行くさきは、「希望の牧場」

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応援してくださるみなさまへ

楢葉の牧場に生きる62頭の牛たちは、浪江町にある「希望の牧場」の敷地をお借りさせてもらえることになりました。

5月末、牧場の作業中に牧場主の根本さん(私たちは「ボス」と呼んでいました)が倒れてから、牧場と牛たちの危機が訪れました。

体調不良がつづくボスの現場復帰は困難。

62頭の牛については、
1.殺処分、
2.代わりに育ててくれるところへ移送、
3.有志による運営の継続

上記のどれかから選ぶよう、ボスから私たちに示されました。


私たちは2か3の道を探りましたが、2については警戒区域内の牛の飼育施設はどこも目一杯のため、不調に終わり、また3についてはボスからストップがかかりました。

ボスが言うには、
「牛の扱いは、素人じゃ出来ないよ。牛飼いというプロの仕事だ。オイラがいる間はいいけども、オイラがいなくては、みなさんだけではとても無理な仕事だ。お金だってかかる。それも牛が生きてる限り、10年、20年。はじめは、みなさんも気持ちが高揚してるから続けたいと思うかもしれない。だけど、3年、5年経ったらどうだ?お金は集まらなくなるし、家庭崩壊だってあるんだぞ。牛は犬や猫とは全然違うからね。
たくさんの人がこの牧場に支援金を送ってくれて、あるいはまたボランティアで来てくれてることは百も承知だ。だけども、だからこそいまのうちに辞めておいた方がいい。
続ければ、この先みじめになる、牛も、みなさんも、必ずみじめになってしまうから。」

ボスは私たち自身の力不足をよくよく見抜いていました。
そしてまた、今年の2月以来牧場を支えてくれたすべての人に感謝しているからこそ、
これ以上負担をかけたくない、という思いに満たされているように見えました。


私たちは、病後のめまいがつづくボスのお宅を再三再四お邪魔しました。

その度にボスは丁寧に応対してくれ、牛を生かしていくことの難しさを説きました。

ボスのご家族の心労もまた如何ばかりだったか。
私たちの「牛たちを生かしたい」という思いは、「主人を、父を、祖父をこれ以上苦しめないでほしい」というご家族の思いに真っ向から反する行動でした。

それでもなお、ボスとボスのご家族は、たびたび訪ねる私たちを、いつも快くご自宅へ迎え入れてくださいました。

その頃、私たちの窮状を知った浪江町の「希望の牧場」の牧場長・吉沢正巳さんと事務局長・針谷勉さんから、農地を借りられれば単管パイプの柵を作って牛を囲い込むことが出来るし、その協力は厭わない、とのお申し出をいただきました。

土地を探すのも警戒区域内でのことです。
どこもすぐに借りることは、出来ませんでした。

ボスが楢葉町役場に牛たちの殺処分を申請する最終期限は、6月20日と決まっていました。

もう、目前に迫っていました。

何とか、殺処分の判断は思い留まってほしい。

全国の支援者からの応援メッセージを、ボスに届けてみようと思い立ちました。

そして・・・、短い間に本当にたくさんのメッセージをいただきました。

同時に、

希望の牧場へも通い、牛たちを引き受けてくれないか、お願いに上がりました。

希望の牧場もすでに牛たちの数がキャパシティを超えていることは、私たちも知っていました。

62頭の牛たちの面倒は自分たちで見ます。
資金面や人員面でも、自分たちで集められるようにします。
折を見て、別な牧場へ移し自分たちだけで運営していけるようにします。

こうしたことを伝え「何とか、何とか」とお願いしました。
牛たちを生かして行く道は、もうこれしかありませんでした。


「根本さんと話がしてみたい」


希望の牧場の吉沢さんと針谷さんが、いわき市の借り上げ住宅に暮らすボスを訪ねてくださることになりました。

牛飼いの男と、牛飼いの男。

吉沢さんは、いま警戒区域内で牛たちを生かす意味や、これまでの取り組み、これからの夢をボスに語り掛けました。そして、62頭の牛たちを引き取ってもいいということも。

・・・・・・

吉沢さんの話を黙って聞いていたボスは静かにうなずき、
「それじゃあ、面倒かけますが、全頭お願いしてもいいですか」と吉沢さんに問い、
吉沢さんもまた、静かにうなずきました。

ボスの固い決心を、吉沢さんとたくさんの応援メッセージが解きほぐし、
牛たちを救った瞬間でした。

それは牛たちを救いたいと思いながら、半ば諦めかけていた私たちにとっても、
信じられないような展開でした。

62頭の命の期限とされた6月20日。
すべての命が、明日へつながることになりました。

これから62頭は、希望の牧場の牛舎の一部をお借りして、私たちが世話をすることになりました。
すでに先週末、牛たちを入れる牛舎の掃除は終わりました。
その際も希望の牧場のスタッフやボランティアの方から大きな手助けを受けました。

今週、希望の牧場のみなさんと今後についての話し合いをもつ予定です。

被災した牛たちを助けたいというみなさまの応援を背に受けて、
新しい牧場、新しい組織で再出発いたします。

エム牧場社長の村田さん、牧場長の吉沢さん、事務局長の針谷さんをはじめ、
希望の牧場チームのみなさま、本当にありがとうございました。

「決死救命・団結」

この言葉を貫いてこられた希望の牧場チームの方とともに手をつなぎ、
力を合わせ牧場をはじめられることを、幸せに思います。

私たちはいま、この牧場でこれから起こるであろう現実のひとつひとつに真っ直ぐに向き合い、ひとりでも多くの人に、ここで起きていること、起きたことを伝えていく所存です。

6月26日

旧ファーム・アルカディア 牧場支援者一同
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