毎年繰りかえされることですが、
春の訪れと共に鰓病もシーズン開幕を迎えます。
前日の平均気温からプラス5度の最高気温が、一番危険な温度帯になります。

いつの頃からか、ネット上ではイソジン、いわゆるポピヨンヨードが鰓病等に効く当たり前?の処方薬として喧伝され、いわゆるイソジン浴の情報だけが独り歩きしているように感じられます。

飼育者様の良いと思う方法、信じる手法で治療を行うこと。
基本としてこれは一番重要な事柄だと思いますので、私どもは【ある程度までならば】これは違うな?と思っても、大筋でまあ大丈夫なものであればそれを真正面から否定したりすることは敢えて致しません。お金を出して薬を買ったり、治療の手間を費やし、その結果を負うのは結局は飼育者様なので、それが例え遠回りになることであっても、意味があまりないことであっても、害にさえならなければ、それはそれで良いと思うのです。
しかしながら【決定的に間違っていること】これについてはきっぱりと「違う」と申し上げるようにしております。

イソジン浴については、もうかれこれ10年以上昔、私が未だ30代で趣味で金魚をやっていた頃、家内に至っては20代の娘さんであった頃から、これは絶対にやってはいけない、と聞かれる都度これ以上無いほどきっぱりと「イソジン浴はやってはいけません」と否定していたのですが、手軽であること、そして医薬品であるということからか、絶えることなく常用され、いつしか専門店や専門誌にまで顔を出すようになった知識でもあります。特にこの2~3年、酷く広まったようにも思います。
私どもももう揃って40代、私は40代後半になりました。これは絶対に後世に残してはならない知識であり、どこかで断ち切らなければならない連鎖だと思いましたので、警鐘を鳴らすことを試みたく願います。

これから例のごとく、アクアライフ誌の編集氏に怒られたように、いくつかのことを織り交ぜて長文を書くのですが、まず結論として大切なことをはじめに申し上げます。

イソジン(ポピヨンヨード)は、医薬部外品です。
使用方法は、対人・対動物であるならば、皮膚や表皮粘膜の消毒の為に塗布すること。
これ以外の使用方法を行うべきでは絶対に無いこと。

この3点に尽きます。
これはもはや真理です。
「月は東に日は西に」「入学式にピカピカのランドセル」並の当たり前のことでございます。
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ここからはお話に入る前の前提条件とさせていただきます。
「水産学の知識」についてほとんどの方がお持ちのイメージは、養殖や増殖に関する知識の中に飼育に関する知識がある、というものだと思われます。図に表すと、以下のような状態になります。


しかし、実際には、養殖と増殖には「コスト」と「生存許容時間」の2点が縛りになります。ほぼ全ての水産養殖生物は「食べる」=ぶち殺す 為に成長させるものです。金魚のイメージとしては、3歳魚、ここより上の時間というものは存在してはいけません。
つまり、多少魚体に有害であっても安く実施できる手法で血肉に残留しなければOK、そしてある時期(収穫できるとき)が来れば100%ぶち殺すことを目的で行うものですから、飼育の知識、そして魚病学としても共有できる情報は極めて少なくなります。体感的には以下の図のようになります。

この赤い矢印のついた薄く重なった部分、ここが「私たち」と養殖・増殖学が共有できる部分になります。

つまり何が申し上げたいのかと言うと、水試でやっている=安全性が確立したこと では絶対に無いということです。往々にしてコストが優先されるものなので、水槽飼育環境下では決してやってはなならないこともそこには多く含まれます。
和田先生が日本におられんようになった理由もここに集約されるものであります。これを言い出すとさらに長くなりますので今回は割愛いたしますが・・・。

これは今後全ての話においてかかってくる部分でもあります。
どうかお忘れなきよう、お願い申し上げます。
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アクアライフ誌の基本理念☆ビギナーにわかりやすく☆を踏襲し、ここからは
「はじめてのやさしいかがく」をはじめます。

イソジンとは、ポピヨンヨード。
つまり、1-ビニル-2-ピロリドンの重合物(ポリビニルピロリドン)とヨウ素の複合体であります。
ここで重要な役目を果たすのが、ポリビニルピロリドンという物質になります。
ヨウ素は本来水には溶けません。イソジンの何が凄いのかというと、水に溶けないヨウ素を水溶性にして消毒薬にした、という部分であります。
何故水に溶けるようになったのか?それはポリビニルピロリドンという物質が簡単に言うと水とつなぐ役目をしているからです。

