重たくて、寝返りが打てなくて、しかも暑苦しいのですよ。
いったいナンナノ…と目を明けるとドアップタプの寝顔。
寝ぼけてるし、しかもすごく近すぎて
焦点なかなか合わなかったから
始め、誰とドコにいるのか分らなかった。
目の前に投げ出された手と
あたしの身体にのっかっている腕を見て
昨日の記憶が急に押し寄せてきて
顔がカッカしてきてる。
ドキドキしてるけど、彼はまだ眠ってるから。
今のうちに落ち着かないと…。

深呼吸するのにはじゃまだから乗っかってる腕をそーっと外す
シーツの上にゆっくりとおろして、一呼吸。
眠っているというのに
またすぐ同じところに腕を伸ばしてきて
大変邪魔です~。

開き直って彼の顔を観察する事にする。
悔しいけどまつ毛、長いんだよね。
軽く開いているくちびるもなぁんか美味しそうだし。
あぁぁぁ、こんな事ばっかり考えてたら
悔しくなってくるから。
彼の寝息を聞きながら再び眠りに落ちよう。
眠れるわけない。
瞼をしっかりとつぶっても、彼の穏やかな寝顔は
記憶から消えないのと同じだ。
先に起きてお風呂にでも入ってしまおうか。
と考えていると。
テーブルのある方向から携帯のアラームが響いてきて。

あたしのじゃないから、彼のだ…。
起こしたほうが良いのかな?
と迷っていると。
もぞもぞ動き始める彼。
でも動いただけで起きようとはしないんだね。
朝弱い…のかな?

アラームだと思っていた携帯音は思ったよりも長く鳴っていて
着信音だと気が付く。
「タプ、携帯鳴ってるっ」
と体を揺すっても
「ぁ~~~~」
と不機嫌そうに答えただけで
これっぽっちも、起きる気配がない。
あまりにも長い呼び出し音だから、気になってきちゃう。

「携帯取ってくるね」
と小さく伝えて
ベットから起き上がろうとして
カオリは何も着ていないことに気が付いた。
ローブはベットを抜け出して床に落ちているから。
それを取りに行こうとすれば
見えちゃうじゃん。
えっとえっと、ブランケットで体を包んで…。
ってタプが片方をしっかり抱き込んで眠ってるし。
「ちょっとこれさ~」
と話しかける振りして引っ張ってみたけど
ビクともしない。
「貸して欲しいんだけど」
と独り言。
さっきよりも強く引っ張ってみよう
体重かけたら引き抜けるかも。

思いっきり引っ張たら。
彼、ピッタリのタイミングで引き返すから
頭から胸に突っ込んじゃったでしょ!
ってか、いったいいつから起きてたのよ
ひとりジタバタしてて恥ずかしい。

彼の前だと調子が狂っちゃう…いつもドジな感じで
こんなの本当のあたしじゃないからすごく居心地悪いし
ムカツク~~。

「いつから起きてたの!」
とキツい語調で言ったのに。
「ん~~~~覚えてない」
って笑えるのはなぜ??あたし怒ってるオーラ出してるよ?
MAX放出中だよ?
「おはよぅ、カオリ」
って今この状況でそれ言いますか?
プリプリしてるあたしを抱き抱えたまま。
ニマニマしてる…なんで、ニマニマっ…。

忘れてたっ。
何も着てないこと。
いつものあたしなら彼の腕から逃げ出して。
攻撃態勢に入るのに、自由を奪われている小鳥のようだよ。

あたしの考え読めてる、って事はないよね?
覗き込むように見つめないでください。

ブランケットが肩から、はらりと落ちる。
慌てて引き上げようとする手を
彼は軽く払い拒み
あたしは強く掴もうともがく。

くちびるが肩に押し当てられると
あたしの時間が止まる。

ほんと成長しないあたし。
どうしてこうも思い通りにならないんだろう。
…全部彼のせいだ。


渋々携帯に出るタプ
さっきまでのにこやかな表情とは一転して
淡々とした顔、抑揚のない低い声。
話の内容まではわからなかったけれど。
きっと仕事の話なんだろう。
一緒にふざけてた時とは違う表情をしていて
急に不安になった。

あたしの知っているのは
彼のほんの一部だけ
今、目の前にいる彼が別人のように思えて…。
不安が切なさに変わるのって、ほんの一瞬なんだね。

チクチクする気持ちを抑えて
カオリは帰る準備に取り掛かった。