[2015/08/26放送] 赤鼻の先生・副島賢和さん | なでしこラジオ presented by 日本フードアナリスト協会

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今週の「街のあかり、心のあかり」では、

プレジデントファミリーで紹介された
「赤鼻の先生・副島賢和さん」のお話を
ご紹介しました。

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東京・昭和大学病院入院棟の最上階に、病院の一室とは思えないカラフルな部屋がある。院内学級「さいかち学級」。
ここは病室ではなく、入院中の子供たちが学ぶ小さな教室だ。
院内学級というと、長期入院している子供たちの教室をイメージするかもしれない。しかし、さいかち学級の子供たちの平均入院期間は6日間。入院中、教室に通うのはせいぜい3~5日だ。
ほんの数日なら、無理して入院中に勉強しなくてもいいではないか。そうした声と戦い続けてきたのが、さいかち学級の副島賢和(そえじままさかず)先生だ。副島先生は、ホスピタルクラウンとしても活動する名物教師。赤い鼻をつけて子供たちと接する姿が注目を集め、日本テレビのドラマ「赤鼻のセンセイ」のモチーフにもなった。
副島先生は、
「まず病棟を歩いて声をかけ、こちらの教室に来る前に、“知ったおっちゃん”になっておくのです。赤鼻をつけると目立つでしょ。『あれ、なんだー』『おう、じつはこの上に学校があるんだけどさ』『学校?』という感じで、まずはさいかち学級と僕のことを知ってもらうわけです。で、僕はいつでも待ってるよ、君のことを大事に思っているよ、と、さりげなく伝えておくんです」と言う。
子供との距離を縮めるために、もう1つ意識していることがある。失敗を隠さず見せることだ。
「子供たちは、病気になったこと、ケガしたことを失敗だと考えています。でも、病気は失敗ではないし、たとえ本人が失敗だと思っていても、それにきちんと対応すればいい経験に変えられる。そのことを伝えるには、僕が実際に失敗して見せればいい。もともと僕は道化師だから、失敗を見せるのが大好きなんです」
大人が率先して失敗すれば、子供は「自分も失敗していい」と思える。そうなれば、子供たちはバリアを解いて先生の言葉にも耳を傾けてくれるようになる。
ただ、単に失敗を見せればいいというものでもないようだ。
「子供は、大人が失敗した後の態度を注意深く見ています。大切なのは、失敗を隠さずに、きちんと対応すること。たとえば子供に勉強を教えていて漢字の書き順がわからなければ、『ごめん、忘れちゃった』と言って辞書を引けばいい。ごまかすより、そのほうがずっと子供に尊敬されるはずです」
さいかち学級では、子供たちが感情の蓋を開けて自分の中にあるものを言葉に表すようになると、その言葉を紙に書いてもらったり、詩として表現してもらっている。子供たちの言葉は様々だ。
一番印象に残っているのは、ある少年の書いた詩だ。その少年は、先天性の病気を抱えて、幼いころから入退院を繰り返していた。正義感が強く、学校の友達がいじめられていると聞くと、「許せない。こんなところにいる場合じゃない。早く退院させろ!」と叫んでしまう子だった。
6年生になり、1年半ぶりに退院する日、少年は一編の詩を書いた。
ぼくは幸せ

お家にいられれば幸せ
ごはんが食べられれば幸せ
空がきれいだと幸せ

みんなが
幸せと思わないことも
幸せに思えるから

ぼくのまわりには
幸せがいっぱいあるんだよ
この詩を書いた1カ月後、少年は再び入院した。副島先生は夜の7時過ぎに小学校の職員室で連絡を受けたが、仕事を終えたのは8時少し前。面会時間に間に合わないと、その日にお見舞いに行くのは諦めた。
少年が亡くなったのは、その夜のことだった。
「どうして自分は行かなかったのか。『明日でいい』と考えるのは、もうやめよう」
副島先生は目を泣き腫らしながら、心に誓ったという。少年が元気だったころ、夢についてこう語りあったことがある。
「僕、学校心理士になりたいんだ」
「あれ、前は料理人になりたいと言ってなかったっけ?」
「うん、最近変わったんだ。先生、僕が大きくなったら、病気の子も安心していられる場所を一緒につくろうよ。きっと楽しいと思う」
「おう。わかった。約束だな」
少年が亡くなってから6年。副島先生は、かつて教え子と交わした約束を実行に移そうとしている。