勘の良い方ならば、ポリビニルピロリドン。この名前を聞いただけで、
「・・・あれ?」と思われた筈です。
これは、生体に使っても良い物質なのかな・・・?と。
はい、私も数十年前、そう思いました。

ポリビニルピロリドンはこれ単体だと発癌性があり、毒性も強く、発癌性のある観賞魚用魚病薬代表選手のマラカイトグリーンを超えてしまう、非常にやばい物質です。

しかし、えらい人が「あるもの」を使って、毒性を消すことをみつけてくれました。
そのお陰で、インクジェットプリンター用インクや、OHPフィルムのコーティング剤、接着剤(スティック状糊、切手の糊など)、無難な例では化粧品や錠剤の形成剤やソフトコンタクトレンズの樹脂成分として幅広く日常的に活用されています。

違和感を抑えがたい方はこの時点でかなり増えたと思います。
しかし、これらはかまわない使用方法です。
化粧品にしろ錠剤にしろ、口に入る量としては人間の体重を考えたとき、たかが知れてします。
特に薬の場合は○歳以下は使用禁止、等、使い方が限定されるものです。
つまり人間に対しては、毒性の発生しかねない状況というものは使用方法から排除されているのです。だからこそ、私たちは安全にこの物質とつきあってゆけるのです。

単体(これをモノマーといいます)のポリビニルピロリドンを、どうやって重合(ポリマー)させたのか?
ヒドラジンという物質を使ってポリマーに加工します。
これはロケットの燃料にもなります。
ヒドラジン事故といえば、下記動画「長征3号」の打ち上げ失敗事故で一瞬で村一個全滅させたものが有名です。

1996年、血のバレンタインデーと私どもは呼んでおります。
中国政府の当時の発表では500名死亡という話ですが、廃墟を見ると1万人以上殺されたようにも見えます。
この中華ロケットの字幕の如く、イソジンは開始直後にヨードから離れて想定外の方向に話しが吹っ飛んでしまっているのです。

違和感が嫌悪感に変わった方も結構いらっしゃるのではないでしょうか?
実際、ポリビニルピロリドンのポリマーにはヒドラジンが残留し、その残留度合いによっては「飲用するもの」には使えないことになっています。
因みに、イソジンは飲用するものではありません。あくまで医薬部外品、飲み込まないことが全て前提になって作られております。
参考:http://www.nirs.go.jp/data/pdf/youso-2.pdf
2011/3/14にABCC改め独立行政法人放射線医学総合研究所の出した声明文。
御用もたまには良いことを言います。
「飲用するべきではない品質のポリビニルピロリドンが入っているので飲まないで」と書くと、明治製菓に訴えられるとでも思ったのかもしれません。逆に【体に有害な作用を及ぼす可能性のある物質】ここまでの情報が公に出せる限界ラインだったようです。

実際、イソジンを製造している明治製菓(発明元です)も、水産用には使うな、と再三警告しております。
水産用イソジンというものが最近ではあるのですが、これは、安価に卵の消毒を行う目的で、良質な(=ヒドラジンの残留が少ない)ポリビニルピロリドンを使用して作られたものになります。そして、そしてその水産用に至ってさえ、卵の時期に卵の表面を一瞬消毒する目的で使われるのみですので、大人にしろ稚魚にしろ、魚の体には対応しておりません。

何故魚体に使ってはいけないのか?
それもやはりポリビニルピロリドンの持つ性質によります。
これは非常に保水性が高く、魚の第一防御機構である「ヌル」に尋常ではないほどの親和性があります。
それならば効くんじゃないか?と思われた方、それは大間違いです。
一度ヌルに食い込んだポリビニルピロリドンは容易には剥がせなくなります。
水中に溶解している限り、ヌルの産生が一番激しい箇所ほど、集中して食い込もうとします。
それは、鰓の粘膜です。
食い込んでそのまま居てくれれば或いは良いのですが、無害なポリマーは時間とともに劣化し、激しい毒性を持つモノマーに分解されます。
魚のヌルがターンオーバーで入れ替わるのが先か、モノマーの毒に当たって時間差で別の病気になってしまうか、絶望的な競争が静かに開始してしまうのです。いっとき鎮圧したかに見えても必ず再発する・・・、再発したそれが何であったのか?斃死が起こったときに確かめる術は無いのです。

