一ヶ月健診でたまに聞かれることに
「この子、右(左)ばかり向くんです。」
「頭が変形しているんです。」
というのがあります。
赤ちゃんの頭は狭い産道を通ってくるために
頭を形成する骨がつながっていません。
重なりあったりして少し小さくならないと
通れないからです。
そして出生後は脳がすごい勢いで大きくなりますから
まだ骨縫合は開いていないと困るんです。
頭が軟らかく骨がくっついていない上、生後3ヶ月以前の
子供は一般に寝返りができません。
なので頭が左右対称でないということはよくあります。
寝返りをうてるようになるとだいぶ軽減し、
年月をかけて大人のような
だいたい左右対称な頭になってきます。
というのが今までの私も含めた小児科医一般の考え方です。
他の先生方の文章を元に書きますと・・・
矢田ゆかり先生 周産期医学 vol.39増刊号2009 P.432
「特に何もしなくても、寝ている赤ちゃんの時期を過ぎて、座る、
立つという時期になれば、頭の形は多少良くなりますし、髪の毛も
増えるのでいびつさはだんだん気にならなくなると思います。
斜頚のために、ある一定の方向しか向けず頭が変形することがあります。
稀に頭の形がいびつになってしまう生まれつきの病気もあります。
経過をみて、必要な場合には検査・治療を受けたほうがよいことも
ありますので、ご相談ください。」
玉井普先生 周産期医学 vol.39増刊号2009 P.391
「ほとんどの赤ちゃんでは、おすわりや立つ時間が増えて頭へ
加わる圧が減ってくると、また脳の成長に伴い、変形した頭は
自然に矯正されていきます。頭の形が歪んでいるからといって
脳の成長、機能への影響はありません。
--中略--
でも変形が強くどうしても気になるようでしたら、ヘルメットや
バンドを使った矯正器具を利用する方法もありますので、
またご相談ください。」
小川雄之亮先生 周産期医学 vol.28増刊号1998 P.356
「多くの例では加齢とともに変形は目立たなくなる。1歳の誕生日を
迎える頃にはかなり目立たなくなっている。
体位による変形の場合には変形部の脳の発育抑制が危惧されるが、
実際にはほとんど抑制されることはない。
体位による後頭部扁平や一側扁平の変形の場合は、特別の治療は
必要としないが、早く変形を直すために、特別な枕を用いることもある。
一般には加齢とともに動きが活発になるので、同じ体位で長時間
過ごすことがなくなり、自然に改善する。」
このように小児科医は一般に「治療は必要ではない」、
「枕やクッションを効果的に使うと早く治る」
という意見なんです。
日本語の医学雑誌を検索するサイト医中誌でもdeformational
plagiocephaly、positional plagiocephly、変形性斜頭症、
斜頭症で検索しても向き癖から頭がいびつになった症例を
検討している論文はありませんでした。
そしてこういったサイトでは「特別な治療なしでも驚くほど
変形が治ったよ。」という人達の体験があります。
ソースが確認できなかったのですが「4ヶ月時には20%の子に
positional plagiocephalyが見られましたが,24ヶ月時には3%
まで自然に減っていたという報告もあります。」
と言っているサイトもありました。
また小児病院で脳外科医をなさっている先生の文献も見ました。
西本博先生 小児科臨床 vol.62 No.12 2009 P.2763
「体位による後頭部変形は乳児期に指摘される頻度が高いが、
病的意義は少ない。--中略--
体位による変形は通常外科的治療は必要ない。」
というもので、病的意義のある頭蓋骨縫合早期癒合症との違いを
図説でわかりやすく書いてありました。
ただ、外科的治療は必要ないと言っても、前述の玉井先生が
書いているように器具を使って治した方がいいのではないかと
考える方もいるかもしれません。
実際に、”ヘルメット療法”で調べると治療を受けた人たちの
ブログがたくさん出てきます。
アイメットという会社のホームページで知ったのですが、
東京女子医大には頭蓋変形外来というものがあり、
疾患が原因で頭が変形してしまった子供の他にも体位による
いわゆる向き癖で変形してしまった子も治療されているようです。
具体的には頭が変形している子供の検査をして早期癒合などの
疾患を除外した上で、ヘルメットをかぶせるという治療法です。
初めはお風呂以外の1日23時間、ずっとかぶせるので
蒸れてしまったり擦過傷ができてしまったりもするようです。
今までは何もしなくても大丈夫ですよと外来でお話していましたが、
どうしてもという方には紹介しようと思います。
ただし健康保険の対象外なので、費用は30-40万円くらいかかります。
区・市町村で行っている乳幼児・学童の医療助成も適応外。
数ヶ月間、2-3週間おきに通う必要があるようです。
それから向き癖、体位による頭蓋の変形以外には
以下のような疾患による二次性の変形があります。
吉橋博史先生 小児内科 41増刊号2009 P.291
頭蓋骨縫合の異常、
代謝性疾患(甲状腺機能亢進症、くる病)、
催奇形因子(ヒダントイン)、
脳奇形(全前脳胞症)
なので気になる方は小児科医に聞いた方がいいですね。
最後に、小川先生の前述の文章にこういう部分があったので
ご紹介します。いわゆる絶壁頭についてです。
「顔貌を含め頭部の形態は民族的な特徴もあり、遺伝的な
因子の関与が考えられる。日本人に多くみられる後頭部の扁平は
仰臥位で保育が原因であるとして、一時某美容家により腹臥位
保育が勧められたことがあった。しかし日本人の子どもを
腹臥位で保育しても、成人に達した時の頭の特徴は変わらない
ことは経験的にも知られており、保育の体位は将来の頭の形に
大きく影響しない。」
信憑性が定かでない説が多い中、
悩んでいる方の助けになるといいなと思います。
もし論文などで研究された結果が載っているものがあったら
どなたか教えてくださいね。
今日の記事はツイッターの友人である@chibakickさんとの
会話に触発されてできました。
@chibakickさん、どうもありがとう!