青夜夢

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夜、歩いている。最近太ってきたため、手軽に運動したいという欲求と、流行であることも含め、ウォーキングに手をつけた。iPodなのを購入したことも、ウォーキングを始めたことと直結している。

この歩くという行為は僕との相性が予想以上に良く、自然と知らない道へいざなわれる。夜道であることも手伝い、まるで知らない町を旅しているかのよう。ここはどこだろう。方角すら分からない。人気も少ない。家から半径10キロ以内で迷子になる自分。感覚として夢を見ている時と似ている。

音楽を聞きながら、つまり聴覚をシャットアウトしているのも、夢を思わせることの一因になっているのではないだろうか。ともかくその浮遊感が心地よいのだ。
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雨上がりの昼下がり

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雨は午前中でやみ、アスファルトが照り返しでまぶしい。気温も上昇してまるで春のような昼だった。ちょうどいい天気とはまさにこれだ。外を歩いているだけで幸せを感じる、などと感受性が豊かな風を装うのはおそらく今、頑張っているという自負の表れかもしらん。気を回し、奔走し、尽くしている感。ストレスはたまっているが、終わった時には充足しているよう。あと1週間だ。

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料金未払いで携帯電話が止められそうになり、多忙の合間を縫ってびあんち号を飛ばし、auショップへ行く。対応した女性は名札と喋り方で異国の人だと分かった。しかし若干の訛りがある程度で、日本語を流暢に話す。

「身分を証明するものをお持ちですか」と聞かれ、僕は財布がないことに気づき「免許証も保険証もないです」と答えた。しかしこの時点で、財布がない=金がない=払えない、の図式が頭の中で成り立たず、住所と生年月日を口頭で伝えた。何とも頭の悪い話だ。そして支払い金額を言われた時、僕はそれが出せないことに、ここでやっと気づく。「2ヶ月分が未納ですが、いかがなされますか」と聞かれ、僕はばつが悪そうに「2ヶ月分を払いたい気持ちは山々なのですが、いかんせん財布がないので出直します」と席を立った。

僕にとって財布が手元にないのは日常茶飯事で、どうせ家かどこかにあるだろうと、さほど焦っていなかった。しかし彼女は一大事だと思ったようで、驚いた声を出して僕より早くイスから腰を上げた。神妙な顔で「どこかで落とされたのですか」と聞かれ、僕はへらへらしながら「大丈夫です。出直します」といった。そこで彼女は僕に「どうも申し訳ございません」といったのだ。手数をかけて、頭を下げるべきは僕なのに。美しい精神を持った異国の彼女。どうかこの薄汚い国でその心がけがれませんようにと、そう思いながらびあんち号にまたがったが、そう伝えてやればよかったと少し後悔している。
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定食夢

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びあんち号で渋谷へ向かう時は必ず通る道を、今日は歩いた。その道中のコンビニの向かいに食堂があることを初めて知った。そこそこに年季を感じる店構えだから最近オープンした風ではない。しかし今日まで気づかないとは。何とも不思議である。暖簾はかかっていないが客らしき初老の男が新聞を読みながら食べている。店員らしき中年の女がエプロン姿で中をうろついている。ただそれだけの光景が、何だか白昼夢のようだった。

リトルヤキトリー再び

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以前、友人と訪れて気に入った武蔵小山の町を再度。カウンターのみの1階から階段を上ると、そこは古いアパートのような1室でテレビやゲームなどのある畳の部屋だった。座布団を敷いてちゃぶ台で飲んだ。風呂と歯ブラシがあればここで明日を迎えたい。

どんどん悪者

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三宿と三軒茶屋を結び、太子堂を走る“あいあいロード”の道幅は狭くない。徐行すれば車も行き交う。こじゃれたカフェやバー、昔ながらの小売店が混在し、時間帯によっては歩行者天国になる、地元に密着した商店街である。

びあんち号にまたがり、三軒茶屋に向かってあいあいロードを走っていると、三宿に向いて歩く女性と目が合った。互いが交差すると予想されるポイントは路上駐車した車と立ち話をしている人たちとが障害になっていた。僕が右に寄ろうとしたら彼女も僕から見て右へ、それならば左にハンドルを切れば彼女もそちらへ。そうこうしているうちに距離が近づき、結局はブレーキをかけて止まり、彼女も立ち往生した。右手の平を向けて「すみません」という僕の言葉は彼女の言葉と全く被った。僕はもちろんのこと、向こうも気を悪くしていなかったと思う。

体勢を立て直してそれから数十メートル、僕から見て左にある青果店に、道を横切って行こうとする女性がいた。それならば右を、その女性の背を通るように行こうとしたが、彼女はきびすを返す。衝突しそうになり「おああ」と声をあげてその時に初めて彼女は僕の存在に気づいた。結局はブレーキをかけて止まり「すみません」と言ったのは彼女のほうだけだった。僕は悪くないという意識があったのだ。

体勢を立て直してそれから十数メートル、自転車に乗った少年がこちらに向かってくる。周囲には何もなく余裕で回避できると思っていたが、彼は僕を視認してからずっとハンドルがガクガクして、しまいにはペダルから足を下ろした。それを横目で見ながら通り過ぎる。その間に交わした言葉はない。荒んでいるのか僕は。

後輪が

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びあんち号がパンクしている。乗って、数時間、目を離した隙にやられた。前日に空気を入れたばかりだった。それほどの憤りを感じなかったのは、僕も丸くなったということか。ホイールが曲がってきたのでタイヤを替えようと思う。問題は経済面。

眉間のしわを愛でよう

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毎朝、歩いている時にすれ違う女性がいた。彼女のほうは自転車で、年齢は20代半ばだろうか。タバコをくわえていることが多い。色を落とした髪は短く、大体において不機嫌そうな顔をしている。実際に機嫌が悪いわけではなく、おそらく素の表情がそれなのだろう。

ここしばらく会わなかったが、久しぶりに顔を見ることができた。普段より少し早めに家を出たおかげだった。彼女のほうが時間を早めたようだ。数週間ぶりに見た仏頂面が僕を喜ばせる。

幸せならそれで

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駐輪場から出てサドルをまたごうとしながら前を見た時、視線の先には布に包まったものを抱いて歩いている年老いた女性がいた。布の中には孫がいるのだろうと、しかしそれは先入観だった。近づいてくる老女の腕には生き物ではなく、キューピー人形がいた。彼女は笑顔だった。凝視してはいけないと思い、ペダルに足を置いてその場を去ろうとしたが、踏み外して空回り。