はっきり申し上げて、本来の目的であった筈のヨウ素、これは、薬浴程度の濃度では話にならない殺菌力でしかありません。ヨウ素は、特に砂利など敷いてあった場合は、まず有機物に当たりますので、砂利の中の汚泥がヨウ素を捕まえて消費してしまいます。本来の目的の魚体には届きません。
イソジン浴で何らかの効果が出るとするならば、おそらくほぼ、ポリビニルピロリドンの作用に他なりません。
先にも申したとおり、これは魚体に付着すると離れなくなるので、短時間浴でも望ましくはありません。ポリビニルピロリドンが無害なポリマーから有害なモノマーに分解される過程で、ある程度の殺菌力を持つことは知られています。
ここで「治った」と勘違いが発生します。
正直これは一時しのぎにすらならないものです。
付着している間、中~長期的に魚体に悪影響をもたらすものです。
モノマーの毒性については、様々な角度からえらい方々が検証をし、その結果、ずっと体に付着させ続けるような使い方はしてはならないことになっています。
当然、自然界に放水、などもっての他で、一応廃棄するときには密閉容器に入れ、専門の業者に引き渡すように、という法律すらあります。(医薬部外品等、人間が個人で使う微量のもの、限定的な用途のものについては「免除」されているだけです。無害だから垂れ流して良いわけではありません)

ポリビニルピロリドンの殺菌力に期待したいというならば、
100円ショップ等で一番安いあわ立ちの悪い台所用中性洗剤を買ってきて瞬間浴に使ってみる、(但し魚の生命の保証はありません)これと同じことです。毒性評価としてはほぼ同じになります。敢えてこんな馬鹿なことを試みる方は普通いらっしゃらないと思います。
しかしながら未だに根強い人気を持ち、イソジン浴が推奨されるのはいったい何故なのか?
私どもにはさっぱりわかりませんし、常々「イソジン浴はやらないでください」と何十年間も口をすっぱくして言い続けている理由でもあります。

イソジンの逃げ口上として、器具類や砂の殺菌に使っているから良いという方もいらっしゃるのですが、その後の処理方法はどのように指導されているのでしょうか?
良く洗って天日干し、と大概は飼育書などで書かれています。
ポリビニルピロリドンは残留して乾燥すると薄いフィルム状になり、物質に結着するものです。そして水を得ると再び溶解し、水中に放出され、魚に出会うこととなります。
良く洗って天日干し、の重要なやり方、どこまで洗えば良いのか?どこまで乾かせば良いのか?
そこを明確にしない限り魚に無毒であることは絶対にいえないことなのです。
むしろ、器具類の殺菌消毒で安価なものであれば、
●熱湯
●消毒用アルコール
はるかに安価で手軽で安全なこれらの発想が何故ないのでしょうか?
何がなんでもイソジンを活用しなければならないという状況になってしまっていて、目的と手段がまるで逆転してしまっているように見受けられます。まさかとは思いますが、何か製薬会社から貰ってるのでしょうか?

そこで、私どもが最初に申し上げた帰結
「飼育者様が納得したやりかた、信じた方法でやられることが重要」
これが出てくるのです。
何万回説明をし、熱湯と消毒用アルコール、または、電子レンジでチンできる素材の選定等、これらの発想もまるでなくなり、助言をしても聞き入れていただけなくなるのです。

イソジンを信じさせてしまうこと、これはGuilty(有罪)です。

この業界は上層部に耳学問の方が大勢いらっしゃるようで、論文をいじる方には小保方晴子さんのように「小保方る」方も少なくはありません。
自分たちでそれをやってみて、データ取りをすること。
金魚飼育に限って言えば、その金魚が長寿をまっとうできること。
そこまでデータ取りをしなければ、研究という意味は無いのではないでしょうか?

このように中途半端な魚病学では、生命のリミットを食べるまでとはっきり切った養殖・増殖学の足元にも及びません。しかしながら、観賞魚というのは鑑賞するだけなので、切花的に生きていれば・・・というロクデナシ論法を振りかざす方も多くいらっしゃいます。
つまり葛西のマグロが死んだ理由はこういったことの積み重ねであり、寿命のまっとうが念頭にない養殖・増殖学、つまり死刑囚に施す医学程度しか知識が無いということが世の中に知れ渡ってしまった、それだけの話なのです。

また話が長かったり、複数主題が盛り込まれるとアクアライフ誌編集氏に怒られるので、この辺で納めさせていただきます。

ここまでわかった上で敢えてイソジン浴を勧めたり実施するならば、それはもうそれでかまいません。私どもの知る限りの話ではなく、その程度の感覚で飼育をしている方なのだと思います。


