Strawberry Candle (39) | えりんぎのブログ







~チャンミンside~























「──ボストン支社の大幅な業績の低迷、労働生産性の著しい低下について、・・・勿論、ご存知だと思いますが。」




そう言ってひとつめのファイルを開き説明しだしたユノ。



そこには過去5年間四半期に分けた売上の推移、経常利益から営業外収支の数字まで事細かく記されグラフにされていた。



「主力である鉄鋼部門での不振がかなり深刻です。
アメリカ新車販売の低迷で鋼材需要が冷えこみ鋼材加工も苦戦してます。
それに通貨高も加わり、小売り売上高の下降による利益の圧迫が差し迫った問題となっています。」





「───ユンホ。」





サッと書類に目を通し、まだ説明途中であろうユノを押しとどめた。




「───よく調べてある。こちらでは入手しにくいデータさえも。
協力者が向こうの支社にいるな?」




「しかし、・・おまえは本社勤務だ。
ボストン支社とは関係のない部署にいるはず。よほど暇なのか?」



一瞬忌々しげに口元が歪んだけど、・・やはりさすがだ、すぐ冷静に体勢を整えたユノ。




「────ボストン支社を手離す、という悪い噂を聞きました。」



ピクッとおじさんの動揺が伝わる。
僕はもうここに居ていいのかどうかも分からず、できるだけ存在を消すことに必死だった。




「・・・それが?」



さも関係ないことだと言いたげの人に別のファイルを手渡しながら、



「これは最近の労働生産性の低下について調べた結果です。
従業員全員分の勤務日数、勤務時間もあります。
明らかに馴れ合い体質からくる怠慢経営かと思われます。」





「───社長。
僕をマネージャーとしてボストン支社へ行かせてください。
まず内部改革から着手して、その後、新たな事業展開を提案させてください。」





「新たな事業展開?」



予想外の話のながれにどんどん眉間の皺が深くなるおじさん。
僕もその突拍子もない話にじわりと汗が滲んだ。





「────太陽光発電事業です。
現在アメリカではメガソーラーの建設が多く太陽光発電の導入が盛んで、実際導入量は5年前の16倍になっています。」



「電気事業者に対して再生可能エネルギーの導入比率を義務づけるRPS制度が制定され、これが後押しとなって近々アメリカは世界最大市場になるでしょう。」





─────あ、・・繋がった。


この講義を選択してほしいと、いくつかユノが付けた丸印。
そして、環境経済学。





「ジョージア州で最大規模の太陽光発電所建設計画が持ち上がっています。
BOT方式で1年後の入札にむけて参加の表明と準備の為、早急に承認願いたい。」



「ユンホ、太陽光発電事業は、・・。」



「───本社の方で、まだ秘密裏に開発促進し候補地を探してる段階、・・ですよね?」





おじさんの動きが止まる。
思わず発しそうになった言葉を飲みこみ、しばしの沈黙がながれた。






はぁ、という軽いため息の後、膝についた両手で口元を隠すように組みながら。



「よく、・・調べたな。
確かに環境エネルギーへの事業移行は上層部ではほぼ決定事項だ。」



「では、・・ぜひ、ボストン支社からの計画を足がかりにやらせてください。
アメリカのJS社との技術提携の契約も本社の承認次第というところまで話は進めてあります。」




「・・おまえ、・・・そこまで。」




数々の書類に目を通し、パタンと音をたてて閉じた。



「ユンホ、・・おまえ一人での力ではないだろうが、・・。
しかし、・・なぜそこまでボストン支社にこだわる?何が望みだ?」





ここにきてユノの語る計画や詳細を記した具体的であろう書類に俄然興味を見せ始めたおじさん。
身を乗りだすようにユノの真意を探ろうとしているのが分かった。





「これは、・・この交渉は、まるで見当違いだと理解しているつもりです。
けれど、敢えて言わせて下さい。」




ひとことひとことを、・・まるで自分に言い聞かせるように。





「社長、──5年で今のボストン支社の経常利益を200%増にすることを約束します。
僕の知識と情熱を駆使して、貴方に、会社に尽くすことを誓います。」





「だから、────父さん。
後継ぎとしての僕を、────諦めてください。
そして僕が後継ぎをもうけることは一生ないという事を、甘受してください。」






一瞬、水を打ったように時はとまり、───目の前の冷静かつ威厳に満ちた人の喉が鳴った。




僕はただ呆然とそれを聞いていて、・・心臓を突き刺すような痛み。



────それは甘い、・・どこまでも甘い痛み。