランマが発熱し、一旦は引いたものの再度具合を悪くし、緊急外来で長い時間を費やした結果、入院することになった。その手続きのため、延命措置の意志について尋ねられる。ブンレツさんは動揺した。その病院では入院する際に必ず聞くらしく、冷静に考えれば当然とも思われるが、いざ突きつけられるとショックを受ける。
誕生日祝いでブンレツグランマが半日帰ってきた。付き添いの介護士が二人もいて賑やかな食事を楽しむ。そのうちの一人から面白い話を聞いた。

グランマを風呂に連れて行く時のこと。車椅子に乗せ「それでは行きましょうか」と声をかけたところ、グランマが何やらつぶやいた。彼女の口数が激減している現在、言葉を逃した介護士の彼女が聞き返したがそれでも聞きとれない。「ごめん、何て?」と再々度、耳をグランマの口元に寄せたところ計3回言ったセリフが「レッツゴー」だと分かった。

比較欲

もし自前の梅酒に銘柄をつけるつけるとしたら「常勝」か「天才」にすると、ブンレツさんはほざいている。そんな彼女が割と高価な梅酒を買った。飲み比べて、自身のもののほうが優れていると確認したいがために。普段、高級デパートのチラシを見ては高過ぎるにも程があると、適正価格について講釈を垂れるが、こと梅酒に関しては別。高ければ高いほどそれに勝る自分の梅酒といって、より悦に浸ることができるのだ。