今後のこの手の話は「金魚飼育に於いて後世に残してはならないシリーズ」として書き上げます。


長くなりましたがこれをもって第一部と致したく願います。


勝美商店 一同


P.S
この問題、ヒドラジンが含有されていることについて激しいアレルギー的症状を呈する方がいらっしゃるのをお伺いしましたが、1961年にイソジンが発明&発売されたときから、この薬が内服薬になったことはただの一度もなく、明治製菓ははっきりと
「飲むな」「うがいの後は吐き出せ」
そもそもこれは医薬部外品であると。そして、魚にも使うな、と、はっきりと表明をしておりました。
従って、何が含有されていようが明治製菓に何ら責任もなく、つまり医薬部外品を内服するということは水虫の薬やムヒ・キンカンの類を飲み、リップクリームを齧ることに等しく、本来の目的から外れた使用法をしている以上、何が起こっても全て自己責任である筈なのです。

ここ最近とくにイソジン浴という言葉を観賞魚界、特に金魚で聞くようになり、いまさらこんなことを書くことは愛用者がすでに居る以上、その方々を徒に傷つけるだけなので言いたくはありませんでした。しかし、専門店や専門誌が独自の知識として広くそれを広めはじめるに至り、本来自己責任で実施するべきことがマニュアル化され責任がすっぽぬける事態となって、いい加減これは言わなければならないと思い、誤った知識として恥ずべき行為だということを生き物を飼い、生かす立場の方々には認識していただきたいと強く感じた次第であります。
もっと早く言ってほしかったというご意見を伺いましたが、私たちは聞かれればずっと10年単位でそうお答えしておりました。何度聞かれても「使うな」と私どもは答えておりました。この薬について少し調べて、投入の前に考えてみればおのずとわかることだったのではないかと私どもは強く感じます。これを秘伝といって喧伝した専門店は何が秘伝だったのか?遅効性の魚毒性で水槽が空いて次の魚が売れることが秘伝だったのでしょうか?私たちは年初に遠慮なく駄目なことは駄目といいますと申し上げました。それを実践しているだけにすぎません。
繰り返しますが、製薬会社には何ら責任はありません。むしろ、本来の目的からはずれた魚への用途について警告を出すということは、社会的な責任感のある素晴らしい会社だと、流石は抗生物質の生みの親だと私どもは感心しておりました。
発明元が駄目だと警告をすることには必ず「絶対」の理由が御座います。
これはこの業界の誰かが独断で始め、伝言ゲーム的に広まり、収拾がつかなくなった、だたそれだけの事例だと存じます。
常々申し上げていることなのですが、日本金魚の飼育技術に於いては日本はトップでなければならず、他所から何かを指摘されることなどあってはならないことだと私たちは強く感じて今まで全てを行って参りました。
唯一、本当に唯一日本が観賞魚飼育に於いて世界に誇れるのは金魚と錦鯉以外には無いのではないでしょうか?
他の魚種、熱帯魚~爬虫類~エキゾチックアニマル等全てが外国から使い古しのガラクタ知識を有難く恵んで戴いた、いわば「くだり物」であることを、業界の振興という言葉を使うのであれば、もっと真剣に考えるべきだと思います。

3/9 追追記
昨日疲れ果ててダウンしてしまいました。大切なことを書き忘れていたので、追記いたします。
日本の法律ではイソジンの含有物には排出制限があり、医薬外部品なので、例外的に個人がうがいや傷口の消毒に使用したものを洗い流して排出することは法的には免除されていると本文中に書きました。この免除されている量というのが極微量であることが前提なのは、皆様お分かりだと思います。しかしながら、例えば短時間薬浴・器具類・砂の消毒を行い、それを全て排出し、さらに洗浄マニュアル言うところの流水30分で流した場合や例えば池・水槽に全消毒及び治療目的に使った場合、法律が想定していない排水量は全国で何百トン、何万トンになると思われているのでしょうか?それこそ法に触れ、自然破壊を助長し、徒に水道局に濾過の負荷をかけ、その結果水道局のやることは放射性物質を排除するが如く、化学濾過に傾倒させることになり、結局は使えない飼育水が飼育者様のところに流れてくることになるのです。飼育水は補正をすればいかようにもなることですが、イソジン浴を推奨し、それが多勢に知れ渡り、皆様が使った後に排出されるその水・量、考えてみると大変恐ろしくなりませんか?これらがまかり通ってしまうと結局は発売元の明治製菓に迷惑をかけることであり、マラカイトグリーンの如く法で規制されるべきものとして嫌な昇格になることが可能性として全く否定できなくなります。過去・現在使われ、それを推奨した方々達は、このことについて良く考えるべきだと思います。

以上。

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