関所

電車は空いていた。大股で浅く座り、足を投げ出す。近くにいる人といえば斜め向かいの、清潔そうでない格好をした男性が目につく程度だった。あちこちに汚れがあるズボンの裾をまくり、ふくらはぎをひっきりなしにかいている。かき終わると寝癖頭をかいた。

そこをサラリーマン風のスーツを着た男性が通ろうとしたので足を引っ込めた。僕より5つ上くらいの年頃に見える、僕より5センチくらい背の高い彼は車両を移動するつもりだ。連結部分でドアを開けようとしたがどうやら固いらしい。半分も開かない。しばらく粘ったが途中で諦め、次の駅で隣の車両へ移った。


電車はなお空く。次に前を通ったのは男子中学生で、まだ成長期が訪れていない彼は細く、小さく、長いまつげが学ランよりもセーラー服のほうが似合うのではないかと思わせる。先のサラリーマンが断念したドアに、彼もまた苦戦したが、体をねじまげて開けることができた。

かき終った斜め向かいの男はしばらく口を開けて中吊り広告を見ていた。程なくして「あ」と声を出すとおもむろに立ち上がり、彼もまたあの固いドアに向かう。栄養が足りていないような、先の中学生より細い体で、そこは通れまいと予想したが、油を差したばかりであるかの如くそれはスラリと開いた。実はたくましい。

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枝豆の香りがして、近くで茹でているのかと思ったが、どこに行っても枝豆がついてくる。汗を含んだ僕のTシャツがそれ。厚手の綿は繊維に臭気が染み込み、1年以上手元にある服が数着、汗をかくことで不快なものを発する。蒸れた足の裏が空豆臭を漂わせる人は数いれど、脇辺りから枝豆臭がする人は少ないのではないだろう。希少価値を自負するというポジティブ・シンキング。アトピーに睾丸 に汗に、とかく湿気は僕を困らせる。梅雨は嫌いだ。
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スタジオに着き、ジャンベをケースから出し、WSが始まる前に慣らしで叩いている時、皮に亀裂が入っていることに気づいた。酷使が祟ったのか、寿命だったのか。張ってから相当の年月が経っていたのは確かだ。遅かれ早かれこの日が来ると分かっていたのだ。とにかくヒロシが死んだ。晴れ舞台 にも上がり、大往生だったということにする。張り替える皮は白髪が混じってないないかも知らん。それでもヒロシはヒロシ。今まで頑張ってくれた。誇りに思う。
「チウウウ」という音が聞こえた。礼によって がレム睡眠の僕を攻め立てる。今回は、初めてされたことなのだが、指を吸ってきた。右手の薬指と左手の人差し指と中指を、経験したことのない吸引力で。突拍子もないことをするものだ。驚いたがしかしダメージは特になく、内出血した左手人差し指をむしろ治療してくれているのかとも思え、されるがままでいた。金縛りが解け、指を確かめてみると、治ってもいなければ悪化もしていなかった。

午前中は一期JAMとして代々木公園で叩いていたが、あいにくの雨でテンションが上がらない。加えてジャンベがうるさいとの苦情もあって気持ちがすさぶ。それでも橋の下でセッションし、撮影もおこなった。PVができるかも知らん。

午後からは夜のライブに備えて即席バンドの練習をする。ジャンベは雨に濡れ、指は内出血し、肩から肘にかけて筋肉痛にもなり、満身創痍ながら頑張っている感がある。本番は、個人的にミスもあったが無事にやり遂げた。ライブの回数を重ねる度に上達するという。充足した一週間だった。

5度寝

今週は日曜日から数えて5日ジャンベを叩いた。リハーサル に余念がない。帰宅し、入浴し、力尽きて床で眠る。歯を磨いていなかったので、ぐずりながらそれを済ませてやっと布団にたどり着いた。しかしいつものごとく金縛りと霊のコンボで目を覚ます。一服してから再び布団へ。次は寝覚めの悪い夢を見てトイレに行き、三たび布団へ。いい時間になってPCを起動し、立ち上がるまでの時間を布団で過ごそうと思い、気づくとモニタはスクリーンセーバーになっていた。それでも寝足りない。

丸三角四角

癖 チラシに幾何学的な模様の落書きがあるのを見て、ブンレツさんが長電話していたことが分かった。その癖を知ったのはいつだったか、僕があまりにも小さい頃のことで覚えていない。なぞり書きなど、昔から全く変わってないように思う。

人当たりの良い彼女は聞き上手で、大抵の場合において電話が長くなる。興味のない内容の時は決まって右手は意味のない落書きをして、左手に受話器を持ち、的確な相槌を打っている。絵心はないのでイラストは描かない。一体どれだけの四角や三角を書いたのだろう。地球を優に回りそうだ。

粋がる

ハンケチ 暑い日、湿気が多い日の僕の汗は尋常ではない。今まではハンドタオルを持ち歩いていたが、鞄を持たないことが多くなってスタイルを変えようと思ったのだった。見えないところにも気を使うなんて粋ではないかと、イカしたハンカチーフを2枚買った。オリエンタル風味な干支のモノグラムと、ネパールをイメージしたイラストが散りばめられたもの。後ろのポケットにそっと忍ばせよう。否、一切れだけ顔を出させよう。これからハンケチのバリエーションを広げよう。